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ふたりで融けて 難波2話

???

「ねえ、ひとり?」

サトコ

「えっ‥?」

突然声を掛けられて振り返ると、サーファー風の2人組の男性が立っていた。

サトコ

「あ、いえ‥」

男A

「その水着かわいいね。キミによく似合ってるよ」

男B

「でもそんな水着で1人ってことは、ナンパ待ちでしょ?」

サトコ

「え!?そ、そんなことは‥」

男A

「だったらさ、オレらと遊ばない?」

サトコ

「いえ、私は恋人と‥」

男たちはまったく私の言葉に耳を貸そうともしない。

男A

「あっちにオレらの荷物あるから」

男の1人が私の肩に手を掛けた。

<選択してください>

A: やめてくださいと言う

サトコ

「やめてください!」

思わず叫ぶが、男はニヤニヤ笑うばかりで手を離そうとしない。

男A

「そう冷たいこと言わないでさ」

(この人たちには何を言っても通じないみたい‥)

サトコ

「いい加減にして!」

気づいた時には、男の手を振り払っていた。

男A

「何すんだよ‥」

B: 手を振り払う

次の瞬間、考えるよりも早く男の手を振り払ってしまう。

男A

「何すんだよ、痛ぇな‥」

サトコ

「あ、ごめんなさい。でも、あなたたちがしつこくするから‥」

男B

「ふざけんな。こっちが下手にでてりゃ、いい気になりやがって」

C: 室長を呼ぶ

サトコ

「し、室長!」

思わず叫ぶが、当然のことながら、それに答える声はない。

男A

「なに?室長って‥なんかのプレイとか?」

サトコ

「ち、ちがっ‥!」

男B

「おもしろいじゃん、キミ。なんならオレが室長役やってやろうか?」

もう1人の男も私の肩に手を掛けてきて、私の我慢も限界に達した。

サトコ

「やめて!」

2人の男を同時に振り払う。

男A・B

「何すんだよ‥」

男たちは怒気を含んだ目で睨みつけてきた。

(どうしよう‥完全に怒らせちゃったみたい‥)

男たちが距離を詰めてきて、私も一歩後ずさった。

ドンッ!

サトコ

「!?」

誰かにぶつかって、両肩を押さえられる。

(誰?まさか‥もう1人仲間が!?)

難波

俺の女に何か用か?

サトコ

「!」

背後から聞こえてきたのは、室長の声だった。

サトコ

「室長‥」

難波

待たせたな。サトコ

室長は私の肩にシャツを掛けると、男たちとの間に割って入った。

男たちの顔色がサッと変わる。

男A

「なんだよ、男連れかよ」

男B

「しかもおっさんとか‥きめぇ」

サトコ

「ちょ、ちょっと!」

捨て台詞を履いて去って行こうとする男たちに文句を言おうとするのを、室長が止めた。

難波

ほっとけ

サトコ

「でも‥!」

(室長のことをあんな風に言うなんて‥!)

難波

おっさんは事実だしな

言いたいヤツには言わせておけばいい

サトコ

「室長‥」

(確かに、室長の言う通りかもしれないな‥あんな人たちを相手にしても仕方がないもんね)

サトコ

「ありがとうございました。助けてくれて」

気を取り直してお礼を言うと、室長はガバッと私の肩を抱いて走り出した。

難波

そんなことより、いい加減さっさと海に入るぞ

【海】

大きな浮き輪をひとつ借りて沖へ出た。

浮き輪の中に入った私を、室長はグイグイ引っ張っていく。

サトコ

「まだ足つきますか?」

難波

いや、もうつかねぇな

サトコ

「溺れないで下さいね?」

難波

溺れはしねぇけど‥よっと

室長は掛け声と共にザブンと海に潜った。

サトコ

「室長!?」

(どうしたんだろう、急に‥何か見つけたのかな?)

