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アナタの誕生日 東雲

【東雲マンション リビング】

私の誕生日当日。

教官の部屋にいるけれど‥‥

(誕生日に関する話題はゼロ‥教官、私の誕生日知らないのかも‥)

(けど、自分から今日は誕生日ですって言うのも、図々しいよね?)

ソファに並んで座り、教官は『世界のサーバールーム』という本を読んでいる。

(私も教官の誕生日知らなかったし‥そこはお互いさまっていうか‥)

どうしたものかと、ちらちらと教官の顔を見ていると目が合う。

東雲

なに?

サトコ

「えっ」

東雲

さっきから人のことジロジロ見て、何なの?

いつにも増して挙動不審なんだけど

サトコ

「え、ええと‥」

訝しげな顔で見つめられ、私は唇を惑わせる。

(どうしよう‥)

東雲

あるんでしょ、なんか言いたいこと

サトコ

「は、はい‥」

念を押すような言葉に、私も観念する。

サトコ

「実は今日は‥私の誕生日なんですよね‥なんて」

(『おめでとう』だけでも言ってもらえたら嬉しいな)

そんな淡い期待を込めて話すと、教官は特に驚いた顔も見せなかった。

東雲

ふーん

サトコ

「‥‥‥」

(ふーんって、それだけ?私の誕生日、興味ないのかな‥)

東雲

冷蔵庫

サトコ

「えっ?」

東雲

ピーチネクター入ってるから、飲んでもいいよ

サトコ

「えっ!?ありがとうございます!」

(パシリじゃなくて、教官がピーチネクターをくれるなんて‥)

(もしかして、それが誕生日プレゼントってことかな)

(教官からのプレゼントなら、ピーチネクター1本でも嬉しい!)

【キッチン】

いそいそと冷蔵庫を開けに行くと‥‥

サトコ

「え?」

冷蔵庫を開けた瞬間に感じる甘い匂い。

中には桃のホールケーキが入っていて、

その隣にあるピーチネクターの缶にはメモが貼られていた。

『キミじゃないんだから知ってる』

(私の誕生日、覚えててくれたんだ!)

そのメモとケーキに嬉しさが込み上げ、私は冷蔵庫を閉めるとソファに走って戻った。

【リビング】

サトコ

「教官!」

そして勢いのまま教官に抱きついてしまう。

東雲

ちょ、暑い

サトコ

「ありがとうございます!」

東雲

‥はぁ

こういうの、ホント好きだよね‥

上から呆れたような声が降ってくるけれど、いつものように引きはがされることはない。

(あれ‥?)

引きはがされる代わりに、じわじわと教官の温もりが馴染んでくる。

(もしかして‥誕生日だから、特別にくっついてもいいのかな?)

ぎゅっと抱きついてから、私は教官を見上げる。

サトコ

「ケーキ、二人で食べましょう!」

「フォークとお皿の用意をしてきます!あとで片付けもします!」

東雲

ちょ‥

サトコ

「飲み物はピーチネクターでいいですよね?」

東雲

いいけど‥キミはいいわけ?

サトコ

「へ?最高に幸せですけど‥」

東雲

‥ふーん

(私の誕生日を覚えてくれてて、ケーキまで用意してくれて‥)

(ありがとうございます!教官!)

教官が用意してくれた桃のホールケーキ。

4等分し、私が3つも食べてしまった。

(美味しいケーキだったな‥)

ケーキを食べた後はソファに並んで、DVD化されたばかりの恋愛映画を観ている。

サトコ

「うっ‥」

(泣けるって評判の映画だったけど、本当に泣けちゃうな‥)

東雲

こんなので、よく泣けるね‥

サトコ

「このシーン感動しませんか?お互いのことを思って別れを決意するなんて‥」

東雲

自己満足じゃないの?

そう言いながらも、教官はテーブルにあるティッシュの箱をこちらに寄せてくれる。

サトコ

「ありがとうございます‥」

ティッシュをとって、恥ずかしながらも鼻をかませてもらう。

ぷぴーという音がすると、教官の顔がゆっくりと近づいてきた。

東雲

‥‥‥

サトコ

「あ、あの‥?」

(この距離はもしかして‥)

薄く開いた教官の唇を意識してドキッとしていると、その顔が思い切りしかめられた。

東雲

ヤバい顔。洗ってきなよ

泣いて赤くなった鼻をぷにっとつままれる。

サトコ

「そんなにヤバいですか?」

東雲

自分で確かめたら?‥それとも具体的に言ってあげようか?

サトコ

「い、いえ!洗ってまいります!!」

(はあ‥誕生日デートというのに、そんなひどい顔になるまで泣いちゃうなんて‥)

(とりあえず、顔洗ってこよう)

教官の温もりを名残惜しく思いながら、私は立ち上がると洗面所に向かった。

サトコ

「お待たせしました」

東雲

あんまり変わってないように見えるけど‥

サトコ

「そ、そんなことないですよ!ちゃんとまぶた冷やしてきましたし」

「近くでよく見てください!」

隣に座り直すと、何か固い感触がお尻の下にぶつかる。

サトコ

「ん?なにかクッションの下に‥」

腰を浮かせて見てみると、クッションの下に小さな箱があった。

手に取ってみると、それはリボンのかかったベルベットの細長いケース。

サトコ

「教官、これって‥?」

東雲

開けてみれば?

サトコ

「はい‥」

言われるがまま開けてみると、中にはプラチナのペンダントチェーンが輝いていた。

東雲

‥こっちがホントのプレゼント

サトコ

「え‥」

東雲

こんなチェーンじゃ、そのうち切れるし

教官は私がつけているガーベラのペンダントを外す。

そして新しいプラチナのチェーンに付け替えてくれた。

東雲

こっちに替えた方がいいでしょ

サトコ

「綺麗‥」

輝きを増したネックレスを私は見つめる。

東雲

‥誕生日だし、ワガママ聞いてあげてもいいけど

サトコ

「え!」

(教官がワガママを聞いてくれるなんて‥!)

サトコ

「じゃあキッ‥」

(いやいや、調子に乗らずに今日はしおらしくしよう、誕生日だから!)

サトコ

「やっぱりこのネックレス、着けてもらってもいいですか?」

東雲

‥‥

無言で教官の身体がこちらに傾く。

(え?)

後ろから着けられるかと思いきや、教官は正面からネックレスを着けてくれた。

(ち、近い!)

前髪が触れそうな距離にドキドキと鼓動が早くなる。

東雲

そういえば‥

サトコ

「は、はい?」

東雲

さっきキス、期待したでしょ

いつものキミだったら、こんな大人しくしてるわけないよね?

どうせ誕生日だからがっつかないように‥とか思ってたんだろうけど

サトコ

「!」

(全部見抜かれてた!)

図星を指され顔を上げると、すぐ近くで目が合う。

東雲

‥おめでと

(え!?今なんて‥?)

私の戸惑いをよそに、その顔にはいつものイジワルな笑みが浮かぶ。

東雲

1つ大人になったんだし、色気のあるキスできるよね?

(が、頑張ってみよう!)

うるさいほど早くなった鼓動を抱え、それでも頑張ってキスしてみると‥‥

東雲

ヘタクソ

もっと訓練が必要だね

サトコ

「んっ‥」

(教官は、やっぱりいつもの教官だけど‥)

(誕生日を祝ってもらえて、すごく嬉しい)

こんな日はイジワルさえも嬉しくて。

私は幸せな気持ちで、これまたイジワルなキスを受け止めていた。

Happy  End

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