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加賀 Season2 カレ目線2話


【ナースステーション】

毎日、仕事が終わったあと病院へ足を運び、看護師にサトコの容体を聞いた。

仕事の2日後に目を覚ましたサトコは、順調に回復しているらしい。

看護師

「あら、こんにちは。今日もいらっしゃったんですね」

加賀

‥どうも

これ‥あいつの部屋に置いてやってください

買ってきた見舞いのものを渡すと、看護師が笑う。

看護師

「今日は飲み物とゼリーなんですね」

「昨日の夜に喉が渇いてたみたいなので、きっと喜びますよ」

加賀

‥そうですか

(柄じゃねぇな‥こうやって、こそこそ差し入れするなんざ)

自分でもそう思うのに、どうしても会いに行けない。

顔が見たいのにそれができない‥感情と行動が伴わないのは、初めてだった。

加賀

今日はどうでしたか

看護師

「元気そうで、そろそろ歩き回りたいみたいです」

「腕の怪我だけだから、退屈なんでしょうね。若いから回復も早いし」

それを聞いて、心の中で胸を撫で下ろす。

サトコが目を覚ましたという一報を聞いたあとは、こうして毎日看護師に様子を聞くだけだ。

(どのツラ下げて、会いに行ける‥?撃たれた女を、他の男に任せた俺が)

(いや‥それは俺もあいつも納得したことだ。今さらどうこう言う必要もねぇ)

引っかかっているのは、もっと根本的なことだ。

“もし次、サトコが死にかけたときーーー仕事とサトコ、どっちを取るのか”

ずっとその答えが出ず、その場から身動きが取れないような錯覚を覚えていた‥

数日後、大福を買って病院を訪れると、いつもの看護師を見つけた。

加賀

すみません

看護師

「こんにちは。毎日ご苦労さまです」

「あの‥そろそろ、直接お顔を見せてあげたらどうですか?」

言いにくそうに、看護師が微かに笑う。

看護師

「氷川さん、毎日誰かを待ってるみたいなんです」

「会社の方やお友だちもお見舞いに来てくれてるのに、無理して笑ってるみたいで」

加賀

‥‥‥

看護師

「余計なこと言ってすみません。でも‥もし、お時間があるなら」

(顔を見せに、か‥)

(今まで会いに行かなくて、今さら‥)

そう思うのに、毎日のように浮かんでは消えるサトコの笑顔が頭から離れない。

記憶の中の笑顔よりも、実際のあいつを見たいという気持ちが強いのも事実だった。

(‥少しだけだ)

(少し顔を見て、すぐに帰りゃいい)

自分をそう納得させて、あいつの病室へ向かった。

【廊下】

病室を覗こうとすると、中から聞き覚えのある声が響いてきた。

【病室】

奥野

「‥今日は、彼氏は来てくれたか?」

「寂しくないのか‥?」

【廊下】

(‥奥野)

その声の主が誰なのか分かった瞬間、病室の前で足が止まる。

【病室】

サトコは少しの間のあと、『平気です』とカラ元気だとわかる声で答えた。

サトコ

「私たちは、捜査を優先するのが当たり前ですから」

【廊下】

(‥そうだ。それが模範解答だ)

(俺も、そう思ってた。なのに‥)

【病室】

なぜこんなにも、揺れているのだろう。

正しいと思う行動を取ったはずなのに、

それによってサトコを失うかもしれないということが脳裏を過る。

【廊下】

(俺は‥怖ぇのか)

(あいつが、この腕の中からいなくなるのが)

奥野

「我慢するな」

「俺なら、お前にそんな顔はさせない」

静かな声が、病室から聞こえてくる。

奥野がサトコに気持ちを吐露するのを、黙って聞いていた。

奥野

「俺ならお前のそばにいてやれるし、いつでも駆けつけてやる」

「どんな時だって‥お前を守ってやる」

サトコ

「奥野、さん‥」

サトコは、泣いているようだった。

あいつが他の男の前で泣いていることに、苛立ちよりも自分への情けなさが込み上げてくる。

(そうさせたのは、俺だ)

(あいつはいつだって、我慢してきた‥俺はそれに、気付いていたのに)

