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バーベキュー 加賀

【バーベキュー会場】

加賀

薪はまだかってっつてんだ

サトコ

「はい、ただいま!」

(他の教官たちにも呼ばれてるのに、加賀さんの声に身体が反応してしまう‥)

(恐ろしい条件反射‥!教官たちには、あとで平謝りしないと)

薪を抱えて加賀さんの所に行くと、顎で場所を指定された。

私が置いた薪に着火剤を加えて、加賀さんがいとも簡単に火を起こす。

サトコ

「薪で火が点くと、テンション上がりますね!」

加賀

そんなのは、テメェとガキくらいだろ

(ガキ‥?もしかして、花ちゃんのこと?)

尋ねようとするも、火が点いたのを確認すると、加賀さんはこちらに背を向けて歩き出した。

サトコ

「あの、どこへ‥」

加賀

煙草だ

サトコ

「じゃあその間に、食事の準備しておきますね」

うなずく加賀さんを見届けて、颯馬教官のところへ向かう。

野菜をもらってくると、石神教官が魚を持って火のところへ来ていた。

サトコ

「お疲れ様です。さっきは手伝えず申し訳ありませんでした」

石神

みんな、面白がってお前を呼んでたからな‥

まあ、無事に活きのいい魚が釣れたからいい

さっき釣ったばかりの新鮮な鮎は、ちゃんと処理されて串に刺されている。

サトコ

「これ、石神教官がひとりでやられたんですか?」

石神

いや、黒澤にも手伝わせた

気持ち悪い、とかギャーギャーうるさく騒いでいたがな

(まさか石神教官、騒ぐの分かってて、わざと黒澤さんに手伝わせたんじゃ‥?)

そのあとは、教官と一緒に魚や野菜、肉を網の上で焼く。

いい香りがしてきた頃、石神教官がぽつりと私に尋ねた。

石神

あいつの補佐官は、どうだ。順調か?

サトコ

「そうですね‥」

そういえば、石神教官とこうしてゆっくり補佐官のことについて話す機会はあまりない。

サトコ

「正直、ものすごく大変ですけど‥」

石神

だろうな

サトコ

「捜査でもない普通の雑用でも、死ぬんじゃないかな‥って思ったり」

石神

容易に想像できる

サトコ

「でも‥」

野菜の焼け具合をみながら、はっきりと答えた。

サトコ

「すぐに『勘だ』って言いながらも、先の先を読む鋭さとか」

「行動力とか、事件への姿勢とか‥学ぶところも多いです」

石神

‥そうか

一瞬、石神教官が微かに笑った気がした。

石神

あいつが切り捨てないのも珍しいが、あいつにここまでついていける奴も珍しい

ただ、余計なところは真似するなよ

サトコ

「余計なところ?」

石神

手柄にこだわるところや、かってに単独行動するところ

本気で『勘』に頼るところ、他の人間を捨て駒にするところ‥まあ、色々あるが

サトコ

「ありすぎますね」

(でも、さっきのは、もしかして褒めてくれたのかな‥?)

(教官たちから褒められることは少ないから、嬉しいかも)

内心喜んでいると、足元をちゃんと見ていなかったせいか何かにつまずいて転びそうになった。

咄嗟に、石神教官が背中を支えて助けてくれる。

サトコ

「あ、ありがとうございます」

石神

火を使っているんだから気をつけろ

サトコ

「そうですね。ひっくりかえしたら、今日のごはんがパァですもんね」

石神

‥お前が火傷するかもしれないことは、どうでもいいのか?

サトコ

「あっ」

呆れたように笑う石神教官につられて、苦笑がこぼれる。

お肉やお魚がいい具合に焼けて来たので、みんなを呼びに向かった。

難波

よーし、んじゃあ、全員そろったなー

みんな、日頃は色々お疲れさん、乾杯!

全員

「かんぱーい!」

みんながグラスを手に取り、室長の音頭でバーベキューがスタートした。

東雲

っていうか室長、始まる前からひとりで飲んでなかった?

黒澤

まあ、その辺はさすがの難波さんですからね~

後藤

もう一升瓶が空いてたが、全然酔ってないな

石神

室長は、いくら飲んでも酔わないだろう

颯馬

ザルですからね

みんな楽しそうにする傍らで、加賀さんは静かに飲んでいる。

心なしか、機嫌もあまりよくなさそうだった。

(寝起き‥なわけないし、もしかして煙草が切れてたとか‥?)

