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総選挙2016公約達成 颯馬1話

颯馬×ショートカット 「どっちの俺が好き?」

【颯馬マンション】

サトコ

「お風呂、ありがとうございました」

颯馬さんの家でお風呂を借りた私は、ソファで寛ぐ颯馬さんの元へ行く。

サトコ

「新しいシャンプー、いい香りですね」

颯馬

そうですか?

隣に座った私の髪を、そっと自然にすくい上げる颯馬さん。

そのままスッと顔を近づけ、香りを確かめる。

颯馬

確かに‥いい香りですね

サトコ

「!」

髪に顔を寄せたまま呟かれ、ドキッと心臓が跳ね上がった。

颯馬

自分ではあまり分からなかったんですが、貴女が使うとより引き立ちますね

(そ、そんな目の前で微笑まれたら‥)

跳ねた心臓がドキドキと早鐘を打ち始める。

サトコ

「そ、そういえば、颯馬さんの髪の毛ってすごく綺麗ですよね‥!」

照れ臭さと恥ずかしさを誤魔化すように、話を少し逸らした。

颯馬

ありがとうございます。この髪を褒めてくれたのは、貴女で2人目です

サトコ

「え‥」

颯馬

実は、亡くなった妹もこの髪を褒めてくれたことがありました

もうずいぶん昔のことですが

サトコ

「妹さんが‥」

内心ホッとした。

(元カノとか言われたら、やっぱりちょっと妬いちゃうし‥)

颯馬

妹に褒められたのは髪くらいなので、それからなんとなく伸ばすようになったんです

サトコ

「そうだったんですか」

颯馬

それがいつの間にか自分の中での提案に落ち着いて、今に至ります

サトコ

「颯馬さんのロングヘアには、大切な思い出が込められていたんですね」

颯馬

切るきっかけがなかったとも言えますが

颯馬さんは、自嘲するように苦笑いを浮かべる。

サトコ

「でも私も、颯馬さんのこの髪、好きですよ」

颯馬

‥髪だけですか?

(え?‥あっ)

妖艶な微笑みに惑わされているうちに、ソファに押し倒されてしまった。

颯馬

俺は貴女のすべてが好きですよ?

サトコ

「!」

颯馬

もちろん、この髪も大好きですが

言いながら、私の髪に顔を埋めてくる。

颯馬

洗いたての髪はまた格別ですね。本当にいい香りがする‥

サトコ

「んん‥」

深く吸いこんだ息を、わざと私の耳元に吹きかける颯馬さん。

颯馬

いい香りとその甘い声‥たまりませんね

吐息を漏らして身をよじる私を見下ろし、颯馬さんはまたも怪しげに微笑んだ。

【室長室】

数日後、颯馬さんと共に室長に呼ばれた。

難波

実は2人に任せたい任務があってな

颯馬

もしや、例の事案でしょうか?

(例の‥?)

難波

ああ。みつば銀行で潜入捜査を行うことが決定した。その任務をお前たちに任せたい

サトコ

「みつば銀行ほどのメガバンクに潜入って‥」

颯馬

頭取の資金運用が、左翼系暴力団に通じている可能性があるんです

サトコ

「‥そうなんですか」

難波

詳しいことは颯馬から聞いて、お前も補佐役として潜入してくれ

サトコ

「はい」

(日本の銀行の中枢的存在が暴力団と繋がっているなんて‥)

課せられた任務の大きさに身が引き締まる思いでいると、室長が何やら困ったような顔をした。

難波

でな、颯馬。銀行っつーことでひとつ相談なんだが‥

颯馬

何でしょうか?

難波

いや、まあその‥銀行員としての潜入は、長髪禁止なんだよなぁ

(‥‥えっ!?)

つい動揺してしまい、颯馬さんの長い髪を見る。

そんな私とは裏腹に、颯馬さんは冷静な態度を崩さない。

難波

つまりなんだ、颯馬には、その自慢の長髪を切ってもらうことになるんだが‥

(そんな‥妹さんとの思い出を大切にするために伸ばしていた髪なのに)

難波

まあ、俺としては個人の主義を尊重したいし、無理に髪を切ってまで行けというつもりは‥

颯馬

いえ、行きます

颯馬さんは、室長が言い終わらないうちに宣言した。

(仕事だから当然といえば当然だけど‥)

颯馬さんの髪にまつわる話を聞いたばかりなだけに、気になってしまう。

難波

いいのか?

颯馬

問題ありません。余計な気を遣わせてしまい、恐縮です

難波

そうか。お前がそう言うなら任せよう

室長はホッとしたように顔をほころばせた。

難波

じゃあ、2人とも頼んだぞ

颯馬

はい

サトコ

「頑張ります」

真摯な態度で一礼する颯馬さんにつられるように、私も力強く頷いた。

【廊下】

颯馬

また2人で潜入捜査ですね

室長室を出ると、颯馬さんはいつもと変わらぬ様子で微笑んだ、

(髪を切ること、本当に気にしてないのかな?)

