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ふたりで融けて 颯馬2話

サトコ

「ふぅ‥」

なんとか『呪いの館』から脱出し、深く息を吐く。

颯馬

サトコさんの最後の悲鳴、外まで聞こえそうでしたね

サトコ

「すみません‥」

颯馬

いえ、面白かったですよ

(それって、お化け屋敷がってこと?それとも私が‥?)

恐怖におののく姿を面白がられたのなら、ちょっと悲しい。

(颯馬さんのことだから、たとえ呪いの館でも優雅に微笑んでたんだろうな‥)

手を繋ぐのを断ったことも、颯馬さんは特に気にしていない様子だ。

(それは良かったけど‥)

一度断ったせいで、お化け屋敷から出ても手を繋ぎにくい。

話ながらなんとなく歩いているものの、宙ぶらりんの手がもどかしい。

颯馬

次はどうしますか?

サトコ

「えっ、あ‥どうしましょうか」

颯馬

このまま少し歩きましょうか

サトコ

「そうですね」

さっきより少し距離が縮まる。

(この距離なら、自然に繋げるかも‥)

そう思うものの、やっぱり勇気が出ない。

颯馬さんから繋いでくれる気配もない。

(やっぱり一度断ってるからだよね‥)

(うぅ‥繋ぎたいけど、繋げない!)

心の中で葛藤しながら歩いていると、どこからか子どもの鳴き声が聞こえて来た。

女の子

「ママ~!パパ~!」

見ると、5歳くらいの女の子が泣き叫んでいる。

颯馬

迷子のようですね

サトコ

「行ってあげなきゃ!」

私は咄嗟に駆け出していた。

(こういう時は子供の目線に合わせて、笑顔を絶やさずに‥)

交番勤務の経験を活かし、子どもの背丈に合うようしゃがみ込む。

サトコ

「こんにちは」

女の子

「‥‥‥」

サトコ

「ママとパパと一緒に来たの?」

女の子

「‥‥‥」

女の子は泣き止むも、無言のまま小さく頷くだけだ。

サトコ

「お姉ちゃんが一緒にママたちを探してあげるから、あなたのお名前を教えて?」

女の子

「‥‥‥」

サトコ

「じゃあ、お手々繋ごうか」

手を差し出すと、女の子も小さな手を差し出した‥‥と思ったら‥

颯馬

ん‥?

なんと、女の子は私の隣にいる颯馬さんの手を握った。

(私もまだ繋いでないのに‥!)

先を越されてしまい、一瞬心がざわめく。

(‥って、いやいや‥相手は子供だし)

焦ることはないと思いつつも、なんとなく気になってしまう。

(やけに懐いているような‥)

さっきまで泣き顔だった女の子は、ほのかに頬を染めて微笑んでいる。

そんな女の子を、颯馬さんは優しく抱き上げる。

颯馬

私がお父さんに似ているんでしょうか?

(いや‥私にはわかります。その子の目は明らかに恋慕の眼差し‥)

(そう、女の子はいくつであってもイケメンが好きなんです‥!)

私は確信を持って、心の声を上げた。

颯馬

お名前は?

女の子

「りら‥」

颯馬

りらちゃんですか、素敵な名前ですね

女の子

「‥ありがと」

(ほら、ほっぺ赤くしてるし!)

(颯馬さん、こんな小さい女の子まで落としちゃってますよ!)

颯馬

サトコさん?どうかしましたか?

サトコ

「え、あ、いや‥」

<選択してください>

A: 本当に可愛い名前ですねぇ

サトコ

「本当に可愛い名前ですねぇ」

颯馬

ええ。軽やかで愛らしい響きです

サトコ

「音そのものが可愛いですよね」

颯馬

お姉さんも褒めてくれてますよ?りらちゃん

女の子

「‥‥‥」

女の子はちらりと私を見るも、すぐに颯馬さんの顔を見つめ直す。

(颯馬さんには『ありがと』って可愛く言ってたのに、私には完全に女の目してるー!)

B: 女の子って可愛いですよねぇ

サトコ

「女の子って可愛いですよねぇ」

颯馬

貴女も女の子ですよ

サトコ

「それはそうですが‥」

颯馬

りらちゃんもいつか、あのお姉さんのように大人の女性になるのですね

女の子

「‥‥‥」

(そ、そんな不服そうな顔しなくても‥)

C: 本当の親子みたいですねぇ

サトコ

「なんだか本当の親子みたいですねぇ」

颯馬

そうでしょうか?

