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マリアージュ 石神2話

【潜入訓練】

サトコ

「‥‥‥」

曲がり角から顔を出し、辺りの様子をうかがう。

(誰もいない‥)

ハンドサインで指示を出し、チームメイトである訓練生たちと一気に廊下を駆け抜けた。

(一度この辺りで、状況を確認して‥)

階段の下までやってくると、足を止める。

(人の気配はナシ‥情報通り、最上階に立てこもっているのかな)

階段を見上げながら、頭の中で状況を整理する。

男性訓練生A

「氷川、ここから先はどうする?」

サトコ

「このまま全員で攻め込むのもありだけど‥二手に分かれて、挟み撃ちにしよう」

男性訓練生B

「了解。それじゃ、チームを決めてくれ」

サトコ

「分かった」

同期たちに指示を仰がれ、戦力に偏りがないようにチームを決める。

サトコ

「テロリストがいるのは、この建物の最上階」

「それぞれ最上階を目指し、私の合図で一気に攻め込むよ!」

同期たち

「了解!」

私たちのチームは一度この場を離れ、非常階段から最上階を目指す。

この先にいるのは体術に長けたテロリスト集団であるため、一瞬たりとも気を抜くことはできない。

(私がリーダーなんだから、しっかりしなきゃ!)

【訓練前】

ジャージに着替えて外に出ると、教官たちが全員集まっていた。

(何をするんだろう?)

いつもと違う空気を纏った教官たちに、緊張感を持つ。

成田

「これから、実技試験を行う」

同期たち

「!」

成田教官の発言に、訓練生たちに動揺が走った。

颯馬

ルールは簡単です。訓練生同士で公安役とテロリスト役に分かれてもらいます

公安チームは、テロリストに人質にとられた人物の救出を目指してください

後藤

テロリスト側には、採点者として俺たち教官が数人混ざるからな

男性同期A

「教官がテロリスト側って‥」

男性同期B

「かなり戦略を練らないとダメだろうな」

東雲

今回の実技試験では、現場指揮力を身に着けて相手に合わせた戦略を実行すること

あとは潜入技術の向上だね

これはどんなに訓練しても、実戦で身につけるのが一番だし

加賀

一瞬でぶっ潰されねぇように、本気でかかってこい

同期たち

「はい!」

(激しい訓練になりそうだな‥)

教官たちの言葉に、身が引き締まる。

石神

今回のチームは、先日行われたテストの成績順で組んでもらう

まずは‥氷川サトコ

サトコ

「!」

石神

返事は?

サトコ

「は、はい!」

(私が1位‥?)

男性同期C

「氷川が1位って、マジかよ‥」

訓練生たちは顔を見合わせ、ざわつき始める。

石神

氷川は他の訓練生に比べ、かなりの高得点だった

首位の自覚を持って、この調子でチームをまとめるように

サトコ

「はい!」

(私がリーダーになるんだ‥)

石神さんから褒められ、やる気が増す。

そこからメンバーが発表され、それぞれの位置につくことに。

(テロリスト側には、教官たちもいる‥)

『体術に長けたテロリスト集団』という設定通り、教官たちも本気でかかってくるだろう。

(気合を入れなきゃ!)

【潜入訓練】

私たちは最上階近くにやってくると、インカムを使ってもう一方のチームと連絡を取る。

サトコ

「こちら、氷川。そっちの様子は‥」

男性同期C

『うわっ!』

サトコ

「どうしたの!?」

争うような声が聞こえ、しばらくして訓練生の声が届く。

男性同期C

『‥悪い。敵に見つかって、1人テロリストに捕獲された』

サトコ

「なっ‥!」

衝動的に動きそうになるも、ぐっと堪える。

<選択してください>

A: みんなからの意見を聞く

サトコ

「どうすればいいと思う?」

男性同期A

「捕まる奴が悪い。当初の目的を最優先にするべきだろ」

男性同期B

「でも、今回の目的は人質の救出だろ?そいつの一緒に救出するのはどうだ?」

訓練生たちの間でも、意見が分かれる。

私はそれぞれの意見に耳を傾けた。

男性同期A

「氷川、指揮官はお前だ。お前が決めてくれ」

サトコ

「‥分かった」

(それぞれの意見は、もっともだと思う)

(だけど‥)

みんなの意見を聞き、意志を固める。

サトコ

「このまま見捨てていくことはできない」

B: 当初の目的を最優先にする

(今回の目的は、人質の救出)

(テロリスト側に見つかっても、人質を救出すれば目的は達成されるんだ)

サトコ

「残念だけど、今回は‥」

そこまで言って、はたと気づく。

(本当に見捨てていいの?)

(彼は私たちの大事なチームメイトなのに‥)

公安の考えとしては、失格なのかもしれない。

(だけど、私は‥彼を見捨てることは出来ない!)