颯馬

貴女は派遣の金融事務員として潜入してください

サトコ

「はい」

颯馬

このあと教官室で詳しい資料をお渡しします

サトコ

「はい‥」

(私がナーバスになるのもおかしいんだけど‥)

サトコ

「あの‥」

何事もなかったかのように教官室へ向かう颯馬さんを、思わず呼び止めた。

<選択してください>

A: 本当にいいんですか?

サトコ

「本当にいいんですか?」

颯馬

何がですか?

サトコ

「その髪を切ってしまっても‥」

颯馬

何のことかと思えば‥

B: 髪、切っちゃうんですね

サトコ

「髪、切っちゃうんですね‥」

颯馬

貴女がそのような顔をすることではありません

サトコ

「でも‥」

颯馬

少し緊張しますけどね

C: 断った方がいいのでは‥?

サトコ

「断った方がいいのでは‥?」

颯馬

何のことでしょう?

サトコ

「颯馬さんのその髪、妹さんの思い出が込められたものですし‥」

颯馬

そのことですか

颯馬さんは、ふっと柔らかに微笑んだ。

颯馬

まあ、仕事ですから

サラリと言って笑うと、長めの前髪にスッと指を通す颯馬さん。

その様子に、私もあえて笑顔を作る。

サトコ

「そうですよね。仕事ですもんね!余計なこと言ってすみません」

颯馬

いえ。潜入捜査、頑張りましょう

サトコ

「はい」

(颯馬さんが決めたことだもん、私がとやかく言うことじゃないよね)

そう思い直し、颯馬さんと一緒に捜査を頑張ろうと思った。

【バー】

数日後のある夜。

(えーっと、先に来てるって連絡が入ったけど‥)

颯馬さんと待ち合わせしたレストランで、その姿を探す。

が、なかなか見つからない。

(おかしいな‥)

???

「こっちですよ」

(颯馬さん‥?)

サトコ

「‥‥‥ええっ!?」

声がする方を振り返った私は、思わず目を見張った。

颯馬

私ならここですよ

(そ、颯馬さんの髪が‥!)

バッサリと切られた髪型に、私は驚くばかり。

颯馬

すぐそばにいるのに、全然気付いてくれませんでしたね?

サトコ

「だ、だって‥その髪‥」

颯馬

フフ、いつまでもそんな所に立っていないで、座ってください

サトコ

「は、はい‥」

向かい合って座り、真正面から改めてショートヘアの颯馬さんを見る。

(見慣れないせいか、なんだかドキドキしちゃうな)

(でも、こういう髪型も、似合うな‥)

新鮮なショートヘアの颯馬さんに、思わず見とれてしまう。

(周りの女性客の視線も集めちゃってるような‥)

颯馬

そんなに見られると照れますね

サトコ

「すみません‥なんかビックリしちゃって」

颯馬

そんなに驚きましたか?切ると言っていたのに

サトコ

「そうですけど‥」

<選択してください>

A: 心の準備ができていなくて

サトコ

「心の準備ができていなくて‥」

颯馬

突然すぎましたか?

サトコ

「はい‥心臓に悪いです‥」

颯馬

それは失礼しました

B: 今日切ったんですか?

サトコ

「今日切ったんですか?」

颯馬

ええ。ここへ来る前に

サトコ

「そうだったんですね‥」

颯馬

予告なしに切ってしまってすみません

C: 切る前に教えてください

サトコ

「切る前に教えてください‥」

颯馬

それではつまらないと思いまして

サトコ

「驚く私の顔が見たかったんですね‥?」

颯馬

そうとも言いますが

颯馬さんは、悪戯っぽく微笑む。

颯馬

切ったからには、一番に貴女にお見せしようと思って

フッと甘い微笑みに変わり、ドキッと鼓動が高鳴る。

サトコ

「驚きましたけど‥嬉しいです、一番に見せてもらえて」

颯馬

なんだか、この辺がスースーして心許ないのですが‥

後ろ髪がない状態が気になるらしく、自分の首元を触る颯馬さん。

サトコ

「とても似合ってますよ」

颯馬

そうですか?

