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誕生日 東雲1話

【カフェテラス】

それは、七夕から数日後のこと。

サトコ

「教官!東雲教官ーっ」

東雲

なに、うるさ‥

サトコ

「見てください!この間の小テスト!」

「100点です!ついに念願の100点満点です!」

東雲

‥‥‥

‥あっそう。でも‥

サトコ

「わかってます!教官の補佐官として、これくらい当然ですよね!」

「でも、これで少しだけ胸を張れます」

「ようやく、東雲教官の補佐官として、誇りを持って‥」

黒澤

どうもー!

サトコ

「!?」

黒澤

いやぁ、大きな声がすると思ったら、やっぱりサトコさんでしたか

で、なんですか?小テスト‥

あっ、すごいじゃないですか!100点なんて

ねっ、歩さん!

東雲

べつに。それくらい普通だけど

ていうか、透ジャマ。退いて

黒澤

ハハッ、そうでしたね

ところで歩さん、今年は何がいいですか?

何かご希望のものはありますか?

東雲

希望ってなにが?

黒澤

やだなぁ、もうすぐ歩さんの誕生日じゃないですか

(え‥)

黒澤

プレゼント、なにがいいですか?

なんなら後藤さんたちに声をかけて一席設けても‥

サトコ

「ま、待ってください!」

「東雲教官、もうすぐ誕生日なんですか!?」

東雲

だからなに?

サトコ

「『なに』じゃないです!誕生日、いつですか!?」

黒澤

「歩さんのですか?えっと、7月‥

東雲

いいって、透。わざわざ教えなくても

今教えたら、オレがプレゼントを催促してるみたいじゃない

サトコ

「いえ、そんなことは‥」

東雲

大丈夫、ほんと気にしないで

誕生日なんてどうでもいいし

ああ、でも‥

オレは知ってるけどね

氷川さんの誕生日

サトコ

「!」

東雲

ほら、ちゃんと登録してるし

スマホのカレンダーに

黒澤

あ、ほんとだ。意外とマメですね、歩さん

東雲

そりゃね

大事な補佐官の、大事な誕生日だし

サトコ

「!!」

東雲

でも、気にしないで

オレとしては十分だから

キミが小テストで100点取ってくれただけで

サトコ

「そ、そうですか‥」

「それじゃ、その‥失礼します‥」

フラつく足取りで、私はなんとかその場を後にした。

そして‥

【廊下】

(バカーッ!バカバカバカーっ!)

(私ダメすぎ!補佐官としても恋人としても失格だっ!)

小テスト100点なんかで喜んでる場合じゃない。

今、私がやらなければいけないこと‥それは‥

(とにかく速攻で教官の誕生日を調べないと!)

(まずはモニタールームに行って‥)

(そこから職員情報のDB(データベース)にアクセスして‥)

ブーッ!ブーッ!

(えっ、教官からメール?)

サトコ

「『先日C署の婦人警官の個人情報を知ろうとして』」

「『職員DBにアクセスした警視庁の巡査部長が処分をくらったって‥』」

(怖っ‥手の内、読まれてるんですけど!)

(こ、こうなったら他の手を‥)

(でも、DBにアクセスできないとなると、どうすれば‥)

【個別教官室】

そんなわけで、その日の夜。

サトコ

「失礼しまーす‥」

(‥よし、誰もいない)

(そうだよね。教官、今日は19時から警視庁に行ってるはずだもんね)

それでも、念のため足音を忍ばせて、私は教官の机に近づいた。

(書類関係は、机の一番上の引き出しに入ってたはずだけど‥)

(‥ダメだ、鍵がかかってる)

(となると、何かほかのものを‥)

サトコ

「あっ、カレンダー!」

(もしかしたら、誕生日の日付にしるしをつけてるかも!)

(よし、今すぐチェック‥)

サトコ

「ん?」

(まだ6月のままになってる‥めくり忘れたのかな)

(えっと、7月のカレンダーは‥)

ひらっとめくったとたん、大きな付箋が目に飛び込んできた。

(なにこれ‥なんでこんなところに付箋が‥)

サトコ

「『ハズレ』‥」

「!?」

(ま、まさか、ここに忍び込むこともバレて‥)

(ううん、こんなの、ただの偶然に決まってる!)

