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ふたりで融けて 難波1話

【難波マンション】

ベランダから涼やかな風鈴の音が聞こえてくる。

夏の夜風に吹かれながら、私は室長の部屋で晩酌に付き合っていた。

難波

どうだ?

サトコ

「へぇ‥そば焼酎のソーダ割りなんて初めて飲みましたけど、美味しいですね」

難波

だろ?ビールの後はこれっていうのが、いま俺の一番のお気に入りなんだよ

室長は既に飲み終えたビールの空き缶を隅に追いやりながら、満足そうにそば焼酎の瓶を眺めた。

(だいたい、そば焼酎なんてもの自体、室長と付き合うまで飲んだこともなかったよね)

すっかり室長の色に染められている自分を微笑ましく思いながら、

つけっ放しになっていたテレビに何気なく目をやった。

画面ではちょうど、海開きのニュースが始まったところだ。

サトコ

「海開きか‥」

難波

いよいよ夏到来だな

(講義と訓練に追われて季節を感じている暇もなかったけど、今年ももうそんな時季なんだよね‥)

画面では、たくさんの親子連れや恋人たちが楽しそうに水と戯れている。

(気持ちよさそうだな~)

(海なんてもうずいぶん行ってない気がする)

難波

行くか?

サトコ

「へ?」

難波

海だよ、海

(もしかして私、また顔に『行きたい』って書いてあった?それとも‥)

サトコ

「室長、海‥好きなんですか?」

難波

まぁな

サトコ

「へぇ‥なんか意外ですね」

難波

そうか?これでも若い頃は、夏男なんて言われたもんだ

サトコ

「夏男‥」

一瞬、こんがりと焼けた室長が白い歯を見せてニッカリ笑う姿が思い浮かんで、

吹き出してしまいそうになった。

難波

まぁ厳密に言えば、海が好きというより、海で飲むビールが好きなんだけどな

サトコ

「なるほど!」

(それなら納得かも‥)

サトコ

「さすがに海ではビールなわけですね?」

難波

やっぱり海はビールだろ。しかもキンキンに冷えたヤツ

もちろん家で飲むビールもいいが、海で飲むのはまた格別だからなぁ

ラーメンとか、イカ焼きなんか食いながら、プシュッと‥

うん、いいじゃねぇか。海

室長は1人で想像に浸りながら頷いている。

(室長と2人で海辺でビールか‥)

(真夏の太陽の下にいる室長とか想像つかないし)

(ちょっと今までも思っていた海辺での過ごし方とは違うけど‥)

サトコ

「私もいいと思います。楽しそうですよね、海!」

難波

よし、それなら決まりだ

次の休みは海に行くぞ

サトコ

「はい!」

(室長と初めての海デート!)

(どうせなら水着を新調して‥少しダイエットもして気合入れちゃおうかな)

徐々に増していく暑さに萎えそうになっていた心が、一気に色めきたった。

【海】

それから数週間後。

ようやく室長と休みが合い、私たちは約束通り海にやって来た。

太陽はカンカン照りで、絵に描いたような海日和。

既に浜辺はたくさんの人々で賑わっている。

サトコ

「来ましたね、海!」

難波

ああ、来たな‥

サトコ

「それじゃ、さっそく着替えて来ますね」

【浜辺】

浜辺の更衣室に入り、新調したばかりの水着に着替えた。

(この水着、ちょっと冒険しちゃったけど‥室長褒めてくれるかな?)

露出の多さにちょっとモジモジしながら、

<選択してください>

A: 水着のまま更衣室を出る

水着のまま更衣室を出ると、こちらに背を向けて立っていた水着姿の室長が振り返った。

サトコ

「!」

(わ、いきなり恥ずかしい‥!)

難波

おお、来たか‥

(あれ?意外といつも通りの反応だな‥)

B: Tシャツを着て更衣室を出る

Tシャツを着て更衣室を出ると、既に水着姿で待っていた室長がいきなり吹き出した。

難波

ぷっ‥なんだ、そりゃ

サトコ

「だ、だって‥いきなり水着は恥ずかしいじゃないですか」

難波

そうじゃなくて。そのTシャツ、前後ろ逆だぞ

サトコ

「え!?ほ、本当だ‥」

結局Tシャツを脱ぐことになり、諦めて水着だけになった。

難波

それじゃ、行くか

(私はこんなにドキドキしてるのに、室長はいつも通りの反応だな‥)

C: バスタオルを巻いて更衣室を出る

バスタオルを巻いて更衣室を出ると、こちらに背を向けて立っていた水着姿の室長が振り返った。

その瞬間‥‥‥

ハラリとバスタオルが落ちる。

サトコ

「きゃっ!」

難波

おっと‥

慌てて伸ばしてくれた室長の手が、砂の上に落ちる寸前でバスタオルを掴んだ。

難波

セーフ‥

気を付けろよ。砂まみれになっちまうと後が大変だ

サトコ

「そうですよね‥ありがとうございました」

また同じことをするのも何となく気が引けて、バスタオルを畳んで抱えた。

難波

それじゃ、行くか

(私はこんなにドキドキしてるのに、室長はいつも通りの反応だな‥)

ちょっとがっかりしながら、浜辺を彩るビーチパラソルの間を室長について歩いて行った。

難波

さてと‥とりあえずひと泳ぎしてくるか~

借りたパラソルの位置を確認するなり、室長は気合を入れて準備体操を始めた。

難波

イッチ、ニッ、サンッ、シッ‥

(え、もう泳ぐの!?)

サトコ

「ちょ、ちょっと待ってください!」

難波

ん?どうした?

