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ほてりが冷めるまで 加賀1話

【個別教官室】

それは、朝から真夏日になった、ある夏の日。

(暑い‥けど、“あのこと” を考えたら全然つらくない!)

(いつ、加賀さんに切り出そうかな‥うまく誘導しないと、瞬殺される可能性が高い‥)

サトコ

「まずは、『このごろ暑いですよね~』って挨拶から始めて」

「『加賀さん、最近海行きました?実は私‥』よし、この流れでいこう!」

加賀

‥おい

サトコ

「は、はい!加賀さん、最近海行きました!?」

加賀

‥‥‥

急に話しかけられて焦ったせいで、冒頭部分を吹っ飛ばしてしまった。

サトコ

「ああっ、違うのに!」

加賀

‥‥‥

チッ‥めんどくせぇ

サトコ

「すみません‥会話のキャッチボールができなくて‥」

加賀

そりゃいつものことだろ

浮かれやがって‥何があった

本気でめんどくさそうにしながらも、加賀さんが一応、聞いてくれる。

サトコ

「実は、昨日の休みに鳴子と水着を買いに行ったんです!」

加賀

おい、この事件の詳細が書かれた資料、どこやった

サトコ

「あれ?それだったら、加賀さんの目の前にあるファイルの一番最後に挟まってるはず‥」

「って、あの‥私の水着の話題はどこへ」

加賀

まだ続いてたのか、その話は

サトコ

「今始まったばかりですよね‥!?」

(はあ‥加賀さんがこういう話に興味ないって知ってたけど‥)

(でもちょっとくらいは、私の水着姿を想像してドキドキしてくれたり‥)

チラリと加賀さんを見ると、私の考えを見破ったのか、嘲笑を浮かべた。

加賀

今さら、テメェの水着で欲情すると思うか

サトコ

「ううっ‥そこまで言わなくても!」

(でも、そうだよね‥数々の美人と付き合ってきたであろう加賀さんが‥)

(今さら、私の水着姿を見たところで何も感じるはずがない‥)

しょんぼりしながら仕事の手伝いをしていると、隣からため息が聞こえて来た。

加賀

‥他の男に見せる義理はねぇ

サトコ

「え?」

加賀

来週の週末、空けとけ

サトコ

「!!」

「そっ、そっ、それは‥」

加賀

人が多い海なんざ、ごめんだからな

プールぐらいなら、付き合ってやる

サトコ

「行きます!ありがとうございます!」

(加賀さんとプール‥!絶対無理だと思ってたのに)

(嬉しすぎる‥仕事と勉強、頑張ろう!)

大喜びで手伝いをしていると、なんとなく視線を感じた。

振り返ると、加賀さんが難しい顔で私を見ている。

サトコ

「あ、あの‥」

加賀

テメェ‥

サトコ

「ヒィ!?」

ガッと、勢いよく腕をつかまれる。

恐怖に身を引こうとする前に、何度も二の腕をむにゅむにゅと触られた。

サトコ

「かっ、加賀さん‥!?」

加賀

‥まだ許容範囲だな

ちゃんと、飯食ってんのか

サトコ

「うーん‥言われてみれば、暑さのせいで食べる量が少し減ったかもしれません」

「おかわりも、一回しかできないし‥」

加賀

食ってんじゃねぇか

サトコ

「でも、一回ですよ?あれだけ厳しい訓練をこなして、たったの一回‥」

加賀

もういい

(呆れられた‥!?おかわりする女は嫌いですか!?)

でも加賀さんは特に気にした様子もなく、もう一度私の二の腕に触れた。

加賀

許可なく、勝手にこの柔らかさをなくすんじゃねぇ

<選択してください>

A: そろそろ痩せたいです

サトコ

「でも、夏だし‥そろそろ痩せたいんですけど」

加賀

好きにしろ

俺のテメェへの興味が消えるだけだ

サトコ

「うそです!頑張って太りますから!」

加賀

別に太らなくていい

余分な脂肪がついて現場で動けねぇようなら、捨てる

サトコ

「う、動きます!そりゃもう、機敏に!」

B: ごはん三回おかわりします!

