カテゴリー

ヒミツの恋敵 加賀5話

加賀

目の前の事件を未然に防げる可能性がある

その可能性をテメェの感情が潰すなら、公安なんざやめちまえ

【新聞社】

加賀さんに突き放された翌日からも、私は新聞社の潜入捜査を続けていた。

あの日から、加賀さんとは連絡を取っていなかった‥

(‥前にも、こんなことがあったな)

加賀さんの強引な捜査に納得がいかず、一度は『退学届』を出して実家に帰った。

(だけど、綺麗ごとで公安の仕事はできない、って自分で答えを出して)

(加賀さんも‥私は、今のままでいいって言ってくれた)

思わず携帯を取り出して確認したけど、加賀さんからの連絡はない。

(ここでの潜入捜査のことも、加賀さんがいないから毎日学校に戻って室長に報告してるし)

(加賀さんと連絡取らなくなって、今日で何日目だっけ‥)

奥野

「おい、長野‥」

(連絡したいけど、あの日から加賀さん、迎えに来てくれなくなったし、気まずいな‥)

(きっと呆れてるんだろうな‥私がいつまでも成長せずに、同じところで立ち止まるから)

奥野

「長野、聞いてるか?」

サトコ

「えっ?あ‥すみません!次のコラム記事のことでしたっけ」

奥野

「ああ。もうすぐ社会部から届くから、それ差し替えとけ」

サトコ

「わかりました」

奥野

「ぼんやりミスしてんじゃねぇぞ」

サトコ

「はい」

奥野さんはいつも通りしっかりと仕事をこなし、相変わらず厳しい。

(だからこそ、誰よりも仕事に一生懸命なのが伝わってくる)

(加賀さんの言うことはわかるけど、奥野さんは犯人じゃない‥)

サトコ

「だけど、こういう決めつけがよくないのかな‥」

(公安刑事としては、先入観を持つのはよくない‥大事な手がかりを逃すかもしれないから)

(それは分かってる‥でも)

奥野

「‥‥‥」

「‥彼氏と、なんかあったのか?」

サトコ

「えっ?」

奥野

「やっぱりな」

奥野さんの鋭い指摘に、ついうろたえてしまう。

サトコ

「な、なにもないですよ‥」

奥野

「‥まあいい。コラム、頼んだぞ」

サトコ

「はい」

そっとため息をつく私を、奥野さんは何も言わず黙って眺めていた。

【室長室】

特に進展もないまま、数日が経過した。

奥野さんも含めて数人をマークしてるけど、なかなか尻尾を出さない。

難波

そうか‥まあ、向こうも必死だろうからな

一度お前に気付かれそうになってるし、用心深くなってるんだろ

今は、粘り強くマークするしかないな

サトコ

「わかりました。それじゃ引き続き‥」

言いかけた時、室長室に加賀さんが入ってきた。

久しぶりに見るその姿に、心臓が微かに跳ねる。

加賀

室長、やはり颯馬は無理だそうです

難波

そうか‥長引くとは思ってたけど、予想以上だな

(加賀さんに会うの、いつ以来だっけ‥)

(最後に聞いた声は‥『降りろ』だったな‥)

加賀さんは、部屋に入って来ても私の方を見ようとしない。

会えて嬉しいのに、それが悲しかった。

難波

後藤は?

加賀

後藤も別件で外してます

難波

そうか‥

氷川、悪いが今から、加賀と一緒に捜査に行ってくれ

サトコ

「えっ?」

難波

実は今夜、政治家の会食が行われるんだけどな

テロ対策のために、現場に張り付きたい

サトコ

「テロ予告が出たんですか?」

加賀

出てねぇが、念のためだ

「前に、予告が出た政治家だからな

難波

実際に何か動きがあったわけじゃないから、なかなか人員を割けなくてなぁ

(私が、加賀さんと一緒に捜査‥)

<選択してください>

A: やってみます

サトコ

「わかりました‥やってみます」

加賀

‥‥‥

サトコ

「足手まといにならないように、頑張りますから」

加賀

‥好きにしろ

B: 無理だと思います

サトコ

「‥私には、無理だと思います」

難波

しばらく現場を離れてたからか?

サトコ

「そうじゃないなですけど‥」

加賀

テメェで無理だと思ってる奴が、捜査なんざできるはずがねぇ

室長、俺一人で‥

難波

まあ、氷川がどうしてもって言うなら、無理強いはしない

でも、それで今後やっていけんのか?

