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アナタの誕生日 加賀

【ブティック】

誕生日、加賀さんとの待ち合わせ場所に到着した直後、無理やり車に押し込められた。

そしてそのまま、有無を言わさず高級そうなブティックに連れ込まれる。

(な、何事!?今日は私の誕生日だよね!?)

(甘いデートが出来るかと思ってたのに‥突然の拉致!?)

店員

「加賀様、いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」

加賀

ああ

どうやらそこは加賀さんの行きつけのお店らしく、店員たちが恭しく頭を下げている。

(こんな高そうなお店で、普段から買い物してるんだ‥)

(時計にネクタイ、シャツ‥どれも素敵だな)

加賀さんに手を引かれながら、店内を眺めて歩く。

すると置いてあった服を手に取り、加賀さんがそれを私に押し付けてきた。

加賀

とっとと着替えて来い

サトコ

「え!?」

服と一緒に、試着室に放り込まれた。

【試着室】

(これは、一体‥)

(あまりにも突然の出来事で、何がなんだかさっぱり)

大きな鏡の前で服を手に呆然としていると、外から声が聞こえて来た。

加賀

テメェ、着替えてんのか?

サトコ

「き、着替えてないです!今から着替えます!」

(なんで誕生日なのに、こんなに脅されてるの!?)

(身の危険を感じる‥!とにかく、急いで着替えなきゃ)

シンプルな黒のドレスに着替えたものの、背中のファスナーに手が届かない。

サトコ

「くっ‥私の手があと3センチ長かったら‥!」

加賀

着れねぇなら、さっさと呼べ

サトコ

「わーっ!」

試着室のドアが開き、すぐに閉まる。

着替え途中だというのに、加賀さんはお構いなしだ。

サトコ

「ひ、一人で着替えられますから!」

加賀

喚くな

私の背中に手を伸ばすと、髪の毛が引っかからないように優しくファスナーを上げてくれた。

でも加賀さんの指が背中に微かに触れて、くすぐったさにぎゅっと目を閉じる。

加賀

‥発情してんのか

サトコ

「‥‥‥!」

「し、してな‥」

加賀

鏡の前で、ってのも、悪くねぇな

(なんの話‥!?)

ファスナーを最後まで上げる前に、加賀さんが私のうなじに唇を押し付けた。

サトコ

「んっ‥」

加賀

外に聞こえる

サトコ

「や、やめ‥」

加賀

見られる方が興奮するテメェには、願ったり叶ったりだろうな

(だから、そういう趣味はないって言ってるのに‥!)

腰を抱き寄せられ、まるで鏡の前で見せつけるように加賀さんがドレスの上から手を這わせる。

頬を真っ赤に染めた自分を見るのが、この上なく恥ずかしい。

加賀

‥続きは、あとだ

すぐに脱がしちゃ、着せた意味がねぇ

サトコ

「ううっ‥刺激が強すぎます‥」

涙目の私を置いて、加賀さんはさっさと試着室を出て行った‥

試着室を出ると、加賀さんの姿がない。

(どこに行ったんだろう?そういえばこのドレス、値札がついてなかったけど)

男性店員

「加賀様でしたら、いまお会計をされてますよ」

振り返ると、優しそうな男性店員が笑顔で立っていた。

サトコ

「そうですか‥じゃあ、ここで待ってます」

男性店員

「そのドレス、先日加賀様がいらっしゃってお取り置きされてたんですよ」

サトコ

「え?」

男性店員

「無言でいろんなドレスを見て、それに決められてました」

(そ、そうだったの‥?その辺にある適当なドレスを掴んで着せたみたいな感じだったけど)

(私のために、わざわざ下見に来てくれたんだ‥)

男性店員

「さすが加賀様の見立てですね。本当にお綺麗です」

サトコ

「そ、そんな‥」

加賀

おい

低い声が聞こえて振り返ると、加賀さんが負のオーラを纏って立っていた。

サトコ

「ヒィッ!」

加賀

ちんたらしてんじゃねぇ。行くぞ

私の腕をつかみ、加賀さんは問答無用で店をあとにした。

【ホテル】

ブティックを出たあと、車に押し込められ‥

連れて来られたのは、誰もが知っている高級ホテルだった。

(ここって、もしかして‥)

