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続編 難波7話

【地下牢屋】

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(このまま二度と室長に触れられないまま離れ離れになるなんて嫌だ‥!)

(どうせそうなるのだとしても、もう心残りにはしたくない‥)

私はギュッと両手の拳を握った。

今言わなければ、きっと一生後悔する。

サトコ

「あの、私‥!」

「本当は、ずっとずっと一緒にいたかったんです」

「室長の‥傍に‥」

難波

サトコ‥

胸の中にしまっておいた想いが、言葉が、あふれ出して止まらなくなった。

ここまで追い詰められないと自分の素直な気持ちも口にできないなんて、私は本当にバカだ。

サトコ

「でも私はどんなに頑張っても三上さんみたいにはなれなくて‥」

難波

ミカミ‥って、科警研の三上のことか?

サトコ

「お見合いのこと、室長は何も言ってくれませんでしたけど、私はずっと気になってたんです」

難波

お前‥そんなことを‥?

サトコ

「部屋にあったお見合い写真にも気づいてたのに」

「気づかないふりをしてました。聞くのが怖くて‥」

「私は三上さんに何ひとつ勝てるものがないし」

「三上さんみたいに室長に釣り合う女性でもありません」

「だから、こんな私に室長の傍にいる資格は‥」

難波

サトコ、顔を見せてくれないか?

<選択してください>

A: 素直に応じる

室長の呼びかけに応え、私はおずおずと柵に近付いた。

隣から覗き込む室長の顔が僅かに見える。

難波

サトコ‥

サトコ

「‥‥‥」

B: 拒否する

サトコ

「ダメです‥」

難波

どうしてだ?

サトコ

「こんなことを言った後じゃ、恥ずかしくて‥」

難波

でもこんな話、壁を挟んでするようなもんじゃないだろ

サトコ

「‥‥‥」

私はためらいながらも、おずおずと柵に近付いた。

隣から覗き込む室長の顔が僅かに見える。

C: どうしようか迷う

(こんなこと言った後じゃ、恥ずかしいよ‥)

難波

サトコ、どうした?

サトコ

「ダメです。このままじゃ‥」

難波

俺は‥お前の顔を見て話したい

私はためらいながらも、おずおずと柵に近付いた。

隣から覗き込む室長の顔が僅かに見える。

室長はじっと私の顔を見つめてから、ひとつひとつ言葉を選ぶように口を開いた。

難波

俺はな、サトコ‥

別れたっていいと思ってた

サトコ

「‥!」

難波

それが、お前の望みなら。でも‥

最後まで言い終わらないうちに、階段を下りてくる足音が聞こえて来た。

ウィーン‥ガチャン!

難波

サトコ

「!」

電子錠の開く音がして、さっきの2人の男が入ってきた。

男A

「後ろを向いて両手をこちらに出せ」

難波

‥‥‥

サトコ

「‥‥‥」

私たちが言う通りにすると、男たちは両手をきつく縛り上げた。

ガチャン

牢の入口が開かれて、牢の外へと引き出される。

【ガス室前】

男B

「出ろ」

難波

ようやく解放か?

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室長は場違いなほどあっけらかんとした口調で言った。

男B

「この状況で解放されると思えるとは、相当おめでたいヤツだな」

難波

じゃあ、どうするつもりだ?

男B

当然だ。処分するんだよ

サトコ

「!」

難波

処分?この家の主人はゲストを処分するのか?

男A

「まだゲストのつもりでいるのか?お前たちがゲストでないことくらい、すでに調べはついている」

鼻で笑うように言うと、男は私と室長をガス室のドアの前に立たせた。

並んで立たされた私の腕が、室長の腕に触れる。

そのわずかな温もりが、かえって切なさを際立たせた。

(これで終わりなのかな‥)

絶望的な気持ちで、私はじっとガス室を見つめる。

(室長、さっき何て言おうとしていたんだろう‥?)

(室長の言葉、せめて最後まで聞きたかったな‥)

難波

ところで、ここはガス室か?

相変わらずのんきそうな声で室長は聞いた。

男A

「ほう‥察しだけはいいじゃないか」

難波

まぁな。でもガス室に2人送り込むのに、あんたらも2人しかいなくて大丈夫なのか?

(そういえばそうだよね‥)

さり気なく背後を窺うが、他に誰かいそうな気配はない。

男A

「お前らのような雑魚には、2人もいれば十分だ」

サトコ

「!」

(もしかしてこの人たち、私たちが警察だってことまでは気付いていない‥!?)

よくよく見れば、2人ともそんなに体格がいいわけでもない。

それにもかかわらず2人しかいないということは、私たちを甘く見ている証拠だ。

(チャンスかも‥?)