それに、加賀に何かあった時、一人じゃな‥

(加賀さんに何かあった時‥)

そう言われると、断れない。

サトコ

「‥わかりました」

C: 加賀を見る

(一緒に行きたいけど、加賀さんがなんて言うか‥)

加賀さんを見ると、一瞬だけ目が合った。

加賀

どうすんだ。さっさとテメェで決めろ

サトコ

「い、行きます!」

思わず、そう答えていた。

加賀

行くぞ、クズ

サトコ

「あ‥はい!」

難波

何かあったら報告頼んだぞ

室長にうなずき、加賀さんを追いかけて室長室をあとにした。

【車内】

加賀さんの運転で、会食が行われているという小料理屋までやってきた。

車で、ぐるりと小料理屋を一周する。

サトコ

「ここですね」

加賀

ああ

サトコ

「あ‥お店の前に、報道陣が結構いますね」

「前にテロ予告があった政治家だから、マスコミも注目してるんでしょうか」

加賀

だろうな

それきり、会話が途切れてしまう。

(き、気まずい‥さっきからこんな感じで、会話が続かない‥)

でも加賀さんは、別に怒ってる様子もない。

(これが普通と思えばふつうなんだけど‥この間のことがあったから、気まずく感じちゃう)

(‥ダメだダメだ、今は捜査に専念しなきゃ!)

首を振った時、報道陣の中に見覚えのある人を見つけた。

サトコ

「奥野さん‥!」

加賀

何?

サトコ

「あそこに、奥野さんがいます!私が帰った後に来たのかもしれません」

加賀

‥見つかると厄介だ

サトコ

「そうですね‥気を付けます」

加賀

降りるぞ

小料理屋から少し離れたところに車を停めると、加賀さんと一緒に車を降りた。

【小料理屋 付近】

ひとまず奥野さんに気付かれないように、加賀さんと二手に分かれ、

イヤモニを通して、加賀さんから指示が出される。

加賀

特にお前は、あいつに見つからないように逆側から行け

サトコ

「加賀さんは?」

加賀

俺は万が一見つかっても、どうとでも言い訳できる

今回はテロ予告は入ってねぇ。念のための捜査だってこと、忘れんな

(つまり、奥野さんに見つかって潜入捜査ができなくなるような無茶はするな、ってことだよね)

サトコ

「わかりました。とりあえず今、小料理屋の裏口の方に‥」

イヤモニを押さえながら歩いていると、一瞬、キラリと何かが光った気がした。

サトコ

「あれ‥?今のって」

加賀

どうした

サトコ

「いえ、隣のビルの方で何かが光ったような気がしたんですけど」

「ビルに光が当たって、反射したのかもしれません‥」

(でも、それにしてはピンポイントで光ったような気がする‥)

目を凝らしてみると、隣のビルの屋上に、一瞬だけど人影が見えた気がした。

サトコ

「!」

「加賀さん‥隣のビルの屋上に誰かいます!」

加賀

チッ‥ここからじゃ見えねぇ

テメェはそこで待ってろ

サトコ

「だけどもし、テロの犯人だったら‥!」

加賀

俺が行くまで、勝手なことするんじゃねぇ

イヤモニの向こうから、加賀さんが走っている気配が感じ取れた。

つられるように、私もビルの方へと速足に歩き出す。

(あ‥見えた!あれ、さっきの動いた人影‥!?)

(え‥?あの人、もしかして)

はっきりとは見えなかったけど、手に持った何かを、小料理屋の方へ向けているような気がした。

(まさか‥銃!?)

サトコ

「加賀さん!もしかして、銃で小料理屋を狙ってるかもしれません!」

加賀

チッ‥

サトコ

「私もビルに向かいます!」

奥野

「長野‥?」

呼び止められて、ハッと振り返る。

すると‥小料理屋の裏口の方にいる奥野さんが見えた。

サトコ

「奥野さん‥!」

奥野

「お前、なんでここに‥帰ったはずだろ」

「もしかして、山下さんに言われたのか?」

(どうしよう‥ここで話を合わせれば、奥野さんと一緒に行動しなきゃいけなくなる)

(今はそれよりも、犯人を追うのが先決‥!)

奥野

「おい、何で黙ってる?」

「お前‥何か隠してねぇか?」

<選択してください>

A: 何も隠してません

サトコ

「な、なにも隠してません」

奥野さんから目を逸らして、そう答えるのがやっとだった。

(私はまたこうして、奥野さんに嘘をつかなきゃいけないんだ)

奥野

「‥そうは見えねぇ」

サトコ

「すみません‥私、急いでるので」

B: ごめんなさい

サトコ

「ごめんなさい‥答えられないんです」

奥野

「それはつまり、肯定の意味だと思っていいんだな」

サトコ

「‥‥‥」

(確かに‥答えられない、なんて‥秘密があるって言ってるようなものだ)

C: その話はまた今度

サトコ

「すみません、いま急いでいるので、その話はまた今度‥!」

奥野

「おい、長野!」

急いで隣のビルの屋上を見上げると、怪しい人影はいなくなっていた。

(どこに行ったの‥!?まさかもう、発砲した‥!?)

