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ヒミツの恋敵 加賀2話

【新聞社】

テロ予告をすっぱ抜いた新聞社に、アルバイトとして潜入した翌日。

昨日から引き続き、先輩の奥野さんに朝からこき使われていた。

奥野

「おい、バイト。この資料はどこから見つけてきた?」

サトコ

「さっき奥野さんに言われた通り、過去の記事を探して」

「向こうのデスクにあったものを持ってきて‥あとは、ネットを調べました」

パソコンのページを開いて説明すると、奥野さんが画面を覗き込んでくる。

でも一瞬、何かに気付いたようにチラリと私を見た。

奥野

「‥‥‥」

サトコ

「‥奥野さん?」

奥野

「いや‥」

「これより、もっと古い記事があるだろ」

サトコ

「え?」

奥野

「日付も追えねぇのか、最近のガキは」

(ガキって‥そんなに歳違わないよね‥?)

サトコ

「で、でも‥調べた中では、これが一番古かったんです」

奥野

「チッ‥保管室にあるだろ、昔のが」

(また舌打ちした‥こういうところ、ほんとに加賀さんと似てるな)

サトコ

「保管室って、どこにあるんでしょう?」

奥野

「資料室の隣の、小さい部屋があんだろ」

サトコ

「あ‥そういえば」

昨日、場所を覚えるために歩き回っていた時、『保管室』と書かれたプレートを見た気がする。

サトコ

「じゃあ、探してきます」

奥野

「さっさとしろよ」

厳しい言葉に送り出され、急いで保管室へ向かった。

【保管室】

保管室に入ると、時系列で昔の記事がファイリングされていた。

(一番古いのが必要だったみたいだし、きっと結構奥だよね)

(えーと、あれは傷害事件の記事だったから、ここじゃなくてたぶん向こうの棚の‥)

???

「ああ、そうだ。もうすぐ予告が出るらしい」

「今日、例の奴の演説会がある。そこで実行だ」

奥の方から聞こえてきた声に、思わず足を止める。

(今、『予告』って言ったよね‥?)

(演説会‥実行‥)

ただならぬ雰囲気に、咄嗟に物陰に隠れた。

急いでイヤーモニターの電源を入れて、加賀さんに状況がわかるようにする。

???

「場所は、イーストロイヤルパレスホテルだ。今から号外の準備をしとけ」

「タイミングは、追って知らせる」

(もしかして、テロ組織と繋がってる人なんじゃ‥!?)

(ここから、なんとか顔を確認できないかな‥)

書棚から顔を出して、保管室の奥を覗き込む。

でもその時、書棚からはみ出していたファイルに肘がぶつかり、音を立てて床に落ちた!

(しまった‥!)

???

「っ!?誰かいるのか!?」

(気づかれた‥!顔を見られる前に、ここから逃げなきゃ)

(でもそれじゃ、誰なのか確認できない!)

すると突然、後ろから口を塞がれて近くの書棚の影に引きずり込まれた。

サトコ

「!!!」

???

「シーっ」

(この声‥奥野さん!?)

奥野

「このままやり過ごせ」

サトコ

「‥‥‥っ」

???

「チッ‥」

怪しい会話をしていた人物は、私たちを避けるようにして保管室を出て行った。

(助かった‥けど、誰なのか確認できなかった)

(予告、演説会、実行‥場所は、イーストロイヤルパレスホテル‥加賀さんに報告しなきゃ)

奥野

「おい、いつまで固まってんだ」

サトコ

「あ‥すみません」

考え事をしていたせいで、奥野さんにかばわれたままだった。

慌てて身体を離すと、奥野さんはどこか不機嫌そうだ。

サトコ

「あの‥」

奥野

「遅いから、様子見に来てみりゃ‥危うく、面倒なことになるところだった」

「ここは、社員以外立ち入り禁止なんだよ」

「俺が言ったのは逆側の部屋だ」

サトコ

「えっ、そうだったんですか!すみません‥」

奥野

「咄嗟に隠れたけど、あれこれ言われなきゃいいが‥」

「お前、顔見られたか?」

首を振ると、奥野さんが少しホッとした表情になる。

奥野

「‥なら、大丈夫か」

サトコ

「あの‥さっきの人って、誰だったんでしょう」

奥野

「さあ。一瞬だったからわからねぇな」

どうやら、奥野さんはあの会話を聞いていなかったらしい。

(さっきの人、一人だったみたい‥ってことは、電話してたのかな)

(電話の相手は‥?テロ組織?それとも、公安の職員‥?)