浮き輪の隙間から足元を覗き込むが、室長の姿は見えない。

私は諦めて、浮き輪に身を任せて海を漂った。

サトコ

「あ~気持ちいい~」

(ここまでくるとさすがに人の声もほとんど聞こえないし、のんびりするな~)

サトコ

「!」

何かが足に触れた気がしてハッとなった。

(な、何?まさか、クラゲ!?)

慌てて足をばたつかせる。

すると、浮き輪と腕の隙間からぬっと室長が姿を現した。

サトコ

「わっ!」

難波

ちょっと失礼‥

室長はグイグイ身体をねじ込み、スッポリと浮き輪の中に納まった。

サトコ

「もう、ビックリさせないで下さいよ‥」

難波

悪い、悪い‥

いい加減泳いでるのも疲れちまってな

言いながら、室長は後ろから私の腰を抱きしめた。

ひんやりとした水の中で、室長の体温をいつも以上に感じてしまう。

(ひとつの浮き輪に2人で入るのって、結構恥ずかしいかも‥)

2人だけの静かな海の上で、熱を帯びながら密着する肌と肌。

止まらないドキドキに心を揺らめかせながら、静かな2人の時間を堪能した。

【難波マンション】

シャワーでスッキリすると、室長はさっそく冷蔵庫から缶ビールを取り出してきた。

難波

お前も飲むだろ?

サトコ

「はい!」

難波

じゃあ、お疲れさん

互いの缶を軽く当てて乾杯すると、室長は喉を鳴らしてビールを流し込んだ。

難波

ああ、うめぇ~

やっぱり風呂上がりのビールは最高だわ

サトコ

「ふふっ‥確か海でも、そんなこと言ってましたよ?」

難波

ん?そうだったか?

でもまあ、海で飲むビールは特別。家でこうして飲むビールは、命の水みたいなもんだ

サトコ

「命の水ですか‥?」

難波

この1杯のために生きてんな~って感じがするだろ?

そう言って、室長はまたおいしそうにビールを煽った。

サトコ

「なんとなく、分かる気がします」

幸せそうな室長を見ているだけで、心が和む。

(特別感もたまには必要だけど)

(こういう何でもない瞬間っていうのが実は一番幸せだったりするんだよね‥)

ほんのりとした幸せと心地よい疲れが身体を包み込み、私はソファに身を沈めた。

ふと見ると、傍らのテーブルに線香花火の束が置いてある。

サトコ

「あれ?これ、どうしたんですか?」

難波

ん?ああ、それな~

2、3日前に桂木が置いてった

サトコ

「なんか、懐かしいですね‥」

(線香花火なんて、最後にやったのいつだろう?)

(これってどっちに火を点けるんだっけ?なんだかいつも間違えた気が‥)

難波

やるか?

サトコ

「え?」

難波

線香花火だよ。そんなにしみじみ見てるからさ

サトコ

「やりたい‥やります!」

(海の次は花火!今日は夏のイベント満載の一日だな‥)

【ベランダ】

洗面器に水を貼り、ろうそくの火を挟んで向かい合う。

サトコ

「それじゃ、勝負ですよ!」

難波

勝負?線香花火でか?

サトコ

「先に玉が落ちた方が負けです」

難波

なるほどな‥よし、受けて立つぞ

サトコ

「じゃあ、同時に火を点けて‥」

難波

‥‥‥

チリチリと燃える花火を見ながら、私たちは黙り込んだ。

(できるだけ身動きしないようにしないと、この玉すぐに落ちちゃうんだよね‥)

全神経を手元に集中し、徐々に膨らんでいく玉をじっと見つめる。

難波

サトコ

不意に室長が名前を呼んだ。

<選択してください>

A: 顔を上げる

サトコ

「なんですか?」

難波

‥‥‥

思わず顔を上げると、不意打ちのキスをされた。

B: 無視する

(ダメダメ‥そうやって私の玉を落とすつもりでしょうが、その手には乗らないんだから)

サトコ

「‥‥‥」

難波

おい、サトコ

サトコ

「‥‥‥」

難波

サトコ‥!

