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マリアージュ 石神カレ目線

【教官室】

石神

ん?

(これは‥)

机の上に、来週行われる抜き打ち実技試験のチーム分け表が置かれていた。

(サトコが1位か‥)

先日行われた小テストは、サトコが群を抜いてのトップ。

後藤

氷川、よくやってますね

石神

ああ。すぐに音を上げると思っていたが‥あいつの根性は底知れないな

ふと、サトコと出会った当時のことを思い返す。

(最初こそ裏口入学で、能力に置いてはどの訓練生にも劣っていたが‥)

サトコは常に前向きで、努力を怠らなかった。

(その結果が、これか‥)

あの時から考えられないほど、サトコの成長は著しい。

(このまま努力を続ければ、あいつはまだまだ伸びるだろう)

サトコの可能性を感じ、口元が緩んだ。

黒澤

わっ!石神さんがそんな穏やかな表情をするなんて‥頭でもぶつけましたか?

石神

いつの間にいたのか、黒澤がしげしげと俺を見ている。

(‥しまった。つい顔に出てしまったか)

石神

何の用だ?

いつもの表情に戻し、黒澤に問いかける。

黒澤

はい、これ!頼まれていた資料です

石神

ああ

資料を受け取り、中に目を通す。

黒澤

‥石神さん、何かいいことでもあったんですかね?

後藤

さあな

黒澤はコソコソと、後藤に話しかける。

黒澤

あのサイボーグと言われている石神さんが、あんな穏やかな表情をするんですよ?

きっと、サトコさん辺りが‥

石神

黒澤

黒澤

さーて!お使いも終わったことですし、オレはこれで失礼しますね★

笑顔で去っていく黒澤に、ため息をつく。

(あいつのこととなると、どうにも表情が緩んでしまうな)

サトコと付き合い始めて、それなりの月日が流れるが、

『教官と補佐官』という俺たちの立場は変わっていない。

(俺にはあいつが無事に卒業するまで、見守る義務がある)

(気を引き締めなくてはな‥)

一週間後。

(捕まった奴を無視していれば、完璧な評価が得られたものを‥)

抜き打ちの実技試験は無事に終わったものの、サトコの行動が物議を醸した。

テロリストに捕まった仲間を助けるか否か、訓練生たちの間でも意見は二分している。

(出世コースを望むエリート訓練生なら、迷わずに仲間を見捨てたはずだ)

(実際の現場でも、見捨てる選択をする者も多いだろう)

しかしサトコは見捨てるという選択をせず、目的を達成した上で仲間を助け出した。

(あいつには、それだけ曲げられない正義があったんだろう)

(だからこそ、見捨てるという選択が出来なかったんだ)

サトコには、刑事として最も大事な根幹が備わっている。

(始めこそ、裏口入学だったが‥)

それを覆すほどの刑事としての素質、

そして気持ちだけではなく努力してここまでの技術を手に入れたのだ。

(かなり難易度の高い任務だっただろう)

(それを成功させるくらい、入学してから実力をつけたんだな)

教官としても彼氏としても、サトコをとても誇らしく感じる。

(出来ることなら、直接今回のことを指導してやりたいが‥)

あいにく、本庁から呼び出しを受けていた。

(それなら‥)

俺は急いでサトコ宛てにメッセージを書き、資料に挟む。

石神

後藤、ちょっと頼みがある

後藤

なんですか?

後藤にサトコへの課題を託し、教官室を後にした。

【石神マンション 寝室】

サトコ

「石神さん‥」

甘い時間を過ごした後、まどろみながらサトコとベッドの中で語り合う。

サトコ

「私、前に妄そ‥いや、夢の中で石神さんから手紙をもらったことがあるんです」

「それを読む前に目が覚めちゃったから、何が書かれているのかは分からなかったんですが‥」

「実際に石神さんから手紙を貰えて、すごく嬉しかったです」

石神

そうか‥

そっと頬を撫でると、サトコは嬉しそうにはにかんだ。

そんなサトコを見ていて、ふと疑問が過る。

石神

俺は何で、サトコに手紙を渡したんだろうな

サトコ

「それは、その‥」

「1回目の結婚記念日では、紙製品をあげるらしくて‥」

(結婚‥?)

