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総選挙2016 ご褒美ストーリー 東雲

【東雲 マンション】

夢のようなひとときが終わり、教官の部屋へとやってくる。

けれども、私の頭の中はまだ夢心地でフワフワしたままだった。

サトコ

「はぁぁ‥」

「本当に素敵なパーティーでしたよね」

東雲

‥‥‥

サトコ

「きらびやかな会場‥美味しいお料理‥」

「出席されてる方々も素敵な人たちばかりで‥」

東雲

‥‥‥

サトコ

「そう言えば、今日野村さんがいらっしゃってましたよね」

「以前、旅行中にチラッとお会いした‥」

東雲

‥ああ‥

サトコ

「野村さん、素敵ですよね」

「いつか特別教師として来てほしいなぁ」

東雲

‥‥‥

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サトコ

「あ、でも警視庁っていえば花井さんも素敵な人でしたよね」

「まだ鞄にコアラの人形入れてるのかなぁ」

東雲

‥‥‥

サトコ

「あとは‥」

「出版社勤務の関西弁の人!あの人も素敵でしたよね」

「絶対、鳴子が好きそうなタイプ‥」

「えっ‥」

【キッチン】

サトコ

「もう!教官、まだ話し中‥」

咎める私を無視して、教官は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。

サトコ

「あ、コップ‥」

東雲

いらない

このまま飲むから

サトコ

「はぁ‥」

(珍しいな。コップに注がないなんて‥)

東雲

‥っ、‥っ、‥っ

(あ、あれ?今日の教官、妙に艶めかしい気が‥)

(喉仏がゴクゴク動いているせい?)

(それに髪の毛もちょっと乱れ気味で‥)

サトコ

「カッコいい‥」

東雲

‥は?

(今日のパーティー‥素敵な人がたくさんいたけど‥)

(どの人も、みんなキラキラして眩しかったけど‥)

(やっぱり、私のナンバー1は永遠に‥)

サトコ

「教かぁぁぁ‥っ」

東雲

うざ

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サトコ

「ふぐっ」

(ま、また顔を押しやって‥)

サトコ

「ひどいです!」

「お祝いのハグくらいさせてください!」

東雲

無理、暑苦しい

サトコ

「熱いのは愛が溢れてるせいです!」

東雲

へぇ、そう

で、そのあふれた愛情はどこに行ったわけ?

(‥え?)

東雲

まさか他の誰かに流れてないよね?

幕末とか?

幼馴染とか?

(うっ)

東雲

糖分過多な部屋がどうのとか?

もはや人間じゃなくて神様とか?

(ううっ)

東雲

ああ、そういえば‥

高校生にも目移りしていたって告発が‥

サトコ

「ででで、でも!」

「ナンバー1は教官です。教官だけです!」

東雲

どうだか‥

サトコ

「本当ですってば!」

「教官の、意地悪に見せかけて本当は優しいところも‥」

「ブラックタイガーをいつも最後まで食べてくれるところも‥」

東雲

‥‥‥

サトコ

「実は面倒見がいいところも」

「初志貫徹なところも、女子力が高いところも」

「髪型がキ‥」

東雲

‥‥‥

サトコ

「‥‥サラサラなところも」

「ぜんぶぜんぶ、ぜーんぶ大好きです!」

東雲

‥‥‥ふーん

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サトコ

「あっ、待って‥」

「だから置いて行かないでくださいってば!」

【リビング】

サトコ

「もう‥なんで無視するんですか!」

東雲

うるさい、酔っ払い

サトコ

「違います。酔ってません!」

「ほんのちょっぴり頭の中がフワフワしてるだけ‥」

「んぐ‥っ」

いきなり、唇を強く吸われた。

サトコ

「ん‥っ」

(あ、あれ‥?)

(なんか‥頭が‥)

サトコ

「んんんっ‥」

(ますます‥ボーっとして‥)

東雲

‥マズ

やっぱりアルコールの味しかしないんだけど

サトコ

「そう‥ですか‥?」

(でも‥)

サトコ

「さっき言ったの、全部本当ですよ‥?」

「教官の大好きなところ‥全部、全部‥」

東雲

‥‥‥

‥バカ

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ちょっと乱暴に、身体を引き寄せられる。

こてん、と肩に頭を寄せてみたけど、今度は突き放されたりはしなかった。

サトコ

「教官‥おめでとうございます‥」

東雲

‥それ、今日で49回目

サトコ

「だったら‥」

「『おめでとうございます』‥」

東雲

‥‥‥

サトコ

「これで50回目、ですね」

東雲

‥うざ

サトコ

「知ってます」

「でも、いいんです。嬉しいから」

「教官のこと、たくさんの人に認めてもらえて‥」

「教官がステキだってこと、いろんな人に知ってもらえたから‥」

東雲

‥あっそう

まぁ、悪い事ばかりじゃないよね

賞金も手に入ったことだし

(‥賞金?)