サトコ

「私、まだ日焼け止めを塗ってなくて‥」

難波

日焼け止めとは‥さすが若い子は違うねぇ

サトコ

「若い子はって‥室長は塗らないんですか?」

難波

塗るも塗らないも‥‥考えもしなかったな、日焼け止めのことなんて

驚いて聞いた私にしれっと答えながら、室長は入念にアキレス腱を伸ばしている。

難波

豚に真珠。おっさんに美白だな

サトコ

「いえいえ、美白とかじゃなくて、室長こそ塗った方がいいですって」

「室長はお肌が弱いんですから、きちんと塗っておかないと後でヒリヒリしちゃいますよ」

難波

‥そうか?

サトコ

「日焼け止めは柔軟剤並みに大切ですからね。よければお先にどうぞ」

日焼け止めを渡すが、室長はあっさり返してきた。

難波

じゃあ、頼んだ

サトコ

「しょうがないですねぇ‥」

口では言いながら、任されたのがちょっと嬉しくて、嬉々としてレジャーシートを広げる。

サトコ

「じゃあ、ここに横になってください」

難波

おお、これでいいか?

うつ伏せに横たわって両腕をアゴの下に組むと、背筋がなだらかに盛り上がった。

そのたくましい背中一面に、ぎこちない手つきで日焼け止めを塗り始める。

難波

腰の辺りは優しく頼むぞ

サトコ

「分かってます」

手を滑らすたび、筋肉のおうとつが手のひらに直に伝わってくる。

(こんなにしっかりと室長の身体に触るのは初めてかも‥)

ドキドキしながら、なんとか全面に塗り終えた。

サトコ

「はい。これで完了です」

難波

よし、それじゃ今度は俺に任せろ

室長は起き上って私から日焼け止めを取ると、早くも自分の手に液を出して馴染ませ始めた。

<選択してください>

A: お願いします

(ちょっと待って‥私にも塗ってくれる気満々みたいだけど、いくらなんでも恥ずかしすぎる‥!)

断ろうと思ったが、室長はすでにやる気満々でスタンバイしている。

難波

ほら、早くそこに横になれよ

サトコ

「そ、それじゃ、お願いします」

(ああ‥勢いに負けてつい言ってしまった‥)

B: 自分で塗れますから

サトコ

「じ、自分で塗れますから!」

難波

遠慮するな。背中にみっともない焼けムラができてもいいのか?

俺も塗ってもらったんだし、お互いさまだ

(確かに焼けムラは嫌だけど‥いくらなんでも恥ずかしすぎる‥!)

サトコ

「本当に大丈夫ですので」

難波

いいからさっさと横になれ

ならないなら、俺が押し倒すぞ?

日焼け止めまみれの手で両肩を掴まれ、私は観念した。

サトコ

「わ、わかりました。自分で横になります」

C: それは顔に塗った方がいいですよ

(私にも塗ってくれる気満々みたいだけど、いくらなんでも恥ずかしすぎるよ‥)

サトコ

「そ、その前に‥それはご自分の顔に塗った方がいいですよ?」

難波

ああ、顔か‥それもそうだな

サトコ

「私は自分で塗れますので」

室長から日焼け止めを取り返そうとするが、室長は巧みに私の伸ばした手を避けた。

難波

すぐに終わるから待ってろ

室長はあっという間に自分の顔に日焼け止めを塗りたくると、すぐにまたスタンバイ態勢に入る。

難波

よし、今度こそお前の番だ

サトコ

「‥‥‥」

(これはもう、諦めて塗ってもらうしかないかも‥)

レジャーシートに横たわると、すぐに大きな手の感触が背中を滑った。

(室長の手、大きくてごつごつしてる‥)

まるでベッドの中で愛撫を受けているような気分になり、

思わずうっとりとした声が漏れそうになる。

サトコ

「‥‥‥」

(いけない‥ついうっとりしちゃったけど、ここは人目のある浜辺なんだから、我慢しないと‥)

おかしな声が出てしまわないように、グッと口を結んで室長の手の動きが止まるのを待つ。

(終わったみたい‥?)

背中から手が離れたのを感じ、身体を起こそうとした。

その瞬間、私の首筋に顔を埋めた室長が、肩甲骨にキスを落とす。

サトコ

「あっ‥」

難波

予期しない出来事に、さっきまで堪えていた声が漏れてしまった。

(やだ、恥ずかしい‥!)

チラリと室長を見るが、室長はあくまでも真顔だ。

難波

‥あとは自分でやれ

サトコ

「‥はい」

室長は日焼け止めをレジャーシートの上に置き、立ち上がった。

(変な声出しちゃって、室長に引かれちゃったかも‥)

自省しつつ、恥ずかしさと共に立ち上がる。

室長はそんな私の顔を見ることなく、海の家の方へと歩き出した。

難波

ちょっとシャツ取ってくる

サトコ

「‥‥‥」

(行っちゃった‥)

室長のすげない態度に、新しい水着で盛り上がっていた気分もすっかりしぼんでしまった。

(あんな声出すなんて、私ったら本当にバカだな‥)

(室長と初めての海デート、すごく楽しみにしてたのに‥)

腕や足に日焼け止めを塗りながら、しょんぼりと海を見つめた。

真っ青な海は照りつける太陽にキラキラと輝いて、私の後悔に拍車をかける。

(室長、ちゃんと戻ってきてくれるかな‥)

何度も海の家を振り返っては、ため息をついた。

(シャツを取りに戻っただけにしては時間かかってるけど‥)

???

「ねぇねぇ、ちょっと」

サトコ

「えっ‥?」

to  be  continued

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