サトコ

「わ、わかりました!頑張ってごはん三回おかわりします!」

加賀

‥食い過ぎだろ

サトコ

「でもこの前黒澤さんは、食堂のお釜のごはんがなくなるまで食べてたらしいですよ」

加賀

あいつは何で、学校に入り浸ってる‥

サトコ

「居心地がいいんじゃないですかね‥」

C: なくしたらどうなりますか?

サトコ

「ま、万が一、柔らかさを失くした場合‥どうなりますか‥?」

恐る恐る尋ねると、加賀さんが冷たい表情のまま淡々と告げた。

加賀

それは、テメェが一番よく理解してんだろ

サトコ

「すっ、捨てるのだけは勘弁してください‥!」

加賀

それは、テメェ次第だな

(絶対、これ以上痩せないようにしよう‥)

(さて、と‥コーヒー淹れて来ようかな。夏は水分をたくさん取らなきゃだし)

(加賀さんとのデートまで、夏バテしてる場合じゃないし‥気合で暑さを乗り切ろう!)

【カフェテラス】

その週が終わる頃には、私も鳴子も、ぐったりしていた。

鳴子

「夏だから気が緩みやすい‥っていう理由で、テストとか厳しい訓練が多いけど」

「この学校で気が緩むことなんてありえないんだから、テストなんていらないよね‥」

サトコ

「でも、私たちは夏でも冬でも、いつだって気を引き締めてないと!」

「そのためには、日々の訓練とテストを頑張らないとね」

鳴子

「サトコ、ずいぶん張り切ってるね~」

(それは、来週末に加賀さんとのプールデートがあるから‥とは言えないけど)

(ちょっとでも成績が下がったり不甲斐ない結果だと、デートがなくなりそうだし)

鳴子

「もしかして、なんかいいことあった?」

サトコ

「えっ?そ、そんな‥」

鳴子

「サトコってわかりやすよね~。思ってることが全部顔に出てる」

サトコ

「全部!?」

加賀

‥‥‥

ハッと振り返ると、ちょうど加賀さんがすぐ横を通りかかった。

(い、今の‥聞かれた?)

ハラハラする私を鼻で笑い、加賀さんはこのままカフェテラスを出て行く。

鳴子

「あちゃ~、加賀教官に聞かれたね」

サトコ

「うう‥は、恥ずかしい‥」

鳴子

「恥ずかしいっていう前に、『浮かれてる場合じゃねぇ』って課題増やされるかもよ」

サトコ

「それはそれでつらい‥」

鳴子

「そういえばサトコ、最近顔色よくないけど大丈夫?」

サトコ

「うーん、自分ではわからないけど‥やっぱり、ごはんのおかわり一回は少ないかな‥」

鳴子

「それ、関係あるの?」

鳴子に呆れられながら、ランチを食べ終えた。

【寮 自室】

デート当日の朝、前日からけだるさが抜けなかったせいか、すっかり寝坊してしまった。

(まずい‥このままじゃ間に合わない!)

(プールだからメイクは最小限にして‥持ち物は昨日準備しておいたし)

サトコ

「ダメだ、朝ごはん食べてる時間がない!」

「おなかを引っ込ませるためにも、いっそ抜いた方がいいかもしれないな‥」

準備しながらテレビをつけていると、天気予報のコーナーに切り替わった。

お天気お姉さん

『今日は猛暑日になりそうなお天気です!』

『日焼け対策はしっかりと、また、食事は抜かず、体調管理にご注意ください』

(食事は抜かずに、か‥でもここ数日、あんまり食欲ないんだよね)

テレビを消そうとした時、ゆらりと目の前の景色がぼやけた。

慌ててソファにつかまり、とりあえずテレビを消す。

(立ちくらみなんて珍しいな‥テストと訓練に追われて、寝不足だったせいかも)

(でも今日はせっかく加賀さんが時間を作ってくれたし‥私も、ずっと楽しみだったんだから!)