東雲

忘れたの?

もらったじゃん、10万円

(ああ、そういえば‥)

サトコ

「すごいですよね。10万円って‥」

「ちょっとした臨時ボーナスですよね」

東雲

そうだね

サトコ

「何を買うんですか?」

「やっぱりトリートメント剤ですか?」

東雲

‥は?

サトコ

「最近、評判いいのがありますよね。1本1万円くらいの‥」

「あ、でもそれなら『ヘッドスパ』のほうがいいかも」

「最近人気なんですよ、メンズ向けの『ヘッドスパ付きエステ』‥」

東雲

トリートメント剤は、今ので十分だし

ヘッドスパはすでに行ってるから。月イチで

サトコ

「えっ、そうなんですか?」

(そう言えば、たまに教官の髪の毛から甘い香りが‥)

(あれってヘッドスパに行ってきたからなんだ‥)

サトコ

「うーん‥じゃあ‥」

「この間、カタログを取り寄せていた『アレ』はどうですか?」

「『恐竜フィギュア5点セット』‥」

東雲

もう買った。ボーナスで

サトコ

「うっ、じゃあ‥」

「ええと‥ええと‥」

東雲

なんでそんなに買い物をさせたいの。オレに

(えっ‥)

東雲

『貯蓄』とか『投資』とか『寄付』とか‥

そういう選択肢がキミにはないわけ?

サトコ

「そ、それは‥」

(言われてみれば、確かに‥)

(でも、私は‥)

サトコ

「せっかくだから『自分へのご褒美』がいいかなって思ったんです」

東雲

‥‥‥

サトコ

「教官はいつも頑張っていて‥」

「学校でも、私や宮山くんや、みんなの指導を一生懸命してくれて‥」

「だから、こんなときくらいは自分を労ってあげてほしいなぁって」

東雲

‥‥‥

サトコ

「でも『貯蓄』はともかく‥」

「『投資』や『寄付』は考え付かなかったです」

「やっぱり教官ってすごいなぁ」

東雲

‥‥‥‥‥

【寝室】

さて、翌日。

サトコ

「うーん‥そこ‥」

「気持ちいい‥ヘッドスパ‥むにゃ‥」

???

「‥起きろ」

(う‥ん‥?)

東雲

起きろ。さっさと

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サトコ

「ぎゃっ!」

布団を剥ぎ取られて、ごろんと転がされた。

サトコ

「痛たた‥」

「な、なにするんですか、いきなり‥」

東雲

10分で支度して。出かけるから

サトコ

「ええっ!?」

(出かけるってどこに‥)

(ていうか10分なんて無理‥)

東雲

‥なに、不満?

だったら5分で

(ちょっ‥)

サトコ

「待ってください!」

「20分‥いえ、せめて15分‥」

東雲

13分

(うそーっ!)

サトコ

「と、とりあえず準備‥」

「着替えて、メイクしないと!」

そんなわけで、朝から訳が分からないままバタバタして‥

【港】

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連れて行かれたその先は‥

サトコ

「あの‥これは‥」

東雲

クルーザー

サトコ

「そ、それは見れば分かりますけど‥」

呆気にとられている私のすぐ横を、カップルが次々と追い越して乗船していく。

東雲

なにしてんの。手

サトコ

「??」

東雲

左手、出して

サトコ

「‥こうですか?」

よく分からないまま、手のひらを上にして左手を差し出した。

東雲

‥‥‥

‥ま、いいけど

教官は、私の左手を掴むと、きゅっと反転させた。

東雲

行くよ

サトコ

「は、はいっ」

(そっか、エスコートするつもりで『手を出して』って‥)

(うわぁ‥こんなの初めてなんですけど‥)

桟橋を渡り切り、いよいよ船内へと足を踏み入れる。

ところが、つま先をついたとたん、ぐらりと足元が大きく揺れた。

サトコ

「うわっ」

(転ぶっ‥)

すっ、と腰に手を回された。

驚いて顔を上げると、教官が涼しげな顔で私を見ていた。

東雲

大丈夫?

サトコ

「は、はい‥」

(慣れてる‥教官、絶対エスコート慣れしてる‥)

(なんか‥なんていうか‥)

(めちゃくちゃカッコいいんですけどーっ!)

