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潜入捜査は蜜の味 加賀1話

それは、とある穏やかな昼下がり‥

【保育園】

園児A

「ひょうごせんせー!」

園児B

「ひょうごせんせー、えほん!」

加賀さんの周りの集まる子どもたち。

そしてそれを、優しい表情で見守る‥

加賀

俺は絵本じゃねぇ

園児A

「‥‥!」

園児B

「‥‥!!!」

(‥全然優しくない!子どもたち、固まってる!)

(加賀さん!子ども相手なんですから、もっと眉間の皺を取って‥!)

加賀

あ゛?

サトコ

「な、何も言ってません‥」

園児A

「ひょうごせんせー、えほん‥えほん‥」

園児B

「‥よんで!」

加賀

初めからそう言やいい

ぽん、と加賀さんが子どもたちの頭を順番に撫でている。

その小さな手から絵本を取り上げると、座り込んで読み始めた。

(ふふ‥加賀さんが子どもの世話をしてるところなんて、新鮮だな)

(花ちゃん以外の子どもからも、こんなに人気があるなんて)

私たちは今、とある保育園に潜入捜査中だ。

ここの園長が、民間非営利団体から給付金を不正に受給しているという情報を掴んだためだ。

(ずっと公安がマークしていた政党の、支援費用に使われてる疑いがあるんだよね)

(加賀さんは保育士、私は支援員として潜入してるけど‥)

担任

「兵吾先生とサトコ先生が来てくれて、本当に助かったわー」

「兵吾先生のほうは初日に子どもたちを怯えさせてたから、どうなることかと思ったけど」

サトコ

「そ、そうですね‥子どもたち、かなりドン引きでしたよね」

園児A

「ひょうごせんせー、つぎはこれ!」

園児B

「えー、こっちがいい!」

加賀

順番に持って来い

(でも、いつの間にか人気者になっちゃってたんだよね)

(子どもって、優しい人がわかるっていうし)

担任

「兵吾先生は、必要以上に子ども扱いしないからいいのかしらね」

「小さい子でも、プライドってあるから。一人前として扱われると嬉しいのよ」

サトコ

「なるほど‥」

園児C

「うわああああん!!!」

突然、教室に男の子の鳴き声が響き渡る。

慌ててそちらに走ると、泣いている男の子の目線に合わせてしゃがみ込んだ。

サトコ

「どうしたの?どこか痛くしちゃった?」

園児C

「ちがっ‥うわーーーーん!」

男の子は首を振るばかりで、まったく聞く耳を持ってくれない。

(困ったな‥まずは落ち着かせて、ゆっくり話を‥)

加賀

ほら

私と男の子の目の前に、膨らませた風船が差し出された。

その瞬間、男の子がぴたりと泣き止む。

園児C

「ひょうごせんせー、ありがとう!」

サトコ

「ふ、風船‥?」

加賀

そりゃ、乗っかりゃ割れるだろ。もうやるなよ

園児C

「わかった!ごめんなさい!」

男の子はさっきと打って変わり、上機嫌で風船を持って行ってしまった。

担任

「兵吾先生、あの子が風船で遊んでたの、見てたの?」

加賀

ええ。割れるだろうなと思ったら割れたんで

サトコ

「そうだったんですか‥すごいです。加賀さん」

園児A

「ねー、なんでサトコせんせーはひょうごせんせーのこと、『かがさん』ってよぶの?」

園児B

「おかしいよねー。ひょうごせんせーなのに」

サトコ

「うっ‥」

(た、確かに‥この中では『兵吾先生』って呼ばなきゃいけないんだった)

サトコ

「あ、あの‥兵吾、先生‥」

「あとで、う、打ち合わせをしたいんですが」

加賀

‥‥‥

いいですよ。サトコ先生

サトコ

「!!!」

(加賀さんの口から、『サトコ先生』‥!)

(録音したいくらい貴重だ‥!)

担任

「それじゃサトコ先生、向こうを手伝ってもらえる?」

サトコ

「あ、はい!」

(感動してる場合じゃない、私も頑張らなきゃ)

(まずは先生たちからそれとなく聞きこみ‥あとは、園長の動向を探ろう)

【外】

数日後、外遊びをしていると子どもたちが私を呼びに来た。

園児A

「サトコせんせー、たすけて!」

サトコ

「どうしたの?」

園児B

「ボールが、あっちまでとんでっちゃった!」

子どもたちが指差す方を見てみると、ボールが園舎の屋根に乗ってしまっている。

サトコ

「あれじゃ取れないね‥ちょっと待ってて!」

ハシゴを使って、屋根に登る。

手を伸ばすとボールが指先に触れ、上手く落ちてきた。

園児A

「サトコせんせー、ありがとう!」

サトコ

「どういたしまして。もう飛ばさないように、気を付け‥」

言いかけた時、突風が吹いてハシゴが大きく揺れた。

サトコ

「あっ‥」

園児

「サトコせんせー、おちる!」

(まずっ‥)

ハシゴから手が滑り、バランスを崩してそのまま背中から地面にまっさかさま‥‥‥

と思ったけど、なぜか落ちた感触があっても、どこも痛くない。

(な、なんで‥?)

加賀

‥ガキにトラウマ与えるつもりか

サトコ

「加賀さ‥ひょ、兵吾先生!」

加賀

いつまで経っても、使えねぇな

私を地面に降ろすと、ひとつ舌打ちをして加賀さんはさっさと自分の持ち場に戻った。

子どもたちが駆け寄ってきて、私の身体に触れる。

園児A

「サトコせんせー、だいじょうぶ?」

園児B

「いたくしてない?こわくなかった?」

サトコ

「兵吾先生が助けてくれたから、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

園児C

「ねえねえ、せんせー」

ひとりの女の子が、私のエプロンを引っ張る。

園児C

「ひょうごせんせー、ヒーローみたいだったね!」

サトコ

「ヒーロー?」

園児C

「だってね、サトコせんせーがおちそうになったとき」

「びゅんって、すっごいはやさでたすけてくれたんだよ!」

サトコ

「あ‥」

園児C

「それに、さっきの、おひめさまだっこだった!」

(そういえば加賀さんの持ち場は、今は園舎の中だ)

(なのに‥私が落ちる前に、助けに来てくれたんだ)

もう遠くで職員と話している加賀さんの背中を、思わず目で追う。

また迷惑をかけてしまったことを反省しつつも、少しうれしい私だった‥

to  be  continued

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