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マリアージュ 加賀1話

【結婚式場 控室】(妄想)

(ついに今日、加賀さんのお嫁さんになる‥)

(いろんなことがあったけど‥なんだか夢みたい)

サトコの母

「サトコ、どう?入ってもいい?」

翔真

「うわっ、姉ちゃん、綺麗!」

サトコ

「『うわっ』って何よ‥」

「翔真もそろそろ着替えないといけないんじゃない?」

「でた、黙ってたら綺麗に見えるんだから大人しくしてりゃいいのに」

こんなときでも、翔真とのやりとりは普段と変わらない。

しかし、ウェディングドレスに身を包んだ私を見て、最後に入ってきたお父さんが立ち止まった。

サトコの父

「サトコ‥本当に、嫁に行くんだな」

サトコ

「うん‥お父さん、お母さん、今まで育ててくれてありがとう」

「翔真、ふたりのことよろしくね」

翔真

「なんだよ‥やめろよ、急にそうやって泣かしに来るの!」

今日は、“氷川サトコ” として過ごす最後の日だ。

家族と話していると、控室のドアがノックされた。

加賀

おい、支度は‥

サトコ

「加賀さん‥」

(あれ‥加賀さんタキシード着てない)

(なんでだろ、もうすぐ式始まるのにな‥)

サトコの母

「あらあら、花婿の登場ね」

翔真

「姉ちゃん、俺たち支度してるから」

サトコの母

「そうね、私もそろそろ着替えないと、間に合わなくなっちゃうわ」

私たちに気を使ったのか、お母さんと翔真が先に出て行く。

お父さんもそれに続こうとしたとき、加賀さんが私の家族に向き直った。

加賀

サトコさんは、必ず幸せにします

サトコ

「加賀さん‥」

サトコの父

「‥ああ」

「兵吾くん‥娘を、よろしくな」

加賀

ええ。俺の命にかえてでも、生涯、守り抜きます

加賀さんの言葉に安心したのか、お父さんが控室から出る。

ふたりきりになると、改めて加賀さんに見惚れてしまった。

加賀

なんだ

サトコ

「加賀さん、今日もすごく素敵です‥」

加賀

今日から、テメェも “加賀” になるんだろ

サトコ

「‥はい」

(そうだ‥今日から私は、 “加賀サトコ” なんだ)

加賀

‥綺麗だな

サトコ

「えっ?」

加賀

さすがに今日は、今までの中で一番綺麗に見える

サトコ

「き、綺麗‥!?」

(今の、加賀さんの言葉!?幻聴じゃなくて!?)

(こ、こんな嬉しいことを言ってもらえるなんて‥)

サトコ

「あの、もう一回‥」

加賀

言わねぇ

サトコ

「ですよね‥」

(でも、『綺麗』なんて一生言ってもらえないと思ってたから嬉しいな)

(それに今日の加賀さんは雰囲気が柔らかいような)

そう思った直後、加賀さんの手が伸びてきて腰を抱き寄せられた。

抵抗する間もなく、ドレスの胸元を少しめくられる。

サトコ

「な!?」

加賀

喚くな

サトコ

「いや、だって‥!」

(ま、まさかここで脱がされる‥!?)

(せっかく着たのに‥って、そうじゃなくて!)

サトコ

「加賀さん‥!さすがにここじゃ‥」

加賀

相変わらずこんなところで発情か

テメェは、年中発情期だな

サトコ

「ち、ちが‥そうじゃなくて」

慌てる私を押さえつけて、加賀さんが胸元に強く吸い付いた。

(胸元に、キスマーク‥)

(ギリギリ、ドレスで隠れるくらいの‥)

思わず身体を震わせると、加賀さんが顔を上げて私の胸元でニヤリと笑った。

加賀

式の最中も、テメェは俺のもんだ。忘れんな

サトコ

「はい‥」

(こんなことされなくても、もうとっくに私は加賀さんのものなのに)

(でも、これって独占欲なのかな‥嬉しいな)

そのあと、式場スタッフに呼ばれて加賀さんと一緒に控室を出た。

【式場】

厳かな雰囲気で式が始まり、お父さんと一緒にヴァージンロードを歩く。

(途中で、加賀さんが待ってくれてる‥)

(私はこの先、大好きなあの人と一緒に人生を歩んでいくんだ)

途中、拍手をしてくれている教官たちや鳴子、千葉さんを見つけた。

教官たちは新郎側、鳴子たちは新婦側の友人席にいる。

(そっか‥もうみんなに、加賀さんを好きだってことを隠さなくていいんだ)

(こんなに大勢の人たちに祝福されて、幸せだな‥)

感動の中、お父さんから離れて加賀さんの手を取る。

サトコ

「加賀さん‥」

加賀

何度言えばわかる。もうテメェも “加賀” だ

加賀さんの手を取ると、嬉しさで胸がいっぱいになり、涙が溢れた。

そっと、加賀さんが涙を拭ってくれる‥

加賀

駄犬が、泣いてんじゃねぇ

サトコ

「すみません。嬉しくて‥」

いつもの言葉が、なんだか微笑ましい。

でも加賀さんの言葉が響いたその瞬間、参列客がざわつき始めた。

参列客1

「ねえ、今‥すごいこと言わなかった?」

参列客2

「サトコちゃんの旦那さんって、刑事さんよね‥?でもまるで、ヤクザ‥」

(な、何‥?もしかして、今の加賀さんの『駄犬』発言のこと?)

