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マリアージュ 難波1話

【飛行機】(妄想)

シンガポールへ向けて飛び立った飛行機は、順調に飛行を続けていた。

(嬉しいな、仁さんと海外!しかもそれがハネムーンだなんて‥)

左手の薬指にはお揃いの指輪。

嬉しくて、さっきから何度も何度も眺めてしまう。

そんな私を微笑んで見つめながら、仁さんは機内サービスの赤ワインを飲み干した。

難波

さっきから海の上ばっかり飛んでんな

あと何時間くらいかかるんだ?

サトコ

「5時間くらいですかね」

難波

5時間か‥結構なげぇな

サトコ

「シンガポールってアジアにしてはかかりますよね」

「でも少しくらい遠いなってくらいの方が、ハネムーンとしては‥」

難波

‥‥‥

寝息が聞こえた気がしてふと見ると、仁さんは既に眠りについていた。

サトコ

「今さっきまで起きてたのに‥」

(仁さんって、どこでもすぐに寝られるんだな‥)

座席の脇でグチャグチャになっていたブランケットを広げ、仁さんの身体にかけてあげる。

起こさないようにそっと座り直すと、仁さんが私の肩にもたれかかってきた。

サトコ

「!?」

難波

‥‥‥

すぐ耳元で聞こえる仁さんの寝息。

仁さんは安心しきったような表情で、無防備に私に身体を預けている。

(こんな風にされると、ドキドキしちゃうな‥)

恋人同士の時には、いつも仁さんに守られていると感じていた。

でも結婚した今は、私も仁さんを支えているのだと実感できる。

それが、恋人から夫婦へとステップアップした証なのかもしれなかった。

(いつも疲れてるんだから、せめて移動の間くらい休ませてあげよう)

(とはいっても、ずっとこの体勢を保つのは意外と大変だったりして‥)

仁さんを起こさないように気を付けながら身をよじっていると、隣に座った男の子と目が合った。

思わず笑いかけるが、男の子はじっと私を見つめたまま動かない。

(‥なんだろう?)

あいまいに笑いながら目を逸らそうとした時、男の子が聞いてきた。

男の子

「お姉ちゃんとおじちゃん、付き合ってるの?」

<選択してください>

A: そうだけど?

サトコ

「そ、そうだけど‥?」

慌てて言ってしまってから、ふと思い直した。

サトコ

「いや、やっぱり違うか‥」

(私たち、もう結婚したんだもんね)

男の子

「ふーん、違うんだ」

サトコ

「いや、そ、そういうことじゃなくて‥」

でも男の子は、それ以上興味なさそうにさっさと背を向けてしまった。

B: 違うよ

サトコ

「ち、違うよ‥!」

男の子

「ふーん、違うんだ」

『結婚してるんだよ』と言おうとしたのに、男の子はその前にさっさと会話を終わらせてしまった。

サトコ

「ちょっと、キミ‥最後まで聞いてよ‥」

C: なんで?

サトコ

「な、なんで?」

突然の切り込みに、大人げなくうろたえた。

そんな私の様子を見て、男の子は勝手に納得して背を向ける。

男の子

「ふーん、違うんだ」

サトコ

「ち、違くないけど‥やっぱり違うか‥」

(私たち、結婚したんだもんね。でも‥)

(結婚してるって人に言うの、まだまだ気恥ずかしいな‥)

嬉しい戸惑いを抱えつつ、2人の関係の変化を噛み締めた。

ドスン‥!

軽い衝撃音がして、飛行機はシンガポールの空港に舞い降りた。

(着いた‥!)

サトコ

「仁さん、起きてください」

「着きましたよ。シンガポールですよ!」

何度も揺り動かすと、ようやく仁さんは目を開けた。

難波

‥ん、なんだ?

機内食の時間か?

サトコ

「違いますよ。空港に到着です」

難波

!?

仁さんは驚いたように窓の外を見て、それから腕時計で時間を確認した。

難波

おお‥なんだ、あっという間だな、シンガポール

近い、近い

サトコ

「寝る前までは遠いって文句言ってましたけどね」

ちょっと意地悪して言うと、仁さんはきまり悪そうにアゴを撫でた。

難波

‥悪かったな、寝ちゃって

寂しかったか?

