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バーベキューへGO プロローグ

【スーパー】

それは、ある日の休日。

千葉

「なあ氷川、もやしもいるだろ?」

サトコ

「うん。千葉さん、ありがとう」

千葉

「えーと、あとは‥」

私がカートを押して、千葉さんがメモを頼りにバーベキューの食材をカゴに入れていく。

カゴはあっという間にいっぱいになり、飲み物なども積んでいるので結構重い。

千葉

「あ、ごめん」

サトコ

「え?」

振り返る前に、千葉さんがさりげなく私からカートを持っていった。

サトコ

「このくらい、大丈夫だよ」

千葉

「いいからいいから。氷川は、買い忘れがないか見てくれる?」

サトコ

「うん、わかった」

(千葉さん、優しいな‥将来はいい旦那さんになりそう)

微笑ましい気持ちで千葉さんを見ていると、突然、後ろから腰の辺りに衝撃を感じた。

サトコ

「いたっ」

男の子

「あ、ごめんなさい!」

男の子も前を見ていなかったらしく、その手にはキッズスマホが握られている。

サトコ

「歩きスマホは、危ないからダメだよ?」

男の子

「でも、さっきこの辺で珍しいバケモンが‥」

千葉

「バケモン?」

男の子

「お兄さん、知らないの?みんなやってるよー、“バケモンGO” !」

サトコ

「そういえば、鳴子がそんなこと言ってたような」

「でも、他の人にぶつかってキミも怪我したら大変でしょ?そういうのは公園でやろうね」

男の子

「うん、わかった」

うなずいたものの、男の子はまたスマホを見ながら歩き始めた。

サトコ

「全然分かってない‥」

千葉

「氷川って、子どもの扱い慣れてるよな」

サトコ

「弟がいるし、交番勤務の時代もあったから」

「千葉さんも、子どもに好かれそうだよね。優しいし」

千葉

「うーん、どうかな。身近にいないからわからないけど」

「それにしても、 “バケモンGO” ってほんとに流行ってんだな」

サトコ

「うん‥噂には聞いてたけど、すごいみたいだね」

(うちの訓練生たちは、そんなのやってる暇もないけど‥)

(それにまさか、教官たちとバーベキューすることになるとは‥)

思い出すのは、この間、千葉さんや鳴子と過ごした昼休みのカフェテラスでの出来事だった‥

【カフェテラス】

昼休み、千葉さんとランチしていると、鳴子がスマホ片手にカフェテラスに駆け込んできた。

鳴子

「ふたりとも、のんびりお昼ご飯食べてる場合じゃないよ!」

千葉

「佐々木、どうしたんだよ」

サトコ

「な、何か事件?」

鳴子

「事件っていうか、大ニュース!これ見てよ、これ‥!」

鳴子に見せられて、スマホを覗き込む。

そこには、ヤッホーニュースが表示されていた。

サトコ

「なになに‥『最近、大ヒット中のアプリ、“バケモンGO” を利用したナンパが横行しており』‥」

「バケモンGOって、そこら辺にいるキャラを捕まえるゲームだよね?」

千葉

「あれを利用したナンパって‥?」

鳴子

「レアバケモンがいるから一緒に探さない?とか‥」

「バケモン出現ポイントを教えてあげる、って誘われる子が多いみたい」

「あ~いいなー!私もイケメンに人生をGETされたい!」

サトコ

「そんな簡単にGETされる人生でいいの?」

鳴子

「いいよ~相手が颯馬教官なら!」

「いや、一柳教官も捨てがたい‥後藤教官も素敵だし」

千葉

「佐々木はきっとそのうち、自分でいい男捕まえると思うよ」

「ナンパなんて必要ないって。焦らず待ってて大丈夫じゃない?」

さりげなくも心優しいフォローに、鳴子は頷きながらも目を細めて千葉さんを見る。

鳴子

「千葉さんって、いい人だけど刺激が足りないって言われるタイプだよね」

千葉

「うっ‥」

鳴子

「やっぱりほら、男はどこかに影がないと!」

「千葉さんはまっさらすぎて、ちょっと味気ないというか‥」

千葉

「そ、そうかな‥」

サトコ

「鳴子、やめてあげて‥千葉さんが大ダメージを受けてる‥」

千葉

「効果は抜群だよ‥」

(でも千葉さんは成績優秀だから、犯人はたくさんGETできそうなのに)

(近々、彼女もGETできますように‥)

千葉さんの幸せを願いながら、美味しくランチを平らげた。

【寮 自室】

その夜、寮に戻って教官から返却されたノートを開く。

そこに、一通の封筒が挟まっていた。

(なんだろう‥?差出人は‥く、黒澤さん?)

嫌な予感を覚えつつ、封筒を開ける。

中には、“バーベキューへGO ~教官補佐官親睦会~” という文字が躍っていた‥

【バーベキュー会場】

(‥というわけで、別の教官の補佐官をしてる千葉さんと、買い出しに行ってきたんだけど)

バーベキュー会場に戻ると、すでに教官も室長も勢揃いだった。

サトコ

「お待たせしました!氷川と千葉、戻りました!」

東雲

遅い

ため息交じりに、東雲教官が私を睨む。

東雲

たかが買い出しに、何分かかってんの

千葉

「すみません、意外と量が多くて‥」

黒澤

あー、もしかして、ふたりでデート楽しんじゃってました?

