カテゴリー

ヒミツの恋敵 加賀4話

【街】

先日のテロ予告があった日、演説会場に入った連絡を、東雲教官が追いつつも‥

その後は何の動きもなく、こう着状態が続いていた。

(今日は、久しぶりに加賀さんとデート‥!)

心を躍らせながら、待ち合わせ場所へと急ぐ。

すると、すでに待ち合わせ場所にいる加賀さんが煙草を吸っていた。

加賀

‥‥‥

(かっこいいな‥そういえば最近、煙草吸ってるところ、あまり見てない気がする)

(私といる時は、吸わないようにしてくれてるみたいだけど‥)

久しぶりに見るその姿はどこか物憂げで、見惚れるほど素敵だった。

女性A

「ねぇ、あの人かっこいい‥!向こうで煙草吸ってる人!」

女性B

「ほんとだ!ちょっと怖そうだけど、話しかけてみたいね」

(それは止めた方が‥『あ゛?』って言われた瞬間、誰もが逃げ出すはず‥)

(でもやっぱ、加賀さんってモテるんだな)

そう思いながらも、頬が緩んでしまい止められない。

(怖いけど、誰よりも仕事を大切にして、実はすごく優しくて‥)

(そんな加賀さんを知ってるのは、私だけなんだよね)

サトコ

「ふふ‥ちょっと優越感かも」

加賀

なにニヤけてやがる

サトコ

「!?」

背後から声が聞こえて、思わず振り返る。

いつの間に移動したのか、喫煙所には加賀さんの姿はない。

サトコ

「あれ!?さっきまであそこにいましたよね!?」

加賀

なんのことだ

相変わらず、テメェの頭の中は花畑だな

<選択してください>

A: それほどでも

サトコ

「いえ、それほどでも‥」

加賀

褒めてねぇ

サトコ

「すみません‥久しぶりのデートで、全部褒め言葉に聞こえます」

加賀

便利な頭だな

B: 加賀さんこそ

サトコ

「加賀さんこそ、私とのデートでちょっとはしゃいじゃってるんじゃ」

加賀

あ゛?

サトコ

「なんでもないです‥」

C: デートだから仕方ない

サトコ

「‥デートだから仕方ないです。大目に見てください」

加賀

‥‥‥

サトコ

「最近、潜入捜査で全然会えないし‥加賀さん不足だったんです」

加賀

犬が、ずいぶん生意気になったな

加賀

‥情けねぇツラしてんな

ピンッ!と思いきり加賀さんに指でおでこを弾かれた。

サトコ

「いたっ」

加賀

この程度でか

サトコ

「今っ‥渾身の力でデコピンしましたよね‥!?」

加賀

1割の力も出してねぇ

(ウソだ‥!これ絶対、おでこ赤くなってる‥!)

サトコ

「うう‥久しぶりのデートなのに、容赦ない‥」

加賀

行くぞ

痛みに目を潤ませる私の手を取り、加賀さんが歩き出す。

さりげなく繋がれた手は、指が絡まり恋人繋ぎになった。

サトコ

「‥‥‥」

(久しぶりに、加賀さんに触られた‥)

(さっきのデコピンの痛みも吹き飛ぶほど嬉しい‥!)

加賀

うるせぇ

サトコ

「な、なにも言ってません」

加賀

そのニヤけた顔が視界にうるせぇって言ってんだ

サトコ

「視界にうるさい!?そんなこと初めて言われましたよ!?」

加賀

喚くな

で、どこ行くんだ

サトコ

「あ、実は大通りに新しい和スイーツのカフェができたそうなんです」

「加賀さんが好きそうなメニューがたくさんありましたから、行ってみませんか?」

加賀

大福は?

サトコ

「もちろんありましたよ!」

加賀

どこだ

サトコ

「向こうの通りです!」

普段と表情は変わらないけど、加賀さんがほんの少し喜んでいるのが分かる。

(こういう微妙な表情の変化も、1年以上付き合ってようやくわかるようになってきたんだけど)

(でも‥少しずつでも、加賀さんのことを理解できるようになった気がして嬉しいな)

【カフェ】

雑誌で紹介されたばかりらしく、和スイーツのカフェは行列ができていた。

サトコ

「ちょっと並んだらすぐ入れそうです。メニュー見て待ってましょうか」

「加賀さん、どれにします?私、餅入り和パフェにしようかな」

加賀

大福一択だ

サトコ

「大福にもいろいろありますよ。イチゴ大福にレアチーズ大福、プリン大福‥」

加賀

あの眼鏡サイボーグ野郎が喜びそうだな

サトコ

「あ、お酒入り大福もあるみたいですよ」

加賀

‥‥‥

(し、しまった‥!お酒入り大福では、一度失敗してるんだった!)

(口に突っ込まれて喉が詰まりそうになったから、もう二度とあの失敗は繰り返さない‥!)