奥野

「‥‥‥」

考え込む私をじっと見て、奥野さんが突然、私の腕を引き寄せた。

サトコ

「きゃっ!?な、なんですか!?」

奥野

「へー‥ロクな仕事もできねぇくせに、やることはやってんだな」

サトコ

「え‥?」

奥野

「男につけられたのか」

奥野さんの手が伸びてきて、首筋に触れる。

それは昨日の夜、加賀さんに付けられた痕だった。

(しまった‥!目立たないように、首が隠れる服を着てきたのに!)

サトコ

「や、やめてください!」

奥野

「見えるところにつけるなんて、ずいぶんいい趣味した彼氏だな」

サトコ

「ちゃ、ちゃんと隠せる場所につけてくれましたからっ‥」

奥野

「へえ。『つけてくれた』‥か」

サトコ

「!!!」

イジワルに笑い、奥野さんが顔を近づけてくる。

奥野

「ずいぶん飼い慣らされてるな?」

サトコ

「そんなっ‥」

(絶対、からかわれてる‥!)

<選択してください>

A: 飼われてない

サトコ

「か、飼われてません!変な言い方しないでください!」

奥野

「なるほどな。女のくせに俺の仕事によくついて来れるなと思ったが」

「彼氏は、俺よりもっと激しいのか?」

(な、なに言ってるの、この人!?)

B: 奥野さんには関係ない

サトコ

「奥野さんには、関係のないことです。離してください!」

奥野

「仕事がおろそかになるから、充分関係あるんだよ」

サトコ

「おろそかにはしてません。資料を探しにここへ来たんです」

「仕事はきちんとこなします。ご迷惑はおかけしません」

奥野

「‥どうだかな」

C: セクハラですよ

サトコ

「そ、そういうの、セクハラですよ!」

奥野

「知ってるか?この世界でその言い分は通用しねぇんだよ」

「セクハラされるのが嫌なら、そんな無防備な姿見せるな」

(無防備な姿って‥!そんなの見せたつもりないのに!)

(こういう時は、逆に慌てちゃダメだ‥!)

深呼吸をして、奥野さんをまっすぐに見つめた。

サトコ

「‥すみません。ちゃんと隠してきたつもりでした」

「以後、気を付けます」

公安学校で教官たちにするように、姿勢を正して頭を下げる。

少し驚いた様子を見せながらも、奥野さんはやっと手を離してくれた。

奥野

「つまんねぇ女だな」

サトコ

「‥‥‥」

奥野

「仕事中、たまに見えてたぞ」

サトコ

「!」

奥野

「わざと男を誘ってんのかと思ったが‥お前にはそんな度胸もねぇだろうな」

(な、なんでここまで言われなきゃいけないの!?)

(いや、でも‥そう思われるような服を着てきた自分が悪いんだ)

言い返さない私に呆れたような視線を寄越すと、奥野さんが肩をすくめる。

奥野

「さっさと資料探して来い」

サトコ

「‥はい」

奥野

「今度は、見えないとこにつけてもらえ」

サトコ

「‥は!?」

私にお構いなしで、奥野さんはさっさと保管室を出て行った。

(な、なにあの人‥!失礼過ぎる!)

やり場のない怒りを抱えながら、携帯を取り出した。

加賀さんの番号を呼び出してかけると、すぐに呼び出し音が途切れる。

加賀

なんだ

サトコ

「今、新聞社の保管室にいます。さっき、怪しい会話を聞いて」

さっきのことを報告すると、加賀さんの短い返事が聞こえた。

サトコ

「奥野さんに聞いたんですけど、誰の声だかはわからなかったそうです」

「ただ、『予告』『演説会』『実行』って言葉が、すごく気になるんです」

加賀

ああ

サトコ

「場所はイーストロイヤルパレスホテルだって言ってました」

「東雲教官にお願いして、調べてもらえるように‥」

加賀

もうやってる

サトコ

「あ‥そうですよね」

「じゃあ‥そろそろ仕事に戻ります」

加賀

ああ

‥帰ってきたら、たっぷり仕置きだな

サトコ

「へ?」

加賀

他の男に、どこ触られた?

一瞬、加賀さんが何の話をしているのか分からなかった。

サトコ

「あの‥どこ触られたって、どういう‥」

加賀

‥チッ

(舌打ち!?なんで‥?私、何かした‥!?)

その時、イヤモニの電源が入ったままだということに気付いた。

サトコ

「‥あ!?」

加賀

じゃあな

サトコ

「ちょ‥加賀さん!」

慌てて携帯に向かって追いすがったけど、もう遅い。

(さっきの奥野さんとのやり取り、聞かれてた‥!)