(よし、次‥!)

ところが、その後も‥

サトコ

「『ハズレ』!?」

「『ハズレ』!?」

「また『ハズレ』‥!?」

そうして、いたずらに時間だけが過ぎてゆき‥

サトコ

「はぁ‥はぁ‥」

(こんなに調べてるのに、まだなにも分からないなんて‥)

(しかも、調べた先に、片っ端から『ハズレ』の付箋って‥)

サトコ

「ダメだ、いったん休もう」

へなへなと床に座り込むと、私は深く息をついた。

(どうしよう‥これ、完全に手の内を読まれてるよね)

(ってことは、教官室で探るのはもう無理‥)

サトコ

「ん?」

(なんだろう、この雑誌‥『月刊恐竜』‥?)

(こんなの、初めて見るなぁ。創刊したばかりなのかな)

(あ、このページ、端が折ってある‥)

サトコ

「『恐竜の化石占い』‥?」

(へぇ、マニアックな占いだなぁ)

(占い方は『誕生年』に3、『誕生日』に2を足して‥)

(その数字と誕生日を、この表であわせると‥)

サトコ

「あ、私‥『プテラノドンの化石』なんだ。教官は‥」

(たぶん、この『メガロサウルスの化石』だよね)

(ちょうどここにマーカーが引いてあるし‥)

サトコ

「!!」

(そうだ、この占いの票を使えば分かるかも!)

(教官の生まれた『年』と『誕生月』は分かってるから、あとは逆算して‥)

(それで、この表と照らし合わせて‥)

サトコ

「‥できた」

(すごい‥まさか、こんな方法で誕生日が分かっちゃうなんて)

(となると、次は誕生日の準備だよね)

【寮 談話室】

(まずはデートの場所だけど‥今回はどうしよう)

(教官の家でパンケーキでも作る?)

(でも、それだとホワイトデーと一緒だし‥)

サトコ

「あっ‥」

(このケーキ、可愛い!これ、作ってみたいな)

(でもそうなるとやっぱり『お家デート』ってこと?)

(せっかく年に一度の誕生日なのに?

鳴子

「おつかれー、なに見てんの?」

「えっ、『デート特集』!?なになに、誰かとデートするの?」

サトコ

「違‥その‥」

「友だち!友だちが今度『誕生日デート』をするらしいんだ!」

「でも、プランが決まらなくて困ってるみたいだったから」

鳴子

「ふーん、『誕生日デート』ねぇ~」

「だったら家で手料理を作るとかは?」

サトコ

「それも考えたんだけど、それじゃ、いつもどおりなんだよね」

「だから、いつもと違う感じがいいかなーなんて‥」

鳴子

「なるほど、そういうことね。となると‥」

鳴子はスマホを取り出すと、シャシャッと素早く操作した。

鳴子

「あった!ここなんてどう?」

「三ツ星ホテルの超高級レストラン!」

「ここ、料理もいいけど、内装や夜景もきれいなんだって」

「普段と違うデートがしたいならピッタリじゃない?」

(そっか、ホテルのレストランかぁ‥)

(そう言えば、教官と一度も行ったことなかったよね)

サトコ

「鳴子、そのサイトのアドレス教えて」

鳴子

「分かった!今メールするね」

(よし、今回は思い切って奮発しちゃおう!)

(せっかくの誕生日だし、いつもと違う特別な感じにしなくちゃ!)

【街】

さて、誕生日当日。

東雲

ねぇ、本気なの?

今日はキミがおごるって

サトコ

「もちろんです!この間ボーナスが入りましたし」

「せっかくだから、日頃お世話になってる教官にご馳走しようかと!」

東雲

ふーん‥

で、どこに行くの?

ファミレス?居酒屋?

なんなら、いつもの屋台でも‥

サトコ

「いえ、お店はもう予約してますから」

「さあ、行きましょう!」

(そう、今日の私はいつもと違うんだから)

(お店の予約はばっちり、サプライズも仕込み済み!)