サトコ

「‥ちょっと」

難波

そうか、そうか

仁さんは満更でもなく嬉しそうに笑いながら、私の頭をガシガシ撫でる。

難波

でもな、こっからが本番だ

【ホテル】

空港からは、まっすぐホテルに向かった。

案内されたのは、きらびやかな夜景が窓一面に広がる上層階の部屋だ。

サトコ

「わぁ、キレイ!」

部屋に入るなり、電気もつけずに窓際に駆け寄った。

サトコ

「私、このホテルにずっと泊まってみたかったんです」

「それが、こんな形で叶うなんて‥!」

興奮収まらぬ私を、仁さんは後ろからギュッと抱きしめる。

サトコ

「!」

難波

そんなに喜んでもらえて、俺も嬉しいよ

首筋にキスを落とされ、はしゃいでいた気持ちがスッと影を潜めた。

その代わり、甘い夜の訪れへの予感に期待が高まっていく‥

(こんな夜景に包まれて‥今夜は今まで以上にステキな夜になりそう‥)

そっと目を瞑る。

その瞬間、私を抱きしめていた仁さんの腕が解けた。

サトコ

「!?」

難波

もう少しお前とこうしていたいところだが、残念ながら時間だ

サトコ

「じ、時間‥?」

難波

ちょっと行きたいところがあってな

【カジノ】

難波

やっぱり本場は違うな~

仁さんに連れて来られたのは、ホテルにあるカジノだった。

難波

海外と言えば、カジノだろ

カードにスロットにルーレットに‥‥

仁さんはあれこれ見回しながら嬉しそうに目を輝かせている。

(こんな子どもみたいな仁さん、初めて見たな‥)

微笑ましく見ていると、仁さんが聞いてきた。

難波

サトコは何がしたい?

サトコ

「え、私ですか‥!?」

<選択してください>

A: なんでもいいです

サトコ

「なんでもいいです」

難波

ん?なんでもいいはダメなんじゃなかったか?

サトコ

「あ‥」

痛いところをつかれて、私は慌てて言い直した。

サトコ

「今の『なんでもいい』は、仁さんがすごく楽しそうだから」

「その顔が見られるならなんでもいいって意味で‥」

難波

分かった、分かった。かわいいなぁ、お前は

そんなこと言われたら、今日は大当たりしちまうかもしれねぇぞ

B: もっと楽しそうな仁さんを見ていたいです

サトコ

「私は‥もっと楽しそうな仁さんを見ていたいです」

難波

!?

サトコ

「だって仁さん、すごく楽しそうだから。見ているだけで、こっちまで楽しくなっちゃいます」

難波

そ、そうか‥?

仁さんは照れくさそうに言って表情を緩めた。

難波

そんなこと言われたら、まずはスロットからいっちゃうかな

C: スロット

(よくわからないから、一番簡単そうなやつを‥)

サトコ

「じゃあ、スロットがいいです」

難波

お、なかなか分かってるな

それじゃ、まずはスロットで運試しといこう

スロットの前に立つと、仁さんはコインを投入して私の手を掴んだ。

難波

これが、俺たちの最初の共同作業だ

サトコ

「‥はい」

2人で手を重ねて、スロットのボタンを押す。

勢いよく回り始めたスロットが、ひとつ、ふたつ‥と揃い始めた。

サトコ

「もうひとつ、頑張れ!」

難波

来い!さくらんぼ!

カチン!

最後のひとつが止まった瞬間、派手な音楽と共に大量のコインが吐き出されてきた。

難波

おお、当たったか~

サトコ

「すごい!すごいですよ、仁さん!」

喜びのあまり、仁さんに抱きついた。

(いきなり当たるなんて、私たちは行先き良好ってことかな!?)

難波

まあ、落ち着け、サトコ

ビギナーズラックって言葉を知ってるか?

仁さんは冷静に言うと、私の身体を離し、再び真剣な顔でスロットに向かう。

難波

ここからが本当の勝負だ

仁さんのその言葉の通り、最初に吐き出されたコインはあっという間になくなっていった。

難波

もうちょっと、コインに換えてくる

サトコ

「じゃあ、ここで待ってますね」

(仁さん、すっかり夢中みたい‥)

いつもは見られない仁さんの姿が新鮮で、

喜んだり、落ち込んだり、その表情のひとつひとつを思い出すだけで微笑ましい。

(やっぱり、ハネムーンっていいなぁ‥)

外人男性

「ヘイ!」

サトコ

「!?」

突然肩を叩かれて振り向くと、西洋人らしき男性が、笑顔で立っていた。

外人男性

「(お姉ちゃん、1人かい?一杯奢るから、あっちで一緒にカードでもしない?)」

(えっと‥もしかして誘われてる?)

サトコ

「そ、ソーリー。アイキャンスピークイングリッシュ」

外人男性

「Oh!Good、Good」

サトコ

「だから、全然グッドじゃなくて‥」

(って、あれ?今のだと私、英語がしゃべれるて言ったのかも‥?)

(どうしよう‥いきなり間違えた‥)

サトコ

「ノーノー、逆です、逆!」

外人男性

「ギャク、What?」

サトコ

「あー、えーと‥逆イズ反対?」

外人男性

「?‥OK、Come on」

サトコ

「え?え?」

訳のわからぬ間に男性に肩を抱かれ、連れて行かれそうになる。

サトコ

「ちょっと待って‥」

???

「Wait!」

鋭い声が聞こえて、外人男性は怪訝に立ち止まった。

(仁さん‥!)