サトコ

「はい、優しいパパと可愛い娘って感じです」

颯馬

だそうですよ?りらちゃん

女の子

「おやこじゃないもん‥」

りらちゃんは不満そうに言う。

( “恋人みたい” って言ってあげればよかったかな‥)

小さなライバルに苦笑いしつつ、気持ちはほっこりする。

サトコ

「このまま迷子センターまで行きましょうか」

颯馬

そうしましょう

サトコ

「このお兄さんと一緒に、パパとママのところへ行こうね」

女の子

「うん」

颯馬さんに抱っこされて満足そうなりらちゃんは、やっと私にも笑顔を見せてくれた。

女の子

「ママ!パパ!」

迷子センターへ行くと、りらちゃんのご両親が待っていた。

サトコ

「よかったね。りらちゃん」

女の子

「うん!」

颯馬さんの腕の中で、りらちゃんは満面の笑みを輝かせる。

颯馬

さあ、ママたちの所へお帰り

女の子

「うん‥」

颯馬さんがりらちゃんを下ろすと、その笑顔に影が差す。

女の子の父

「りら、おいで」

差し伸べられた父親の手を取るりらちゃん。

でも、もう一方の手はしっかりと颯馬さんの服を掴んだままだ。

女の子

「お兄ちゃんも一緒に遊ぼう?」

(え‥?)

小さな体で颯馬さんを見上げるりらちゃん。

そんなりらちゃんに、颯馬さんは優しく微笑みかける。

女の子の母

「りら、お兄ちゃんとお姉ちゃんのデートを邪魔しないの」

女の子

「デートはかっぷるがするんだよね?」

女の子の母

「そうよ。だから‥」

女の子

「お兄ちゃんたちはかっぷるじゃないよ。だっておててつないでなかったもん」

(うっ‥!)

颯馬

‥‥‥

鋭い指摘に、私はグサリと胸を突かれた。

その隣で、颯馬さんは苦笑いを浮かべている。

女の子の母

「もう、りらったら‥」

母親にやんわりと咎められ、父親に抱っこされるりらちゃん。

女の子の父

「本当にありがとうございました」

女の子

「お兄ちゃん、またね」

颯馬

ええ。いつかまたどこかで

サトコ

「元気でね!」

女の子

「お姉ちゃんも!」

満面の笑みで手を振りながら、小さなライバルは去って行った。

サトコ

「可愛かったですね。りらちゃん」

颯馬

小さな嵐のようでしたが

微笑み合う私たちを、夕日が包み込むように赤く染めている。

サトコ

「もうこんな時間だったんですね‥」

いつの間にか、閉園時間が迫る時間になっている。

颯馬

それじゃあ約束、果たしに行きましょうか

サトコ

「‥はい!」

観覧車のことだとすぐわかり、思わず笑顔になる。

りらちゃんも私も、颯馬さんの手にかかれば女の子は皆ときめいてしまうらしい。

サトコ

「楽しみです!」

そう言って歩き出そうとすると、スッと手を差し伸べられた。

颯馬

今度は、繋いでもいいですか?

その瞬間、さっきりらちゃんに言われた言葉が頭をよぎる。

(手を繋いでいないからカップルじゃない‥か)

(もしかして、颯馬さんもそれを気にして‥?)

私は、差し出された手をそっと取った。

颯馬

‥‥‥

何も言わず、ただ少しホッとしたように微笑む颯馬さん。

(何だろう‥すごくドキドキする‥)

繋ぎたいのに繋げずに葛藤した分、喜びもひとしおだった。

【観覧車】

観覧車に乗り込むときには、もう空には星が出ていた。

颯馬

ちょうどいい時間になりましたね

サトコ

「はい、綺麗な夜景が楽しめそうですね」

手を繋いだまま乗り込み、どのように座ろうか迷う。

<選択してください>

A: 颯馬の隣に座る

サトコ

「そっちの一緒に座ってもいいですか?」

颯馬

もちろんです

優しく手を引かれ、そっと隣に腰掛ける。

颯馬

繋いだ手もこのままに

サトコ

「はい‥」

繋いだ手をぎゅっと握り直してくれた。

B: 両側に分かれて座る

サトコ

「私はこっち側に‥」

颯馬さんと向かい合う形で座ろうとすると、

颯馬

こちらへ

(あ‥)

繋いでいた手を引かれ、隣に座らされる。

颯馬

離れて座るなんて、許しませんよ?

