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誕生日 加賀2話


【警視庁】

迎えた11月7日、加賀さんの誕生日。

私たち訓練生はようやく、警視庁での特別訓練講習を終えたところだった。

鳴子

「しんどい‥」

千葉

「もう、このまま眠りたい‥」

サトコ

「予想以上に厳しい訓練だったね‥さすが警視庁‥」

(って、私までぐったりしてる場合じゃなかった!)

(まだ9時だし、加賀さんの誕生日が終わるまであと3時間‥)

プレゼントのケーキも、休憩中にお店から受け取って来たし‥

サトコ

「よし!今から行けば間に合う!」

???

「何がだ?」

サトコ

「え!?室長!?」

難波

騒がしいと思ったら、そうか、今日は特別訓練講習の日か

千葉

「難波室長は、仕事ですか?」

難波

まあな。ちょっと情報をもらいに来た

鳴子

「休みの日まで仕事なんて、大変ですね」

皆が話している間に、こっそり携帯を取り出す。

(今のうちに加賀さんに連絡しよう。きっと、今日は行かないと思われてるよね)

これから行きます、とメッセージを送ろうとした時、後ろから肩を叩かれた。

難波

氷川、お疲れさん。この前頼んだ調査のことで、ちょっと聞きたいんだが

サトコ

「あ‥はい!報告が遅れてすみません」

難波

いや、俺も急に頼んだからな

ついでにちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだけど、いいか?

サトコ

「は、はい、分かりました」

(室長のお手伝いじゃ断れない‥)

(早く終わらせて、加賀さんのところに急ごう!)

【ラーメン屋台】

(今日が終わるまでに、なんとか加賀さんのところに‥)

(‥って思ってたのに)

難波

いやー、悪かったな。手伝わせて

サトコ

「い、いえ‥」

難波

メシ、まだだろ?この時間だから、屋台のラーメンで悪いな

手伝いが終わると、室長がラーメンに誘ってくれた。

(もう10時半‥ここから加賀さんのマンションまでの距離を考えたら、猶予はあと1時間‥)

難波

それにしても、お前たちも大変だな。休みの日にまで講習なんて

サトコ

「それを言ったら室長も同じですよ。休みの日まで仕事だったんですよね」

難波

まあ、俺は慣れてるからな

親父、注文いいか?

店主

「はいはい、毎度ー」

慣れた様子で、室長が私の分も注文してくれる。

(室長って、毎晩ここでごはん済ませてるのかな)

(栄養偏りそうだな‥でも、指輪してるし、奥さんいるはずだけど‥)

難波

どうだ?学校の方は

サトコ

「毎日、すごく勉強になります。教官たちはちょっと怖いですけど」

難波

お前は特に、加賀の担当だからなー

後藤

‥室長?

その声に振り返ると、後藤教官が通りかかったところだった。

後藤

‥氷川まで、何やってるんだ

サトコ

「お疲れ様です。実は今日、特別訓練講習で」

難波

その帰りに、ちょっと手伝ってもらってな

後藤も、メシまだなら一緒に食うか?

後藤

そうですね

話ながら、後藤教官が私の隣に座る。

二人の上司に挟まれて、なおさら帰りづらくなってしまった。

難波

捜査の帰りか?

後藤

ええ。今抱えてるヤマが‥

(もう11時‥!移動時間を考えたら、あと30分くらいしかない!)

(どうしよう‥加賀さんに連絡した方がいいかな)

そわそわと携帯で時間を気にする私に気付いた後藤教官が、小声で耳打ちしてくる。

後藤

氷川、何か予定があるなら帰れ

サトコ

「えっ?でも‥」

後藤

大丈夫だ

室長に見えないように、後藤教官が頷いた。

サトコ

「すみません‥ありがとうございます。じゃあ、お先に失礼します」

難波

なんだ?帰るのか?

サトコ

「はい。室長、ごちそうさまでした!」

難波

ああ。こっちこそ手伝ってくれてありがとな

‥ん?ああ、そうか‥今日は11月7日か。なるほどな

難波室長が何かに気付いたように、うんうんと頷く。

(室長‥怪しんでる!?)

サトコ

「い、いや‥なんといいますか」

難波

悪かったな。急ぎすぎて事故るなよ

サトコ

「は、はい‥お疲れ様でした!」

二人に頭を下げて、急いで屋台を出た。


【加賀マンション】

屋台から全力で走り続け、ようやく加賀さんのマンションについた。

(11月7日、午後11時半‥ギリギリ間に合った!)

息も絶え絶えになりながら、インターホンを押す。

でも、加賀さんはなかなか出てきてくれない。

(もしかして、どこかに出かけちゃった‥?)

