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バーベキュー 後藤

【バーベキュー会場】

(ここはやっぱり‥)

心の中で他の教官に謝りつつ、テントを張る後藤さんに声を掛ける。

サトコ

「後藤教官、私も一緒に手伝います」

後藤

ああ、助かる

バーベキューをするには、色々と準備があるからな

サトコ

「テントが終わったら、私は何をすればいいですか?」

後藤

そうだな‥火起こし用の材料を持ってきてもらっていいか?

サトコ

「分かりました」

後藤さんに頼まれ、木の枝や新聞紙を持っていく。

サトコ

「あとは‥」

(この炭を持っていった方がいいよね)

サトコ

「よいしょ‥うっ、重い」

(これをひとりで運ぶのは大変だけど‥)

他の人たちも、忙しそうに動き回っている。

(持てない重さじゃないし‥)

ふらつきそうになりながら、炭を運んでいると‥‥

後藤

貸せ

サトコ

「あっ‥」

後ろからやってきた後藤さんが、私が持っていた炭を取った。

後藤

重いだろ?無理をするな

サトコ

「は、はい‥」

(あんなに重いのに‥)

軽々と炭を運ぶ後藤さんに、ドキッとする。

サトコ

「‥ありがとうございます」

後藤

ああ

後藤さんにお礼を言っていると、賑やかな声が耳に届く。

黒澤

わ~!立派なお肉ですね!

難波

せっかくのバーベキューだ。こういう時こそ奮発しねぇとな

黒澤

もしかして、難波さんからの差し入れですか?

さすが難波さん、男前!

東雲

うるさい。しゃべってないで手を動かしたら?

石神

働かざる者食うべからずだ

颯馬

フフ、やることは山ほどありますからね。黒澤の出番ですよ

黒澤

うぅ、こっちは相変わらず辛辣です‥

皆さん、もっとオレに優しくしてくださいよ~!

東雲

却下

(黒澤さん、頑張ってください‥!)

がくりと項垂れる黒澤さんに、心の中でエールを送る。

教官たちだけじゃなく、訓練生の皆も楽しそうにしていた。

後藤

なんだか、今日は賑やかだな

サトコ

「教官たちが仕事以外で集まるのも珍しいですよね」

後藤

ああ。特別な機会がないと、集まらないからな

サトコ

「後藤教官はこういうの嫌いですか?」

後藤

‥いや、たまには悪くない

皆を見て目を細める後藤さんに、私は笑みを返した。

男性同期A

「あれ?おかしいな‥」

男性同期B

「薪が足りないんじゃないか?」

追加の野菜を運んでいると、訓練生たちがコンロの前で困った顔をしているのが目に入った。

(どうしたんだろう?)

様子をうかがっていると、後藤さんが訓練生たちに声を掛ける。

後藤

どうした?

男性同期A

「それが、なかなか火が点かなくて」

後藤

貸してみろ

後藤さんはそう言って、コンロに入っていた炭を取り出し始める。

男性同期B

「せっかく炭を積んだのに、バラしちゃうんですか?」

後藤

ああ。この組み方だと、空気が通りにくいだろう?

炭の組み方を工夫して新聞紙を使えば、簡単に火を起こすことが出来る

手際よく炭を組み終えた後藤さんは、新聞紙に火を点けてうちわで扇ぐ。

男性同期A

「うわっ、あんなに苦戦してたのにもう火が点くなんて‥」

男性同期B

「さすが後藤教官ですね!」

後藤

あとはこのまま空気を送って、炭全体に火が回るようにすればいい

男性同期A

「はい!ありがとうございます」

男性同期C

「後藤教官!こっちもお願いしていいですか?」

後藤

ああ

それから後藤さんは各所を回って、訓練生たちにコツを教えていく。

(後藤さんって、結構面倒見がよかったりするのかな)

(ちょっとだけ、意外かも‥)

後藤さんの新たな一面を見て、自然と口元が緩んだ。

後藤

氷川。あっちにある枝を、小さく折って取ってきてもらえるか?

サトコ

「はい」

後藤

千葉、お前は追加の炭を‥

後藤さんは手際よく、皆に指示を出していく。

男性同期B

「後藤教官、この網なんですが‥」

後藤

ああ、これは‥

訓練生の皆も、そんな後藤さんを頼りにしているようだった。

サトコ

「後藤教官、枝ここに置いておきますね」

後藤

ああ

後藤さんは返事をしながら、服の袖で汗を拭う。

(すごい汗‥)

誰よりも動き回っている後藤さんだったけど、疲れた顔一つ見せない。

サトコ

「後藤教官って仕事だけじゃなくて、こういうときでもテキパキしててすごいですね」

後藤

いや、これくらい当然だ

(あっ‥)

後藤さんはほのかに頬を染めて、視線を逸らす。

(て、照れてるのかな?)

(こんなこと言ったら否定されるんだろうけど‥)

素直な反応を見せる後藤さんが、なんだか可愛く見える。

気付かれないように微笑んでいると‥

東雲

それ、持ってってよ

男性同期A

「はい!」

(‥ん?)

