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加賀 Season2 カレ目線4話

【個別教官室】

あのスナイパーから得た情報をもとに、国際テロ組織 “Crow” のことを徹底的に調べていた。

(‥まさか、サトコが単独で調べ上げるとはな)

(それにしても‥こんなところで、あいつらに関係する奴らの情報が出てくるとは)

昔、仲間を失った。

(‥ “仲間殺し” の汚名なんざ、どうでもいい)

(ただ、あいつらと一緒に辿り着くはずだった手柄を取り戻してぇだけだ)

加賀

‥このセキュリティは俺だけじゃ無理だな

歩に頼むか‥いや

他の奴らに今回の件を話すつもりはなかった。

性悪メガネに言わせりゃ、これが “勝手な単独行動” になるのだろう。

(ひとりで調べるには限界があるか‥)

(それでも‥ここで諦めるつもりはねぇ)

ノックする音が聞こえて顔を上げると、莉子がファイルを手に入ってきた。

莉子

「はーい、兵吾ちゃん。これ、頼まれたもの」

加賀

ああ‥

別件で科捜研に頼んでいた結果の書類を持ってきたらしい。

手を伸ばしてファイルを受け取り、それとなく、パソコンの画面を閉じる。

莉子

「で?最近またいい噂、聞かないけど」

加賀

なんの話だ

莉子

「兵吾ちゃんのよ。ひとりでなんかやってるんでしょ?」

「秀っちが嘆いたわよ。またあいつは、って」

加賀

サイボーグの言うことはほっとけ

莉子

「すぐそういう言い方するんだから」

「好き勝手やるのもいい加減にしなさいよ。ただでさえ目を付けられてるのに」

(いつもの説教が始まったか‥)

ため息をつきながら、受け取った資料に目を通す。

莉子はひとりで喋っていたが、適当に相槌を打っていればそのうち諦めることは知っていた。

莉子

「もう、兵吾ちゃん!また聞いてないでしょ」

加賀

いつものことだろ

莉子

「はあ‥サトコちゃんも、よくこんな無愛想な男についていけるわね」

サトコの名前が出た瞬間、ファイルを捲る手が止まった。

それを見て、莉子が微かに笑ったのが分かる。

加賀

‥チッ

莉子

「まだ何も言ってないじゃない」

「あの子、か弱そうに見えるのに意外としっかりしてるのよね」

加賀

知るか

莉子

「まったく、またそんなこと言って。一番よく理解してるのは兵吾ちゃんのくせに」

「この2年で、ずいぶん成長したんじゃない?強くなったし」

莉子が言う通り、そんなのは自分が一番よく分かっている。

誰よりも近くで、誰よりもあいつの成長を感じているのは俺自身だ。

(だが‥強いのとは、少し違う)

(あいつはもろい‥強く見せてるが、まだ内面は弱いままだ)

それでもいいと思っている。それすら愛おしいと、くだらないことを考える自分もいる。

この間、母親が倒れたときの折れそうなサトコを思い出して、少しの間無言になった。

莉子

「兵吾ちゃん?」

加賀

‥なんでもねぇ

(あいつは、まだまだ俺が守ってやらなきゃならねぇ)

(いや‥これからも、ずっとだ)

莉子

「まあ、変わったのはサトコちゃんだけじゃないけどね」

加賀

あ?

莉子

「兵吾ちゃんだって、前とは少し違うと思うけど」

(俺が‥?)

わざと、真意が伝わらないような言い方をしてくる。

これが莉子の作戦だとわかっているのに、今回はまんまとハマってしまった。

莉子

「自分の変化は、自分では気づかないものだから」

「サトコちゃんだって、自分じゃどこがかわったのかなんてわからないだろうし」

加賀

あの駄犬と一緒にするんじゃねぇ

莉子

「ほんと‥駄犬とか奴隷とか」

「そこまで言ってもついてきてくれるのなんて、サトコちゃんくらいよ」

「もうちょっと大事にしなさいよ。逃げられて後悔しても知らないから」

(逃げるわけねぇだろ。しっかり首輪してんだ)

(だいたい‥俺が変わったなんて、なんの話だ?)

だが結局莉子は、意味深に笑うばかりで何も答えないままだった。

【橋の上】

雑居ビルでの火事事件以来、サトコを捜査に同行させるのは控えるようになった。

(間違いねぇ‥俺が狙われてる)

(これ以上、余計な首を突っ込むなって警告か‥)

あいにくだが、だからと言ってやめるつもりはない。

だが、サトコの件はまた別だった。

(最近、妙にあいつと浜口が重なる‥)

(正義感が強くて、向こう見ずで‥周りの心配ばっかりしやがって)

きっとサトコは、俺の今の状況を知れば何がなんでも関わって来ようとするだろう。

浜口のことを思い出すたびに、最悪の結果が頭に浮かんでは消えていく。

(‥これ以上、サトコを巻き込むわけにはいかねぇ)

(事件から遠ざかってりゃ、危険もねぇんだ。確実に守るためには、これが一番だ)

サトコはそれが不服なのか、あれから何度か色々と尋ねられた。

それでも適当に濁していると、そのうち諦めたように何も聞いてこなくなった。

(恨まれようが、悪態をつかれようが、これだけは譲れねぇ)

(同じ過ちは繰り返さねぇ‥テメェだけは、絶対に俺が守る)

足音が聞こえた気がして振り返ると、向こうからサトコが歩いてくるのが見えた。

加賀

‥こんな時間に、何やってんだ

サトコ

「偶然です。歩いていたら‥知らない間に、ここに」

サトコの視線が、俺の足元で止まる。

ビールとどら焼き、梅干し‥供え物だと、サトコならすぐに気付いただろう。

サトコ

「私も‥加賀さんと同じ気持ちです」

「事件を未然に防ぎたい。それができるのは、公安刑事だけですよね」

後ろから俺に抱きつくと、サトコがハッキリと告げる。

サトコ

「加賀さんが背負っているものを、一緒に背負いたいんです」

(‥口ばっかり、一人前になりやがって)

だが、そのまっすぐな言葉と揺らがない姿勢は、なおさら浜口たちを彷彿とさせた。

思い出すたびに奴らの最期が蘇り、どうしてもサトコを関わらせる気になれない。

(テメェのその小せぇ背中に、背負わせるものなんざねぇ)

(俺を支えたい‥そんなもん、千年早ぇ)

ただ、俺を支えたいと一心に思い続ける姿が愛しくて、手放したくないと思ってしまう。

誰かを守りたい‥そう思うサトコごと、自分が守ってやりたかった。

(そのためには、さっさと昔のことは終わらせねぇとな)

(飼い犬に心配かけるなんざ、主人失格だ)

心配の必要もないほど、安心させてやりゃいい。

ただそれだけのことだと、そう思っていた。

to  be  continued

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