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マリアージュ 難波2話

【難波マンション リビング】

難波

そんなことを妄想していたとはな‥

その夜。

学校を終えて室長の部屋を訪ねた私は、昼間にしていたハネムーンの妄想について打ち明けた。

難波

それであんなに慌ててたのか

サトコ

「まさかあのタイミングで室長が現れると思わなかったので‥」

難波

でもシンガポール‥いいなぁ

室長は苦笑しながらも、満更でもなさそうに言う。

難波

たしかにカジノは行ってみてぇし、そこそこ勝てる自信もある

ハネムーンは本当にそこでもいいかもな

サトコ

「え‥?」

思わず問い返す目を向けるが、

室長の想いは既にシンガポールに飛んで行ってしまっているようだ。

難波

飯も美味そうだし、世界三大がっかりスポットのなんとかライオンも一度は見ときたいよな‥

(室長、本当にハネムーンなんて考えてくれてるのかな‥?)

(ハネムーンをするってことは‥)

『結婚』の2文字がチラつき、胸がドキドキし始めた。

難波

でも、公安刑事がそんな長期休暇取れる訳もねぇか‥はははっ

サトコ

「ですよね‥」

一応頷いてはみたものの、少し期待してしまった後だけに、落胆も大きかった。

思わず出てしまいそうになったため息を、必死に飲み込む。

(やっぱり無理だよね‥公安刑事がのんきに海外でハネムーンなんて‥)

(せっかく室長が結婚を匂わすようなことを言ってくれたと思ったのにな)

(でも‥付き合い始めたばっかりだし、結婚なんてまだまだ先の話だよね)

【学校 廊下】

数日後。

久しぶりに廊下で室長とすれ違った。

でも室長は、スマホに夢中でちっとも私に気付く様子がない。

(スマホなんて難しすぎて使いこなせないって、ぼやいてたけど)

(最近はそうでもなくなったのかな?)

サトコ

「室長、お疲れ様です」

難波

おお、サトコ。いいところで会ったな

サトコ

「さては‥またスマホの使い方で困ってるんですね?貸してください」

手を伸ばすと、室長は少し慌てたようにスマホをポケットにしまってしまった。

難波

いや、そうじゃないんだ

サトコ

「?」

難波

今度の休日、何か予定あるか?

<選択してください>

A: 別にありません

サトコ

「別にありませんけど‥?」

(なんかのおつかいとかかな?)

難波

じゃあ、空けといてくれ

一緒に行きたいところがあるんだ

サトコ

「は、はい‥!」

(それって、デートってことだよね?)

B: また潜入ですか?

サトコ

「もしかして、また潜入ですか?」

室長がこんな風に言う時は、だいたい潜入捜査と相場が決まっている。

難波

違う違う。一緒に行きたいところがあるんだ

サトコ

「え‥」

(それって、デートってこと?)

難波

予定がないなら、空けといてくれ

サトコ

「はい!」

C: 何かあった気が‥

サトコ

「確か‥何かあった気が‥」

とっさにそう言うと、室長は明らかに落胆した様子を見せた。

難波

そうか‥

一緒に行きたいところがあったんだが‥

(もしかして、デートのお誘いだった!?)

サトコ

「あ、空けます!そんなに大した用事じゃないし、そっちを他の日に動かします」

難波

‥いいのか?

サトコ

「もちろんです!」

(室長からデートに誘ってくれるなんて‥!)

ここが学校じゃなければ、飛び上って喜んでいるところだ。

(一体どこに連れて行ってくれるんだろう?楽しみだな)

【ショッピングモール】

あれから一週間

ついに待ちに待った休日がやってきた。

室長が連れて来てくれたのは、南国リゾートな雰囲気漂うショッピングモールだった。

(へぇ‥こんな所があったんだ)

サトコ

「なんだか、日本じゃないみたいですね?」

私の言葉に、室長は嬉しそうに頷く。

難波

だろ?

せめて気分だけでもと思ってな

サトコ

「え?気分だけでもって‥?」

不思議に思って室長を見ると、室長は照れくさそうに視線を外した。

難波

この間、公安刑事はハネムーンなんて行けないって言った時、お前、かなり落ち込んでたろ

サトコ

「!」

(室長、気付いてたんだ‥それでこんな所に‥?)

