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脱出ゲームご褒美ミニストーリー ~石神~

【石神 マンション】

石神さんを助け出して、なんとか脱出することができたあと、

部屋に戻ってきて、ようやく一息ついた。

(はあ‥なんだか、すごい一日だった)

(でも、石神さんを無事に助けられてよかった)

石神

サトコ、コーヒーでも飲むか?

ソファに座っていると、後ろから声が聞こえた。

慌てて立ち上がり、石神さんにソファをすすめる。

サトコ

「私が淹れますから、石神さんは休んでてください」

石神

いや、お前こそ座ってろ

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肩を軽く押されて、再びソファに座らされた。

サトコ

「でも‥」

石神

疲れてるだろう。ゆっくりしてていい

(疲れてるのは、石神さんの方じゃ‥さっき、あんな目にあったのに)

(私は石神さんを助けられただけで充分なんだけどな)

でも、無理に手伝うわけにもいかない。

お言葉に甘えてソファに座ってると、コーヒーの香ばしい匂いが漂ってきた。

石神

熱いから気を付けろ

サトコ

「ありがとうございます」

お礼を言ってカップを受け取ると、石神さんが私の隣に座る。

肩が触れ合うほどの距離に、変に緊張してしまった。

‥‥‥『続きは、帰った後だ』

思い出すのは、脱出するときに言われた言葉だ。

(『続き』って‥ど、どういう意味‥?)

(あのとき、頬を撫でられて‥キスされそうだった)

その続きということは、つまり‥

石神

‥おい

(いやいや、石神さんのことだから、そういう意味じゃなかったのかも!)

(で、でもたまに、すごく“男の人”の顔を見せてくれる時もあるし‥!)

石神

おい、サトコ

何度か呼びかけられていたらしく、ようやくハッとなる。

サトコ

「は、はい!?」

石神

ぼんやりして、どうした?疲れたのか?

サトコ

「ななな、なんでもないです!」

妙な想像をしていたせいか、やたらと動揺してしまう。

誤魔化すために慌ててコーヒーカップを手に取り口をつけると、予想外の熱さに驚いた。

サトコ

「あつっ‥」

石神

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びっくりして、持っていたカップが少し揺れた。

跳ねたコーヒーがこぼれて、膝に落ちる。

サトコ

「っ‥‥‥」

石神

動くな

厳しい声でそう告げて、石神さんが私の手からカップを持っていく。

それをテーブルに置くと、素早くタオルを持ってきてくれた。

石神

大丈夫か?

サトコ

「は、はい‥すみません」

「ソファとかは汚れてないと思うのですが‥」

石神

気にするな。お前は自分の心配だけしていればいい

ソファに座る私の前にひざまずき、濡らしたタオルで私の膝を冷やしてくれる。

少し赤くなったものの、対処が早かったので、大事には至らずに済んだ。

石神

少し、このままでいろ

サトコ

「はい‥」

(というか‥い、石神さんの顔がすぐ目の前に)

(しかも、あの石神さんが私にひざまずいてくれてるって、どういう状況!?)

大きな手が、私の太ももにこぼれたコーヒーを拭いてくれる。

その手がくすぐったくて、思わずきつく目を閉じた。

石神

どうした?熱いのか?

サトコ

「あっ、そ、そうじゃなくて‥」

私の様子に気付くことなく、タオルを持った石神さんの手が肌を這う。

(意識してると思われたら、恥ずかしいし、くすぐったいのは我慢しよう‥)

石神

他にこぼれたところはないか?

サトコ

「大丈夫です。それに、ちょっと熱かっただけなので」

「すみません‥石神さんに拭かせてしまうなんて」

石神

このくらい、気にするな

サトコ

「でも、せっかく淹れてもらったコーヒーが」

申し訳なさに声が小さくなる私を、石神さんが笑う。

石神

そんなことは別にいい。それより、お前が火傷するほうが困る

まったく‥だから放っておけないんだ

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ほんの一瞬、優しい笑みを向けられた。

その笑顔に頬が熱を持ち、それを見た石神さんがタオルを持って立ち上がる。

石神

なんだ?

