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総選挙2016① KISS or KILL:加賀1話

【喫茶店】

鳴子
「それで?最近、カレとはどうなの?」
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ある休日、友達の鳴子とカフェでお茶していた時のこと。
鳴子に興味津々に尋ねられ、慌てて誤魔化そうとする。

サトコ
「どうって‥その、普通だよ」

鳴子
「まったまた。鳴子さんの目は誤魔化されませんよ」
「もしかして、何か悩みがあるんじゃない?それとも、ノロケ?」

サトコ
「の、ノロケなんて‥」

実は今、2年前に出会った人と同棲中だ。

(悩み‥ってほどでもないけど、鳴子に相談してみようかな)

サトコ
「実はね‥カレから、犬扱いされてるんだけど」

鳴子
「犬!?」

サトコ
「何かあると、『駄犬のくせに』って‥これって普通だと思う?」

鳴子
「普通なわけないでしょ!そんなの聞いたことないよ!」

(ですよね‥)

【加賀のマンション】

鳴子と話が弾んでしまい、予定よりも帰宅するのが少し遅くなってしまった。

(加賀さん、もう帰ってきてるよね‥)
(一応連絡はしたけど、返事がなかった‥ということは)

恐る恐るドアを開けると、ちょうどバスルームから出てきた加賀さんと鉢合わせした。

サトコ
「あ、あの‥」

加賀
遅ぇ
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サトコ
「すっ、すみません!でもさっき、少し遅くなるってメールを‥」

加賀
んなもん、いちいち確認するわけねぇだろ

明らかに機嫌の悪い加賀さんが、私を殺すかのような勢いでこちらに歩いて来る。

サトコ
「こ、今度からは電話にします!ごめんなさい!」

加賀
連絡なんざ必要ねぇ
予定の時間にも帰ってこれねぇのか、うちの駄犬は

(また駄犬扱いされた‥!)

このままいくと、アイアンクローを食らうのがいつものパターンだ。
ぎゅっと目を閉じたけど、覚悟していた痛みが来ない。

(あれ‥?)

恐る恐る目を開けると、加賀さんは私のネックレスをまじまじと見つめている。

加賀
首輪は、ちゃんとつけてるらしいな

サトコ
「は、はい‥もちろんです」
「でも、あの‥首輪じゃなくて、ネックレス‥」

加賀
そのうち、リードも買ってやる

(リード!?どういうこと!?)

焦らすようにネックレスを指でなぞると、加賀さんが私の首筋に顔を埋める。
微かな痛みが走り、痕をつけられた。

サトコ
「んっ‥」

加賀
忠犬に育つように、躾してやる

サトコ
「待っ‥」

強引にソファに押し倒され、身動きが取れなくなるように組み敷かれた。

(いつもこうして、犬扱いされてる‥)
(加賀さん、まさか本当に私のこと、そう思ってるわけじゃないよね‥?)

少しの不安が胸をよぎるけれど、急激に与えられる快感に、何も考えられなくなるのだった‥

【会議室】

加賀さんに激しく抱かれた翌朝。
電話で呼び出されて出社すると、普段はいないボスが事務所にいた。

サトコ
「ボス‥お久しぶりです」

難波
ああ。お前もずいぶんと成長したらしいな。話は他の奴らから聞いてる
今月に入って、何人殺した?面倒な相手にも、苦戦しなくなったそうじゃねぇか

サトコ
「‥ありがとうございます」

(そう‥私の仕事は、裏で暗躍する人間たちを殺すこと)
(両親を失い路頭に迷っていたところをボスに拾われて、私は一人前の殺し屋として育てられた)

サトコ
「でも、どうしてボスが直々に‥」

難波
次のターゲットは、ちょっと厄介でな

そう言って、ボスが私に1枚の写真を差し出す。
そこに映っていたのは‥加賀さんだった。

サトコ
「!」

難波
加賀兵吾。うちと敵対する組織に雇われているスナイパーでな
相当腕がいいらしく、最近ずいぶんと頭角を現してきてる

サトコ
「‥彼を殺す理由は?」

心の中で深呼吸をして、平静を装ってボスに尋ねる。
ボスはくだらない、とでも言わんばかりに目を細めた。

難波
敵の手駒を生かしておく必要はねぇだろ
24時間以内だ。ミスしたときは‥わかってるな
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ぽん、と私の肩に手を置くと、ボスはタバコをふかしながら部屋を出て行った。

(次のターゲットは、加賀さん‥)
(加賀さんも殺し屋だったなんて‥しかも、敵対する組織に雇われてる‥)

一人残された部屋の中、空っぽの心で写真を眺める。
いつもの無表情で佇んでいるのは、私が愛したカレだった。

(この仕事を引き受ければ、加賀さんを裏切ることになる)
(だけど‥今の組織は、私にとって家族も同然だ)

