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マリアージュ 後藤カレ目線

【後藤 マンション】

サトコ

「いただきます」

後藤

いただきます

‥ん、美味い

(やはり、サトコの料理は絶品だな)

(カレーひとつとっても、こんなに上手く作れるとは)

サトコ

「よかった。残りは冷凍しておくので、好きな時に食べてくださいね」

後藤

助かる。カレーは万能食だな

(これなら、何日続けてでも食べられそうだ)

幸せな気分でカレーを食べていると、テレビが賑やかな音に切り替わった。

テレビ

『今日の特集は、プロポーズスペシャル!』

(ニュースが終わる時間か)

テレビ

『まずは全世界で人気の公開プロポーズからいってみましょう!』

後藤

公開プロポーズ?

カレーに集中していて聞き流していたけれど、聞こえてきた内容にテレビに顔を向けた。

サトコ

「フラッシュモブとかを取り入れたプロポーズのことじゃないですか?」

後藤

フラッシュモブっていうのは、何だ?

サトコがフラッシュモブについて説明してくれる。

(大して知りもしない人間たちに協力を頼み、公衆の面前でプロポーズ‥恥ずかしくないのか?)

テレビでプロポーズをしている男に、自分をあてはめてみる。

(無理だな。俺なら、人前より二人きりを選ぶが‥)

向かいに座るサトコを見ると、彼女はカレーを食べる手を止めてテレビに見入っていた。

(いつかは、サトコにプロポーズする日が来る)

(結婚を申し込んだら、喜んでくれるか?)

俺の好きなとびきりの笑顔を見せてくれるだろうか。

想像するだけで鼓動が早まり、ひとり照れ臭い気持ちに襲われた。

後藤

まあ‥どちらにしても、まだ先の話だな

サトコ

「え‥」

後藤

ごちそうさま

考えを見透かされるわけもないのだけれど、無性に恥ずかしくなった俺はカレー皿を手に席を立つ。

(だが、その時が来たら‥サトコが喜ぶ最高のシチュエーションでプロポーズしたい)

【潜入先】

捜査のために借りているマンションの一室。

電気もつけない部屋で、俺の隣にいるのは‥‥

黒澤

いや~、後藤さんとの新婚生活も今夜で終わりそうですね

後藤

軟禁生活の間違いだろうが

黒澤

何もない部屋で生活をスタートさせる二人って言ったら、新婚さんじゃないですか~

後藤

お前は本当に、めでたいヤツだな

数日前から、向かいのマンションに住むターゲットを黒澤と張っている。

(今朝、やっと証拠がつかめた。明日の早朝の確保まで、何事もなく過ぎれば事件解決だ)

この一週間公安学校にも行っておらず、当然サトコとも連絡を取っていない。

(捜査に出ていることはわかっているだろうから、心配はしてないだろうが‥)

離れていて気になっているのは自分の方だと気が付く。

(サトコに会いたい‥)

ここ数日、ほぼ徹夜で張り込みを続けているせいか、率直な欲望が顔を覗かせた。

黒澤

サトコさんなんですけど

後藤

‥サトコが、どうした?

(こいつ‥まさか、俺の心を読んだわけじゃないよな?)

(いくら洞察力に優れているからといって、そこまで‥)

それとも簡単にわかるほど顔に出ているのだろうかと思ったが、それを確かめる術もない。

黒澤

最近、特に訓練に励んでるみたいですよ

後藤

‥そうなのか?

黒澤

はい。毎日放課後は自習と訓練を繰り返しているみたいです

何か特別やる気になることがあったんでしょうかね?

黒澤がニヤニヤと笑いながら、こちらを見てくる。

後藤

俺は何も知らない

黒澤

そうなんですか?サトコさんがやる気を出すのは、後藤さん絡みだと思ったんだけどなあ

(この一週間、サトコとは連絡をとってないんだから、俺は関係ないだろう)

(サトコに何かあったのか?)

【個別教官室】

サトコ

「失礼します」

後藤

ああ‥急に呼び出して、悪かった

事件が解決した翌日。

公安学校に行った俺は、さっそくサトコを呼び出してしまった。

(留守中の報告を聞くという仕事もあるが‥これじゃ公私混同と言われても否定できないな)

サトコ

「それじゃ‥おかえりなさい!後藤さん」

後藤

ただいま

サトコに笑顔でそう言われると、帰ってきたことを実感する。

(サトコは放課後訓練に励んでいると言っていたな)

(今夜誘えば、その邪魔をすることになる‥)

それは教官として失格だ。

そうわかっていても‥‥

後藤

今日も俺は家に帰れる。久しぶりにアンタの飯が食いたいんだが‥

作ってくれないか?

そういう気持ちを抑えきれなかった。

(‥ダメな教官だな)

そう思う一方で、サトコに会えて嬉しいという気持ちを消すことはできなかった。

【後藤 マンション】

後藤

今日は呼びつけて悪かった

サトコの夕飯を堪能した後、ワガママに付き合わせてしまったことを謝る。

サトコ

「そんなこと‥私も後藤さんとゆっくり会いたかったから、気にしないでください」

後藤

俺が捜査に出ている間、いつも以上にやる気だったと聞いた

何かあったのか?やる気が出るようなことが

サトコ

「それは‥」

話を聞くと、意外なことを言われた。

サトコ

「その、私‥前に2人でプロポーズ特集を見ていた時‥」

「後藤さんが『まだ先の話』だって言ったのを聞いて、ちょっとショックだったんです」

後藤

そうだったのか?あれは‥

(確かに先の話だとは言ったが、ショックを受けさせるようなつもりはなかったんだが‥)

サトコ

「私はまだ公安刑事として半人前です」

「将来を考えるなら、まずは今できることを精一杯頑張らないといけないと思って」

後藤

そうだったのか‥

サトコの話を聞いて、ようやく全てがつながり納得する。

(そんな風に受け取られてるとは思わなかった)

(本当に俺は言葉足らずだな)

反省しながら、真意を伝えるために言葉を探す。

後藤

確かに、アンタはまだ訓練生だし、結婚はまだ先の話だと思ってる

サトコ

「はい」

後藤

だが、いつになったとしても、俺にはサトコ以外考えられない

サトコ

「!」

後藤

だから、その時が来たら‥ちゃんと伝えさせてくれ

サトコ

「はい!」

驚きと喜びが入り交じったような顔になるサトコ。

それでも、次には俺の大好きな笑顔を見せてくれた。

(俺がプロポーズするときも‥こんな顔を見せてくれるんだろうか)

その日は俺にとっても、目標とする日だった。

【寝室】

久しぶりにサトコと共に寝た日の翌朝。

目を覚まし、腕を伸ばすが隣にいるはずのサトコがいない。

(どこに行ったんだ‥?)

休みの日はいつまでも寝ていられるが、サトコを探すためなら目が覚めるから現金なものだ。

(先に起きたのか‥)

ベッドから降りて寝室のドアを開けると、台所から音がする。

それは規則正しい包丁の音で、出汁のいい香りも漂ってきた。

(‥朝飯、作ってくれるのか)

(俺の部屋に泊まると、いつも俺より早く起きて朝飯を作ってくれるよな)

サトコの方が疲れている時もあるだろう。

それでも、彼女はいつも笑顔で俺を起こしてくれる。

(プロポーズまでに自分を磨いておかなきゃいけないのは、サトコじゃなくて俺の方だな)

(たまには早起きして、サトコのために朝飯くらい作れるようになっておかないと)

とはいえ、その道が遠いのは分かる。

サトコの味噌汁は絶品で、普段朝はなかなか覚めない頭がすぐに冴える。

(不思議なもんだな)

(今日は何の味噌汁だろうか)

そんなことを考えていると、とにかくサトコの顔が見たくなる。

後藤

起きるか

着替えを手にし、サトコに『おはよう』を言うために台所へ向かう。

朝から眩しい彼女の笑顔を思い描きながら。

Happy  End

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