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総選挙2016② 東雲 1話

【映画館】

久しぶりの週末デート。

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今日は、教官と2人で映画を観に来たわけだけど‥

東雲

はぁぁ‥

アホくさ。ホラー映画とか

サトコ

「そんなこと言わないでくださいよ!」

「私だって、本当は新選組の映画が観たか‥」

東雲

‥‥‥

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サトコ

「‥すみません。なんでもありません」

(教官ってば、最近どうしちゃったんだろう)

(私が新選組の話をするだけで、何故か不機嫌になるんだよね)

(ああ、でも観たかったなぁ、あの映画‥)

東雲

理由は?

サトコ

「はい?」

東雲

今日、ホラー映画を選んだ理由

サトコ

「え、ええと‥それは‥」

「話題作だったっていうか‥」

(それに出演者の1人が、キノ‥マッシュルームヘアだったっていうか)

(もっとぶっちゃけると、教官にそっくりだったって言うか‥)

心の中で言い訳しているうちに、開演のブザーが鳴り響いた。

サトコ

「あっ、いよいよですね」

東雲

ふわぁ‥

サトコ

「‥あの、寝ないでくださいね?」

「ホラー映画を1人で観るの、結構辛いんで‥」

東雲

んー、努力する

(‥本当かなぁ。かなり怪しいんですけど)

映画は、寂れた旅館に1組のカップルが訪れるところから始まった。

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(うわ‥『いかにも』な旅館‥)

(こういうところ、私なら絶対に泊まれないなぁ)

(あ、そろそろ出てきそう‥)

(来る‥たぶん来る‥そろそろ‥)

サトコ

「ひぃ‥っ!」

(出たぁぁっ!)

(きょきょきょ、教官‥っ)

東雲

ぐぅ‥

(寝ないでーっ!)

(まだ30分だから!あと90分あるから!)

サトコ

「教官、起きてください」

東雲

ぐぅ‥

サトコ

「教官、お願いですから‥」

東雲

う‥ん‥

幻‥ピーチ‥

(‥ダメだ。期待できない)

(残り90分間は、何とか1人で乗り切らないと‥)

そうこうしてるうちに、映画は中盤に入る。

サトコ

「うう‥」

(なにこれ‥なんで気付かないの‥)

(ダメだって!あの声、絶対怪しいから!)

(逃げて!早く逃げて!お願いだから今すぐ‥)

ゴトッ‥

サトコ

「‥っ!!!」

危うくあげかけた悲鳴を、私はかろうじて飲み込んだ。

(なな、何で左肩が重くなって‥)

東雲

すぅ‥

(え‥教官が寄り掛かってる?)

東雲

すぅ‥すぅ‥

(うわ、うわっ‥)

(こんなの久しぶりすぎ‥!)

(最近はキスどころか、手を繋ぐ機会もなくて‥)

サトコ

「‥‥‥」

(‥手、繋いでみよっかな)

東雲

すぅ‥すぅ‥

(いいよね、少しくらい‥)

サトコ

「失礼しまーす‥」

東雲

すぅ‥

(‥よかった、起きない)

(じゃあ、もうちょっと‥「恋人繋ぎ」‥なんて‥)

東雲

すぅ‥すぅ‥

(やった、まだ眠ってる‥)

(だったら、しばらくはこのままでもいいよね)

東雲

すぅ‥すぅ‥‥‥すぅ‥

【街】

数時間後。

東雲

ねぇ、何これ

身体の右側だけ、妙に痛いんだけど

(そりゃ、ずっと私に寄り掛かっていたから‥)

東雲

あと右手。やけに汗ばんでるんだけど

どういうこと?心霊現象?

サトコ

「さ、さぁ‥どうなんでしょうね」

(言えない‥まさかエンドロール寸前まで恋人繋ぎをしていたなんて)

東雲

ところでさ

来週はオレに付き合うよね?

今週はキミの希望に付き合ったんだし

サトコ

「それは、まぁ‥」

東雲

じゃあ、メモして

集合日時は土曜日18時

いちおう1泊の予定

サトコ

「!」

(きた、久しぶりのお泊り‥)

東雲

集合場所はS駅南口

サトコ

「南口ですね、分かり‥」

(ん?S駅南口って、確か教官の実家が‥)

東雲

ま、気楽に来てよ。初めてじゃないわけだし

父さんたちも会いたがってたから

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(やっぱり!)

【東雲 実家 門】

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そんなわけで1週間後。

サトコ

「はぁぁ‥」

(まずは深呼吸して‥)

サトコ

「服装OK、髪型OK‥」

「手土産OK、スマホの電源‥」

東雲

だから、うちは映画館じゃないって

ていうか緊張しすぎ

サトコ

「だって、ご実家は久しぶり過ぎて‥」

???

「おお、歩!それに氷川さんも‥」

(あ‥!)

東雲父

「ずいぶん早かったな」

東雲母

「ようこそ、氷川さん」

サトコ

「ごご、ご無沙汰しております!」

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「このたびは、お招きいただきありが‥」

(ん?スーツケースが3つ?)

東雲

今から行って間に合うの?

東雲父

「まぁ、大丈夫だろ、熱海だし」

東雲母

「新幹線に乗れば1時間もかかりませんよ」

(もしかして、これから2人で旅行?)

(だったら、どうしてスーツケースが3つも‥)

???

「お待たせいたしました。旦那様、奥様」

(えっ、まさか‥)

東雲

ばあや!

ばあや

「おお、坊ちゃま。元気そうでなりよりですじゃ」

「‥相変わらず『ヘンな虫』に捕まっておるようですが」

(うっ、手厳しい‥)

サトコ

「ど、どうもご無沙汰しております」

ばあや

「‥‥‥」

サトコ

「え、ええと‥本日はお日柄もよく‥」

ばあや

「‥坊ちゃま、ばあやは心配ですじゃ」

「この者に、坊ちゃまの世話が無事に務まるのかどうか‥」

東雲

ああ、気にしないで

そんなの、氷川さんには期待していないし

(教官まで!?)