(言われてみれば、奥さんを犬扱いって‥普通に考えたらおかしいような気も)

東雲

あーあ、今日くらいは大人しくしてると思ってたのに

黒澤

やっぱり、加賀さんには無理でしたね!

石神

あれほど、今日だけは『駄犬』『奴隷』はタブーだと言っておいたのに

難波

まあ、いくら隠しても普段から言ってる言葉が出るもんだよなあ

参列客3

「普段から言ってる言葉‥!?サトコちゃん、いつもあんな扱い受けてるの?」

参列客4

「DV‥!」

教官たちの言葉にざわざわする中、今まで特に違和感を覚えなかった自分が恐ろしい。

(加賀さんに罵倒されたりアイアンクローされるなんて)

(日常茶飯事すぎて、もう麻痺しちゃってた‥!)

だけど、こんなときでも犬扱いされるのはやっぱりおかしいのかもしれない。

今さらながらにそう思うと、少し不安になり始める私だった‥

そのあともなんとか式は進み、指輪の交換に移る。

以前、ふたりで選びに行った指輪を眺めながら、加賀さんがクッと笑った。

加賀

高い首輪だな

サトコ

「く、首輪‥!?」

加賀

主人に黙って外したら、どうなるかわかってるな?

(駄犬‥首輪‥主人‥)

(もしかして、結婚しても犬扱いは変わらないんじゃ)

一見、式は滞りなく進んでいるように見える。

でも私の心の中は、始まる前とは打って変わって荒れていた。

(本当にこのまま、加賀さんと結婚しても大丈夫‥?)

(でも、犬呼ばわりは今に始まったことじゃないし)

神父

「では、最後に誓いのキスを」

サトコ

「っ‥‥‥」

(やっぱり、ダメだ‥!こんな気持ちのまま、永遠の愛なんて誓えないよ‥!)

加賀さんが私のベールを上げて、ゆっくりと顔を近づける。

サトコ

「‥ごめんなさい!」

唇が触れ合う直前、ドン!と加賀さんを突き飛ばした‥‥‥

【加賀マンション 寝室】

サトコ

「ごめんなさい‥!」

ドン!という衝撃が手のひらから伝わり、ハッと目が覚める。

加賀

っ‥‥‥

サトコ

「わ、私、やっぱり‥」

「‥ん?」

目の前で、加賀さんが顔をしかめてみぞおちを押さえていた。

<選択してください>

A: どうしたんですか?

サトコ

「か、加賀さん?どうしたんですか?」

加賀

‥‥‥

‥テメェがしたことも覚えてねぇとはな

サトコ

「私がしたこと‥?」

(‥え!?もしかして、夢だけじゃなく現実でも突き飛ばしちゃったの!?)

B: どうしてここに?

サトコ

「どうして、加賀さんがここに‥」

加賀

人んちに泊まっときながら、その言いぐさか

サトコ

「え‥」

(そ、そういえば‥昨日は加賀さんの部屋に泊まったんだった!)

C: 今の、夢?

サトコ

「い、今の‥夢ですか?」

加賀

‥知るか

みぞおちを押さえながら、加賀さんが舌打ちする。

加賀

確かなのは、テメェが突然、闇討ちしてきやがったってことだけだ

サトコ

「闇討ち‥!?」

サトコ

「す、すみません‥!なんだか妙な夢を見てて」

「その‥夢の中でしでかしたことが、現実になったらしくて」

(そっか、さっきの夢だから加賀さんタキシード着てなかったんだ)

(加賀さんのタキシード姿、まだ想像つかないもんね‥)

加賀

言い訳はそれだけか

サトコ

「誠に申し訳ございませんでした‥」

ベッドの上で土下座すると、加賀さんが深くため息をつく。

加賀

飼い犬に手を噛まれるとは、このことだな

サトコ

「うっ‥」

(夢でも現実でも、犬扱い‥)

(これからも、ずっとこうなのかな‥夢の中みたいに、現実の結婚式でも‥?)

呆れてしまったのか、加賀さんは私に背を向けて寝なおしてしまった。

(なんであんな夢を見ちゃったんだろう‥鳴子と結婚の話なんてしたから?)