奥野

「お前‥なんか、普段と違うな」

「それは、新聞記者の顔じゃねぇ」

奥野さんの言葉に、息を呑む。

(ここで正体を怪しまれたら、もう潜入捜査ができなくなるかもしれない‥)

(前に保管室でも犯人に気付かれるようなミスをして‥私、足手まといになってばっかりだ)

目を伏せて、奥野さんの視線から逃げる。

ビルへ向かおうとする私に、奥野さんの優しい声が追いかけてきた。

奥野

「お前は‥いつも、必死に何かと闘ってるな」

サトコ

「え?」

奥野

「それがなんなのか‥俺には、教えてくれねぇのか?」

サトコ

「‥‥‥」

奥野さんを振り向くことなく、ビルへと走った。

【ビル屋上】

奥野さんを振り切って、ビルの屋上の扉を開ける。

加賀さんはまだ到着していないのか、姿はなかった。

(さっき見たのが、向こうからだったから‥いるとしたら、こっちの方角だけど)

(でも、移動してるはず‥慎重に行かなきゃ)

扉を開ける前に準備しておいた銃を握り、壁伝いにゆっくりと歩く。

小料理屋が見える方角の端に、男が銃を構えているのが見えた。

(あの男だ‥!加賀さんはまだ来ない‥私がやるしかない!)

男が射程圏内に入ると、銃口を向けた。

サトコ

「銃を下ろしなさい!」

犯人

「!」

私に背を向けていた犯人が、ビクリと震えた。

サトコ

「もう一度言います。銃を下しなさい」

犯人

「‥‥‥」

振り返らないまま、男が銃を下ろす。

少しホッとしたけど、まだ安心はできない。

(あとは、このまま近づいて男から銃を奪って)

(そうすれば、最悪の事態は避けられる‥とにかく、男を取り押さえなきゃ)

ゆっくりと男に近づいた瞬間‥‥‥

突然男が振り向き、私の腕をつかんで捻りあげた。

サトコ

「っ‥‥‥!」

犯人

「暴れるんじゃねぇ!」

サトコ

「痛っ‥は、離しっ‥」

必死に抵抗したけど、男の力に敵うはずもない。

殴りかかられ、咄嗟にそれをかわしたものの、そのまま地面に突っ伏すように押さえつけられた。

犯人

「残念だったな。女一人で向かってきたのが運のツキだ」

サトコ

「っ‥‥」

(あと少しだったのに‥!)

(どうしよう‥!?なんとか加賀さんと連絡を取らないと、このままじゃ‥!)

カチャッ

その時、頭上から冷たい金属音が聞こえた。

私を拘束している男が、ハッと身を固くするのがわかる。

加賀

そのクズを離せ

(この声‥加賀さん‥!?)

犯人

「クソッ‥いつの間に‥!」

加賀

そのノロマ一人だと思い込んだのが、テメェの運のツキだ

必死に抵抗しながら振り返ると、見えたのは男に銃を突きつけた加賀さんの姿。

加賀

さっさと両手を頭の後ろで組め

犯人

「‥‥‥!」

加賀

聞こえねぇのか

普段とまったく変わらない口調で、加賀さんが男を私から引き離す。

でもその表情はどこか強張っていて、犯人を見下ろす目は怒りの色を帯びていた。

(こんな加賀さん、初めて見た‥)

男が銃を下すと、加賀さんがチラリと私を見る。

怒られるかと思ったけど、その瞬間、加賀さんの瞳に宿っていた怒りの色が少し薄らいだ気がした。

加賀

一人で突っ走りやがって

サトコ

「す、すみません‥」

加賀

‥怪我でもされたら、面倒だ

(‥心配してくれてたんだ)

厳しい言葉だけど、加賀さんの気持ちが伝わってくる。

男の銃を確保している間、加賀さんは男を取り押さえて手錠をはめる。

(また、加賀さんが助けに来てくれた)

(加賀さんは、いつだって‥私がピンチの時に、来てくれる)

加賀さんに促されて、男は意外にもあっさりとそれに従う。

でもふと、加賀さんが男を見て目を見張った。

加賀

‥‥‥!

サトコ、伏せろ!

パンッ

サトコ

「っ‥!?」

加賀さんの言葉の一瞬後、どこからか銃声が聞こえ、腕に鋭い痛みを感じた。

倒れ込むように伏せると、あっという間に辺りに煙が充満する。

(煙幕‥!?)

(それに、腕が熱い‥)

無意識に手で押さえた腕から、温かいものが流れてくるのがわかった。

(血‥?)

加賀

おい‥!サトコ!

サトコ

「加賀、さ‥」

加賀

くそっ‥しっかりしろ!

少し伏せるのが遅れたせいで、煙を吸ってしまったらしい。

それに加え、腕の痛みに意識が朦朧とする。

(加賀さん‥どうして、私のところに‥)

(犯人は‥?私よりも、犯人を追わなきゃ‥)

そう思うのに、言葉が思うように出てこない。

(加賀さん‥犯人を‥私のことは、いいから‥)

(‥‥‥)

to  be  contiued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする