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総選挙2016① プラネット☆LOVERS:難波1話

【研究室】

ここは、天才科学者である難波仁が室長を務める、難波研究所。
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私はそこで、室長の助手として一緒に研究に勤しんでいる。

(もうすぐ、“アレ”が完成する‥)
(もし“アレ”が成功したら、室長の‥ううん、私たちふたりの長年の夢がついに叶うんだ‥!)

難波
どうした?ずいぶんと嬉しそうだな
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サトコ
「あ‥す、すみません!集中しますね」
「‥でも室長、そういえば今日って晩ご飯って」

難波
ん?そういえば、こっちに没頭しすぎてて食うの忘れてたな

サトコ
「どうしましょう、今から何か、簡単に‥」

ラジオ
『まもなく、午前3時をお知らせします』

私たちの会話を遮るように、部屋の隅に置いてあるラジオから時報が聞こえてきた。

(もうこんな時間なんだ‥でも、全然眠くない)
(晩ご飯食べ忘れたけど‥今はそれよりも、研究の方が大事だ)

難波
よし、できた‥!

聞こえてきた声に、ハッと振り返る。
最後の導線を繋ぎ合わせた室長が、私を見て笑顔になった。

難波
サトコ‥これで、タイムマシンの完成だ!

サトコ
「おめでとうございます!ついにやったんですね!」

思わず、室長に駆け寄って抱きつく。
研究所の中心には、無数の導線が複雑に絡み合った機械が設置されていた。

(誰もが『無理だ』と言ったタイムマシンの試作機を、室長はついに完成させた‥)
(助手として‥そして恋人として、すごく嬉しい!)

難波
お前も、なんの確証もないこの研究についてきてくれて、ありがとな

サトコ
「そんな‥こんなに素晴らしい研究のお手伝いが出来て、本当にうれしいです」

難波
タイムマシンが完成したのは、お前のおかげだ

優しい言葉の後、室長の優しいキスが落ちてくる。
でも喜んだのもつかの間、タイムマシンから異音が聞こえてきた。

サトコ
「室長‥なんだか、試作機の様子がおかしいです」

難波
ん?そういや、妙な音が‥

室長から身体を離して、タイムマシンに近づく。
試作機に触れようとした瞬間、まばゆい光に包み込まれた。

サトコ
「きゃっ‥」

難波
サトコ!
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光の中を、室長が駆け寄ってくるのが見える。
でもすぐに白い光が辺りを満たし、何もわからなくなった。

じりじりと照りつけるような日差しを感じて、意識が少しずつ戻ってきた。

(まぶしい‥あの光は、いったい‥)

難波
い‥おい、サトコ

身体を揺さぶられて、ようやく目が覚める。
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【砂漠】

目の前には、心配そうな顔をした室長がいた。

難波
大丈夫か?どこか痛いところはないか?

サトコ
「室長‥私‥どうして‥」

身を起こすと、視界に飛び込んできたのは一面の砂漠。

(ど、どういうこと‥?私たち、さっきまでは研究所にいたはずなのに)
(ううん、そうだ‥タイムマシンが完成して、喜んでたら凄い光が出て‥)

難波
起きられるか?めまいは?

サトコ
「は、はい‥大丈夫です」
「それより室長‥ここはどこなんでしょう?」

難波
俺にもわからん
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どこか困惑した表情で、室長が首を振る。

難波
だが‥タイムマシンが作動したのは、間違いなさそうだな
ってことは、違う時代に飛ばされたと考えていい

サトコ
「違う時代‥」

(それって、未来‥?それとも、過去?)
(どっちにしても、なんとかして元の時代に帰らないと‥)

室長も同じことを考えていたのか、私を励ますように立ち上がらせてくれる。

難波
タイムマシンが失敗して、今の時代の砂漠に移動した可能性もある
どっちにしても、ここでこうしてても仕方ない。少し歩いてみるか

サトコ
「そ、そうですね‥」

難波
なんか発見があるかもしれんしなぁ

いつもののんびりとした口調が、妙にホッとした。

(室長、きっと私を安心させるためにわざと普段通りに振る舞ってくれてるんだろうな‥)
(でも‥これから、どうなっちゃうんだろう?)

さっきまでは研究室にいたはずなのに、今はいつの時代とも分からない砂漠にいる。
あまりにも現実離れした出来事に、どうしても不安を隠すことができない。

難波
サトコ

サトコ
「え?」

顔を上げると、室長の大きな手に頭をポンポンと撫でられた。

難波
安心しろ。何があっても、お前のことは俺が守る

サトコ
「室長‥」

難波
だから、ふたりで一緒に帰ろう。な?