(でもそもそも、加賀さんが私を結婚相手として考えてくれてるのかすら分からない‥)

奴隷から駒、駒から恋人に昇格できた‥と思っていた。

でももしかして、そこから先はもうないのかもしれない。

(夢のせいで、なんだか不安になってきた‥)

(加賀さんにとって、私はこの先もずっと “犬” なのかな)

【学校 廊下】

数日後の金曜日。

その日の講義が全て終わると、いつものように教官室へと向かう。

(明日は土曜日で休みだし、加賀さんとデートの約束なんだよね)

この間、みぞおちを押してしまったことを思い出して、申し訳ない気持ちになる。

念のため、最近話題の和菓子屋さんを調べておいた。

(あんころもちが絶品のお店を見つけたんだよね。加賀さん、きっと気に入るはず!)

意気揚々と歩いていると、携帯が鳴ってLIDEが立ち上がる。

確認してみると、弟の翔真からのメッセージだった。

(翔真がLIDE送ってくるなんて珍しいな‥なになに?)

(‥『明日東京行くから!案内して!』‥!?)

サトコ

「はああ!?」

加賀

うるせぇ

バコン!と勢いよく後頭部を固いもので叩かれた。

あまりの痛さに、その場にうずくまって悶絶してしまう。

サトコ

「か、加賀さっ‥それ、日誌‥!」

加賀

だからどうした

サトコ

「角‥!角が、直撃‥!」

「あんまり強く叩かれると、脳細胞が‥」

加賀

とっくに死滅してんだろ

(なんて言いぐさ‥!)

痛みを堪えて立ち上がると、加賀さんが眉間にシワを寄せたまま私を睨んだ。

加賀

何デカい声出してんだ

サトコ

「すみません‥弟から驚きのLIDEが送られてきて」

加賀

LIDE‥?ああ、あの穴だらけのくだらねぇツールか

サトコ

「加賀さんや東雲教官から見れば、どんなセキュリティでも穴だらけですよ」

加賀

それより、明日は空けてあるんだろうな

サトコ

「はい!もちろんで‥」

元気よく返事しようとしたところで、翔真からのLIDEを思い出した。

(明日、東京に来るって‥翔真、本気?)

(でも本当なら、放っておくわけには‥)

加賀

どうした

サトコ

「じ、実は‥急に明日、弟が東京に来ることになって」

加賀

‥‥‥

(ヒイィ‥加賀さんの眉間のシワが、恐ろしいほど濃く‥)

サトコ

「すみません。まさか、こんなに突然来るなんて」

加賀

‥仕方ねぇ

大きくため息をつかれたものの、加賀さんは怒った様子はない。

(でも、せっかくのデートだったのにな‥)

(いつ捜査が入るかわからないから、ふたりで過ごせる時間は貴重だし)

サトコ

「あ、あの‥もしよかったら、加賀さんも一緒に行きませんか!?」

加賀

あ?

サトコ

「弟に、東京を案内してほしいって言われて」

「加賀さんがよければ、どうかなと‥」

加賀

‥‥‥

加賀さんは一瞬驚いたような顔をしたものの、すぐに首を振った。

加賀

テメェだけで行ってこい

ダメ元で誘ったとはいえ、予想通りの言葉に思わず俯いた。

(そうだよね‥いくら弟だって、家族に会って欲しいなんて唐突に言われても困るよね)

加賀

‥‥‥

‥弟は、なんて言ってる

サトコ

「え?」

加賀

先に、弟に聞いてみろ

<選択してください>

A: 会ってくれるの?

サトコ

「あ、会ってくれるんですか?」

加賀

テメェが言い出したんだろ

サトコ

「でも、ダメ元だったので‥」

「あ、じゃあ弟に聞いてみますね」

B: 今すぐ聞いてみます!

サトコ

「い、今すぐ聞いてみます!」

加賀

別に、あとでもいい

サトコ

「いえ!こういうことはすぐやらないと!」

(まさか、加賀さんが承諾してくれるなんて‥!)

C: 後悔はさせませんから

サトコ

「け、決して後悔はさせませんから!」

加賀

なんの話だ

サトコ

「やっぱり会わなきゃよかった、って思われないようにと‥」

「うるさい弟ですけど、悪い子じゃないので‥!」

加賀

‥テメェの弟なんだから、そりゃそうだろ

(それって、褒めてくれてる‥?)

翔真に聞いてみると、即OKの返事が来た。

サトコ

「加賀さんに会えるの、楽しみにしてるそうです!」

加賀

‥そうか

サトコ

「あの‥ありがとうございます。無理言ってすみません」

加賀

別に、たいしたことじゃねぇ

テメェだって、花や姉貴に会ってんだろ

(言われてみれば、確かに‥)

(でも、私は花ちゃんたちに会えて嬉しかったけど‥加賀さんは面倒かなって思ってたのに)

どうやら、そんな風には思われていないらしい。

嬉しい反面、少し不安な気持ちもあった。

(翔真の前で、駄犬扱いされないかなぁ‥)

(もし、夢の中みたいなことになったら)

必死に首を振って、その不安を振り払う私だった‥

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