動けずにいると、病室から奥野が出てきた。

俺を見て一瞬、驚いたように目を見張る。

加賀

‥‥‥

奥野

「‥‥‥」

言いたいことはあるのに、言葉が出て来ない。

それは向こうも同じだったようで、結局何も言わず俺の前から立ち去った。

奥野

『俺ならお前のそばにいてやれるし、いつでも駆けつけてやる』

『どんな時だって‥お前を守ってやる』

(どんなときでも、守ってやる‥か)

それは、俺が言ってやりたかった言葉だ。

何があっても守ってやる覚悟もあった。

(そうできるのは、俺だけだと思ってたが‥)

(結局それは、俺の思い込みだったってわけか)

フタを開けてみれば、自分自身が一番、サトコを守ってやれる存在から遠い。

(あいつなら、サトコを幸せにできんのか)

(仕事よりも何よりも、サトコを優先できるあいつなら‥)

持ってきた袋を病室のドアにかけると、奥野とは逆方向に、廊下を歩きだす。

携帯を取り出して、メールの画面を呼び出し‥宛先に、サトコを選んだ。

(普段のあいつなら‥揺らいでねぇなら、即答してた)

(だが、一瞬迷いがあった‥奥野の話を聞くくらいには)

メールを打っては、何度も消す。

『大丈夫か』『さっさと治せ』‥どれも本心を隠しているようで、

送信ボタンを押すことができない。

(‥今さら、飾り立てるようなもんでもねぇ)

(何よりも優先しなきゃなんねぇのは‥あいつの幸せだ)

最後に打った言葉は‥

ーーー『あいつといろ』

【教官室】

翌日、袋をぶら下げて教官室のドアを開ける。

中では、歩がひとりでパソコンに向かっていた。

(都合いいな)

持っていた袋を、歩のデスクに置いた。

東雲

なんですか?

加賀

食え

東雲

なんで?

驚いたのか、歩が目を丸くする。

袋の中に入っている大福を見て、さらに目を見張った。

加賀

前払いだ

東雲

前払い‥?

加賀

手が空いたときでいい。あいつの様子を見に行って来い

東雲

うわあ‥思ってた以上に怠‥

言っときますけど、兵吾さんにとっては日課でも

オレにとっては苦行ですからね

加賀

つべこべ言ってねぇで、どうすんだ

東雲

わかりましたよ。行きますよ

渋々うなずく歩を見届けて、個人教官室のドアを開ける。

心の中で、自分自身に舌打ちした。

(こんなことしかできねぇ‥)

(こんなにも自分を不甲斐ないと思ったのは、初めてだ)


【湖】

今回の事件の首謀者を確保した数日後、サトコを連れて都心から離れたところまでやってきた。

サトコ

『私は、守られてるだけじゃ嫌なんです』

『どんな危険があっても、私より仕事を優先されても‥』

『それでも、加賀さんについていきたいんです。‥支えたいんです』

湖に見惚れているサトコの後ろ姿を眺めながら、さっきあいつが奥野に言った言葉を思い出す。

(‥一人前のことを言うようになったじゃねぇか)

(その小せぇ背中のどこに、その覚悟が隠れてやがる‥?)

加賀

おい

サトコ

「え?」

振り返りざま、サトコの顔面をつかむ。

サトコは情けない声を上げたが、今はそれすらも懐かしい。

加賀

守られんのが嫌だって?

サトコ

「き、聞いてたんですか‥!?」

加賀

テメェは、黙って俺に守られてりゃいい

余計なことは考えんな。駄犬は駄犬らしく、主人にだけ尻尾振ってろ

サトコ

「そ、そういう意味じゃないんです!」

どうやらサトコは、『自分の身は自分で守れる』というつもりで言ったのではなく‥

俺のことも守りたい、という気持ちで言った言葉だったらしい。

(お前が、俺を守る‥?正気か)

そう思うのに、なぜか感心したような、妙な気持ちになった。

(俺は‥テメェを守るだけで手いっぱいだったのに)

(そのテメェが、俺を守る‥か)

普通の女なら、言えないだろう。考えもしないかもしれない。

だがこいつは本当にそう思っていて、しかも実行しようとするから厄介だ。

(テメェに守られる必要なんざ、ねぇ)

(だが‥そんなお前だから)

何にかえても、守ってやりたいと思う。

いや‥守らなければならない。

(結局‥同じこと考えてたってわけか)

(テメェが一番、俺を理解しようとして‥実際、一番理解してるのかもな)

サトコの頭を引き寄せて、乱暴に髪を撫でる。

それさえも、サトコは嬉しそうに受け止めていた。

to  be  continued


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