(このあと、1人がガス室のドアを開けるはず‥その隙に私たちが同時に動けば‥)

隣に送った視線が、室長のそれと絡み合った。

サトコ

「‥‥‥」

難波

‥‥‥

お互いに、小さく目で頷き合う。

『行くぞ』と、室長の目は語っていた。

(‥了解です!)

私を連れ出していた男が、ガス室のドアを開けるために前に出る。

サトコ

「えいっ!」

難波

おらよっ!

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私がその男を蹴り上げるのと、室長がもう1人の男を首投げしたのはほぼ同時だった。

男たち

「うっ‥」

床に倒れた2人の男が低いうめき声をあげる。

室長は靴のかかとに仕込んであったカミソリで自分の縄を切ると、すぐに私の縄も解いてくれた。

難波

逃げるぞ

サトコ

「はい!」

でも次の瞬間‥‥

プイーン、ブイーン‥!

屋敷内に警報音が響き渡った。

それと同時に、複数の足音が階段を駆け下りてくるのが聞こえてくる。

難波

やっぱりこうなるよな‥

ドアの両側で待ち伏せるぞ

室長の言葉に頷くと、一度だけしっかりと見つめ合い、私たちは左右に別れた。

ウィーン‥ガチャン!

ドアが開いた瞬間、最初の2人を室長が蹴り上げた。

ガシャン!

2人の手から、2丁の拳銃が滑り落ちる。

室長はそれをすぐさま拾うと、1丁を私に向けて放り投げた。

難波

サトコ!

サトコ

「!」

室長が投げた銃は、緩やかな弧を描いて私の手にすっぽりと収まった。

手に取った銃で、後続の1人の足に狙いを定める‥‥

パンッ!

自分でも驚くほどに、スムーズに引き金が引けた。

難波

いいぞ。その調子だ

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パンッ!

室長は次の1人に向けて銃を撃ちながら、笑顔を向けた。

パンッ!

今度は私が3人目の男の腕を撃って銃を弾き飛ばす。

室長は銃を失った男の喉を締めて落とすと、私に向かって手を差し出した。

難波

今のうちだ。いっきに走り抜けるぞ

サトコ

「はい!」

【屋敷外】

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全力で階段を駆け上がり、人々の驚きの視線を浴びながらフロアを抜け、庭へと走り出た。

そんな私の隣を、室長はぴったりと寄り添うように走っている。

(普通に走ったら室長の方が断然早いはずなのに、私が遅れないように合わせてくれてるんだ‥)

何も言わなくても私のペースを完全に把握してくれている室長が頼もしく、

猛烈に愛おしく感じられた。

(さっき銃を投げてくれた時だって、私の右手にすっぽり収まるようにちゃんと考えてくれてた)

(もしかしたら室長はずっと、こうだったのかも‥)

追いつきたいとか釣り合いたいとか、そんなことばかり考えていて気付かなかったけれど。

いつだって室長は、こうして私に向けて手を差し伸べていてくれたのかもしれない。

(室長は、私がいくら追いつこうとしたって追いつける存在じゃない)

(釣り合える日だって、永久に来ないかもしれないけど‥)

それでもこうして室長の傍にいたいと、今、改めて強く思った。

(もしもここから無事に脱出できたら、もう背伸びしようとして焦るのは止めよう)

(誰かと比較するのも‥)

(いくら急に頑張ったってもがいたって、すぐに結果が出るようなことじゃないんだから)

(私は私に今できることを、コツコツやっていくしかないんだよね)

慣れない高いヒールで必死に走り続けながら、室長と繋いだ手に力を込めた。

それに応えるように、室長も無言で握り返してくれる。

難波

‥‥‥

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サトコ

「‥‥‥」

屋敷の正門は、もう目前に迫っていた。

【庭】

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広い屋敷の迷路のような庭を駆け抜け、ようやく正門が見えてきた。

しかし正門前はすでに、たくさんの男たちで取り囲まれていた。

難波

固められたか‥

サトコ

「すごい人数ですね‥」

この屋敷に通じる道は屋敷の正面のみ。

周囲は崖に囲まれていて、つまり正門突破以外に脱出の道はない。

私と室長は乱れた呼吸のまま、必死に辺りの状況を見回した。

サトコ

「事前の情報では、あの辺りに橋があったはずですけど‥」

難波

ここから見えないということは、すでに外されてる可能性が高いな

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サトコ

「そんな‥それじゃ、どうすれば‥」

難波

そうだな‥

室長はじっと考え込んだ。

(もうこうなったら‥!)

<選択してください>

A: 私がおとりになります

サトコ

「私がおとりになります」

難波

なんだって?