外人男性

「(何だよ、お前)」

難波

(そいつは俺の女だ。手ぇ放してくれるか?)

外人男性

「(チェッ、男連れかよ)」

外人男性は何か文句を言っているようだったが、仁さんは構わず私を男から引き離して抱き寄せる。

外人男性は、諦めたようにどこかに行ってしまった。

サトコ

「ありがとうございました」

難波

肩抱かれただけか?他に何かされなかったか?

サトコ

「大丈夫です」

難波

怖い思いさせたな。もう俺から離れんなよ

仁さんは微笑んで私の頭に手を置くと、

今度はしっかりと私の手を握ったままスロットの前に座った。

(仁さんって、英語もペラペラなんだ‥)

(最後の方とか現地のなまりが強くて私は全然聞き取れなかったのに、普通に話してたし)

(外国人相手にもあんな毅然として、かっこいいな‥)

【プール】

カジノで存分に楽しんだ後は、このホテルの名物・天空プールにやってきた。

サトコ

「すごい‥空に浮かんでるみたいですね!」

難波

ああ、さっきは、あのまま昇天しちまうかと思ったけどな

サトコ

「す、すみません‥」

あの後、ルーレットでは私の読みがとことん外れ、大負けを喫してしまった。

その損失を取り返すべく、仁さんがカードで頑張ってくれたのだ。

難波

結局、プラスマイナスゼロになってよかったよ

サトコ

「仁さんの勝負強さには驚かされました」

難波

俺って昔からああいう変なところで運を使っちまうんだよなー

サトコ

「でもその運のお陰で、穏やかな気持ちでプールに来られましたよ?」

(本当に良かった‥あのまま大負けしてたら)

(せっかくのハネムーンがどんより旅行になっちゃうところだったよね)

サトコ

「本当に気持ちいいな~」

プールに浮かんで見下ろす街は、色とりどりのネオンに彩られて宝石箱のようだ。

サトコ

「こんなの初めて‥」

難波

お前が喜んでくれて、なによりだよ

サトコ

「あ!あんなところにハンモックが!」

仁さんの肩越しにプールサイドに吊るされたハンモックが見えて、私はプールを飛び出した。

サトコ

「あれ、やってみたかったんです!」

(さっきは仁さんが子どもみたいだったけど、今度は私が子どもみたいだな)

内心でおかしく思いながら、ダイブするようにハンモックに飛び乗った。

難波

おいおい‥大はしゃぎだな

笑いながら、仁さんも同じハンモックに身を沈めた。

2人の身体が密着し、プールで冷えた身体に互いの熱がしみ込んでいく。

心なしか、仁さんの吐息も熱くなった。

難波

この状況で我慢しろってのも酷な話だな

サトコ

「!」

このまま何かが始まってしまいそうで、私は思わず身体を固くした。

難波

安心しろ。さすがに俺も、こんなとこじゃ何もしねぇよ

でもこのままって訳にもいかねぇから、続きは部屋に戻ってからだ

仁さんに耳元で囁かれ、身体の芯が熱を帯びる。

(キス‥してほしいな‥)

仁さんに肩を抱かれて夜景を見ながら、そう思ったその時‥

気持ちが伝わったかのように仁さんが起き上がった。

難波

そろそろ部屋に戻るか‥

【ホテル】

部屋に戻るなり、息が止まるほどに抱きしめられた。

難波

やっと思う存分、サトコとこうできる

サトコ

「仁さん‥」

想いを吐き出すように言いながら、仁さんはそっと私をベッドへと誘った。

ベッドが一歩近づくごとに、高まっていく胸の鼓動。

私は、頭が真っ白になりそうになりながら、仁さんに導かれるままに歩を進める。

難波

せっかくのハネムーン、楽しもうな

サトコ

「‥‥‥」

静かに頷いた私に、仁さんが唇を近づけた。

2人の唇が重なり合おうとした、その時‥‥‥

【学校 カフェテラス】

鳴子

「ちょっと、サトコ‥サトコってば!」

サトコ

「へ?」

ふと我に返ると、鳴子があきれ顔で私を見つめていた。

鳴子

「いくらなんでも妄想し過ぎでしょ」

サトコ

「あ‥ごめん、ごめん」

(もう少しでキスしてもらえそうだったのにな‥)

妄想とわかりつつも、室長のキスがお預けになったのが残念で、私は思わずため息をついた。

(実際はまだ名前ですら呼べてないのに気が早いんだけど‥)

(それにしても室長とのハネムーン、最高だったな~)

想いはまたすぐに、シンガポールに戻っていってしまう。

鳴子

「サトコ?戻っておいでー」

ぼんやりとした視界の中で、鳴子がしきりと手を振っている。

その顔が、不意に室長のものに入れ替わった。

難波

なんだ、こいつ、どうかしちまったのか?

サトコ

「し、室長!?」

to  be  continued

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