ぎゅっと手を繋いだまま、颯馬さんは優雅に色っぽく微笑んだ。

C: 自分の隣へ颯馬を誘う

サトコ

「あの‥こちらに来ませんか?」

自分の隣に来るよう、繋いだ手をそっと引いてみる。

颯馬

そうですね。せっかくですからそうしましょう

サトコ

「ちょっと狭いかもしれないけど‥」

颯馬

このくらいの密着度の方が、より素敵な時間を共有できそうです

颯馬さんは少し、悪戯っぽく微笑んだ。

(なんか、ドキドキしてまた手汗が‥)

暑さもあって、どんどん手が汗ばんでくる。

(どうしよう‥恥ずかしい‥)

思わず手を離そうとすると、逆にギュッと握り返された。

しかも、指を絡めて恋人繋ぎにされる。

颯馬

‥嫌?

サトコ

「‥っ」

超至近距離で聞かれ、ドキッとして言葉に詰まる。

颯馬

嫌なら‥

サトコ

「い、嫌じゃないです!」

手を離されそうになり、今度は私からギュッと握り返した。

(やっと繋げた手だもん、本当は離したくない‥)

サトコ

「実は‥なんか今日、手汗がすごくて‥それが恥ずかしくて‥」

颯馬

では、お化け屋敷の時も‥

サトコ

「はい‥怖さと緊張で、まさに手に汗握る状態に陥って‥」

颯馬

そういうことだったのですね

颯馬さんは、安心したように微笑んだ。

サトコ

「その後も、本当はずっと手を繋ぎたいって思ってたんですけど‥」

一度断ってしまった手前、繋ぎづらくなってしまったことも告白した。

颯馬

気付けなくてすみません

サトコ

「そんな‥!颯馬さんは悪くないです」

颯馬

強引にでも私から繋ぐべきでしたね

ずっとそうしたいと思いつつ、私も躊躇ってしまいました

サトコ

「颯馬さんも‥?」

颯馬

ええ。貴女に嫌われるのが怖くて

サトコ

「いつも大人で余裕たっぷりな颯馬さんが‥怖いだなんて‥」

颯馬

呪いの館よりずっと怖かったですよ

(え‥。ふふ、颯馬さんってば‥)

冗談っぽく言って微笑む颯馬さんが、なんだか可愛い。

颯馬

見てください。美しい夜景が広がっていますよ?

サトコ

「‥わあ!!」

いつの間にか観覧車は頂上に近づいていた。

眼下には、キラキラと輝く遊園地のイルミネーションが見える。

サトコ

「今日はとても楽しかったです」

「颯馬さんが私を楽しませようとエスコートしてくれたの、すごく嬉しかったです」

颯馬

好きな女性には、自分と過ごす時間を楽しんでほしいと思うのは当然ですよ

微笑んだ颯馬さんの顔が、スッと近づく。

そのまま静かに見つめ合う。

颯馬

‥‥‥

(颯馬さん‥)

観覧車はちょうど頂上に到達し、そっと唇が重なる。

瞳を閉じ、柔らかで甘いキスにうっとりしかけたその時‥

どおぉーん!!

サトコ

「!?」

大きな音がして、思わず目を見開いた。

観覧車の窓の向こうには、まん丸の花火が打ちあがっている。

サトコ

「すごい‥きれい‥」

颯馬

ええ。綺麗ですね

でも‥‥よそ見は禁止

(え‥あっ‥)

そっと振り向かされ、再びキスされた。

今度は熱く深い、情熱的なキスをしてくる。

颯馬

花火もいいですが、今は貴女を味わいたい

サトコ

「!!」

ニヤリと浮かぶ肉食な笑みに、ドキン!と鼓動が高鳴った。

薄暗い観覧車の中、花火の光に照らされた颯馬さんはいつも以上に妖艶だ。

(さっきの可愛い颯馬さんはどこへ‥!?)

(でも‥どっちの颯馬さんも好き‥‥)

再び塞がれた唇は、観覧車が地上に到着するまで、ずっと離れることはなかった‥

Happy  End

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