ふと、東雲教官の様子が目に留まる。

東雲

あっ、そっちのキミは火起こし担当ね

男性同期C

「は、はい!」

(東雲教官が皆に仕事を押し付けてる‥)

東雲教官は指示を出すだけ出すと、気怠そうにあくびをして木陰に戻って行った。

加賀

ぐずぐずしてんじゃねぇぞ

男性同期D

「は、はい!すみません!」

(あ、加賀教官だ‥)

加賀

さっき俺が言ったことやったのか、クズ

男性同期E

「もちろんです!」

加賀

なら次の作業に移れ、指示がねぇと動けねぇクズは帰れ

男性同期E

「は、はいっ!!」

(あっちもあっちで、皆を怒鳴りつけて奴隷のように使ってるし‥)

加賀班じゃなくて良かったと、心の底から安堵する。

後藤

相変わらずだな

サトコ

「ですね‥」

改めて自分たちの持ち場を見ると、作業は滞りなく進んでいる。

後藤

そろそろ準備もひと通り終わるな

疲れただろ。少しあっちで休憩するか?

サトコ

「そうですね」

私たちは飲み物を用意して、ベンチに向かった。

サトコ

「ふぅ‥」

お茶を飲んでのどを潤すと、少しだけ疲れが癒されるように感じた。

サトコ

「後藤さんのおかげで、かなり準備が進みましたね」

「他の教官の皆さんは、とても自由だから‥」

先ほどの加賀班を思い出して、苦笑する。

後藤

まあ、俺は料理とか苦手だからな。それ以外の部分で貢献しないと意味がないだろ

それに‥

サトコ

「!」

ふいに顔が近づき、後藤さんの手が私の頭にポンッと乗せられる。

後藤

サトコと一緒だったから楽しめたんだ

サトコ

「ご、後藤さん‥」

(ヤバい、今の私絶対に顔が赤いよ‥)

距離の近さに、鼓動が大きく波打った。

(皆でワイワイするのも楽しいけど‥)

(後藤さんと二人きりだとやっぱり嬉しいな)

頼まれていた用事を思い出し、立ち上がる。

サトコ

「そ、そういえば、水を汲むのお願いされてました」

「ちょっと行ってきますね」

後藤

サトコ

サトコ

「!」

立ち去ろうとすると、後藤さんに手を掴まれる。

後藤

‥アンタは捕まえておかないと、すぐにどこかへ行ってしまう

サトコ

「え‥?」

後藤さんがフッと笑うと、自然と顔が近づいてくる。

(も、もしかして‥)

こんなところでダメだと分かっていても、期待してしまう自分がいる。

サトコ

「っ‥」

覚悟を決めて目を閉じようとすると、あと数センチのところで後藤さんの動きがピタリと止まった。

後藤

‥ここから先は、また2人の時だな

後藤さんはいたずらな笑みを浮かべて、私の頭をポンッと撫でる。

<選択してください>

A: からかいましたね?

サトコ

「ご、後藤さん‥からかいましたね!?」

後藤

サトコが可愛かったから、悪い

サトコ

「なっ、可愛いって‥」

柔らかく微笑む後藤さんに、嬉しさ半分恥ずかしさ半分で顔が紅潮する。

(後藤さんって急にこういうこと言ったりするから、心臓に悪いよ‥)

後藤

顔が赤くなってるぞ

サトコ

「誰のせいだと思ってるですか‥!」

抗議はしても、嫌な気持ちは全然なくて‥

(‥私って、こんなにも後藤さんのことが好きだったんだな)

改めて、そう自覚した。

B: 自分からキスしようとする

(うぅ、からかわれた‥)

決して嫌なわけじゃないけど、ちょっとだけ悔しい。

(私だって‥!)

サトコ

「後藤さん‥」

後藤

私は後藤さんの服をギュッと握ると、背伸びをして顔を近づける。

そして‥‥

後藤

っ、サトコ‥

サトコ

「‥‥‥」

唇が触れそうになる寸前のところで、動きを止めた。

サトコ

「‥仕返しです」

後藤

っ‥‥

そっと離れると、後藤さんは顔を真っ赤にする。

C: なんでしてくれないんですか?

こんなところでダメだと分かっていても、ちょっとだけ寂しさが顔を覗かせる。

サトコ

「なんでしてくれないんですか?」

後藤

なんでって‥

サトコ

「‥なんて、こんなこと言われても困っちゃいますよね。すみません」

この場には私たちしかいないけど、いつ誰がやって来るか分からない。

後藤

‥‥‥

サトコ

「えっ‥」

不意に腕を引かれたかと思うと‥‥

サトコ

「!」

額にキスが落とされた。

後藤

‥今はこれで我慢しろ

そう言って、後藤さんは少しだけ頬を赤らめた。

後藤

そろそろ戻るか

サトコ

「そうですね」

(あっ‥)

そっと手を握られ、後藤さんを見上げる。

後藤

少しくらいならいいだろ

サトコ

「で、でも‥」

(今から皆のところに行くのに‥)

手を繋いでいたい気持ちと、すぐに離さなきゃいけないという気持ちがせめぎ合う。

後藤

大丈夫だ

サトコ

「っ‥」

後藤さんのその言葉に、私はギュッと手に力を込めた。

皆のところへ着く直前、そっと手が離される。

黒澤

あっ、後藤さんにサトコさん!

どこにいたんですか?探しちゃいましたよ~

後藤

悪い

男性同期A

「あっ、後藤教官、ちょうど聞きたいことが‥」

後藤さんは何事もなかったかのように、皆の輪に戻っていく。

繋いでいた右手に風を感じ、後藤さんの手が何だか名残惜しくなる。

(いつもならあんなことしないのに‥)

いつもより積極的な後藤さんに、心を鷲掴みにされていた。

黒澤

サトコさーん!こっち手伝ってもらっていいですかー?

サトコ

「あっ、はい!」

後藤さんの温もりを忘れないように、ギュッと手を握る。

サトコ

「今、行きますー!」

私は笑顔で、皆の元へ駆けて行った。

Happy  End

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