(とりあえず、せっかくのバーベキューなんだから)

まだ加賀さんは食べていないようだったので、お皿に野菜以外のものを取り分ける。

サトコ

「加賀さん、お腹空きませんか?」

加賀

‥‥‥

私が持ってきたお皿に野菜が乗っていないことを確認すると、ようやく受け取ってくれた。

サトコ

「ど、どれも美味しいですよ!」

加賀

‥ああ

(少しは機嫌直った‥?野菜入れなくてよかった)

黒澤

いやー、青い空の下で食べるバーベキューは美味しいですね!

後藤

そうだな。焼け具合もちょうどいい。氷川、買い出し大変だっただろう

サトコ

「いえ、千葉さんがほとんど持ってくれたので」

難波

この魚、美味いなー

この歳になると、肉より魚や山菜の方が欲しくなる

バーベキューは好評のようで、ホッと胸を撫で下ろす。

一柳教官が焼いてくれたパンケーキは、東雲教官が美味しそうに食べていた。

(加賀さんも、気に入ってくれたかな‥?)

そっと加賀さんを見ると、私の視線に気付いたらしく少し意地悪に笑った。

加賀

悪くねぇ

サトコ

「ほ、ほんとですか?」

教官たちに褒めてもらえたのも、もちろん嬉しかったけど‥

やっぱり、加賀さんが美味しそうに食べてくれるのが一番だ。

颯馬

この鮎の塩焼き、美味しいですね

「ずいぶんと丁寧に処理してあるな。味付けもちょうどいい」

サトコ

「あ、塩を振ったのは私ですけど、処理は全部、石神教官がやってくれたんですよ」

加賀

‥‥‥

(‥‥‥!?)

(なんか今‥加賀さんのオーラが一気に黒くなったような!?)

黒澤

違いますよ!処理したのはオレ!オレです!

石神

お前は騒ぐから、結局ほとんど俺がやっただろう

難波

ん~?なんだ、この身が崩れた鮎は

石神

それは、黒澤が処理したものです

黒澤

だって怖いじゃないですか!生きてる魚の腹を捌くんですよ!?

颯馬

それがバーベキューの醍醐味でしょう

黒澤

オレが想像してたバーベキューは、肉を食べながら女の子とキャッキャウフフするアレですよ

サトコ

「すみません、紅一点が私で‥」

加賀さんの邪悪なオーラが気になりつつも、とりあえず私も肉や野菜をいただく。

すると、ふと手を止めた石神教官が、加賀さんを見て眉をひそめた。

石神

肉と魚ばかりだな

加賀

あ?

石神

ちゃんと、バランスよく野菜も食べろ

加賀

テメェには関係ねぇだろ

(こ、この流れは‥まずい!)

<選択してください>

A: 私が食べます!

サトコ

「あっ、じゃあ、私がかわりに食べます!」

石神

お前が食べても加賀の栄養にはならないだろう

サトコ

「そうですけど、上官の罪は補佐官の罪‥!」

加賀

テメェ‥何が罪だ

B: さっき食べてましたよね?

サトコ

「さ、さっき食べてましたよね!玉ねぎをちょっとだけ!」

石神

食べてないだろう。お前が律儀に全部避けてやったから

加賀の偏食は前から気になっていたが‥まさかお前まで加担してるとはな

(なんか、すごい悪いことしてるような気持ちになってきた‥!)

C: そろそろお開きにしましょうか

サトコ

「おっと、そろそろお開きにしましょうか!」

東雲

始まったばっかりでしょ

難波

なんだあ?もう解散かあ?

石神

加賀が野菜を食べたら、お開きにしてもいいがな

加賀

‥‥‥

(石神教官、そんなの不可能だってわかってるくせに‥!)

チッという、加賀さんの舌打ちが辺りに響き渡る。

東雲

あーあ

サトコ

「東雲教官、どうしましょう‥加賀さんの野菜嫌いが、ついにみんなの知るところに‥」

東雲

いや、どっちかっていうと、周知の事実だったけど

難波

ほらほら、辛気臭い顔してないで、お前らも飲め!

室長のおかげで、それ以上は加賀さんの偏食について追及されなかったものの‥

加賀さんの機嫌は、直らないままだった。

食事が終わり、洗い物を済ませた後、加賀さんの姿を探した。

(みんなのところにはいなかったし‥)

(もしかして、野菜嫌いを指摘されて帰っちゃったとか?いやいや、まさか)

サトコ

「でも、ご機嫌ナナメだったのは確かだよね‥こういうときは」

さっき一柳教官が作っていた焼きマシュマロをひとつ拝借して、会場から少し離れる。

すると、森の中に設置されたハンモックに横になっている加賀さんを見つけた。

(‥もしかして、寝てる?)