しばらく待っても反応がないので、諦めて帰ろうと背を向けた瞬間、ドアが開いた。

サトコ

「加賀さん!」

加賀

‥‥‥

まさか来ると思っていなかったのか、加賀さんが少し驚いているのが分かる。

シャワーを浴びた後らしい加賀さんに、思わず抱きついた。

加賀

サトコ

「お誕生日、おめでとうございます」

加賀

‥‥‥

‥ああ

一瞬、加賀さんが優しく微笑んでくれる。

そのまま、背中に腕が回ってきた。

サトコ

「よかった‥どうしても、直接顔を見ておめでとうって言いたかったんです」

「好きな人の誕生日は、ほんの少しでも一緒に過ごしたいし」

背中の温もりが消えて、加賀さんが私の頬を静かに撫でる。

加賀

‥ありがとな

サトコ

「え‥」

(加賀さん、今‥)

加賀

‥さみぃ

サトコ

「あ!す、すみません。お風呂上がりですよね?」

加賀

早く入れ

サトコ

「は、はい、失礼します」

部屋にお邪魔しながら、その広い背中を眺めた。

(『ありがとう』って言ってくれた‥)

(それだけで、さっきの全力疾走が報われた気持ちだよ)

【リビング】

リビングに入ると、加賀さんが振り返った。

加賀

で?

サトコ

「え?」

加賀

講習はどうだった

サトコ

「えっと‥が、頑張りました」

加賀

ほう‥次のテストが楽しみだな

(うう、この恐ろしい笑み‥変な点数だったら絶対お仕置きが待ってる‥)

サトコ

「あ、そうだ!誕生日に、ショートケーキを買ってきたんです!」

加賀

ケーキで祝うような歳でもねぇ

サトコ

「でも、せっかくですから!」

「いろいろ調べて、スポンジがモチっとしたケーキにしてみたんですけど」

持ってきた箱を開けると、さっき全力で走ったせいか形が崩れてしまっている。

サトコ

「な、なんてこと‥」

加賀

‥‥‥

サトコ

「うう‥せっかく加賀さん好みのケーキだと思ったのに」

加賀

貸せ

私から箱を奪い取ると、加賀さんがケーキを私の前に持ってきた。

加賀

口開けろ

サトコ

「え?でも私が食べても、意味が‥」

加賀

意味があるようにしてやる

よくわからないまま口を開けると、無理やりケーキを食べさせられた。

すぐに深く口づけられて、唇についた生クリームを舌で舐められた。

サトコ

「っ‥‥‥」

加賀

‥なるほど。悪くねぇ

サトコ

「か、加賀さっ‥」

加賀

まだついてんな

低くそう呟くと、加賀さんの舌が私の唇のクリームをすくい取るようになぞっていく‥

(な、なんだか‥いつもより、変な気分‥)

ぼんやりする私を見て、加賀さんが口の端を持ち上げた。

加賀

発情してんじゃねぇ

サトコ

「ま、また発情って言う‥!」

「あの‥ケーキは、気に入ってもらえましたか‥?」

加賀

まあまあだ

サトコ

「よかった‥プレゼント、何にしようか迷ったんですけど」

「加賀さんならきっと、モノよりも一緒にいろって言ってくれるんじゃないかなって」

加賀

ほう‥

サトコ

「だから、今日は絶対に加賀さんと一緒に過ごしたかったんです」

「‥自惚れてますか?」

恐る恐る加賀さんを見上げると、満足そうな笑みを浮かべている。

加賀

上出来だ

(喜んでもらえてよかった‥それに、たとえ30分でも一緒に誕生日を過ごせるのは嬉しいな)

加賀

テメェにしては珍しく、気の利いたプレゼントだな

サトコ

「モノも色々考えたんですけど」

「加賀さん、きっと今まで女の人からたくさんもらってるだろうし」

加賀

ない頭でそこまで考えられりゃ、充分だ

ご褒美に、加賀さんがさっきのケーキよりも甘いキスをくれる。

普段はもっと強引なのに、今日のキスはいつも以上に優しい。

サトコ

「加賀さん‥」

加賀

黙ってろ

キスで口を塞がれて、文字通り黙らされる。

加賀さんの柔らかい唇が、頬や首筋に下りてくる‥

(頑張って、走って来てよかった‥今日はどうしても、加賀さんに会いたかったから)

(加賀さんの温もりが、こんなに嬉しいなんて)

大きな手が、ブラウスのボタンをひとつずつ外していく。

愛おしげに、加賀さんの指が私の肌を撫でていく‥

サトコ

「っ‥‥あのっ‥」

加賀

‥‥‥

満足そうに私の肌を攻めていた加賀さんが、ふと、何かに気付いたように身体を離した。

サトコ

「加賀さん‥?」

加賀

‥ラーメン

サトコ

「え!?」

加賀

テメェ‥

一気に不機嫌になり、なぜかそのままバスルームに連行される。

サトコ

「待ってください!なんで‥」

加賀

誰に尻尾振りやがった

サトコ

「違うんです!確かに、室長にラーメン奢ってもらいましたけど」

加賀

主人を待たせて他の男とラーメンとはな

テメェには、褒美より躾の方が必要だったか

サトコ

「あわわ‥」

バスルームにつく前に、ブラウスを脱がされて甘い躾が始まる。

加賀さんの誕生日が過ぎても、激しいお仕置きは終わることがなかった。

Happy  End



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