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総選挙2016② 石神 カレ目線

石神

それで、映画のロケ地はどこだ?

サトコ

「ちょっと待っててくださいね。今調べますから」

映画を観た俺たちは、話の流れでロケ地にいくことになった。

サトコは携帯を取り出すと、調べ始める。

(映画のロケ地を巡るのは、初めてだな)

きっかけは、サトコのあのひと言。

サトコ

『そういえば‥あのプリンって実際に売ってるそうですよ』

(あの映画に出てくるプリンは本当に美味そうだった。どんなものか楽しみだ)

サトコ

「ロケ地はここから少し離れたところにありますね」

「この場所だと、電車の方がいいかもしれません」

石神

なら、駅に向かうか

サトコ

「はい!」

サトコの手を握り、駅に向かって歩き始める。

サトコ

「道案内は、私に任せてくださいね」

石神

フッ、頼もしいな

ニコニコと微笑むサトコに、口元が緩む。

(たまにはのんびりと出かけるのもいいな。せっかく張り切っていることだし)

(今日はサトコに任せてゆっくりさせてもらおう)

石神

じゃあ、案内を頼む

サトコ

「はい!」

サトコ

「石神さん‥」

暗闇の中、遠くの方からサトコの声が聞こえた。

サトコ

「石神さん、起きてください。そろそろ着きますよ」

石神

‥‥‥ん

【電車】

重い瞼を開けると、サトコが俺の顔を覗き込んでいた。

(ここは‥)

ぼんやりと窓の外を見ると、見慣れない風景が広がっている。

サトコ

「‥あ、駅に着きましたよ。降りましょう」

サトコに手を引かれながら、電車を降りた。

【駅】

(電車に乗ったところまでは覚えているが‥いつの間にか眠ってしまったのか)

(最近仕事が詰まっていたが‥身体は正直だな)

サトコ

「さて、張り切ってロケ地に向かいましょう!」

石神

‥‥‥

(せっかく久しぶりのデートだというのに、疲れに負けてしまうとは‥)

楽しそうなサトコに、申し訳なさが込み上げる。

石神

‥すまない。気付いたら眠ってしまっていた

サトコ

「ふふっ、気にしないでください」

サトコはふわりと微笑んだかと思うと‥

石神

‥どうした、ニヤニヤして。何か言いたいことでもあるのか?

サトコ

「いえ、なんでもありませんよ」

(俺が寝てる間に、何かあったのか‥?)

石神

じゃあ、さっそく行くか

サトコ

「はい!」

手を繋ぎ歩き始めても、サトコのニヤニヤ顔は止まらない。

(何があったのか、気になるが‥)

今は楽しそうなサトコを見ているだけで、充分だった。

【商店街】

サトコ

「‥‥‥」

駅を出てしばらく経つも、一向に目的地に着かなかった。

サトコは必死に地図を見比べるものの、不安そうな顔をしている。

(もしかして、道に迷ったのか?)

(手を貸すのは簡単だが‥)

サトコに任せている手前、しばらくの間見守りたい気持ちもある。

サトコ

「おかしいな‥」

石神

‥‥‥

不安の色が濃くなるサトコに、ついに声を掛ける。

石神

待て、サトコ

携帯を取り出し、改めてロケ地を調べる。

(これは‥)

石神

‥同じ市の名前だが、ここではないみたいだ

サトコ

「えっ!?」

サトコは大きく目を見開き、申し訳なさそうに肩を落とす。

サトコ

「すみません‥」

(サトコのことだ。自分の責任だと思ってるんだろう)

真面目で責任感のある彼女を、愛おしく感じる。

(そもそも、ここでサトコを責めても仕方がない。気持ちを切り替えるべきだな)

石神

そう落ち込むな。きちんとチェックしなかった俺にも責任がある

せっかくここまで来たんだ。行こう

サトコ

「‥はい!」

笑顔で返すサトコに、笑みを浮かべる。

(不安そうにしているかと思えば、笑顔になったり‥コロコロ表情が変わる奴だな)

【ロケ地】

(まさか、目の前で売り切れるとは‥こんなこともあるものなんだな)

サトコ

「私のせいで、すみません‥」

石神

終わったことはもういい。過去を振り返ってもいいことはないからな

サトコ

「はい‥」

(残念そうだな。また責任を感じているんだろう)

(このまま帰ると、せっかくここまで来たのに浮かばれないな)

(それに‥)

今日一日の出来事を思い返す。

(もう少しサトコと一緒にいたいと思うのは、俺の我儘だろうか)

石神

‥あの弁当屋は朝早くからやってる

朝イチで買って戻れば、仕事には間に合うだろう

サトコ

「へ‥?」

俺の言葉に、サトコは目を瞬かせる。

石神

せっかくここまできたんだ。今日は泊りだな

サトコ

「っ‥」

嬉しそうに破顔するサトコに、胸を撫で下ろす。

(サトコも俺と一緒にいたいと思ってくれてるのか‥)

想いが通じ合っているように感じ、心が躍る。

(誰かといてこんなふうに感じるなんて、後にも先にもサトコだけだろう)

だからこそ何よりもこの笑顔を守りたい‥心からそう思った。

石神

‥そろそろ行くか

ロケ地に背を向けながら、ゆっくりと歩き始める。

サトコ

「石神さん、帰りの電車では私の肩で寝ないでくださいね?」

「ドキドキしちゃいますから」

石神

は‥?

(なんのことだ?)

サトコ

「ふふっ」

くすくすと笑うサトコに、行きの電車を降りた時のことを思い出す。

(もしかして‥)

石神

‥すまない。気付いたら眠ってしまっていた

サトコ

『ふふっ、気にしないでください』

(サトコがやけにニヤニヤしていたのは、そういうことだったのか)

石神

あれは仕事で疲れが溜まっていたんだ

サトコ

「そうですね」

石神

お前な‥

いつまでも楽しそうにしているサトコに、苦笑いする。

石神

そういうサトコこそ、俺の肩で寝るなよ?

サトコ

「ドキドキしちゃうから、ですか?」

悪戯な笑みを浮かべるサトコに、ニヤリと笑む。

石神

そのくらいでドキドキすると思っているのか?

サトコ

「えっ、しないんですか?」

「それは彼女として、ショックといいますか‥」

真剣に悩み始めるサトコに、口元が緩む。

(一緒にいて俺がどれだけドキドキしているかなんて‥サトコは知らないんだろうな)

【学校】

翌日。

サトコ

「あっ、石神教官。おはようございます」

石神

ああ

廊下でサトコとすれ違い、挨拶される。

(ここでは教官と生徒か‥)

昨日一昨日とサトコと一緒にいたせいか、妙な気持ちを覚える。

(今は教官と生徒という立場だが、いずれは‥)

一度振り返り、サトコの背中を見送る。

(周りの目を気にせずに、サトコと一緒にいたい)

そんな日が来ることを信じながら、その場を後にした。

End

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