サトコ

「はい。ショートヘアもすごく素敵です」

颯馬

‥よかったです

颯馬さんはホッとしたように微笑んだ。

サトコ

「美容師さんもべた褒めだったんじゃないですか?」

颯馬

さあ‥?気にも留めていませんでした

貴女が素敵だと思わなければ意味がありませんから

さらりと言って優雅に微笑む颯馬さん。

私は、どんな顔をしていいのか困ってしまう。

サトコ

「きっと、天国の妹さんにも好評です」

颯馬

そうだといいんですが

颯馬さんは少し照れ臭そうに、露わになった首元を撫でていた。

【学校 カフェテラス】

お昼休み、校内のカフェで鳴子と待ち合わせ。

サトコ

「あ、鳴子!こっち」

姿を見つけて手を振ると、鳴子は何やら目を輝かせて駆け寄ってきた。

鳴子

「ねえ!颯馬教官見た!?」

サトコ

「えっ‥」

鳴子

「髪型よ!トレードマークの長髪をバッサリ!」

サトコ

「あ、あー‥うん、見た見た!」

鳴子

「すごくカッコよくない?」

「長髪ももちろんカッコよかったけど、短髪も最高!」

サトコ

「うん、意外と似合うよね」

鳴子

「意外どころじゃないよ!」

「やっぱりイケメンはどんな髪型でも似合うね~。目の保養♪」

(ふふ、鳴子らしいな)

鳴子のテンションに、思わず笑ってしまう。

鳴子

「でも、急に髪を切るなんて、きっと捜査の一環なんだろうな」

サトコ

「うん」

鳴子

「捜査のためにそこまでするって、やっぱり大変だよね~公安の仕事って」

サトコ

「そうだよね」

鳴子

「私たちも公安刑事になれる日が来たら、色々と覚悟しておかなくちゃね」

(覚悟か‥)

室長に今回の任務について言われた時、

颯馬さんが迷うことなく『行きます』と言ったことを思い出す。

(あの時の颯馬さんの顔にも、そんな覚悟を読み取れたな‥)

妹さんへの想いが込められた大事な髪を、躊躇なく切った颯馬さん。

その潔さと仕事への姿勢に、改めて感心させられる。

(私もそんな公安刑事になりたい‥)

サトコ

「覚悟を持ってこの仕事ができるようになるために、一緒に頑張ろうね、鳴子」

鳴子

「うん、頑張ろう!」

「はぁ~、それにしてもカッコよかったなぁ‥短髪の颯馬教官!」

気合を入れたばかりの鳴子の顔は、すぐにデレデレと緩んでいく。

(確かにカッコいい颯馬さんが褒められるのは嬉しいけど‥)

(鳴子もこんな調子だし、颯馬さん、ますますモテちゃいそうだよね)

レストランで感じた女性たちの視線なども思い出し、少し心配になる私だった。

【教官室】

お昼休みが終わり、教官室へやって来た。

ここでもやはり、颯馬さんの髪の話題で持ちきりの様子だ。

後藤

周さんがそこまで短い髪にしたの、初めて見ましたよ

颯馬

そう?

笑った横顔に、なんだかドキッとする。

(まだ見慣れないせいかな、短髪の横顔が別人のように見えちゃう‥!)

とはいえ、顔は紛れもなく颯馬さんであり、笑顔が素敵なのも今に始まったことじゃない。

それなのに、気付けばボーっと見惚れている自分がいる。

(それだけ短髪の颯馬さんもカッコいいってことだよね‥)

(鳴子がテンションを上げるのもわかるよ)

そんなことを思っていると、黒澤さんがやって来た。

黒澤

えっ!周介さん、どうしちゃったんですか!?

颯馬さんを見るなり、目を白黒させている。

黒澤

もしや‥失恋ですか!?」

(そ、そう来るんだ‥!)

後藤

お前な‥

石神

発想が貧困すぎる‥

(同感です‥)

颯馬

まさか失恋と思われるとは、思ってもみませんでした

他の教官たちが呆れる中、颯馬さんも苦笑いを浮かべている。

そこへ、室長も現れた。

難波

なんだ、やけに盛り上がってるな?

言いながら、ふと颯馬さんに視線を向ける室長。

難波

お?颯馬‥なんか雰囲気変わったな?

(えっ!?こんなにも変わってるのにそれだけ‥?)

東雲

ここまでイメチェンしてその反応って‥

加賀

ある意味、黒澤の反応以上だな

難波

黒澤?何のことだ?

黒澤

いや~、こんなにバッサリいくなんて、失恋しかないでしょ!って思ったんですけど‥

難波

なるほど、失恋でバッサリか。それもアリだな

(室長が納得してどうするんですか‥)

難波

まあいずれにせよ、いい感じだな、颯馬

颯馬

それはどうも‥

冗談か本気か分からない反応の室長に、颯馬さんも戸惑い気味に微笑んでいる。

難波

何はともあれ、2人ともよろしくな

颯馬

はい

スッと表情を引き締めて頷く颯馬さん。

その横顔を見て、私の気持ちも引き締まる。

(颯馬さんの覚悟のためにも、私も全力で頑張ろう‥!)

サトコ

「必ず結果を出します」

言い切った私に、短髪姿の颯馬さんがフッと微笑んだ。

颯馬

一緒に頑張りましょう

サトコ

「はい‥!」

自然とやる気が湧いてきた私は、力強く頷いた。

to  be  continued

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