サトコ

「私があいつらの気を引いている間に、室長だけでもここから逃げてください」

難波

お前、何を言ってるんだ‥

サトコ

「2人とも捕まったらせっかくの潜入が無駄になってしまいます」

「今後の捜査のために、室長だけでも‥」

難波

勝手なことを言うな!

サトコ

「!」

難波

そんな作戦は認められない

B: 応援を呼びましょう

サトコ

「応援を呼びましょう。ここなら、無線も入りますし‥」

難波

そんなものを持っていたら、再びガス室送りだぞ

あいつらは俺たちを消すことになんの躊躇もない

事は一刻を争う。俺たちの力でなんとかするんだ

C: やっぱり橋を探してきます

サトコ

「やっぱり、橋を探してきます。ここから見えないだけかもしれないし‥」

行こうとする私の腕を、室長がつかんだ。

難波

止めておけ。なんとなく、罠の香りがする

サトコ

「罠‥!?」

難波

あくまでも刑事の勘ってヤツだけどな

俺くらいになると、結構これが当たるんだ

サトコ

「‥‥‥」

難波

とにかく動こう

ここにいても、見つけられて囲まれるだけだ

室長は私の手を引いて、正門とは逆方向に走り出した。

サトコ

「でも、そっちは‥!」

【崖】

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屋敷を囲む崖は、思っていた以上に切り立っていた。

難波

この崖を降りるしかねぇな

サトコ

「こ、ここをですか‥?」

見下ろしただけで足がすくんでしまう。

難波

いいか?俺が先に降りて足場を確認する

俺が下に着いたら、お前は俺が通った道筋で降りて来い

サトコ

「そんな‥私にできるでしょうか‥」

難波

できるかどうかじゃない。やるんだよ

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サトコ

「‥‥‥」

難波

万一俺が途中で落ちたら、お前は構うな

別の場所から自力で崖を降りて、1人で逃げろ

サトコ

「そんな‥!」

難波

できるな?

室長は私の頭に手を置くと、優しい表情で顔を覗き込んだ。

サトコ

「室長を置いていくなんて‥」

難波

これは上司の命令だ

室長は厳しい口調で言った後、笑顔を残して崖を降りはじめた。

ガラガラガラッ‥

サトコ

「!」

難波

おっと‥危ねぇ‥

足を掛けた岩が崩れて、室長は少しバランスを崩した。

でもまたすぐに体勢を整えると、ゆっくりと確実に一歩一歩崖を降りていく。

(頑張って室長‥なんとか、無事に下まで降りられますように‥!)

私は祈るように、室長の一挙手一投足を見守った。

どのくらいの時間が経っただろうか。

室長の足がようやく地面に着いたのを見て、私はホッと胸を撫で下ろした。

安堵感で全身の力が抜ける。

(よかった‥なんとかなった‥)

難波

サトコ、何してる!

早くお前も降りて来い!

サトコ

「は、はい‥」

気を取り直して立ち上がると、改めて崖の下を見下ろした。

(やっぱりすごく高い‥こんな所、私の降りられるかな?)

難波

俺が降りたルートを覚えてるな?

その通りに降りてくれば大丈夫だ

サトコ

「‥はい」

私は恐る恐る崖から身体を下ろし、岩に足を掛けようとした。

ガラガラガラッ!

サトコ

「!」

足を一歩踏み出した途端、崖の表面が崩れていく。

思わず背筋が凍り、足が動かなくなる。

難波

大丈夫だ。足場はしっかりしてる

そのまま下を見ずに降りて来い!

追手の男

「いたぞ!」

サトコ

「!」

屋敷の方から声が聞こえて、追手の男たちが姿を現した。

追手の男

「こんな所にいたとは‥なんておてんばなお嬢さんだ」

サトコ

「こ、来ないで!」

難波

サトコ?どうした?

サトコ

「追手に囲まれました!もう私に構わず、逃げてください!」

難波

私たちのやり取りに、追手の男たちはニヤリと笑った。

銃を構えた男が安全装置を外すそぶりを見せる。

追手の男

「男はもう下か‥だが安心しろ、女。ちゃんと2人まとめてあの世に送ってやるから」

サトコ

「来ないで!」

「室長!早く逃げて!」

難波

バカを言うな、サトコ

お前を置いて逃げられるわけがねぇだろうが!

サトコ

「でも!」

(私はもう、どう頑張っても敵より早く下には降りられない‥)

難波

飛び降りろ!

サトコ

「えっ!?」

驚く私に向かって、室長は両手を広げてみせた。

難波

俺がちゃんと受け止めてやる!

俺を信じて、飛び降りろ!

サトコ

「‥‥‥」

(こうなったら、覚悟を決めるしか‥!)

その瞬間、闇夜に銃声が響いた‥‥

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