室長がちゃんと私の気持ちを察してくれたことが嬉しくて、胸が熱くなった。

サトコ

「すみません。自分では気づかれてないつもりだったんですけど‥」

難波

俺も一応刑事だからな

目の前の人が喜んでるかがっかりしてるかくらいは分かるよ

それにお前は、ことのほか分かりやすい顔してるしな

サトコ

「う゛‥」

返す言葉もなく黙り込んでいると、室長は笑いながら私の頭に手を置いた。

難波

まあ、いいじゃねぇか。そのおかげで今日はここに来られたんだし

サトコ

「それもそうですね!」

室長に励まされ、気を取り直して周囲を見回した。

サトコ

「それにしても、よくこんな所を知ってましたね?」

難波

実は、俺も全然知らなかったんだが‥

黒澤に教えてもらったり、まぁ色々だ

(そういえば‥)

このデートに誘ってくれた時も、室長は一生懸命スマホを見ながら歩いていた。

(室長が歩きスマホなんて珍しいなと思ってたけど)

(もしかしたらあの時も色々情報を集めてたのかも‥)

(忙しいのに、頑張ってくれてたんだ)

サトコ

「ありがとうございます。なんか、嬉しいです‥」

難波

じゃあ、さっそく行くか

室長は微笑んで私を見つめると、手を取って歩き出した。

リゾート風の雑貨屋さんを覗いたり、サマードレスを試着したり、

揚げたてのマサラダを頬張ったり‥

私たちはショッピングモールを歩き回りながら、愉しい時間を過ごした。

難波

結構歩いたな

サトコ

「これでもまだ、全体の半分くらいみたいですよ?」

フロアガイドマップには、まだまだ見ていないお店がたくさん載っている。

難波

え‥これでもまだ半分か?

サトコ

「すごく広い世界観もあるし、ショッピングモールというよりテーマパークみたいですね」

難波

確かに、こんなんでも結構楽しめるもんだな

こりゃ、今ドキ女子に人気なわけだ‥

サトコ

「今ドキ女子!?」

驚いて聞き返すと、室長はちょっと恥ずかしそうに笑った。

難波

まあ、何となくな‥

サトコ

「ふふふっ、あんまり室長っぽくないですね」

(なんだか、どこかの雑誌の見出しみたい)

難波

まあ、いいじゃねぇか。その話は

そんなことより、そろそろ疲れたんじゃねぇか?

サトコ

「そうですね‥」

(そう言われてみれば、さっきからずっと歩きっぱなしだ)

(これじゃさすがに、室長も疲れたよね)

サトコ

「どこかで少し休みましょうか」

ぐるりと周囲を見回すと、

すぐ近くにはハンモックカフェと人気のパンケーキ店とマッサージ店があった。

難波

サトコはどこがいい?

<選択してください>

A: ハンモックカフェ

ハネムーンの妄想が蘇って、私は即答した。

サトコ

「ハンモックカフェがいいです!」

難波

へえ、ハンモックか~

これまたおもしろそうだな

B: パンケーキ店

サトコ

「うーん、そうですね‥」

(少しお腹もすいたし‥)

サトコ

「パンケーキはどうですか?」

難波

パンケーキってホットケーキとは違うのか?

サトコ

「違いますよ。パンケーキはホットケーキみたいに膨らまないんです」

難波

膨らまないホットケーキか‥

首をかしげる室長に、私は慌てて付け足す。

サトコ

「でも、ホットケーキと似たようなものですよ!」

難波

そうか‥よくわからんが、行ってみよう

でも店の前に行ってみると、裏にものすごい行列ができていた。

難波

これはすげぇな‥

サトコ

「さすがに混み過ぎですね。ハンモックカフェにしましょうか」

難波

そうだな

C: マッサージ店

サトコ

「うーん、そうですね‥」

(タヒチアンマッサージか‥あれなら室長もくつろげていいかも‥)

サトコ

「マッサージしてもらうっていうのはどうですか?」

難波

悪くない提案だが、ここのマッサージ師は若いお姉ちゃんみたくないか?

店を覗くと、確かに若い女性のエステティシャンの姿ばかりが見える。

サトコ

「そうですね‥」

難波

マッサージ師があんまり若いと、ちょっとドキドキしちまうな

俺、おっさんだし

(私もこんな若い女性に室長の身体触られるのはちょっと嫌かも‥)

サトコ

「やっぱり、ハンモックカフェにしましょう!」

難波

そうするか

【ハンモックカフェ】

隣り合ったハンモックに揺られながら、のんびりとした時間を過ごす。

サトコ

「実は私、この間話した妄想の中でも、こうして室長とハンモックで寛いだんです」

難波

おお、そうか

(あの時は、2人でひとつのハンモックで密着して‥)

(『このままって訳にはいかないから続きは部屋で』なんて言われてドキドキしてたけど)

我ながらスゴイ妄想をしたものだと、思わず笑ってしまう。

室長はその笑みを、私の喜びの現れと取ったようだった。

難波

よかったな、願いが叶って

サトコ

「‥そうですね」

難波

あ‥でも、そもそもハネムーンに行けてねぇか

まあ、その前に結婚しないとハネムーンには行けねぇな

サトコ

「!」

室長は1人でブツブツ言って笑っている。

でも私は、室長の口から『結婚』の2文字が出たことが、ただそれだけで嬉しかった。

(こんな風に言うってことは、多少は意識してくれてるってことだよね?)