物音を立てないように近づき、こっそり加賀さんの顔を覗き込む。

すると、大好きなその人がゆっくりと薄目を開けてこちらを見た。

加賀

遅ぇ

サトコ

「お、起きてたんですか」

加賀

こんなところで寝るわけねぇだろ

何しにきやがった

サトコ

「あの‥これ、よかったら」

加賀さんに焼きマシュマロを渡すと、一瞬、その表情が険しいものになる。

サトコ

「お、お好きじゃなかったですか‥!?」

加賀

焼くなんざ、邪道だろ

サトコ

「でも、加賀さんのお好みの柔らかさかと思って‥」

加賀

‥‥‥

目の前に差し出すと、何も言わず串から焼きマシュマロを食べてくれた。

サトコ

「ふふ‥美味しいですか?」

加賀

柔らかさは悪くねぇ

‥そういや、お前

加賀さんが何か言いかけた時、ポツッと頬に冷たいものが触れた。

サトコ

「‥雨?」

加賀

チッ

ハンモックから降りると、加賀さんが私の手を引き走り出した。

みんな建物の中に避難したのか、誰もいなかった。

サトコ

「せっかくのバーベキューだったのに、残念ですね‥」

加賀

‥‥‥

サトコ

「‥早く、止むといいんですけど」

加賀

‥‥‥

(ち、沈黙が気まずい‥)

サトコ

「えーと‥加賀さん、いっぱい食べましたか?」

加賀

普通だ

サトコ

「お肉、美味しかったですよね。みんなから集めたお金にプラスして」

「室長がポケットマネーから出してくれて、いいお肉が買えたんですよ」

加賀

テメェ‥

なぜか、ジロリと加賀さんが私を睨む。

サトコ

「な、なんですか!?」

加賀

また、あのクソ七三眼鏡野郎に尻尾振ってやがったのか

サトコ

「はい?」

(クソ七三眼鏡野郎‥っていうのが、石神教官だってことはなんとなくわかるけど)

サトコ

「な、なんでここで石神教官の名前が‥?」

加賀

隙見せてんじゃねぇ

何を言われているのかわからず、記憶を呼び起こしてみる。

(えっと‥何だろう‥)

(もしかして‥一緒に魚を焼いてる時によろけて、支えてもらったアレのこと‥?)

サトコ

「も、もしかして嫉妬‥」

加賀

あぁ゛?

サトコ

「なんでもないです!」

(でも、きっとそうだよね‥う、嬉しくて顔がニヤける‥)

サトコ

「あのとき、加賀さんの話をしてたんですよ」

「加賀さんが誰かを切り捨てないのは珍しい、って」

加賀

チッ‥あの陰湿眼鏡が‥

サトコ

「でも‥石神教官は、私のことを思って教えてくれたんだと思います」

加賀

そういう問題じゃねぇ。野菜なんざ食わせようとしやがって

(やっぱりそこ、根に持ってるんだ‥)

でもそれ以上に、きっと石神教官に余計なことを言われてイライラしているのだろう。

それなのに、どうしても嬉しくて頬が緩んだ。

加賀

何ニヤけてやがる

サトコ

「すみません‥でも、ちゃんと見てくれてたんですね」

「煙草を吸いに行ったから、私のことなんて忘れてると思ってました」

頬の緩みが止まらない私に、加賀さんの手が伸びてくる。

(しまった‥調子に乗りすぎた!あ、アイアンクロー‥!)

覚悟して身構えようとした瞬間、加賀さんの大きな手が頭の上にポンと乗る。

そしてそのまま、頭ごと引き寄せられた。

加賀

調子に乗ってんじゃねぇ

サトコ

「!」

(加賀さんの今の笑顔‥すごく、優しかった‥)

そう思ったのも束の間、目の前でその笑顔はいつもの不敵な微笑みに変わる。

加賀

いつまでそうやってるつもりだ

サトコ

「‥え?」

加賀

クズが‥目閉じてろ

(‥声も、すごく優しい)

唇が重なると、食むような甘いキスが少しずつ激しくなっていく。

(こういうアメとムチがあるから、いつだって加賀さんに捕まえられっぱなしなんだろうな‥)

(でも‥この人なら、一生捕まっててもいい)

降りしきる雨の中、マシュマロより甘いキスに捕らわれる。

背中に手を回しながら、一生、加賀さんにGETされることを夢見るのだった‥

Happy  End

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