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誕生日 颯馬2話

【試合会場】

(‥テーピングとサポーターで足を固定したし、大丈夫だよね)

客席を見ると、颯馬さんの姿が目に入る。

(颯馬さんが見守ってくれているんだから、絶対に勝たなきゃ!)

不安と緊張を押し殺しながら、私は試合に臨む。

何度か足は痛んだものの、私はなんとか決勝まで進むことができた。

サトコ

「‥っ」

(やっぱり固定していても、踏み込んだ時が痛い‥)

(でも、この人を倒せば優勝‥!颯馬さんのためにも、勝って優勝しなきゃ!)

気迫が痛みを超える、とはこういうことを言うのかもしれない。

そして‥‥

サトコ

「てぇぇぇぇぇい!」

私は最後の相手を倒し、何とか優勝することができた。

サトコ

「颯馬さん、勝ちました!私、優勝しましたよ!」

颯馬

‥‥‥

試合が終わった後、私はすぐに颯馬さんの元に駆け寄る。

しかし‥‥

(あれ‥?なんか、怒ってる‥?)

サトコ

「颯馬さん、どうしたんですか‥?」

颯馬

試合は見事でした。素晴らしい試合だったと思います

サトコ

「‥あ、ありがとうございます!」

颯馬

ですが、怪我をして試合に挑むなんて言語道断です

サトコ

「え‥」

颯馬

右の足首、捻挫をしていますね

サトコ

「‥っ」

颯馬

テーピングで固定しているぶん、動きも固くなっていました

‥それに、踏み込んだ時に僅かな隙ができていました

それは、踏み込んだ時に痛みがあったからじゃないですか?

サトコ

「‥!」

まさかすべて見抜かれているとは思わず、私は返す言葉に困ってしまう。

颯馬

どうして、そうまでして試合に出ようとしたんですか

サトコ

「‥勝って、颯馬さんにプレゼントしたかったんです」

颯馬

サトコさんの気持ちは嬉しいです

ですが、私のために貴女が無理をするのは我慢ならないんですよ

サトコ

「あ‥」

(そうだ、無理をしたせいで捻挫が酷くなってしまう可能性だってあったんだ)

(‥颯馬さんを喜ばせたかっただけなのに、逆に呆れさせてしまうなんて)

優勝できた嬉しさも、すっかり消えてしまい、私は落ち込んでしまう。

颯馬

さて、それじゃ帰りましょうか

サトコ

「は、えっ!?」

ふわり、と浮遊感が襲ってきたかと思うと颯馬さんにお姫様抱っこをされていた。

サトコ

「あのっ、颯馬さん‥!?」

颯馬

怪我をした貴女をそのまま歩かせるわけにはいかないですからね

私に黙っていた罰です。そのまま大人しくしていてください

サトコ

「で、でも‥」

颯馬

外にタクシーを待たせていますので、私の家で手当てしましょう

(えっどうしよう‥!夜はディナーの予約をしているんだけど‥!)

試合が終わった後、一度帰って着替え、待ち合わせをして店に向かおうと考えていた。

(‥どうしよう、颯馬さんの家に着いてからでも話した方がいいよね?)

タクシーに乗せられながら、私はそんなことを考えていた。

【颯馬マンション】

颯馬

ディナー、ですか?

颯馬さんの家に着き、私は今夜の予定を話した。

サトコ

「‥はい。今日は颯馬さんの誕生日ですから‥」

颯馬

ありがとうございます

ディナーもいいですけど、今日は家でまったりしませんか?

サトコ

「でも、せっかくの誕生日なのに‥」

颯馬

誕生日だからこそ、他人に邪魔されず、家でふたりきりで過ごしたいんですよ

‥今日は、誕生日ですから、私の言うことを聞いてくれますよね?