私が安心するまで、何度も何度も、室長は髪を撫でたり抱きしめたりしてくれた。

(室長だって不安なはずなのに‥一生懸命、私を励ましてくれてる)
(私は室長の助手なんだから、一人で落ち込んでちゃダメだ)

自分を奮い立たせ、差し出された室長の手を取った。

難波
少しでも何かあったら、すぐ言えよ

サトコ
「はい。ありがとうございます」

笑顔が戻った私に安心したのか、室長はゆっくりと、砂漠を歩き出した。

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砂の中をずいぶんと歩き、少しずつ陽が傾き始めた頃。
どこかへ辿り着く様子もなく、次第に心身ともに疲弊し始めた。

(景色になんの変化もないのが、とにかくつらい‥)
(同じ場所をぐるぐる歩いているみたいで、普通に歩くよりも疲れる気がする‥)

猛烈に喉が渇き、少しずつ会話も少なくなり、歩くためにただ無心で足を動かす。
すると、前を歩いていた室長の背中にトンとぶつかった。

サトコ
「痛っ」

難波
ああ、急に立ち止まって悪いな

サトコ
「わ、私こそ‥前を見てなくてすみません」

難波
少し休むか。これを持ってるのを思い出したんだ

そう言って室長がポケットから取り出したのは、かわいく包装されたキャンディだった。

難波
ほら、腹の足しになるだろ?

サトコ
「わぁ‥」

(そういえば、室長っていつもお菓子を持ってるよね)
(でも‥逆に言えば、これが唯一の食糧なんじゃ)

そう思うと、なかなか受け取れない。
私の考えを察したのか、室長が私の手にキャンディを握らせた。

難波
飴なら死ぬほど持ってるから、ひと粒口に入れとけ
唾液が出るから、喉の渇きが少し楽になるぞ

そう言いながら、室長はもう片方のポケットから取り出したものを口に入れた。

(そっか‥たくさんあるなら、ひとつもらってもいいかな)

お言葉に甘えて、キャンディを口に入れる。
甘さが口に広がり、疲れが少し癒えていく気がした。

サトコ
「すごく美味しいです。室長は何味ですか?」

難波
俺か?俺のは石だ

サトコ
「え‥」

(石‥?石ってどういうこと?)

(だって室長、キャンディなら死ぬほどある、って‥)

難波
ん?なんだ、見るか?

本当に口の中を見せられそうになって、慌てて首を振る。

サトコ
「け、結構です‥!でも、どうして石なんて」

難波
研究中に使ってた石がポケットに入ってたからな
石だって、舐めてると唾液が出るんだぞ

サトコ
「それはそうかもしれませんけど‥」

難波
タイムマシンの試作機完成にひと役買ってくれた石だからな。味も悪くない
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気にした様子もなく、室長がいつものように笑う。
それはまるで、この状況を楽しんでいるようにさえ見えた。

(でも‥室長、私のためにキャンディを残してくれてるんじゃ)
(室長だって、喉が渇いてるのは同じなのに‥)

それと同時に、室長の優しさと頼もしさを実感した。
サトコ
「私‥室長と一緒で、本当によかったです」
「私一人だったら、とっくに諦めちゃってたかも」

難波
おいおい、それは困るぞ

驚いたように、室長が私の手を取った。

サトコ
「え?」

難波
お前が一人ってことは、この世のどこかで待ってる俺がいるってことだぞ
諦められたら、寂しいだろ

サトコ
「室長‥」

本心からそう思ってくれているのか、室長の手に力がこもる。
でも何か思いついたように、首を傾げた。

難波
待てよ‥もしお前がいなくなったら、俺の方から探しに行けばいいのか
でも今回みたいに、予想外のところに飛ばされたら困るな‥

サトコ
「あの‥今回みたいなことは、そうそうないですから」

難波
ん?ああ、まあそうだな

(ふふ‥でも、こういう考え方って室長らしいな)
(私、こんなに室長に大切に思われてるんだ)

サトコ
「それにしても‥この砂漠、どこまで続いてるんでしょうね」

難波
さあな‥だが、休めるところが見つかるまで歩き続けるしかない
できれば、夜になる前に見つけたいんだけどな

サトコ
「そうですね‥」
「こんなに見晴らしが良くて逃げ場がないところで、夜を明かすのはちょっと‥」

(でも、今のところ岩陰すら見つからないんだよね‥)
(‥いやいや!とにかく今は、希望を持って‥)

必死に首を振って不安を振り払おうとした時、視界の隅で何かが動いた。

サトコ
「‥え?今のって‥」

難波
どうした?

サトコ
「室長、あれ‥!」

to be continued

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