ボスに拾われなければ、私はもうとっくにどこかで野垂れ死んでいただろう。
それにこの世界では、組織を裏切るということは死を意味する。

(ボスには、ここまで育ててもらった恩がある)
(何があっても、ボスだけは裏切れない‥)

どんなことがあっても、この世界で生きていく覚悟を決めた。
涙など、もう流すことはないと思っていた。

(それなのに‥)

加賀さんの写真に、こぼれた涙が落ちる。
最初で最後の涙を流し、私は加賀さんと、決別する決意をした‥‥‥

【加賀のマンション】

気持ちに区切りをつけて、いつものように家に帰った。

(加賀さんが無防備になるのは、シャワーの時‥その瞬間、行動に移そう)
(何があっても、もう泣かない‥泣くことは、“死”を意味する)

リビングに入ると、加賀さんがソファに座って何かしているのが見えた。
私の気配を感じたのか、振り返った加賀さんの手には大福が握られていた。

加賀
帰ったのか

サトコ
「はい。遅くなってすみません」

加賀
お前も食うか

私に大福を差し出してくる加賀さんに、胸が締め付けられる。

(ずっと、好きだった‥加賀さんと恋人同士になれて、本当に嬉しかった)
(私でも、普通の幸せが掴めるかも‥なんて、錯覚したこともあった)

心が揺らぎそうになりながらも、気持ちを立て直す。

(もう、決めたんだから‥)
(だけど、加賀さんを失ったら‥私に、何が残るんだろう‥)

でも、もし私が加賀さんを殺さず逃げ出したとしても、別の殺し屋が加賀さんを狙うだろう。
そして同時に、私も人知れず殺されるに違いない。

加賀
‥‥‥
おい

サトコ
「え?」

立ち尽くす私の腕を引っ張り、加賀さんがいつものように強引にソファに押し倒した。
唇が触れ合いそうになり、咄嗟に傍らに置いてあった大福を手に取る。

(キスなんてしたら、決心が鈍る‥!)

大福を加賀さんの口に押し込もうとするが、ギリギリのところでかわされてしまった。

(か、加賀さん‥こんなに反射神経よかったっけ‥!?)

加賀
‥主人に盾つくとは、駄犬が偉くなったもんだな
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サトコ
「あっ‥」

加賀
イチから躾け直しか?あ?

加賀さんが、スカートの中に手を差し入れる。
慌ててその手を押さえたけど、力で加賀さんに敵うはずがない。

(だけど、肌を重ねればそれだけ情が移る)
(これ以上はっ‥)

サトコ
「か、加賀さん‥!おなか空いてないですか!?」

加賀
テメェを食ってからでいい

サトコ
「でも‥そうだ、先にお風呂!」

加賀
一緒に入ってほしいのか

ブラウスのボタンを外され、加賀さんの唇が肌に這う感触に身体が震えた。

(このまま流されたら‥きっと、任務を遂行できなくなる)
(それだけはっ‥)

はだけたブラウスを押さえ、身体を反転させて加賀さんに背を向けた。

サトコ
「ごめんなさい‥今日は、身体の調子がよくなくて」

加賀
‥‥‥
‥なら、いい

静かに告げると、加賀さんが私から身体を離す。
自分で望んだはずなのに、消えた温もりに涙がこぼれそうだった。

【キッチン】
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不機嫌なまま、加賀さんがシャワーを浴びにバスルームへと消えた後。
キッチンの戸棚から糠床を取り出すと、糠漬けの奥に入っているカードキーを取り出した。

(まさかこれを、加賀さんを殺すために使う日が来るなんて思ってなかった)
(私はこんなことのために、殺し屋になったんじゃない‥)

そう思ってから、首を振って後悔を振り払う。

(今まで、いくら裏社会の人たちとはいえ、何人も殺してきた)
(そんな私が、幸せになろうなんて‥甘かったんだ)

フローリングの中で、叩くと一ヶ所だけ音が違う部分がある。
そこにカードキーをかざすと、床下収納の扉が開いた。

(‥これが、加賀さんの命を奪う)
(でも‥その時は、私も)

アタッシュケースの中から銃を取り出すと、そのずっしりとした重みに目を閉じた。

サトコ
「‥よし」

(加賀さんがシャンプーを流すのは、平均、シャワーに入ってから4分後)
(狙うなら、泡を流すために目を閉じた、その瞬間しかない‥)

音を立てずに立ち上がると、バスルームへ向かった。

【バスルーム】

加賀さんがお風呂に入って3分28秒後。

(あと10秒‥9,8,7,6‥)

カウントダウンしたあと、手を置いていたドアノブを一気に回した。

そこにいるはずの加賀さんの頭に銃を突き付けようとした、その瞬間‥

加賀
残念だったな‥

グイッと腕を引っ張られて銃を奪い取られると、頭に冷たく固い感触を覚える。

(えっ‥‥‥‥)

私に銃口を向けているのは、間違いなく加賀さんだった‥
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to be continued

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