加賀

だいたい、和モノでパフェなんざ邪道だ

和菓子っていや、相場は決まってる

サトコ

「そんな考えはもう古いですよ。和モノだって、今やスイーツになる時代ですから」

加賀

犬が盾突くつもりか

すごまれて怯みそうになったけど、ぐっと堪える。

サトコ

「いえ!加賀さんもそろそろ、柔らかいもの以外の良さも認めていいと思います!」

「パフェだって充分、抹茶とかの和モノに合うんですよ」

加賀

上等だ‥どんだけ邪道か、きっちり教えてやる

サトコ

「望むところです!私だって、今日こそは‥」

???

「‥長野?」

一瞬、自分が呼ばれているとは気付かなかった。

聞き覚えのある声だと思って振り返ると‥そこに立っていたのは、奥野さんだった。

サトコ

「お、奥野さん‥!」

加賀

‥‥‥

奥野

「偶然だな。この店に並んでんのか」

サトコ

「はい!話題の和スイーツカフェだって聞いて‥」

「あ!あの‥私の、こ、恋人の‥加賀さんです」

妙に緊張しながら加賀さんを紹介すると、一瞬、奥野さんが加賀さんを凝視する。

加賀

‥どうも

奥野

「どうも、奥野です‥」

サトコ

「加賀さん、奥野さんにはいつも仕事を教えてもらってるんですよ」

加賀

そうか

奥野

「‥‥‥」

加賀

‥‥‥

(‥なに?この妙な雰囲気)

(っていうか、なんでふたりとも、こんなに無愛想‥?)

店員

「お次お待ちのお客様、二名様ですか?」

サトコ

「あ、はい!」

奥野

「‥じゃあな、長野」

サトコ

「はい、お疲れ様です」

頭を下げると、奥野さんが私たちに背を向ける。

加賀さんは、何か探るように、奥野さんの背中に視線を注いでいた‥

【新聞社】

翌日、仕事が終わって帰り支度を整えていると、奥野さんがこちらに歩いてきた。

奥野

「ずいぶん遅くなっちまったな」

サトコ

「お疲れ様です。こういう仕事に残業はつきものですから、仕方ないです」

でも、時計を見るともうかなり遅い時間になってしまっている。

奥野

「お前‥ほんと、変なヤツだな」

サトコ

「えっ?」

奥野

「普通、バイトがこんな時間まで残業なんてありえないだろ」

「実際、他の奴らはもうみんな帰ってるしな」

サトコ

「遅くまで仕事したり、徹夜したり、休みに突然仕事が入ったりするのは慣れてるので」

公安での捜査を思い出してそう答えると、奥野さんが優しく笑った。

奥野

「早くしろ。帰るぞ」

サトコ

「えっ?」

(もしかして、一緒に帰るって意味?)

サトコ

「あの、私、一人で‥」

奥野

「方向が一緒なだけだ。それに、こんな時間に女が一人じゃ、危ねぇだろ」

「最近物騒だしな。駅まで送ってってやる」

サトコ

「あ‥はい。ありがとうございます」

(最近、少しずつ奥野さんの態度が緩んでる気がする)

(相変わらずちょっと怖いけど、でもやっぱり悪い人じゃないんだ)

これ以上断るのも失礼だと思い、お言葉に甘えることにした。

【新聞社前】

オフィスを出て駅の方へ歩き出そうとすると、見覚えのある車を見つけた。

その近くのガードレールに寄りかかり、腕組みした加賀さんが立っている。

サトコ

「加賀さん!迎えに来てくれたんですか?」

加賀

遅ぇ

サトコ

「すみません。残業で‥」

「でも嬉しいです!今日は会えないと思ってました」

駆け寄ると、私から外れた加賀さんの視線が奥野さんへと向けられる。

加賀

‥‥‥

奥野

「‥‥‥」

サトコ

「あの、奥野さん‥すみません。ここで失礼します」

奥野

「‥ああ」

加賀

待たせやがって。さっさと乗れ、クズが

サトコ

「はい!」

「あとで、仕事が終わりましたって、メールしようと思ってたんです」

加賀

いらねぇ

サトコ

「いえ、でもほら、ちょっとくらいは心配とか」

加賀

してねぇ

(お、奥野さんですら危ないから送ってくれるって言ってくれたのに、この冷たさ‥)

(‥でも、きっと遅くまで連絡がないから、心配して迎えに来てくれたんだよね)

サトコ

「じゃあ奥野さん、お疲れ様でした」

奥野

「ああ‥」

加賀

‥‥‥

一瞬、加賀さんが奥野さんの方を見てから運転席に乗り込む。

最後に見た奥野さんの微笑みは、なぜか少し寂しそうに感じた。

【車内】

車が走り出すと、車は加賀さんのマンションではなく寮の方へと走り出した。

(あれ?今日は寮に送ってくれるのかな)

昨日はデートできたものの、それ以外ではほとんど一緒にいられないせいか、少し寂しい。

加賀

なんだ

サトコ

「いえ‥寮に戻るんですよね?」

「室長に、今日の報告しなくていいのかなって」

加賀

テメェがハニートラップ使ったことか

サトコ

「え?」

気が付くと、車はゆっくりと減速を始めていた。

やがて寮の近くの、人通りが少ない道でゆっくりと端に寄って停まる。

サトコ

「あの‥加賀さん」

加賀

どんな手使った?