自分を奮い立たせて、ひとまず立ちくらみのことは忘れて家を出た。

【改札口】

家を出る前にたくさん水分をとって、待ち合わせ場所にやってきた。

(でも、寝坊したせいで少し遅れちゃった‥!)

(加賀さん、もうとっくに来てるよね‥)

予想通り、待ち合わせ場所には加賀さんが立っていた。

サトコ

「加賀さん、すみません!」

加賀

遅ぇ

着いた瞬間、思い切りデコピンされた。

でもその瞬間、クラッと視界が瞬き、身体が傾く。

サトコ

「わっ‥と‥」

加賀

‥‥‥!

<選択してください>

A: 加賀に寄りかかる

体勢を立て直すことができず、そのまま加賀さんに寄りかかった。

加賀

‥‥‥

サトコ

「す、すみません」

加賀

‥別にいい

B: 言い訳する

サトコ

「あの‥実は今日、寝坊して朝ごはん食べてないので」

「おなかが空きすぎるあまり、立ちくらみが‥」

加賀

‥いつからだ

サトコ

「え?立ちくらみは、今朝だけですよ」

加賀

‥‥‥

C: デコピンの威力が‥

サトコ

「す、すみません‥加賀さんのデコピンの威力がすごくて」

加賀

いつもと同じだ

サトコ

「そうですか?いつもの1.5倍だった気が」

加賀

‥いいから、黙って歩け

何もなかったように、加賀さんが歩き出す。

でもなんとなく、いつもより歩調が緩やかな気がした。

(普段は、私を置いていく勢いでさっさと歩くのに)

(でもこれは、並んで歩くチャンス!)

隣に並ぶと、加賀さんの横顔に見惚れそうになる。

加賀

じろじろ見るんじゃねぇ

サトコ

「あ‥バレてましたね‥」

「ところで、どこに行くんですか?」

加賀

車だ

サトコ

「そ、そうじゃなくて‥どこのプールに行くのかなって」

「市民プールなら、方向が逆ですよ」

加賀

市民プールになんざ、行ってられるか

(確かに、加賀さんと市民プールはあんまり結びつかない‥)

私の隣で、加賀さんは暑いのか額に汗をにじませている。

(手、つなぎたいけど‥暑苦しいって振り払われるかも)

(‥ここならいいかな)

そっと服の裾をつかむと、やっぱり振り払われた。

加賀

暑苦しい

サトコ

「うう‥」

手をひっこめる前に、ひったくるように加賀さんにその手を掴まれる。

サトコ

「え‥」

加賀

つかむならこっちだろ

サトコ

「は、はい!」

(人混みでもないのに、加賀さんが自分から手を繋いでくれるなんて‥う、嬉しい)

(今日の運、全部使い果たしたかも‥!)

【ホテル】

どうやら、加賀さんはホテルのプールを利用するつもりのようだった。

(でも、このホテル‥ものすごく高いって有名じゃ)

(プールも豪華で、利用者が少ないからのんびりできるって)

ホテルを見上げながら車を降りた瞬間、またぐらりと視界がゆがむ。

(あ‥なんか、朝よりめまいがひどくなってるかも)

クーラーの効いた車のドアを開けた瞬間、外の熱気が一気に入り込んでくる。

運転席を降りて私の方へ回り込んできた加賀さんに、フラついたまま寄りかかってしまった。

サトコ

「あ‥すみません‥」

加賀

‥やめだ

サトコ

「え‥?」

私の手を引き、加賀さんがホテルの中へと向かう。

聞き返したいのに、暑さのせいか言葉が出てこない。

(加賀さん‥『やめだ』って、どういうこと‥?)

to  be  continued

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