【ホテル】

(あとは教官に喜んでもらうだけ‥)

店員

「いらっしゃいませ」

サトコ

「2名で予約していた氷川ですが」

店員

「かしこまりました。どうぞ、こちらに」

東雲

‥‥‥

(よし、驚いてる、驚いてる!)

(まずは第一段階クリアだよね)

【レストラン】

店員

「こちらのお席にどうぞ」

サトコ

「ありがとうございます」

(うわっ‥夜景すっごくきれい!)

サトコ

「教官、外‥っ」

(っと、ダメダメ!)

(今日は教官が主役なんだから、少し落ち着かないと)

サトコ

「え、ええと‥その‥素敵な夜景ですね」

「なんか、こう‥キラキラしてるっていうか、ギラギラしてるっていうか‥」

東雲

‥そうだね

キミはテカテカしてるけど

サトコ

「えっ‥」

東雲

めずらしいね。グロスをつけてくるの

から揚げ食べたあとみたい

(うっ‥)

(それって、つまりダメ出し‥)

東雲

‥うそ。似合ってる

サトコ

「!」

東雲

たまに塗れば?

キミ、唇乾きやすいんだし

サトコ

「そ、そうですね‥」

(なんか、思ってた以上に雰囲気がいいかも)

(よし‥あとは楽しく食事をして、最後にとびきりのサプライズを‥)

東雲

ふぅ‥けっこう食べたね

サトコ

「おいしかったですか?」

東雲

まぁね

あとはコーヒーとデザートだっけ?

サトコ

「そうです。デザートはとびきりのものを用意してますんで!」

東雲

とびきりの?

すると、店内の照明が消されタイミングよく手拍子が響き渡った。

店員A

「♪ハッピーバースデートゥーユー」

店員B

「♪ハッピーバースデートゥーユー」

(よし、きた!)

サトコ

「♪ハッピーバースデー、ディア~教官~」

東雲

サトコ

「♪ハッピーバースデートゥーユー」

歌い終えたところで、特別にお願いしていたケーキが運ばれてきた。

もちろん、真ん中には教官の年齢を記したロウソクが立てられている。

東雲

なにこれ‥パンケーキタワー?

サトコ

「そうです!今日のために用意しました!」

「まずはロウソクを吹き消してください」

東雲

‥分かった

ふっと炎が消えた瞬間、店内は大きな拍手に包まれた。

どうやら他のお客さんたちも、一緒に拍手してくれたようだ。

サトコ

「誕生日おめでとうございます、教官!」

東雲

‥ありがと

さらに教官は立ち上がると、店員さんや他のお客さんにも丁寧に頭を下げた。

おかげで、拍手はいっそう大きくなって‥

(よかった!サプライズ、大成功だよね)

【外】

(うーん、最高!)

(料理もおいしかったし、サプライズも成功したし!)

東雲

いい笑顔だね

サトコ

「えっ」

東雲

今のキミ

『私、やり遂げましたー!』って顔してる

教官は、いつになく甘く微笑むと、私の顔を覗き込んできた。

東雲

今日はありがと

料理もおいしかったし

いろいろ驚かされたし

サトコ

「ホントですか?」

東雲

うん。久しぶりだよ

こんなに驚いたの

(あ、顔、近づいて‥)

キスの気配を感じて、私はそっと目を閉じる。

唇にかかる教官の吐息‥

とくん、とくんと心臓が鳴って‥

東雲

ところでさ

今日って何日?

サトコ

「え‥7月12日ですけど‥」

東雲

そうだよね。だったらさー

これ、見てもらえる?

ぶちゅ、と唇になにかを押し付けられて、私は慌てて目を開けた。

サトコ

「な、なんですか、いきなり!」

(って、これ‥教官の運転免許証‥)

サトコ

「!!」
(こ、この生年月日は‥)

東雲

ほんと、すごいサプライズだよねー

何でもない日に、いきなり『ハッピーバースデー』なんて

(うそーっ!)

to  be  continued

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