【船内】

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私の心の叫びをよそに、クルーザーはゆっくりと埠頭を離れた。

ちなみに今さらだけど‥

私と教官は、ランチ付きの「デートクルーズ」とやらに参加しているらしい。

【個室】

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しかも、案内されたのは‥

(まさかの個室‥?)

(他の人たちは、みんなふつうのレストランに入って行ったのに‥)

東雲

はい。アペリティフのリスト

サトコ

「えっ」

東雲

なんでもいいよ

好きなものを頼んで

(好きなものって言われても‥)

サトコ

「え、ええと‥アペリティフって『食前酒』のことですよね?」

東雲

そうだね

(確か去年いろいろ調べたんだよね。教官の誕生日をお祝いするときに‥)

(でも、結局よくわからなくて、お店側に任せてしまって‥)

東雲

‥アルコールとノンアルコールどっちがいい?

サトコ

「えっ‥ああ、そうですね‥」

(まだ日が高いし、飲み過ぎるのもなぁ)

サトコ

「ええと、ノンアルコールで」

東雲

スパークリングウォーター?

それともノンアルコールカクテル?

サトコ

「カクテルがいいです」

東雲

了解

教官はリストを手にすると、お店の人と何やら話し始めた。

(‥やっぱり手慣れてる)

(そうだよね、ご実家のことを考えるとおかしくないよね)

なにせ、ばあやさんに「歩坊ちゃま」と呼ばれている人だ。

(もしかしたら、子どもの頃から何度もこういう場所で食事をしてきたのかも)

(それこそ、蝶ネクタイに半ズボン姿で‥)

サトコ

「!!!」

(か、可愛い‥)

(ただの妄想なのに、すでに可愛いんですけど!)

(教官、そういうのが絶対似合うタイプ‥)

東雲

‥キモ

なにニヤけてるの。さっきからひとりで

サトコ

「『想像』の翼が羽根を広げてしまって‥」

東雲

‥‥‥

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サトコ

「それより、いきなりどうしたんですか?」

「今日はお家デートの予定だったのに‥」

東雲

べつに

ただ『ご褒美』をあげたくなっただけ

サトコ

「!」

(それって、もしかして昨日私が言った『自分へのご褒美』のこと?)

(そっか、いちおう考えてくれたんだ)

(なんだか嬉しい‥)

サトコ

「‥ん?」

(‥待って。大事なことを忘れている気が‥)

サトコ

「あの‥このクルージングツアーのお値段は‥」

東雲

気にしなくていいよ

全部オレが払うから

サトコ

「えっ、でも‥」

東雲

昨日の臨時収入で足りたから

じゃないと連れて来ないし

サトコ

「そ、そうですか。じゃあ、その‥」

「ご馳走になります」

(でも、本当にいいのかな)

(「自分へのご褒美」のはずなのに、私の分まで払ってもらって‥)

スタッフ

「お待たせいたしました。アペリティフです」

サトコ

「うわぁ‥」

(このカクテル、いい香り‥)

さらに、テーブルの上にはカラフルなアミューズが並べられた。

(すごい!どれも可愛い!)

(これ、絶対に女子が喜ぶタイプの一皿だよね)

(さすが、女子力の高い教官のチョイス‥)

東雲

‥なに?

サトコ

「い、いえ‥」

(うう、それにしても可愛い‥)

(できれば記念に1枚撮りたいなぁ)

その後も、味だけでなく視覚でも楽しめる「前菜」「スープ」が続き‥

スタッフ

「本日の魚料理です」

(あっ、ロブスター!)

サトコ

「おいしそう‥」

東雲

確かにね

久しぶりだし。黒くない海老料理って

サトコ

「うっ‥」

(い、いいもん)

(今年こそ、ブラックタイガーを卒業して‥)

東雲

でも、まぁ、嫌いじゃないけど

誰かさんのブラックタイガーも

サトコ

「!!」

(い、今の‥空耳?)

(違うよね、ちゃんとはっきり言ったよね)

(「ブラックタイガーも嫌いじゃない」って)

東雲

‥なに見てんの

冷めるよ。早く食べないと

サトコ

「は、はい‥」

(どうしよう‥今日1日で「飴」をもらいすぎな気が‥)

(船内までエスコートしてもらって‥)

(素敵なフレンチを食べることが出来て‥)

(いつになく教官は優しくて‥)

(教官の「ご褒美」のはずなのに、オマケの私の方がおいしい思いを‥)

サトコ

「‥‥‥」

そこで、気付いてしまった。

(そうだよ‥これって教官の「ご褒美」じゃなくない?)