(ま、まずい‥非常にまずい!)

サトコ

「恐ろしい‥次に加賀さんに会った瞬間、いったい何をされるのか‥」

「アイアンクローで済めばラッキー‥下手したら、命の危険が‥」

震えながら、保管室を出た‥‥

【新聞社 入口】

その日の仕事を終えて、くたくたになりながらオフィスを出る。

すると、見慣れた車が停まっているのを見つけた。

(あれって‥)

加賀

‥‥‥

サトコ

「やっぱり‥加賀さん!」

駆け寄ると、加賀さんが無言でこちらを見てくる。

(そうだった‥!さっきの電話で、怒らせたままだった!)

サトコ

「あの、加賀さん‥」

<選択してください>

A: まだ怒ってる?

サトコ

「あの‥やっぱり、まだ怒ってるんですか?」

加賀

怒られるようなことしたのか

サトコ

「いえ!やましいことは何も‥!」

加賀

どうだかな

(う、疑われてる‥!?)

B: 迎えに来てくれたの?

サトコ

「もしかして、迎えに来てくれたんですか?」

加賀

他に何がある

サトコ

「嬉しいです!てっきり、まだ怒ってるのかと」

加賀

ほう‥

(し、しまった‥!余計なこと言わなきゃよかった!)

C: 誤解ですから

サトコ

「さっきの!さっきの、誤解ですから!」

加賀

声がでけぇ

サトコ

「すみません。でも‥」

加賀

そこら辺の男にテメェが尻尾振らねぇことぐらい、分かってる

(よ、よかった‥信用してもらえてる‥?)

加賀

見つかると面倒だ。さっさと乗れ、クズ

サトコ

「はい‥」

(あ、加賀さんに『クズ』って言われるの、今日初めてだ)

(今までは毎日『クズ』『グズ』『ノロマ』『カス』『ゴミ』『駄犬』って言われたから)

サトコ

「言われるとグサグサ来るけど、言われないとちょっと寂しいもんだな‥」

加賀

ぁあ?

サトコ

「な、なんでもないです!」

慌てて、助手席に乗り込んだ。

【車内】

シートベルトを締めると、車はすぐに走り出す。

サトコ

「ありがとうございました。わざわざ迎えに来てもらえるなんて」

加賀

くだらねぇミスしやがって

サトコ

「ミス?」

加賀

‥ロクに仕事もできねぇくせに、やることはやってる、か

サトコ

「!」

(そ、それは‥さっき、奥野さんに言われた言葉!)

サトコ

「あの、すみません‥!見えないように隠してたつもりだったんですけど」

加賀

『ちゃんと隠せる場所につけてくれた』

サトコ

「うっ‥」

(く、口を滑らせたのを怒っていらっしゃる‥!?)

サトコ

「すみません‥!咄嗟だったので、つい本音が!」

加賀

本音、か

呆れたように、加賀さんが口の端を持ち上げて笑う。

加賀

次は、ちゃんと見えねぇとこにつけてやる

サトコ

「っ‥!」

(そもそも、加賀さんが痕をつけたからこんなことに‥)

(‥なんて言ったら車から引きずり降ろされそうだから、黙っておこう‥)

サトコ

「明日から、充分に気を付けます」

加賀

テメェにゃ期待してねぇ

サトコ

「1ミリくらいは期待してください‥」

ハンドルを握りながら、加賀さんが少し険しい顔になる。

加賀

‥また、テロ予告があった

サトコ

「えっ?」

加賀

とある代議士が今夜、イーストロイヤルパレスホテルで演説会を行う

そこを狙うと、予告があった

サトコ

「イーストロイヤルパレスホテル‥演説会‥」

???

『ああ、そうだ。もうすぐ予告が出るらしい』

『今日、例の演説会がある。そこで実行だ』

『場所は、イーストロイヤルパレスホテルの‥』

さっき保管室で聞いた、あの電話の内容とぴったり一致した。

サトコ

「それじゃ、まさか‥」

加賀

歩が公安のサーバーを全部洗い出したが、情報漏えいはなかった

つまり‥お前が聞いた会話が、証拠になる

(それじゃ、あの新聞社の誰かが、テロ組織と繋がってるってこと‥!?)

加賀さんが運転する車は、加賀さんのマンションでも私の寮でもなく‥

まっすぐに、公安学校へ向かっているようだった。

to  be  continued

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