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マリアージュ 加賀カレ目線

【学校 廊下】

サトコ

「実は、急に弟が東京に来ることになって」

サトコとのデート前日、全てはその言葉から始まった。

(弟か‥そういや、いるって言ってたな)

(‥テメェが俺よりも優先するものなんざ、ねぇだろうが)

だが事情が事情なので、仕方なく了承する。

すると、少し落ち込み気味だったサトコが思い切った様子で口を開いた。

サトコ

「あのっ‥もしよかったら、加賀さんも一緒にどうですか!?」

加賀

‥あ?

サトコ

「弟が、東京を案内してほしいらしくて!」

「加賀さんが一緒なら、きっと楽しいだろうなと‥」

(相変わらず、考えが斜め上なヤツだな)

(せっかく、久しぶりに弟と水入らずなんだろうが)

一度は断ったものの、サトコはこの世の終わりかと思うほどがっかりしている。

(‥どうせまた、変なこと考えてんだろ)

家族に会うのは面倒だとか重いだとか、サトコが考えそうなことは手に取るようにわかる。

(テメェの家族を、面倒だなんて思うわけねぇだろ)

(‥まあ、家族に会わせようと思うだけでも進歩か)

以前のこいつなら、俺に迷惑かもしれない、と口にすら出さなかっただろう。

(将来を考えてりゃ、避けて通れねぇ道だ)

(断って、行きたくねぇと勘違いされんのも面倒だな‥)

先に弟に確認を取れと言うと、途端に笑顔になったサトコは嬉しそうにうなずいた。

【加賀マンション リビング】

弟は、良くも悪くもサトコに似ていた。

翔真

「うちは裕福じゃないし、目的もないのに無理に大学へ行っても」

「両親の気持ちは嬉しいけど、俺は‥」

(小せぇことで悩んで、結局いつも、自分のことより他人の心配だ)

(騒がしいところは似てると思ったが‥こういうところまでそっくりだな)

弟の相談に乗っている間に、サトコはソファで寝落ちしてしまったらしい。

ひとりきり俺に悩みを打ち明けた後、弟がぽつりとこぼした。

翔真

「加賀さんは‥なんで姉ちゃんと付き合ってるんですか?」

加賀

あ?

翔真

「色気ないし、小うるさいし‥大食いだし」

「家では、すっげーダサい靴下履いてるし」

弟が、行く先々で俺たちのことを見ていたのは知っている。

きっと、姉が変な男にだまされているのではないかと心配しているのだろう。

(まあ‥この姉じゃ、仕方ねぇか)

(なんだかんだ言って懐いてる‥いい姉貴なんだろうな)

翔真

「加賀さんなら、もっといい人はたくさんいますよね?」

「こんな姉ちゃんじゃなくても、もっと美人で大人の‥」

加賀

それでも、こいつ以外いらねぇからだろ

ハッキリ言うと、弟が息を呑んだ。

加賀

こいつ以外は、いらねぇ

もう一度、ゆっくりと繰り返す。

翔真

「加賀さん‥」

加賀

お前もわかってんだろ。バカ正直で、正義感の塊で

悩まなくてもいいことで悩んで、他人のために損ばっかりしてる

翔真

「そうなんです‥それが心配で」

加賀

‥信じてくれるんだとよ

サトコに手を伸ばし、顔を覆っている髪を払ってやる。

翔真

「え?」

加賀

俺は、仕事しか能がねぇ男だ

気の利いた言葉ひとつも言ってやれねぇ‥それでも

(何があっても俺を信じると言って、本当に必死でついてくる)

(こいつは‥他の女とは違う)

今にも倒れ込みそうなサトコの肩を抱き寄せて横にしてやると、頭を自分の膝に乗せた。

加賀

お前が心配するのも、わかる

鉄砲玉みてぇな姉貴を持つと、大変だな

翔真

「‥ハハッ」

俺の答えを聞いた弟が、嬉しそうに笑い出した。

翔真

「加賀さんって、実は姉ちゃんのこと、めちゃくちゃ好きなんですね」

加賀

あ゛?

