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潜入捜査は蜜の味 東雲1話

【居酒屋】

男子学生

「じゃあ、盛り上がっていきましょう!かんぱーい!」

一同

「かんぱーい!」

私と東雲教官はとある大学生の合コンに潜入していた。

キャンパスにはびこる、脱法ドラッグについての捜査だった。

東雲

レイナちゃんって言うんだ?キレイな名前だね。何年生?

レイナ

「大学3年です!えーと‥」

東雲

あ、そっか

オレは歩、院生です

レイナ

「さっき少し聞いちゃったんですけど、今就活中なんですか?」

東雲

そう。でもちょっと疲れちゃって、今日は息抜きに来たんだ

レイナ

「そうなんですか‥。やっぱり就活って大変ですか?」

東雲

優秀な人なら大丈夫なのかもだけど‥

オレは向いてない感じかな。疲れ果てて、もーカラカラって感じ

レイナ

「あのっ、じゃあ私、歩さんの‥」

東雲

レイナ

「あ、歩さんの潤いと癒しに立候補しますっ!」

女子学生1

「あっ、レイナだけズルい!私も立候補しまーす!」

女子学生2

「私もー!」

(すごい、あっという間にモテモテだ!)

私の向かいで無邪気な笑顔を振りまく教官は、確かに大学生に見えないこともない。

場馴れした物腰や笑顔も加わって、女子学生の視線を独り占めしている。

(顔立ちも綺麗だし、肌はツヤツヤ髪はサラサラで)

(その上、必要とあれば誰よりも人当たりよく振る舞える人だもんね‥)

その実、補佐官兼教え子兼恋人を容赦なくパシリにする腹黒キノコだけど。

そんなことを考えていると、教官が私によそ行きの笑みを向けた。

東雲

はじめまして。キミ、名前なんて言うの?

サトコ

「長野かっぱです。よろしくお願いします」

いつもの偽名を名乗る私に、教官はニコッと笑った。

東雲

ふーん、キミ、かっぱちゃんって言うんだ

珍しい名前だけど、可愛いね

(‥うっ)

(その笑顔で『可愛い』とか、反則‥!)

捜査中の演技と分かっているのに、ついつい本気で顔が緩みそうになる。

レイナ

「あの、歩さんって彼女いるんですか?」

女性学生1

「それ私も聞きたーい!」

東雲

キミたちこそ絶対彼氏いるよね、可愛いからモテるでしょ?

教官の言葉に、キャーッと歓声が上がった。

(捜査とはいえ、ちょっと羨ましい‥!)

けれども、私だって自分の仕事を忘れる訳にはいかない。

(教官を見習って、相手を喜ばせつつ)

(こっちのことには極力触れさせずにあしらう‥だよね)

そうして話すうちに少しずつ心を開かせて、こちらの欲しい情報を引き出せればベストだ。

私は隣の男子学生に声を掛けた。

サトコ

「すごい筋肉だよね。何か部活とかしてるの?」

男子学生

「おっ、分かる?オレ、実はラグビーやってるんだ」

「良かったらちょっと触ってみる?」

(えっ‥)

けれども、成行き上『いえ、遠慮しときます』とは言えず。

サトコ

「‥いいの?」

男子学生

「もちろん!オススメは上腕二頭筋と三角筋かな」

(自分の筋肉にオススメなんてあるんだ‥?)

サトコ

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて‥」

触ってみると、確かに硬い。

サトコ

「この肩でスクラム組んでるんだ。すごいね」

男子学生

「おっ、かっぱちゃん、ラグビーに興味あるんだ?」

サトコ

「う、うん。あまり詳しくないけどね」

男子学生

「嬉しいなー。この際、オレとスクラム組んでみる?」

(うわっ‥)

いきなり肩を組まれて内心ドン引く。

(でもこれも、こっちが『筋肉すごいね』なんて言ったからだよね)

(次からはもうちょっと話題を考えなきゃな‥)

笑顔で会話を続けながら、ボディタッチの連続に耐えていると‥

突然、向かいの誰かに足を蹴られた。

サトコ

「う゛っ!」

男子学生

「どうかした?かっぱちゃん」

サトコ

「う、ううん‥何でもない」

(方向から言って、蹴ってきたのは教官‥だよね)

(あっ、私が全然話を聞き出せてないから怒ってる!?)

ひとり焦った時、スマホがブルブルと震えた。

慌てて確認すると、教官からのメールで‥

『顔ひきつってる。ちゃんと聞くこと聞け』

‥とだけ。

(ひいぃ‥!)

レイナ

「わー、歩さんの髪フワフワ!」

東雲

そうかな?

女子学生1

「それに肌もツヤツヤですね!」

東雲

ふふっ、くすぐったいよ

当の教官は女子大学生からスキンシップの嵐を受け、楽しそうに笑っている。

そのギャップが一層恐怖を掻きたてた。

(怖っ!)

(‥でも教官の言う通りだ。一度体勢を立て直さなきゃ‥)

【トイレ】

流れる水に両手をさらす。

(男子学生からは女の私が話を聞き出すのが一番なんだし、もっと集中しなきゃ)

それにしても、教官がメールを打っていたとは。

向かいに座っていたのに全く気付かなかった。

(さすがというか何というか)

(私も今度、画面を見ずに文章を打つ練習してみようかな‥)

【廊下】

手を洗って外に出ると、ちょうど教官がやって来るところだった。

サトコ

「あ、きょうか‥」

教官は苛立たしげに顔を歪めた。

東雲

バカ、今は他人

(痛っ)

容赦ないデコピンをお見舞いされて、小さく頭を下げる。

サトコ

「すみません‥」

東雲

‥‥‥

それは何に対しての『すみません』?

サトコ

「え?」

距離を詰められて反射的に後ずさる。

そのまま追い詰められて、教官は壁に手をついた。

(教官‥?)

キレイな瞳に、感情らしきものは見えない。

見えないけれども‥

(もしかして‥)

(さっきの筋肉タッチを見て、ヤキモチ妬いてくれたとか‥?)

期待しつつ見つめ返す私の耳元に、教官はスッと口を寄せて‥

東雲

20点

サトコ

「え?」

東雲

キミの女としての合コンの点数

サトコ

「!」

東雲

あんなやり方じゃ聞ける情報も聞き出せない

‥‥あーサイアク、髪触られるとかありえないし

教官は素早く身体を翻すと、文句を呟きながら男子トイレに消えた。

(何だ、ただのダメ出しか‥)

ドキドキして損した‥とがっかりしつつ。

(合コンに慣れてる教官と同じように‥なんて、急には無理だけど)

(もっとノリ良く輪に入っていけるように頑張らなきゃ)

私は1人、気合を入れ直したのだった。

to  be  continued

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