サトコ

「え‥?」

意味が分からない私に、加賀さんの表情が険しくなった。

加賀

あの男、テメェに気がある

サトコ

「え‥」

加賀

テメェにしちゃ、上出来だ

<選択してください>

A: どういう意味?

サトコ

「上出来って‥どういう意味ですか?」

加賀

うまくいきゃ、利用できる

テメェの演技力にかかってるがな

サトコ

「それって‥」

(もしかして、奥野さんを騙して、情報を引き出せってこと‥!?)

B: 勘違いじゃ?

サトコ

「そんな‥勘違いです!奥野さんとは仕事の話しかしたことないですから」

「今日も、遅くなったから駅まで送ってくれるって言ってくれただけで」

加賀

どこまで鈍いんだ。テメェは

だが、都合はいい。あいつから情報を引き出して来い

(そんな‥『上出来』って、そういう意味!?)

C: だから不機嫌なの?

サトコ

「あの‥もしかして、それで不機嫌なんですか?」

加賀

‥あ゛?

サトコ

「な、何でもないです‥」

(加賀さんが、仕事に詩情を持ち込むはずなかった‥)

(‥ん?じゃあさっき『上出来』って言ったのは‥仕事のため?)

サトコ

「加賀さん、もしかして‥」

加賀

アイツから、テロの情報を探って来い

サトコ

「そんなことできません!それに、奥野さんが私に気があるなんて‥」

加賀

テメェがどう思おうと、事実は事実だ

だが、利用できるもんはする。それでテロが防げるならな

サトコ

「だって‥奥野さんに聞いたって、何もわからないですよ」

「保管室での会話を聞いた時、奥野さんは私の近くにいたんですから!」

加賀

あえて関係がないように見せているセンもある

それとも‥またテメェは、信用してるとかくだらねぇことぬかすんじゃねぇよな

加賀さんの鋭い言葉に、言い返せなかった。

加賀

クズが‥テメェは考えが甘すぎる。すぐにほだされやがって

サトコ

「ほだされたわけじゃ‥!」

加賀

‥気がある女になら、何か話す可能性もある

あいつも犯人候補だってことを忘れんな

うつむき、膝の上でぎゅっと手を握った。

(加賀さんの言うことはわかる‥仕事なんだから、甘いことは言ってられない)

(でも、奥野さんを利用して情報を聞き出すなんて‥)

サトコ

「‥奥野さんは、すごく仕事熱心な人です。あの情熱は本物です」

「私たちと同じ気持ちで、世の中に向けて、記事を書いてるんです」

加賀

それとこれとは話が別だ

とにかく、テメェは奥野から情報を聞き出せ

得意のハニートラップでも使ってな

サトコ

「加賀さん‥」

(加賀さん‥私に、奥野さんを誘惑しろって言ってる?)

(だって、私は加賀さんの恋人なのに‥私が他の人にそんなことして、平気なの‥?)

私の気持ちを察したかのように、加賀さんは冷たく言い放った。

加賀

‥利用できるもんがあるなら、何でも使う

たとえそれが、テメェでもな

サトコ

「‥‥‥!」

涙を堪えて、ぐっと拳を握りしめた。

サトコ

「奥野さんが犯人なはずないです‥私は、そう信じます」

「だって奥野さんは‥!」

加賀

黙れ

本当に私を黙らせようとするかのように、加賀さんがキスで私の口を塞ぐ。

無理やり頭を引き寄せられて舌を絡められ、身体を押さえつけられて身動きが取れない。

(こんなキス‥嫌っ‥!)

その強引な行為に、思わず加賀さんを押しのけるように顔を逸らした。

サトコ

「やめてください‥!」

加賀

‥‥‥

テメェの仕事は、なんだ

サトコ

「‥‥‥!」

冷たい声が、胸に突き刺さる。

加賀

目の前に事件を未然に防げる可能性がある

その可能性をテメェの感情が潰すなら、公安なんざやめちまえ

サトコ

「‥‥‥」

加賀

‥降りろ

返す言葉もなくうつむいていると、加賀さんの低い声が聞こえた。

サトコ

「私‥」

加賀

‥‥‥

サトコ

「‥‥‥」

何か言おうとしたけど、言葉が出てこない。

サトコ

「‥失礼します」

小さく挨拶して、助手席から降りた。

【寮】

車を降りると、加賀さんの車はすぐに走り去った。

(奥野さんを利用しろっていう加賀さんに従えばよかった‥?)

(でも、それを好きな人から言われるなんて‥)

サトコ

「事件解決のために、誰かの気持ちを踏みにじるなんて‥」

(でも、加賀さんはいつもそうして犠牲者を減らしてきた)

(ダメだな、私‥いつも、こういうところで立ち止まってる‥)

答えが出ないまま、加賀さんの車が走り去った方向をいつまでも見つめていた。

to  be  continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする