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潜入捜査は蜜の味 加賀2話

【車】

数日後、保育園での潜入捜査を終えると、駐車場に車を停めてその日の報告を行った。

加賀

こっちは空振りだな

園長以外は誰を探っても一緒だ。何も出て来ねぇ

サトコ

「私も、副園長に探りを入れたんですけど‥ダメでした」

「そのかわり、園長のパソコンからパスワードを抜き取っておきました」

東雲教官から渡されたUSBを、加賀さんに渡す。

園長室にこっそり忍び込み、園長専用のパソコンからデータを失敬してきたのだった。

加賀

歩が作ったもんか

サトコ

「はい。東雲教官特製のハッキングプログラムが入ってるそうです」

「USBをパソコンに挿してプログラムファイルをダウンロードするだけでいい、って」

加賀

あいつが作ったんなら、間違いねぇだろ

‥テメェも、今回ようやく役に立ったな

サトコ

「すみません‥屋根から落ちそうになったり、色々とご迷惑をおかけして」

(でも、今のってちょっと褒めてくれた‥?)

そう思うと現金なもので、今日の疲れも吹き飛んでしまう。

加賀

パソコンに何かしらのデータがあんだろ

なきゃ、令状取って強制的に家宅捜索だな

サトコ

「でも現時点では、令状を取るのは厳しいですよね‥」

「そういえば加賀さん、今回の潜入捜査のためだけに保育士の資格取ったんですよね?」

加賀

ああ

普段ならこんな面倒なことはしねぇが‥差し迫ったもんは仕方ねぇ

(差し迫ってた、か‥確かに、他に保育士の資格を持ってる人はいなかったけど)

加賀さんは、なんとたったの一ヶ月で保育士の国家資格を取得してしまった。

(しかも、独学で‥だよね)

(私はさすがに無理だったから、支援員として潜入したけど)

サトコ

「私は、交番勤務の経験があったから子どもの扱いがわかってただけで」

「加賀さんみたいに、専門的な知識がなくて‥全然役に立てませんでした」

加賀

テメェに専門知識は期待してねぇ

バッサリ言われて、ちょっと落ち込んでしまう。

(一ヶ月で国家資格‥は、無理だとしても)

(やっぱり今のままじゃ、まだまだ加賀さんの足元にも及ばないな‥)

園長も、子どもの心をバッチリつかんでいる加賀さんにはかなりの信頼を置いているようだ。

私にできるのは、今日のようにこっそりデータを抜くことや、

支援員としての務めを果たすくらいしかない。

(よし‥明日から、もっと子どもたちと仲良くなれるように頑張ろう)

(そうすれば園長からの信頼をもらえて、何か情報を聞き出せるかもしれないし)

加賀

‥何、やる気出してんだ

意気込みが顔に出ていたのか、加賀さんが呆れたような視線を助手席から向けてくる。

子どもに対してもそれは同じなのに、なぜか加賀さんは子どもたちに慕われていた。

(何かコツがあるのかな‥いや、でも加賀さんはそんな小細工するはずない)

(ってことは、やっぱり雰囲気‥?)

サトコ

「‥どうしたら、子どもの心を掴めるんでしょう?」

加賀

何‥?

サトコ

「私も、加賀さんみたいに子どもたちに‥」

全部言い終わる前に加賀さんの腕が伸びてきて、運転席のシートを倒された。

サトコ

「!?」

加賀

テメェ‥

サトコ

「な、なんで怒ってるんですか‥!?」

加賀

俺以外のヤツに、尻尾振るつもりか

私に覆いかぶさってくると、加賀さんが首筋に唇を押し当てながら挑戦的な視線を向けてくる。

サトコ

「そっ、そういうことじゃな‥」

加賀

喚くな

否定しようと口を開くと、加賀さんが深く口づけてきた。

濡れた舌が滑り込んできて、口内で甘く絡み合う。

(なんだか、いつもより熱っぽい‥加賀さん、普段と少し違う‥?)

(車で、こんなキスされたらっ‥)

加賀

力抜け

サトコ

「で、でも私、誰にも尻尾なんて振ってな‥」

弱々しく抵抗しようとしたけど、舌先で丁寧に中を掻き回されて、思わず湿った吐息がこぼれる。

サトコ

「加賀、さんっ‥」

加賀

黙ってろ

テメェは、こういうところのほうが燃えるんだろ

サトコ

「そ、そんなことなっ‥」

止めようとしたけど、激しいキスに力が抜ける。

頭がぼんやりしてきてキスに身を任せようとした時、ブラウスのボタンに手を掛けられた。

(こんなところで、ダメ‥!)

加賀さんを押し戻そうとした弾みで、手がクラクションにぶつかる。

けたたましい音が鳴り響き、慌てて手を離した。

加賀

「‥‥‥」

サトコ

「すっ、すみません!」

加賀

色気のねぇ女だな

興ざめしたように、加賀さんが身を起こす。

運転席のシートを戻すと、気まずい雰囲気が車内に流れた。

サトコ

「‥か、帰りましょうか」

加賀

チッ

(うう、お怒りだ‥もしかして一瞬、子どもたちにヤキモチ妬いてくれたのかもなんて思ったけど)

(加賀さんが嫉妬なんて、あるわけなかった‥)

加賀さんが何も言わないということは、さっさと車を出せということだ。

少しホッとしながらエンジンをかけようとすると、不意に耳たぶを柔らかい感触が襲う。

サトコ

「ひゃっ!?」

加賀

生意気に焦らしやがって‥帰ったら覚えとけ

サトコ

「だ、だってこんなところで、あんな‥」

「誰かに怪しまれたら、潜入捜査が失敗するかもしれないじゃないですか」

加賀

「誰がイチャイチャ絡み合ってる男と女を、捜査官だと思う

(確かに、それはそうだけど‥)

(抵抗しないと、本当にこういうシチュエーションが好きだと思われそう‥)

加賀

主人にお預けさせた罰は、しっかり受けさせねぇとな

サトコ

「!」

加賀

躾が足りねぇなら、いくらでもしてやる

ひと晩かけて、ゆっくりとな

サトコ

「ひ、ひと晩かけて‥!?一体、何するつもりですか!?」

震える私に、加賀さんがニヤリと笑う。

加賀

飼い犬に褒美をやるのも、飼い主の務めだ

サトコ

「今さっき、『お預けさせた罰』って言ったじゃないですか‥」

加賀

テメェにとっては、褒美も罰も紙一重だろ

(それは否定できないけど‥でも絶対、『罰』の方が大きい‥)

それなのに、結局は期待してしまう自分がいる。

(だって、加賀さんがくれるのは、絶対に『甘い罰』だって知ってるから‥)

『罰』だとわかってるのに、頬の緩みが止まらない。

ニヤけていることを加賀さんに気付かれないように、そっと車のエンジンをかけた‥

Happy  End

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