ばあや

「ですが、それでは坊ちゃまが不便を‥」

東雲

いいって。今回は留守番しに来ただけだから

誰かに世話なんかされなくても平気‥

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サトコ

「‥いえ」

ここまで言われては、引き下がるわけにはいかない。

サトコ

「教官のお世話は私がします」

東雲

は?

サトコ

「炊事・洗濯・掃除‥」

「教官の身の回りのことは、すべて私が引き受けます」

私の意を決しての宣言に、ご両親は顔を見合わせた。

東雲父

「いや、あの‥大丈夫だよ、氷川さん。世話なんかしなくても」

「歩もいい大人なんだから」

東雲母

「そうですよ。何もムリすることは‥」

サトコ

「いえ、大丈夫です!」

「教官のことは、任せてください!」

ばあや

「‥ほう、いい度胸じゃ」

「それではお手並み拝見といこうかのう」

「とはいえ、食事はすでに用意しておるし、洗濯も済んどるので‥」

「できるとすれば、せいぜい掃除くらいじゃが‥」

サトコ

「分かりました、掃除ですね!」

(この2日間、とにかく頑張る!)

(そして、ばあやさんに認めてもらうんだから!)

東雲

‥‥‥

【リビング】

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リビングに入るなり、私は気合いを入れて腕まくりをした。

サトコ

「まずはお茶ですよね。何を飲みますか?」

東雲

は?

サトコ

「教官、家に帰るといつも飲み物を飲むじゃないですか」

「今日は私が淹れますよ、何が‥」

東雲

いらない

サトコ

「えっ」

東雲

自分で淹れられるから。お茶くらい

サトコ

「で、でも‥」

東雲

それより映画

DVDを借りてきたんだけど

教官は、カバンから1枚のDVDを取り出した。

サトコ

「えっ、これ!!」

(うそ、新撰組もの!?)

(しかも、これ、私がずっと見たかった『新選組が愛した女』!)

東雲

観るよね、もちろん

サトコ

「観ます!絶対に観‥」

(‥待って)

(今日の私は、教官のお世話‥ということは‥)

サトコ

「すみません、そのDVDすっっっごく観たいんですけど」

「その前に掃除をさせてください。私、お世話係なんで」

東雲

‥‥‥

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(え、沈黙?)

サトコ

「あ、あの‥?」

東雲

‥分かった。好きにしなよ

部屋で待ってるから

サトコ

「了解です!じゃあ、急いで終わらせ‥」

「教官!?」

(‥行っちゃった)

(なんか不機嫌そうだったよね)

(そんなに早く映画を観たかったのかな)

(でも、お世話係を宣言した手前、掃除をしないわけにはいかないし)

サトコ

「‥よし、頑張ろう」

(まずはリビングだよね。床を掃いて、それから‥)

サトコ

「‥あれ、ゴミが落ちてない?」

(床、きれい。窓ガラス、きれい)

(照明器具、テレビの裏‥全部ピカピカ‥)

(これだと掃除をする必要がないんじゃ‥)

サトコ

「いやいや、それはさすがに‥」

(そもそもお屋敷自体が広いんだから、1ヶ所くらいはきっと‥)

(きっと‥)

けれども1時間後‥

サトコ

「ありえないんですけどーっ!」

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(ウソだ‥)

(家中を歩き回って、掃除できたのが玄関だけなんて‥)

サトコ

「ダメだ、完璧すぎる‥」

(どうしよう‥このままだとやることがないよ)

(料理はできてるらしいし、お茶を淹れるのは拒まれちゃったし)

(そもそも「お世話」ってなに?)

(肩もみ?着替えお手伝い?他には‥)

サトコ

『教官‥お世話係として、お背中をお流しします』

東雲

うん、お願い

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きれいにじっくりとね

(‥無理無理!絶対に無理‥)

(あ、でも‥お互いに水着を着るならあり?)

(それか私だけ水着で、教官は腰にタオルを‥)

サトコ

「‥っ!」

ふいに、私は後ろを振り返った。

背後から、誰かに見られているような気がしたのだ。

けれども‥

(‥いない)

(ヘンだな、確かに誰かの視線を感じたのに)

サトコ

「はぁぁ‥」

(もしかして、疲れてるのかも)

(ちょっと休んでから、教官を呼びに行こうかな)

【客間】

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ひとまず客間へやってきた私は、ごろりとベッドに寝転がった。

(教官のお世話か‥)

(もうこの際、何をしてほしいのか直接聞いた方がいいのかも)

(ちょうど今、隣の部屋にいるわけだし‥)

サトコ

「あ、そう言えば‥」

ふと、以前泊まったときに見つけた「紙」の存在を思い出した。

(ええと、確かベッドの前のところ‥)

サトコ

「あった!これこれ‥」

(壁を「コンコン」って2回叩くと「はい」‥)

(3回が「いいえ」で4回だと「もう寝た?」だったよね)

サトコ

「よし、せっかくだから久しぶりに‥」

コンコンコンコン‥

(‥あれ、返事がない。もしかして気づいてないのかな)

(だったら、もう1回‥)

そのときだった‥

サトコ

「えっ」

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(なにこれ、停電!?)

(どうしよう、なにも見ないんですけど‥)

サトコ

「とりあえずスマホ‥」

(スマホのバックライトで、辺りを照らせるはず‥)

コンコン‥

サトコ

「!」

コンコン‥コン‥

やけに控えめなノック音に、私はゆっくりと振り返った。

to be continued

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