(どっちかっていうと、私ばかりが得しているような気が‥)

そんな懸念を抱いたまま、メイン2皿を食べ終えて‥

スタッフ

「お待たせいたしました。デザートです」

(うわぁ‥フルーツタルトにクリームブリュレ‥)

(この透明なのは飴細工だよね?)

しかも、盛り付けそのものが愛らしい。

(うう、やっぱり写真を撮りたいな)

(でも、こういうお店でそういうことをするのは、さすがに‥)

東雲

撮れば

サトコ

「えっ?」

東雲

デザートの写真、撮りたいんでしょ

サトコ

「でも、こういうお店で写真を撮るのは‥」

東雲

確認済みだから、主催者側に

『写真を撮ってもいいし、SNSにあげてもいい』って

サトコ

「‥‥‥」

東雲

ほら、さっさと撮れば?

好きじゃん。そういうの

(教官‥)

サトコ

「‥ありがとうございます。じゃあ、ちょっとだけ‥」

鞄からスマホを取り出して、何枚か写真を撮る。

教官の心遣いを嬉しく思う反面、少し複雑な気持ちになってしまった。

(やっぱり、教官ってこういう場に慣れてるっぽいよね)

(つまり、今日のこれは教官には「自分へのご褒美」にならないわけで‥)

じゃあ、なぜ教官はここに来ようと思ったのだろう。

(最初に言っていた「ご褒美」ってどういう意味なのかな)

その後、ランチを済ませ、カップル向けの船内イベントを楽しみ‥

ようやく日が傾き始めた頃‥

【デッキ】

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サトコ

「教官ーっ、来てくださーい」

「夕日が綺麗ですよーっ」

東雲

‥‥‥

サトコ

「‥教官?」

東雲

ねぇ、ここ‥

湿気が多くない?

サトコ

「もちろん多いですよ。海ですから」

東雲

‥サイアク

それでも、教官は私の傍まで来てくれる。

手には2人分のシャンパン。

どうやら、すぐそこのバーでもらってきてくれたようだ。

東雲

ほら

サトコ

「いいんですか?」

東雲

ムリだから。2杯は

サトコ

「‥じゃあ、いただきます」

沈んでいく夕日に照らされて、シャンパンの泡がキラキラと輝いている。

私にとっては、まさに夢のような時間。

(でも、教官にとっては?)

サトコ

「あの‥」

「今日のこれって『ご褒美』なわけですよね?」

東雲

そうだね

サトコ

「でも、その‥」

「教官にとってはあまりご褒美になっていないような‥」

教官は、なぜか軽く瞬きをした。

東雲

当然

オレへのご褒美じゃないし

サトコ

「えっ?じゃあ、誰の‥」

東雲

‥‥‥

サトコ

「教官?」

東雲

‥頑張った誰かさんへの

(え‥)

東雲

キミは、オレが『頑張った』って言ったけど‥

違うじゃん、本当に頑張ったのは

一番声を上げて、意思表示してくれて‥

たくさんの投票をしてくれて‥

サトコ

「‥‥‥」

東雲

そういうのをやったのはオレじゃない

他でもないキミだと思うけど

サトコ

「‥‥‥」

東雲

だから『頑張った人』に『ご褒美』っていうなら‥

それはこの結果を導いたキミに‥

サトコ

「教官ーーーーっ!」

もう我慢できなかった。

シャンパンがこぼれるのも構わず、私は教官に抱きついた。

東雲

ちょっ、なに‥

サトコ

「好きです!大好きです!」

「大大大大、大好きですっ!!!」

東雲

‥‥‥

サトコ

「次も、その次も、そのまた次も‥」

「私には教官だけですから‥っ!」

東雲

‥だろうね

教官は、頬にかかっていた私の髪を、指先ですくって耳に掛けた。

それから、ちゅ、とこめかみにキスしてきた。

(教官‥)

嬉しさのあまり、ぐりぐりと肩口に額を押し付けた。

いつもなら、すぐに「ウザ」って引きはがされそうな行為。

けれども、今日はむしろ背中を優しく撫でてくれて‥

東雲

もう満足?

(え‥)

東雲

せっかくだから、もっと欲しがれば?

まだ用意してるし

キミへの『ご褒美』

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(それって‥)

様子を窺うように顔を上げると、苦笑いとともに顎をすくわれた。

それをヒントだと受け取って、私はギュッと目を閉じた。

東雲

‥バカ。唇尖らせすぎ

でも、まぁ‥

続く言葉は、きっと唇の上に落とされるだろう。

私だけに伝わる動きで、ゆっくりと、甘やかに‥

Happy  End

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