サトコ

「‥予定を変更するよ」

C: 助けに行く

サトコ

「見捨てることは出来ない。助けに行こう!」

男性同期A

「即断かよ」

男性同期B

「ま、氷川ならそう言うと思ったけどな」

訓練生たちは、私の言葉に肩をすくめる。

男性同期C

『いいのか?アイツが捕まったのは、俺たちのミスだ』

サトコ

「誰かのミスをカバーするのが、チームメイトでしょ?」

サトコ

「人質を救出後、数人で捕まった人を救出しよう」

私はそれぞれに指示を出し、タイミングを見計らう。

頭の中で、突入後のことを何度もシミュレーションした。

(落ち着いてやれば、大丈夫‥!)

サトコ

「3、2、1‥GO!」

私の合図で、訓練生たちはいっせいに最上階に突入した。

【学校 廊下】

サトコ

「はぁ‥」

数時間後、私は肩を落としながら、廊下を歩く。

(今日のこと、石神さんだったらどうするんだろう‥)

【訓練後】

成田

「実際の事件で、そんなぬるいことが許されると思っているのか!」

「そんなことをしたら、助けに行った奴も全滅だぞ!」

サトコ

「すみません‥」

人質救出後、捕まったチームメイトも助け出すことに成功する。

喜びの中ビルを出るも、待ち受けていたのは厳しい表情をした教官たちだった。

颯馬

今回ばかりは、難しいところですね‥

成田教官の怒声の中、他の教官たちもどう評価していいのか考えあぐねている。

(私が下した決断は間違っているとは思えない)

(だけど‥)

『本当にあれで正解だったのか?』そんな思いが、胸の内を渦巻いていた。

【学校 廊下】

(訓練生たちの間でも、賛同してくれる人とそうでない人に分かれてたっけ‥)

石神さんの意見が聞きたい、そんな思いで教官室のドアを叩いた。

【教官室】

サトコ

「失礼します」

加賀

‥‥‥

教官室に入ると、加賀教官にジロリと睨まれる。

教官室には、加賀教官以外誰もいなかった。

加賀

クソ眼鏡なら本庁だ

サトコ

「そうですか‥ありがとうございます」

少し肩を落としながら、教官室を出ようと踵を返す。

加賀

‥後悔してんのか

サトコ

「‥‥‥」

加賀教官の言葉に、ピタリと足を止めた。

(加賀教官は、今日の訓練のことを言ってるんだ‥)

振り返り、加賀教官の目を見ながら本音をぶつける。

サトコ

「まだ何が正解か分からなくて‥」

加賀

アレで人質殺してたら、許されねぇ

サトコ

「!」

(やっぱり、私は間違って‥)

加賀

だから‥殺されねぇように鍛錬しとけ

サトコ

「え?」

(それって‥私のやり方で良かったってこと‥?)

加賀教官の言葉が、胸に響く。

サトコ

「‥はい!ありがとうございます!」

【廊下】

(まさか、加賀教官にああ言ってもらえるなんて思わなかったな)

先ほどよりも軽い足取りで廊下を歩いていると‥

後藤

氷川

山積みの書類と本を抱えた後藤教官に、声をかけられた。

後藤

ちょうどアンタのこと探していたんだ

サトコ

「私ですか?」

後藤

ああ。これ、石神さんからの課題だそうだ

サトコ

「わわっ!」

後藤教官から、大量の書類と本を渡される。

後藤

それじゃ、あんまり遅くならないようにな

後藤教官が去り、私はその場に佇む。

(きっと、今日の訓練であんなことがあったからだよね)

(最初は褒めてもらえたのに、情けないな‥)

落ち込みそうになるも、頭を振り思考を切り替える。

(この課題は石神さんからの応援なんだ。落ち込んでる暇があるなら、頑張らなきゃ!)

そう自分に言い聞かせて、資料室に向かった。

【資料室】

サトコ

「終わった~!」

最後の課題を終える頃には、時計の針は遅い時間を指していた。

(これだけの課題を終えると、やりきった感があるな)

最後の課題である本を片付けようと、手に取る。

サトコ

「あれ?何か挟まってる‥」

最後のページと背表紙の間に、紙が挟まっていた。

(読んでいいのかな‥)

紙を開くと、そこには見慣れた文字が並んでいる。

『理不尽な叱責に惑わされるな。自分の信念を貫けるよう励め』

(石神さんからの手紙だ!)

(本庁に急に呼ばれて、忙しいはずなのに‥)

わざわざ課題とメッセージまで用意してくれたことに、胸が温かくなる。

(ふふっ、それにしてもこの書き方‥)

石神さんらしい言葉に、顔がほころぶ。

(私も石神さんに、日頃の感謝を伝えたいな)

サトコ

「‥よし!」

私は自分の想いを手紙に綴ると、石神さんの家へ向かった。

【石神マンション】

石神

こんな時間に、どうした?

家を訪ねると、お風呂上がりの石神さんが驚いた様子で出て来た。

サトコ

「これ、読みました」

手紙を差し出すと、石神さんはフッと笑みを浮かべる。

石神

‥入れ

サトコ

「はい!」

石神さんに促され、私は玄関を上がった。

【リビング】

(勢いのまま来ちゃったけど、大丈夫だったかな‥)

石神

‥‥‥

隣に座る石神さんを、チラリと見る。

手紙を渡したいと思うものの、なかなかタイミングが掴めないでいた。

サトコ

「あ‥」

ふと、水槽が目に入る。

ディスカスとチョコレートグラミーが気持ちよさそうに泳いでいた。

(いつかこの水槽にも、他の種類の魚が増えるのかな?)