サトコ

「‥っ」

耳元で囁かれ、一気に頬に熱が集まってくる。

颯馬

フフ、その表情を見れば答えは聞かなくても分かりますね

さて、まずは足の手当てをしましょう

サトコ

「‥はい」

優しくソファに座らされ、テーピングとサポーターを外す。

颯馬

‥予想していたよりも酷いですね

トレーニング中も痛みがあったはずです

サトコ

「‥試合のため、我慢してました」

颯馬

貴女は妙なところで我慢強すぎます

(颯馬さん‥家で過ごそうっていうの、私を気遣ってくれたんだ)

(今日の主役は颯馬さんなのに‥)

颯馬

‥来年の誕生日、連れて行ってくださいね

サトコ

「え?」

颯馬

今日、貴女が連れて行ってくれるはずだったお店です

颯馬さんは私の気持ちを察してくれたのか、いつもの優しい微笑みで告げてきた。

サトコ

「‥はい!」

(せっかくだし、何か颯馬さんのためにしたいな‥)

サトコ

「あっ、あの!キッチン借りてもいいですか?」

颯馬

構いませんけど、どうしたんですか?

サトコ

「ケーキを作らせてください」

颯馬

‥サトコさんの気持ちは嬉しいんですが、足を怪我しているのに‥

サトコ

「颯馬さんが手当てしてくれて、だいぶ痛みも治まりました」

「それに、今日は誕生日なんですから、私にも何かさせてください」

颯馬

‥‥‥

分かりました。けれど無理をしてはいけませんよ?

サトコ

「はい‥!」

サトコ

「颯馬さん、ケーキが完成しました!」

あれから暫く経ち、私は自信作とも言える出来栄えのケーキを完成させていた。

颯馬

フフ‥

サトコ

「え?な、何ですか‥?」

颯馬さんがリビングに戻ってくると同時に、おかしそうに笑う。

颯馬

いいえ、なんでもありませんよ

美味しそうなケーキだな、と思っただけです

サトコ

「‥?」

(何かを隠しているような気がするけど‥気のせい、だよね?)

颯馬

サトコさん、せっかくですから食べさせてもらってもいいですか?

サトコ

「‥っ」

颯馬

誕生日ですから、食べさせてくれますよね?

(そ、そんな笑顔を見せられたら断れない‥!)

サトコ

「ど、どうぞ‥」

颯馬

‥ん、とっても美味しいです

サトコ

「よかった‥!」

颯馬

でも‥

サトコ

「‥!」

颯馬さんが身を乗り出してきて、私の鼻の頭をぺろっと舐めてきた。

サトコ

「颯馬さん‥!?」

颯馬

‥こっちも甘くて美味しいですね

(鼻の頭に生クリームがついてたんだ‥!)

サトコ

「お、教えてくれてもいいじゃないですか‥」

颯馬

可愛らしかったので、つい、意地悪をしたくなりました

サトコさんが作ってくれたケーキも美味しいんですが‥

‥今は、サトコさんをいただいても‥いいですか?

サトコ

「で、でも‥っ」

颯馬

俺にとって、一番のプレゼントを‥‥ちょうだい?

私の唇を指でなぞりながら、颯馬さんが妖艶に微笑む。

サトコ

「‥っ」

颯馬

‥誕生日プレゼント、もらえないんですか?

サトコ

「‥お誕生日、おめでとうございます」

気恥ずかしさを堪えながら、私は颯馬さんにキスをする。

颯馬

フフ、この甘さはケーキのせいでしょうか

それとも、貴女自身の甘さなんでしょうか

サトコ

「け、ケーキのせいですっ!」

颯馬

そうですか?

では、もう少しだけこの甘さを堪能させてもらいましょう

サトコ

「あ‥」

おでこをくっつけながら、颯馬さんが優しく呟く。

少し動けば触れ合いそうな唇に、私のドキドキは増すばかり。

颯馬

サトコさん、素敵な誕生日をありがとうございます

来年も、再来年も、ずっと一緒に誕生日を過ごしてくださいね

サトコ

「‥もちろんです」

颯馬

もう少し、こうしていましょうか

この幸せをもっと実感していたいですから‥

おでこをくっつけ合いながら、私たちは小さく笑いあう。

(予定外の誕生日になったけど、颯馬さんも嬉しそうだしよかった‥)

(来年は、ちゃんとサプライズをしたいな‥)

心の中で呟いた後、私はもう一度だけ彼にキスをしたのだった。

Happy   End

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