何度も呼ばれて、仕方なく顔を上げた。

その瞬間、室長が不意打ちのキスをしてくる。

C: そのままの体勢で用件を聞く

(そうやって私の玉を落とすつもりなのは分かってるんだから‥)

サトコ

「なんですか?」

顔は上げずに返事だけした。

難波

なんだよ‥こっち見ろよ

サトコ

「後で見ますから」

難波

今見ないと、一生後悔するぞ

サトコ

「そんな後悔なんて‥」

呆れながら顔を上げると、不意打ちのキスをされた。

サトコ

「!」

動揺しつつも、その甘さに抗えず、私もキスを返した。

線香花火のわずかな明かりの中でするキスは、心なしか秘密めいて大人の香りがする。

チリチリと花火が燃える音に耳を澄ませながら、私は思わずうっとりと目を瞑った。

難波

俺の勝ちだな

サトコ

「えっ?」

慌てて室長から離れて手元を見ると、いつの間にか私の玉が下に落ちてしまっている。

サトコ

「あ!あんなに気を付けてたのに‥」

難波

キスなんかしちまうからだ

サトコ

「ズルいです‥」

(キスしてきたのは室長なのに‥!)

恨みを込めて、上目遣いに室長を睨んだ。

でも室長はちっとも悪びれた様子もなく笑っている。

難波

大人はズルいもんだ

ほら、俺のなんかまだまだ燃えてるぞ

サトコ

「‥‥‥」

難波

はっはっは‥さすがは昭和生まれ。線香花火の扱い方がうまいねぇ

赤々と燃える線香花火を見せつけられ、ちょっと拗ねて膝を抱えた。

その時‥‥‥

ドーン!

大きな音と共に、空一面が色とりどりの光で明るく照らし出された。

サトコ

「え‥花火‥?」

(だよね、今の‥)

難波

そうか‥今年ももうそんな時期になったんだな

サトコ

「そっか‥」

去年、室長と一緒に見た花火大会のことを思い出した。

(まさか今年は恋人になって一緒に見ることになるなんて‥あの時は思いもしなかったな‥)

ドーン!

次々と打ち上がる花火に目を奪われて、室長は思い切ったようにろうそくの火を消した。

難波

しばらく勝負はお預けだな

サトコ

「そうですね‥」

2人で並んでビールを飲みながら、明るい夜空を見上げた。

サトコ

「きれい‥」

難波

ああ

室長の肩に、そっと頭をもたげる。

風に吹かれた髪の毛から、ふわっと海の香りが漂った。

サトコ

「あ、海の香り‥」

難波

ん?

サトコ

「来年も行きましょうね。海‥」

難波

んーそうだな‥

予想外に乗り気でない返事が返ってきて、私は怪訝に室長を見た。

そんな私の様子に、室長はちょっと笑う。

難波

お前が別の水着買うんなら、いいぞ

サトコ

「え?」

(それって‥あの水着は似合ってなかったってこと?やっぱり冒険し過ぎちゃったかな‥)

がっかりしていると、またもや予想外の言葉が飛び出した。

難波

あんな水着着てたらな、そりゃ、世界中の男が寄ってきちまうってもんだろ

サトコ

「!」

難波

おっさんだってな、彼女があんなん着てたらハラハラするし

ナンパされればヤキモチ妬くんだぞ

室長は照れたように言いながら、グイッとビールを煽った。

難波

日焼け止め塗ってた時もあんな声出して、誰かに聞かれやしなかったかと心配したしな

今日は1日そわそわハラハラしっぱなしだ

(そうだったんだ‥呆れてたわけじゃなかったんだね‥)

(室長がヤキモチを妬いててくれてたなんて‥!)

難波

あんな声出すのも、肌見せんのも、全部俺の前だけにしとけよ

サトコ

「はい!」

オデコをペシッと叩かれたのに、喜びに溢れた声が出た。

難波

よくできました

室長は苦笑いしながら、そっと唇を重ね合わせる。

他の誰にも渡すまいとするように、何度も、何度も‥‥‥

ヤキモチの分だけ深くなった2人の想いが、大輪の花々に彩られて夏の夜空を焦がしていった。

Happy  End

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