【加賀マンション】

サトコ

「加賀さん!『女王様のブランチ』、始まりましたよ!」

加賀

興味ねぇ

サトコ

「そう言わず!今日はフレンチが美味しいレストランの紹介だそうですから!」

リポーター

『こちらのシェフはなんと、幼少の頃からフランスに住んでいたということで‥』

サトコ

「わあ‥すごく素敵なレストランですね」

「こういうところの料理、一生に一度は食べてみたいな」

加賀

くだらねぇな

【ホテル エレベーター】

(‥あの時のレストランが入ってるホテルだよね)

(結構前のことだったのに‥覚えてくれてたんだ)

でもなぜかエレベーターは、レストランのあるフロアを通り過ぎてさらに上階を目指す。

サトコ

「加賀さん‥?」

加賀

あとでルームサービスを取ってやる

私の言いたいことを理解したのか、不機嫌そうな表情のまま加賀さんがエレベーターを降りた。

【部屋】

部屋に連れ込まれると、突然、壁に背中を押し付けられた。

サトコ

「!」

加賀

誰かれ構わず尻尾振ってんじゃねぇ

だからテメェは、いつまで経っても駄犬だって言ってんだ

サトコ

「あ、あの‥なんの話ですか‥?」

加賀

服を褒められたくらいで、いい気になりやがって

(それって、もしかして‥さっきのブティックの店員さんのこと!?)

男性店員

『そのドレス、先日加賀様がいらっしゃって取り置きされてたんですよ』

『無言でいろんなドレスを見て、それに決められてました』

店員さんの言葉を思い出して、口元が緩む。

加賀

何ニヤニヤしてやがる

サトコ

「このドレス‥選んでくれてありがとうございます」

「加賀さんが選んでくれたドレスだから、あんなに『似合う』って言われたんですね」

加賀

‥‥‥

取り置きしていたことを教えてもらったのは、黙っておこうと決める。

でも加賀さんは、私の言葉からなんとなく悟ったようだった。

加賀

‥チッ

頬を緩ませる私の手を取り舌打ちすると、加賀さんが寝室へと向かう‥

【寝室】

寝室には花や風船が飾られていて、まるでお姫様気分だった。

サトコ

「すごい‥!加賀さんがやってくれたんですか!?」

加賀

んなわけねぇだろ

サトコ

「ですよね‥」

(じゃあ、ホテルの人が飾ってくれたのかな)

(私の誕生日だって、伝えておいてくれたんだ)

私を抱き寄せると、加賀さんがベッドに腰を掛ける。

加賀

今日は、テメェの好きにさせてやる

サトコ

「え?」

加賀

誕生日だからな

サトコ

「い、いいんですか?」

(こんなこと、もう二度とないかもしれない‥!)

(それなら‥起きてる加賀さんの顔を、じっくり見たい!)

隣に座る、大好きな人の顔を見上げる。

でも整った顔があまりにも素敵で、長く見ていられなかった。

サトコ

「ダメだ‥こんなに好きなのに!」

加賀

何してやがる

サトコ

「あ、あの‥手、つないでもいいですか?」

手を重ねると、加賀さんが指を絡めてくれる。

あまりにも幸せで、そっと加賀さんの肩に寄りかかった。

サトコ

「加賀さん‥好きです」

加賀

‥‥‥

サトコ

「大好きです‥」

加賀

いちいち言葉にしなくてもわかる

‥今日は、テメェが生まれた日か

ぼつりとこぼす加賀さんの声が、耳をくすぐった。

加賀

テメェは、生まれた瞬間から俺のもんだ

サトコ

「‥はい」

加賀

心も身体も、全部な

サトコ

「ふふ‥嬉しいです」

加賀

あ?

サトコ

「自分の全部が加賀さんのものなんて‥幸せすぎます」

加賀

‥マゾが

クッと笑い、加賀さんが私に体重をかけてくる。

広いベッドに押し倒されて、口の端を持ち上げて笑うその顔が、間近に迫った。

サトコ

「かっ、加賀さん?」

加賀

日付が変われば、こっちの番だ

サトコ

「えっ!?」

慌てて時計を見ると、深夜0時を過ぎている。

(いつの間に‥!?)

加賀

テメェの全部が俺のものになるのが、嬉しいんだったな?

サトコ

「‥‥‥!」

加賀

特別に、テメェの望むようにしてやる

いつものように言葉は乱暴なのに、手と唇はこれ以上ないほど甘い。

(『誕生日おめでとう』なんて優しい言葉は言ってもらえないけど‥)

加賀

テメェは、生まれた瞬間から俺のもんだ

その言葉が、どんな『おめでとう』よりも嬉しい。

加賀さんに翻弄されながらも、幸せな誕生日が過ぎていった‥

Happy   End

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