あの時の想像と同じように、そんなことが脳裏を過る。

石神

チョコレートグラミーは、お前と一緒に買ったんだったな

サトコ

「はい。最初はディスカスを買うとばかり思ってたので、ビックリしました」

石神

そうか‥

石神さんは目を細め、水槽を眺める。

石神

将来は、魚も水槽も増やしたいと思っている

サトコ

「ふふっ、素敵ですね」

石神

‥その時は、一緒に育ててくれるか?

サトコ

「え‥?」

普段の石神さんからは考えられないくらい、優しい微笑みを向けられる。

(それって石神さんの描く未来に私もいる‥ってことでいいのかな?)

サトコ

「はい!」

石神

そうか‥

満面の笑みで返すと、石神さんは嬉しそうにポツリと漏らした。

(今なら、渡せる気がする‥)

石神さんへの想いが溢れ出し、私は隠し持っていた手紙を取り出す。

サトコ

「石神さん。私も日頃の感謝の気持ちを伝えたくて、手紙を書いてみました」

「いつもありがとうございます!」

石神

なんだそれは。父の日じゃあるまいし‥

手紙を受け取ると、石神さんは苦笑いしながらも大切そうに封を切る。

石神

‥‥‥

石神さんが手紙を読み始めると、沈黙が辺りを支配した。

目の前で手紙を読まれることに、緊張が走る。

サトコ

「‥石神さん!」

石神

‥どうした?

サトコ

「やっぱり恥ずかしいので、私がいない時に‥!」

手紙を取り上げようと、手を伸ばすと‥‥

石神

‥そうだな。今は目の前のお前が優先だ

気付いたら、石神さんの腕の中にいた。

顔を上げると、石神さんはいたずらな笑みを浮かべている。

<選択してください>

A: 明日はお仕事じゃないんですか?

サトコ

「明日はお仕事じゃないんですか?」

心臓の高鳴りを感じながら、そう口にする。

石神

明日は非番だ。お前も休みだろう?

サトコ

「はい‥」

そっと背中を撫でられ、更に鼓動が逸る。

(抱き合っているだけのに、こんなに幸せだなんて‥)

石神さんに出会えて本当に良かったと、心から思った。

B: 石神に身を任せる

私はそっと、石神さんに身を任せる。

(幸せだな‥)

そんな気持ちが胸を支配し、石神さんの胸に顔をすり寄せた。

石神

今日はやけに素直だな

サトコ

「ダメですか?」

石神

そんなわけないだろう

石神さんの唇が、額に落ちる。

石神

お前は甘えるくらいでちょうどいい

ポンポンッと背中を撫でられ、石神さんの声が降ってくる。

石神

明日は休みだろう?

サトコ

「はい。石神さんは‥」

石神

明日は非番だ

C: 自分からキスをする

(石神さん‥)

想いが募り、石神さんにキスしようと顔を近づけると‥‥

石神

サトコ

石神さんの指が、私の唇に当てられた。

(イヤ、だったのかな‥?)

不安になり、石神さんの瞳をじっと見つめる。

石神

‥こういうときは、男からするものだろ

サトコ

「ん‥」

石神さんの唇が、私の唇に重ねられた。

優しいキスに、心臓がドキドキする。

(石神さん‥)

心の中で名前を呼びながら、熱っぽい視線を向ける。

石神

明日は休みだろう?

私の唇をそっと撫で、甘い声音で囁く。

サトコ

「はい。石神さんは‥」

石神

明日は非番だ

石神

今夜は帰すつもりはないが‥そのつもりで来たのか?

サトコ

「‥!」

(断れないの分かってるはずなのに、そんな言い方するなんて‥)

いつもより意地悪な石神さんに、小さな反抗心が芽生える。

サトコ

「彼の家に来るって意味、分かってるつもりですから」

石神

お前ってヤツは‥

石神さんは口元に笑みを浮かべ、触れ合うキスをする。

石神

‥今日はもう大人しいんだな

サトコ

「まだドキドキしますよ。出会ってからこんなに経つ今でも」

石神

奇遇だな。俺もだ

私たちは微笑み合い、どちらからとおなくキスをする。

慈しむように優しくて‥時には激しさをみせるキスに、翻弄される。

サトコ

「っ‥」

唇を合わせたまま、私たちはソファに倒れ込んだ。

強引に見えて、ゆっくりソファに下してくれる手が優しい。

愛しい人の温もりを感じながら、出会ってからのことが脳裏を過る。

(石神さんと出会って、これまでいろいろなことがあったな)

出会った当初は、石神さんとこんな関係になるなんて思いもしなかった。

(もっと石神さんのこと、知りたい。石神さんのこと、感じたい‥)

そんな想いが伝わったのか、私を抱く腕に力が込められる。

私は愛しい人の温もりに包まれながら、石神さんとの未来に思いを馳せた。

Happy  End

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