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放課後 難波1話

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【剣道場】

放課後、今日は剣道場で自主練に励んでいた。

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サトコ

「はっ‥はぁっ!」

「ふぅ‥」

(今日はこの辺にしておこうかな‥)

素振りを終え、呼吸を整える。

竹刀を置くと、どこからかパチパチ‥という拍手が聞こえて来た。

(誰?)

慌てて音の方を振り向くと、そこには怠そうに入り口にもたれかかっている難波室長の姿。

サトコ

「し、室長‥!いつからいたんですか!?」

(また全然気が付かなかった!)

(気配を消すの、本当にやめてほしい‥)

難波

いやあ、立派立派

部下が一心不乱に訓練に励む姿を見るのは胸を打たれるね~

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サトコ

「いたなら、声をかけてくださいよ」

難波

いやいや、今来たばっかだぞ

(絶対に、結構前から見てたと思う‥)

面を外して置くと、私は室長の方に駆け寄る。

難波

遅くまで自主練とは偉いな

サトコ

「昨日までテスト期間だったので、久しぶりに思いきり身体を動かそうと思って」

難波

体力が余ってるのは若い証拠だ。ご苦労さん

室長の前まで行くと、いつものように頭をポンポンとしてくれる。

(誰かに評価されることを期待していたわけじゃないけど)

(褒めてもらえるのは、やっぱり嬉しいな)

難波

今日はもう終わりか?

サトコ

「そうですね。もうこの時間ですし、このくらいにしておこうかなと‥」

手拭いで汗を拭き、額に張り付いた髪を右耳にかける。

すると、室長の手が左側に伸びてきた。

(室長?)

私の髪をすくうと、同じように左耳にかけようとしてくれる。

けれど、なかなか上手くいかずに何度も髪が落ちる。

難波

‥できねえな

少し困ったように声を出しながら、それでも室長は諦めずにチャレンジしてくれている。

(自分で直せば一瞬だけど、室長は善意でやってくれてるわけだし‥)

直そうとする度に、室長の大きな手が耳や頬に触れてくすぐったい。

(ここは我慢!心頭滅却すれば、この程度のくすぐったさなんて‥!)

サワサワとした感触に耐えられず、私はギュッと目を瞑る。

すると、不意に髪を直す手が止まった。

(あれ?諦めちゃった?)

身体に入れていた力を抜くと、チュッと唇に触れる柔らかい感触。

サトコ

「!?」

難波

なんて顔してんだ

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驚いて目を開けると、すぐ目の前に室長の顔がある。

難波

キスをねだるようになったとは、ひよっこもあなどれねぇな

サトコ

「そ、そういうわけじゃ‥!」

難波

なかなか可愛い顔してたぞ

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そう言うと室長は私から1歩距離を取る。

サトコ

「‥もういいんですか?」

難波

おいおい、こんなところで誘うのか?

剣道場っていうのは、さすがに俺も経験がないな

サトコ

「そ、そういう話じゃありません!髪‥」

難波

ん?

サトコ

「諦めちゃうんですか?」

私は頬にかかっている左側の髪を指差す。

難波

ああ、そうだったな

もう少し頑張ってみるか

室長は先ほどと同じように手を伸ばしかけ、それを止める。

そして今度は私の後ろに回った。

難波

こうした方が簡単なんじゃないか?

サトコ

「あ‥」

前から後ろに、今度はしっかりと髪を耳にかけてくれた。

サトコ

「何事も視点を変えるのが大事ってことですね」

「さすが室長。こういうことでも大事なことを教えてくれるなんて‥」

難波

後ろからやった方が楽だと思っただけなんだけどな

サトコ

「へ?」

難波

それに、後ろ姿もなかなかいい

サトコ

「ひゃっ!」

首筋に触れた手に私は大きく肩をすくめた。

難波

イイ女を作るのは、ドレスや華美な服だけじゃない‥か

懸命な汗を流す姿こそが美しい

サトコ

「室長‥」

振り返ると、その目を細めて見つめる姿にドキッとしてしまう。

難波

‥と言っても、色っぽい空気になるには、剣道場はニオイがな‥

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サトコ

「!」

「わ、私、汗臭いですか!?」

難波

まあ、その‥青春のニオイだ。うん

サトコ

「ち、近づかないでください!」

私は大きく室長から離れる。

難波

そんな気にするなよ

っつっても、気になる気持ちも分かるけどな

俺も加齢臭とか気になるお年頃だし‥

サトコ

「もっと早く言ってくださいよ。ニオイが気になるなら‥」

難波

俺も煙草臭いしお互い様だろ

それにニオイを差し引いても、今のひよっこはなかなか可愛い顔をしてたからな

サトコ

「そ、そうですか?」

難波

思わずキスするくらいにはな。成長したな~

ひとり納得する顔を見せた室長が背を向けて道場を出て行こうとする。

(結局、また室長に振り回されたような気が‥)

(でも、会えたのは嬉しかったな)

サトコ

「お疲れ様でした」

そう言って頭を下げると、室長が足を止めて振り返る。

難波

今日は行かないのか?

サトコ

「え?い、行きます!でも、どこへ‥」

難波

じゃあ先行って待ってるからな~

私の質問には答えず、室長はひらひらと手を振って出て行ってしまう。

(行くって、どこに!?いつものラーメン屋でいいのかな?)

(とにかくシャワー浴びて来ないと!)

私は急いで防具を片付けると、剣道場を飛び出した。

to  be  continued

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