千葉

「え!?そ、そんなんじゃ‥」

サトコ

「違います!真面目に買い出ししてました!」

「あと、歩きスマホしてる子に注意してたんです」

黒澤さんの冷やかしを全力で否定すると、隣でなぜか千葉さんが意気消沈する。

サトコ

「あれ?千葉さん、どうしたの?」

千葉

「いや‥」

黒澤

サトコさん、驚きの鈍さですね

颯馬

ええ‥さすがに、千葉くんが気の毒ですが

サトコ

「え、今なんて言ったんですか?」

後藤

なんでもない。アンタはそのままでいろってことだ

加賀

駄犬は所詮駄犬、ってとこだろ

サトコ

「なんか、突然罵られた気分なんですけど‥」

???

「おい、ちょっと来い」

話している最中、不意に後ろから腕を引っ張られた。

よろけそうになりながら振り返ると、そこにいたのは‥

「今回、女はお前だけだ。当然、手伝うよな?」

サトコ

「い、一柳教官!?」

学校でも特別講義でごくたまにしか見かけない一柳教官が、

鉄板の上でふんわり分厚いパンケーキを焼いている。

(なんで一柳教官がここに‥そして、バーベキューなのにパンケーキって)

(どこからツッコミをいれていいのかわからない‥)

サトコ

「も、もちろん手伝いますけど、どうして一柳教官が」

黒澤

じゃじゃーん!なんと今日は、特別講師として来てくれたんですよ!

サトコ

「特別講師‥?」

(バーベキューに特別講師なんているの?)

(‥ってツッコむと、収拾つかなくなるからやめておこう)

とりあえず一柳教官の言う通り、女は私ひとりしかいない。

野菜を切ったりお肉を焼いたり洗い物をしたり、できることはすべて手伝った。

「意外と手際いいな」

サトコ

「寮とはいえ、ひとり暮らしみたいなものですから」

「家事も料理も、ひと通りできますよ」

「へぇ‥」

どこか意地悪にニヤリと笑うと、一柳教官が顔を近づける。

整っているのに強気なその眼に少し緊張していると、指が伸びてきて頬に触れた。

サトコ

「っ‥‥」

「何つけてんだよ」

サトコ

「!」

「確かにひと通りは出来るみたいだけど、ずいぶんと抜けてるな」

(ぱ、パンケーキの粉‥!?)

(でも、あんなもったいぶって取る必要ないんじゃ‥もしかして、わざと!?)

???

「先輩‥今、やられましたね」

サトコ

「ひぃ!」

突然、後ろから声を掛けられて、飛び上るほど驚く。

そこには、後輩の宮山くんが立っていた。

サトコ

「な、なんで‥」

宮山

「オレがいたら、おかしいですか?」

「‥ほんと隙だらけですよね、先輩」

後ろから手を伸ばし、宮山くんは私が焼いたパンケーキをひょいっとつまむ。

サトコ

「あ!一番綺麗に焼けたヤツ!」

宮山

「ん、うま」

東雲

ちょっと、何やってんの

宮山

「東雲教官もいかがですか?焼きたてのパンケーキ」

東雲

別に‥あとでいい

黒澤

オレは食べたいでーっす!サトコさーん!

後藤

うるさい

ゴッ

(ああ‥黒澤さんに、また後藤教官のこぶしが炸裂した‥)

サトコ

「黒澤さん‥だ、大丈夫ですか?」

黒澤

こんなの、後藤さんの愛だと思えばどうってことありませんよ‥

(そのわりに、なんか落ち込んでるけど‥まあいいや)

サトコ

「ところで、どうして宮山くんが」

黒澤

オレが誘ったんですよ。新入生とも、親睦を深めたいなーと思って

いやあ、愉しいバーベキューになりそうですね!

(楽しい‥かもしれないけど、すでにカオス‥)

(このバーベキュー、無事に終わるの‥!?)

東雲

ねぇ、頼んでた日焼け止め買ってきてくれた?

東雲教官の言葉に、ハッと我に返る。

サトコ

「あ、はい!さっき買ってきた袋の中に‥」

後藤

氷川、悪い。テントを張るのを手伝ってくれないか

東雲教官に日焼け止めを渡そうとすると、テントの方から後藤教官の声が聞こえて来た。

サトコ

「はい、ただいま‥」

石神

氷川、足元の網を取ってくれ。珍しい魚がかかった

加賀

おいクズ、追加の薪はどこへやった

颯馬

サトコさん、こっちで野菜の皮むきを手伝っていただけますか?

サトコ

「は、はい!でも、全部いっぺんには‥」

難波

お~氷川、お前も一杯どうだ?

右往左往する私を、すでに飲み始めている難波室長が呼び止める。

サトコ

「うう‥あの‥」

加賀

テメェ、さっさとしろ

石神

氷川!魚が逃げるだろ!

後藤

まずい!氷川に支えてもらわないと、テントが‥

東雲

ねぇ、日焼けしたらキミのせいなんだけど

颯馬

あ、サトコさん。さっき買ってきた中にナスが入ってるので、持ってきてください

サトコ

「‥‥‥!」

いっぺんに呼ばれて、頭が混乱する。

おろおろする私を見て教官たちが完全に面白がっていることに、ようやく気付いた。

黒澤

サトコさん、モテモテじゃないですか~

宮山

「いや、ただの雑用ですから」

千葉

「氷川、大丈夫か?」

サトコ

「ど、どれを優先すればいいか‥」

「とりあえず東雲教官に日焼け止めを渡したのち、速やかに薪を取りに行って」

「網を石神教官に渡しながら、テントを支えつつ野菜の皮むきを‥」

宮山

「無理でしょ」

東雲

キミ、どんくさいしね

(と、とにかく何か手伝わないと‥!)

珍しくみんなに必要とされた私を、GETしたのは‥

<選択してください>

A:後藤

B:加賀

C:石神

D:颯馬

E:東雲

F:難波

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