(そうしたら、ハネムーンもただの妄想じゃなくなるのかな)

ワクワクしながら考えていると、隣から気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。

サトコ

「!?」

見ると、あっという間に室長は眠りに落ちてしまっている。

難波

‥‥‥

サトコ

「え‥さっきまで起きてたのに?」

(やっぱりすぐに寝ちゃうんだ。妄想でも、現実でも‥)

安心しきったように眠る室長の寝顔を見つめながら、

私は穏やかな幸せに包まれていくのを感じていた。

【ホテル】

夜は、ショッピングモールに併設されたホテルに予約が取ってあった。

ショッピングモールの雰囲気に合わせて、ホテルももちろんリゾート風だ。

サトコ

「ステキなホテルですね。本当に外国に来たみたい!」

難波

そう思ってもらえたなら大成功だな

おっさんが恥ずかしいけど、『今ドキ女子に人気のホテル』とかいう本を買って調べたんだぞ

サトコ

「そ、そうなんですか!?」

(それでさっきも『今ドキ女子』なんて、らしくないこと言ってたんだ‥)

室長が恥ずかしそうに表紙を裏返して本を買っている光景を思い浮かべたら、

可笑しくなってしまった。

(でもこんな風にいろいろ調べてデートプランを立ててくれてるなんて思わなかったから、嬉しいな)

難波

シンガポールほどじゃないかもしれねぇが、一応、部屋は最上階だそうだ

サトコ

「‥楽しみですね」

【部屋】

部屋のドアを開けた瞬間、目の前の大きな窓にまばゆいばかりの夜景が広がった。

サトコ

「わぁ、キレイ‥!」

難波

どうだ?日本の夜景も捨てたもんじゃないだろ?

窓辺に立つ私を、室長は後ろから抱きしめる。

サトコ

「ステキです。すごく‥」

難波

シンガポールよりか?

少しからかうような口調で、室長は耳元に囁いた。

サトコ

「もちろん。だってこれは現実で、しかも室長が私のためにプレゼントしてくれた夜景ですから」

難波

そんなこと、言ってもらえると思わなかったな

室長は嬉しそうに微笑むと、私の身体を正面に向け、キスをしようとした。

(この展開といい部屋の感じといい‥なんとなく、私のハネムーン妄想に近いかも‥)

そう思った瞬間、急に不安になって、私は顔の前に手を出した。

サトコ

「ちょ‥ちょっと、待ってください」

難波

サトコ

「これって、現実ですよね?」

難波

ん?どういう意味だ?

サトコ

「ステキすぎるし幸せすぎるし、また私の妄想なのかな‥なんて」

難波

何言ってんだよ。俺はちゃんとここにいるぞ

室長は私の手を取ると、自分の頬に触れさせた。

難波

ほら‥な?

サトコ

「うん、ちゃんとジョリジョリしてます‥」

難波

なんなら、もっとジョリジョリさせてやるぞ?

室長は私の頬に自分の頬を近づける。

サトコ

「わ、わかりましたから。もう大丈夫ですから、それ以上は‥!」

「んっ‥」

唇を優しいキスで覆われて、部屋を静寂が包み込む。

互いの呼吸と鼓動を感じ合いながら、私たちはじっと見つめ合った。

難波

サトコ‥

もし、結婚したら‥

サトコ

「!」

驚きで一瞬、時が止まった。

(結婚‥したら‥)

難波

ちゃんと海外にハネムーン行こうな

サトコ

「室長‥」

『もし』だって『万一』だっていい。

今はただ、2人の共通の未来へ向けて、道が続いているのだと感じることができれば。

しっかりと頷いた私をもう一度キスで包んで、室長は私を抱き上げた。

難波

お前の妄想なんかに負けないくらい、熱い夜にしてやるよ

室長はベッドに横たえた私に覆いかぶさると、額に、瞼に、頬に、キスの雨を降らせていく。

いつまでも終わらない愛撫に酔いしれて‥‥‥

現実はやっぱり、妄想以上にステキだ。

Happy   End

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