サトコ

「な、なんでもないです‥」

石神

お前は相変わらず、あちこちに思考が飛ぶ奴だな

どうせ、何か考え事をしていてコーヒーをこぼしたんだろう

ずばりと言い当てられて、咄嗟に言い訳ができない。

(でも、まさか『助けた時の続きを期待してました』なんて言えないし)

サトコ

「えっと‥さ、さっきのことを少々」

石神

さっきのこと?

サトコ

「今日一日大変だったなーって!」

石神

ああ‥お前には迷惑をかけたな

サトコ

「いえ、私は石神さんを助けられただけで‥」

だけど、うっかりさっきの話を蒸し返してしまったせいか‥

また、『続きは帰った後』という言葉が頭を過った。

(いや、別に期待しているわけではなく!)

(あの言葉を思い出しただけで、キスしてほしいとか、そういうわけじゃ!)

石神

‥やっぱり、何かおかしいな

サトコ

「うっ‥」

石神

言ってみろ。何を考えていた?

鋭い石神さんに、二の句をつげない。

言い訳すら浮かばず言い淀んでいると、目の前に立った石神さんに顎を持ち上げられた。

サトコ

「‥‥!」

石神

俺に言えないことか?

サトコ

「そっ、そういうわけじゃ‥」

石神

そういえば、さっきお前に助け出された後から、ずいぶんそわそわしていたな

忘れ物でもしたか?それとも‥

サトコ

「違うんです!さ、さっき石神さんが言ったことが頭から離れなくて」

ついに白状してしまったけど、石神さんはまったく驚いた様子がない。

(まさか‥見当がついてて、カマかけられた!?)

石神

俺が言ったこと‥とは?

サトコ

「い、石神さん‥気付いてますよね?」

石神

さあ、なんのことだかな

サトコ

「ずるい‥!石神さんが言ったんじゃないですか」

「『続きは帰った後で』って、確かに‥」

石神

続き、か‥なんのだ?

意地悪な笑みを浮かべる石神さんに、逃げることすらできない。

(ダメだ、これ絶対バレてる!)

サトコ

「恥ずかしいので、もう許してください‥!」

石神

なんの続きだ、と聞いているだけだろう

帰った後、何かの続きを期待していた‥ということか?

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この顔は完全に、すべて分かっている。

なのに、私の反応を見て楽しんでいるのがわかった。

サトコ

「き、期待なんて‥」

石神

していないと?

サトコ

「なんでそんなに、ぐいぐい聞いてくるんですか‥!」

石神

俺は、疑問点を明確にしておきたいだけだ

お前が考えているものと俺の想像に、食い違いがあるかもしれないだろう

サトコ

「いえ!まったく微塵も相違はないと思いますから!」

石神

ならば、言葉にして言えるな?

顎を持ち上げたまま、石神さんは視線を外してくれない。

ついに観念して、顔から火が出そうな気持ちで白状した。

サトコ

「さっき‥きっ、キスを‥するのかと思ったのでっ‥」

「帰って来てから、その‥」

恥ずかしくてそれ以上言葉を続けられない私の頬に手を添えて、石神さんが顔を近付ける。

触れ合うだけのキスに、石神さんがまた意地悪に笑った。

石神

素直になれ

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サトコ

「だ、だって‥」

石神

そうすれば、お前の望みくらいいくらでも聞いてやる

サトコ

「‥本当ですか?」

普段よりも優しい口調に、つい甘えたい気持ちが湧きあがる。

上目遣いで石神さんを見ると、悠然と笑われた。

石神

今まで、俺がお前との約束を破ったことがあったか?

サトコ

「‥ないです」

恐る恐る、石神さんの首に手を回す。

ふっと笑みを零して、もう一度、石神さんの唇を寄せる‥

(あ‥)

何度か触れ合ううちに、キスは次第に深くなる。

それは、さっきの意地悪など帳消しになってしまうほどの、とろけるような口づけだった。

Happy  End

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