恥ずかしそうに布団で顔を隠すサトコに、悪戯心が芽生える。

石神

結婚の夢を見るとは‥気が早いな

サトコ

「!」

サトコは目を丸くし、見る見るうちに顔が赤く染まっていく。

サトコ

「そ、そうですよね‥」

視線を泳がせ、しどろもどろになるサトコに笑みがこぼれた。

石神

‥冗談だ

サトコの頭を撫で、優しく語りかける。

石神

卒業して、お前が刑事として落ち着いたら‥

サトコ

「‥‥‥」

ふと、沈黙するサトコに違和感を覚える。

石神

サトコ?

サトコ

「すー‥‥」

顔を覗き込むと、サトコは瞼を閉じて寝息を立てていた。

(お前ってやつは‥)

呆れたようにため息をつくも、そんなサトコさえ愛おしい。

頬を撫でると、サトコはくすぐったそうに身をよじった。

石神

お前は‥俺との結婚生活を思い描いてくれているんだな

俺には温かい家庭の記憶がない。

だからこそ、サトコの気持ちは何よりも嬉しかった。

(サトコとなら、こんな俺でも温かい家庭を作れるのかもしれないな)

サトコと出会う前の俺なら、そんな想像をする時間すら無駄だと思っていただろう。

石神

人は変わるものだな

くすりと笑みをこぼし、サトコの髪にそっとキスを落とす。

石神

おやすみ、サトコ

呟くように言って、瞼を閉じる。

(俺たちが結婚したら、どうなるんだろうな)

サトコとの未来を思い描きながら、幸せな眠りについた。

石神

ん‥‥‥

目を覚ますと、気持ちよさそうに寝息を立てているサトコの顔が目に入った。

石神

よく眠っているな

瞼にキスをし、サトコを起こさないように静かに起き上る。

(そういえば‥サトコからもらった手紙、まだ読んでいなかったか)

ベッドに腰を掛け、手紙に視線を落とす。

『石神さんの言葉に救われました。ありがとうございます』

『焦らずに悩みながら石神さんの背中に追いつけるよう頑張るので』

『たまに振り向いて見守っていて下さい』

石神

‥サトコにとって、俺はかなり前を歩いているのか

サトコが2年に上がってすぐのことを思い返す。

(あの時サトコは、俺の補佐官から外された)

(だが‥サトコはそれでもめげずに、俺の背中を追いかけてきてくれたな)

あの時サトコがいてくれたからこそ、事件を解決へと導けた。

(俺がどれだけサトコに支えられているか、こいつは知らないんだろう)

(サトコにとって俺が憧れで、追いつきたい存在だと思ってくれているなら‥)

その存在であり続けられるように、努力しよう。

(だが‥たとえ刑事としては前を走っていたとしても)

(俺自身は、ずっとお前の隣にいるから)

サトコ

「ん‥」

気持ちが伝わったのか、サトコは小さく身じろぎをして、ゆっくり瞼を開く。

眠たそうに目を擦るサトコに、優しく声をかける。

石神

おはよう

サトコ

「おはようございます‥あっ!」

サトコは俺の手元を見て、小さく声を上げた。

サトコ

「読みましたか?」

石神

ああ

サトコ

「そ、そうですか‥」

サトコは昨日と同じように、布団で顔を隠す。

そんなサトコがいじらしくて、思わずベッドに戻って彼女を抱きしめた。

石神

手紙、ありがとな

サトコ

「い、いえ‥」

石神

お前は手紙を貰えて嬉しいと言っていたが‥確かにそうだな

こうしてお前の気持ちを知ることができて、俺も嬉しい

サトコ

「‥‥‥」

言葉を重ねるごとに、サトコの顔は赤くなっていく。

(可愛いな‥)

石神

サトコ‥

サトコ

「ん‥」

サトコへの想いが募り、覆いかぶさるようにキスをする。

唇を離すと、サトコは更に顔を真っ赤にしていた。

石神

フッ‥

サトコ

「わ、笑わないでください‥」

消え入りそうな顔に、笑みを漏らす。

石神

お前が可愛すぎるのがいけないんだ

サトコ

「!」

サトコの指に自身の指を絡めると、ギュッと力が込められる。

サトコ

「石神さん、ズルいです‥」

石神

そうか?

(本当にズルいのはどっちだろうな?)

そう伝えるように、もう一度唇にキスを贈った。

Happy   End

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