翔真

「姉ちゃん、人を見る目だけはあるんですよ」

「加賀さんになら‥姉ちゃんのこと、任せられます」

俺の脅しに怯む様子もなく、弟が頭を下げる。

翔真

「確かに、鉄砲玉ですけど‥これからも、よろしくお願いします」

加賀

‥ああ

(ただ騒がしいだけのガキかと思ったが‥)

(そこら辺の訓練生より、よっぽど見どころがあるじゃねぇか)

その夜は、ほとんど徹夜で弟の話し相手になった。

【教会内】

飯の後、サトコの希望で立ち寄った教会の祭壇の前でキスを交わす。

触れるだけでは足りず、舌を絡めてサトコの腰を抱き寄せた。

サトコ

「加賀さんっ‥神様の前ですよ‥!」

加賀

それがどうした

俺が俺のもんをどうにかするのに、誰かの許可がいるのか

サトコ

「それはっ‥」

(‥だからテメェは、いつまでたっても駄犬だって言ってんだ)

(テメェが誰のもんなのか、まだわからねぇらしいな)

自分のものにしたいと思った女など、今まで一人もいなかった。

相手が勝手に俺を自分のものだと勘違いし、そう言われるたびに面倒だから切り捨ててきた。

(だが‥今なら、あいつらの気持ちもわかる)

(他の奴なんざ、いらねぇ‥お前だけでいい)

昔の自分とは変わってしまったが、悪くないとも思える。

(もう、離れる想像ができねぇんだ、テメェとは)

(ずいぶん、腑抜けた野郎になっちまったもんだな)

もう一度、キスで口を塞ぐ。

サトコはもう、抵抗しなかった。

【加賀マンション 風呂】

その夜、ベッドの中でぐったりしていたサトコを連れて、風呂に入れてやった。

加賀

主人と風呂に入れるなんざ、近頃の犬は贅沢だな

サトコ

「知ってますか?最近はペットと一緒に入れる温泉があってですね」

「って‥また犬扱いするなんて、ひどいですよ」

湯船に浸かり、後ろからサトコを抱きしめる。

左手を取り、指に触れて細さを確認した。

(‥このくらいか)

(まあ、それまでこいつがこの体型をキープできてたら、の話だがな‥)

サトコ

「あ、あの‥加賀さん」

加賀

なんだ

サトコ

「すみません‥引っ掻いてしまって」

バツが悪そうに、サトコが俺に触れられている自分の指に視線を落とした。

加賀

なんの話だ

サトコ

「さっき‥その、加賀さんの背中にしがみついたとき」

「む、夢中で‥気づかなくて」

(‥ああ)

どうやら、俺の背中を引っ掻いてしまったのだと勘違いさせたらしい。

サトコの身体を抱き上げると、自分の上に乗せて向い合せに座らせた。

サトコ

「か、加賀さん‥?」

恥ずかしそうなサトコの言葉を、キスで遮る。

湯船の中で二の腕や腰に触れて、いつもの柔らかさを楽しんだ。

加賀

俺にしがみついてるテメェの姿は、悪くねぇ

サトコ

「!」

加賀

そのくらい、気持ちよかったってことだろ

サトコ

「それはっ‥そ、その‥」

違う、と言えない辺りが、バカ正直なサトコらしい。

さっきから指に触れられているのが不思議なのか、頬を火照らせながら上目遣いで見てきた。

サトコ

「‥もしかして、触り心地悪いですか?」

加賀

あ?

サトコ

「体重は変わってないんですけど‥指のお肉に関しては、自力ではどにもこうにも」

加賀

‥確かに、ここほどよくねぇな

二の腕から胸元を指でなぞると、サトコの身体が跳ねる。

サトコ

「やっ‥あの、今は、そっちじゃなくて‥!」

加賀

まあ、指は別にいい。むしろ、サイズは変えるな

サトコ

「はい‥?」

肌に触れられたせいか、サトコが目を潤ませる。

(‥無意識だから、手に負えねぇ)

(こいつ以外いらねぇ、か‥あんなこと、よく言ったもんだな)

弟に言った自分の言葉を思い出して、口の端が持ち上がる。

サトコの腰を自分の方へ抱き寄せ、そのままゆっくりと、サトコに口づけを落とした。

Happy  End

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