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バーベキュー 石神

【バーベキュー会場】

サトコ

「石神教官、何か他にお手伝いすることはありますか?」

私は捕まえた魚をバケツに移すと、石神さんの元へ行き声を掛ける。

石神

バーベキューの準備をするから、手伝ってくれ

サトコ

「はい!」

石神さんから指示を受け、道具の準備を始める。

(水も用意しておいた方がいいよね)

女の子

「‥‥‥」

サトコ

「‥ん?」

バケツを用意していると、視界の端に女の子の姿が映った。

女の子はキョロキョロと辺りを見回している。

(あの子、もしかして‥)

私は女の子の元へ行き、目線を合わせて話しかける。

サトコ

「こんにちは」

女の子

「‥こんにちは」

サトコ

「どうしたの?ひとり?」

女の子

「パパとママとバーベキューしにきたの」

サトコ

「そうなんだ。お姉ちゃんたちと一緒だね」

「お母さんはどこにいるのかな?」

女の子

「わかんない」

サトコ

「そっか‥」

(やっぱり‥この子、迷子なんだ)

サトコ

「それじゃあ、お姉ちゃんと一緒にお母さんを探しに行こうか」

女の子

「やー!もうつかれた」

女の子はそう言って、その場に座り込んでしまう。

(このまま放っておくわけにもいかないし‥)

石神

氷川、どうした?

サトコ

「あっ、石神教官。この子、迷子みたいで‥」

加賀

迷子?

通りかかった加賀教官の眉が、ピクリと跳ねる。

サトコ

「は、はい。ご両親を見つけてあげられたらと思うんですが‥」

加賀

誰がこのガキの面倒見るんだ

女の子

「!」

加賀教官に睨まれ、女の子はサッと私の後ろに隠れる。

難波

加賀、子ども相手に凄むなよ

加賀

‥別に、凄んでませんよ

バツが悪そうに去っていく加賀教官に、難波室長は肩をすくめる。

難波

まあ、そういう俺も子どもの扱い上手くないんだよな~

サトコ

「大丈夫です。この子の面倒なら、私が見ますので」

難波

そうか?そんじゃ、任せた

難波室長がいなくなり、私は小さくため息をつく。

(まあ、こうなるだろうなとは思ってたけど)

石神

‥‥‥

それまで黙っていた石神さんが、腰を落として女の子に声を掛ける。

石神

あっちに綺麗な花が咲いてるから、見に行くか?

女の子

「うん!」

柔らかい笑みを浮かべる石神さんに、女の子は満面の笑顔で返す。

石神

俺も手伝う

石神さんは短く私に言うと、女の子の手を取った。

(そういえば、迷子になった男の子と一緒になったことがあったっけ)

(石神さんって、男の子だけじゃなくて女の子の世話も上手なんだな)

女の子

「おねーちゃんも、おててつなごう!」

サトコ

「ふふ、そうだね」

空いている方の手を差し出され、優しく握る。

私たちはその場を後にして、お花畑に向かった。

【お花畑】

サトコ

「ここを編み込んで‥はい、出来上がり!」

女の子

「わぁ、すご~い!」

花かんむりを作り、女の子の頭に乗せてあげる。

女の子

「ねえねえ、どう?」

石神

似合ってるな

女の子

「かわいい?」

石神

‥ああ、すごく可愛い

女の子

「えへへ~」

ニッコリ笑顔の女の子に、石神さんは少し照れた笑顔で優しく頭を撫でる。

女の子

「おねーちゃん、もういっこつくって~!」

「おそろいにしようよっ!」

女の子はお花を摘み、私に渡してくる。

サトコ

「それじゃ、今度は一緒に作ってみようか?」

女の子

「うん!」

サトコ

「石神教官もどうですか?」

石神

俺は‥

女の子

「いっしょにつくろう!」

石神

‥そうだな

笑顔で押し切られ、石神さんは苦笑しながら花を手に取る。

サトコ

「まずはこうやって十字になるように‥」

石神

‥‥‥

石神さんは真剣な表情で、手を動かしている。

(ふふっ、眉間にシワが寄ってる)

真剣に花かんむりを作っている石神さんが微笑ましくて、笑みがこぼれた。

女の子

「おねーちゃん、ここはー?」

サトコ

「ここはね、後ろから回して‥」

それから私たちは花かんむりを作ったりお花を摘んだり、ほのぼのした時間を過ごした。

【バーベキュー会場】

女の子

「このおにくおいしい~!」

お花畑から戻ると、バーベキューが始まる。

女の子は美味しそうにお肉を頬張っていた。

石神

まだたくさんあるから、遠慮しなくていいぞ

女の子

「うん!」

サトコ

「お肉もいいけど、お野菜もちゃんと食べなきゃダメだよ?」

ピーマンをお皿に乗せると、女の子はちょっとだけ嫌そうに口をとがらせる。

女の子

「‥ぜったいに、たべなきゃダメ?」

石神

このピーマンは苦味が少ないから、食べやすいはずだ

サトコ

「えっ、そうなんですか?」

石神

ああ、ヘタの形によって糖度が変わるからな

先ほど見たが、このピーマンは糖度が高いものだろう

サトコ

「そうなんですね」

(石神さんって物知りだな)

女の子

「うー‥」

サトコ

「じゃあ、お姉ちゃんと一緒に食べてみようか?」

女の子

「うん‥」

私は「せーの」と合図して、女の子と一緒にピーマンを食べる。

サトコ

「どう?」

女の子

「おうちでたべてるのより、にがくない‥?」

「これなら食べられるかも!」

石神

そうか。ちゃんと食べられて偉いな

石神さんが褒めると、女の子は嬉しそうにはにかんだ。

サトコ

「これを食べたら、お母さん探しに行こうね」

女の子

「うん!」

難波

へぇ

そこに、難波室長たちが通りかかる。

難波

上手くやってるみたいだな~

颯馬

石神さんって子ども好きだったんですね

加賀

ハッ、引退してお守り専門になった方がいいんじゃねぇか?

石神

‥‥‥

挑発してくる加賀教官に、石神さんはため息をつく。

難波

ははっ、まあ子守が上手いのはいいことだろ

お前らいい夫婦になりそうだなぁ

サトコ

「ふ、夫婦って‥」

颯馬

フフ、そこはあえて誰も言わなかったところですよ

ね、サトコさん?

<選択してください>

A: 話を振らないでください

(こ、ここは平常心を保って‥)

サトコ

「私に話を振らないでください」

颯馬

おや?クールに返されてしまいましたね

それとも、サトコさんなりの照れ隠しでしょうか?

サトコ

「!」

(これ以上話すと、ボロが出そう‥!)

さっと顔を逸らす私に、颯馬教官は楽しそうにくすくす笑った。

B: そんな風に見えてたなんて

(そんな風に見えてたなんて‥)

嬉しくもあり、恥ずかしくもあって‥顔から火が出そうだった。

難波

ははっ、氷川って分かりやすいな

サトコ

「ななな、なんのことでしょう!?」

加賀

チッ、そんなんで公安が務まると思ってんのか

颯馬

フフ、可愛らしくていいじゃないですか

(うぅ‥言われ放題だ‥)

C: 石神に話を振る

サトコ

「さ、さあ?どうでしょうか‥」

「ですよね、石神教官?」

石神

‥‥‥

一瞬、石神さんに「俺に振るな」と言わんばかりの視線を向けられる。

石神

子どもは苦手より得意に越したことはない

どこかで捜査に役立つことがあるかもしれないしな

難波

ははっ、お前らしいな

サトコ

「と、とにかく!」

「食べ終わりましたので、私たちは母親を探してきますね」

難波室長たちのニヤニヤした視線から逃れるように、私たちはその場を後にした。

【バーベキュー場】

サトコ

「お姉ちゃんたちが絶対に、お母さんを見つけるからね」

女の子

「うん!」

女の子を中心に3人で手を繋ぎながら、お母さん捜査を始める。

(こうやって手を繋いでいると、傍から見たら親子に見えるのかな‥)

先ほどの『夫婦』発言を思い出し、そんなことを考えてしまう。

(石神さんがパパでこんな可愛い女の子が子どもだったら、すごく幸せなんだろうなぁ‥)

???

「‥ちーちゃん!」

女の子

「あっ、ママ!」

名前を呼ばれた女の子は、女性に向かって駆け出す。

女性は駆け寄ってきた女の子を、愛おしそうに抱きしめた。

母親

「よかった、無事で‥」

女の子

「ママ‥ごめんなさい」

母親

「いいのよ。ママも目を離しちゃってごめんね」

サトコ

「‥よかったですね、無事に見つかって」

石神

ああ

女の子は母親と手を繋ぎ、私たちの元へやってくる。

母親

「すみません、ご迷惑をおかけして‥」

サトコ

「いえ、お気になさらないでください」

母親

「ありがとうございます」

「ほら、ちーちゃんもお礼を言って?」

女の子

「うん!おねーちゃん、おにーちゃん、ありがとう!」

「えへへ、パパとママみたいでたのしかったよ」

サトコ

「!」

女の子

「バイバーイ!」

女の子は大きく手を振って、お母さんとバーベキュー場に戻って行った。

【帰り道】

サトコ

「バーベキュー、楽しかったですね」

バーベキューも無事に終わり、私は石神さんと帰路に着く。

石神

普段は慣れ合わない奴らばかりだが‥

まあ、たまにはああいう集まりもいいだろう

(表情は変わらないけど‥)

言葉の端から、楽しんでいたことがうかがえる。

サトコ

「女の子が迷い込んじゃった時はどうなるかと思いましたが‥」

「あの子も楽しんでいたし、お母さんも見つかって本当に良かったです」

石神

そうだな

サトコ

「それにあの子、石神さんにすごく懐いていましたし‥」

「やっぱり石神さんは、子どもの心を掴むのが上手ですね」

石神

いや、本当に俺が掴みたいのは

サトコ

「えっ?」

石神

何でもない

まあ、出来る限り子どもに愛情を注いでやりたいという気持ちは強いかもしれない

(そういえば、石神さんって施設で育ったんだっけ)

(だからこそ、自分の子どもには愛情を注いであげたいんだろうなぁ)

石神さんの優しさに触れ、心が温かくなる。

石神

サトコ

ふいに、石神さんが私の手を掴む。

石神

空を見てみろ。綺麗だぞ

そう言われて、空を見上げると‥

サトコ

「わぁ‥!」

キラキラと輝く星に、感嘆の声が漏れる。

サトコ

「あの子たちも、この空を見ているんでしょうか」

石神

ああ

石神さんはフッと笑い、私に視線を向ける。

石神

パパとママみたいだったと言われてしまったな

サトコ

「ふふっ、そうですね」

返事をしながら、石神さんの手を握り返した。

(ちょっと気が早いかもしれないけど‥)

願いを込めるように、夜空の星を眺める。

(私もいつか‥石神さんと幸せな家庭が築けたらいいな)

Happy  End

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