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加賀 Season2 カレ目線5話

同僚1

「おい‥加賀だぞ。あの補佐官殺しが」

同僚2

「信じられないよな‥自分の手柄欲しさに、氷川を犠牲にするなんて」

(補佐官殺し、か‥)

会場に足を踏み入れると、注がれたのは非難の視線だった。

俺を見つけて、翔真が泣きながらすがりついてくる。

翔真

「ねえ‥兵吾さん、うそでしょ?姉ちゃんが死んだなんて」

「兵吾さんの命令で死んだなんて‥うそだよね」

加賀

‥‥‥

サトコの母

「あの子は、正義感が強い子でした‥それが、どうして」

サトコの父

「なぜあの子が死ななきゃならなかったんだ‥」

「あんたはサトコの上官だろう!あの子を守るのが仕事じゃないのか!?」

(あいつを守る‥)

(そうだ。俺はそうすると誓ったはずなのに)

莉子

「ねえ、兵吾ちゃん‥本当に、サトコちゃんを大事にしてあげた?」

「サトコちゃんはただただ一途に、兵吾ちゃんだけを見てきてた‥兵吾ちゃんは?」

(俺だって‥あいつを大事に思ってた)

(あいつのかわりになる奴なんていねぇ‥この世のどこを探しても)

サトコがいなくなってから、すべてのものが色を失った。

教官室

教場

校門

‥家

(‥どこに行っても、あいつの影がある)

サトコ

『私、何があっても加賀さんについていきますから!』

『加賀さんを支えたいんです。これからもずっと、一緒にいたい』

リビングのソファに、サトコが座っているような幻覚を見る。

振り返れば、今にもキッチンからあいつが出て来そうだった。

サトコ

『加賀さん!野菜も食べなきゃダメですよ!』

『わ、私を食べても、栄養になりませんから!』

(‥テメェがいりゃ、食い物なんざどうでもいい)

(サトコさえ、隣にいりゃ‥)

【寝室】

寝室のベッドに腰を掛けると、いつかのことが思い浮かんだ。

サトコ

『ひとりで捜査に行くのは危険です。国際的なテロ組織が関わってるなら、なおさら』

『加賀さん‥最近、あまり寝てないですよね?』

『それくらい、私でもわかります。心が疲れてるって』

(‥どれだけ捜査で疲れてても)

(どれだけ、気持ちが荒れてても‥お前の肌に触れるだけで、落ち着いた)

加賀

テメェは、余計な心配なんざしなくていい

黙って守られてろ

(‥どの口が言う)

(大事な女ひとり、守れねぇで‥)

加賀

帰って来い‥サトコ

何度もサトコを抱いたベッドを、ただただ見つめる。

そんなことをしても、サトコが戻ってこないのは百も承知だった。

(なんで‥俺の前からいなくなった)

(俺を支えるんじゃなかったのか‥)

シーツを握りしめて、ようやく気付いた。

支えなど必要ないと言いながら‥いつの間にか、サトコに支えられていたことを。

(‥身体が、重いな)

サトコ

『加賀さん、ちゃんと寝てください』

『仕事も大事ですけど、身体が資本ですよ』

(テメェの小言がありゃ、いくらでも寝てやる)

(だから‥サトコ)

ベッドに横になっても、焦燥感は消えない。

この先何があっても、誰と出会っても、この渇きは癒えないだろう。

(テメェだけが、俺の、唯一の‥)

(サトコ‥俺は、お前が‥)

目を閉じたとき、ベッドに横になる俺の手を誰かがつかんだ。

その柔らかい温もりに振り返ると‥そこで、サトコが微笑んでいた。

加賀

‥‥‥

サトコ

『‥加賀さん』

加賀

‥お前‥

サトコ

『加賀さん‥私はここにいます。だから‥目を覚まして』

【病室】

まるで誰かに引っ張られるように目を覚ますと、薄暗い部屋の中の天井が見えた。

医療器具の機械的な音、廊下の向こうから聞こえる話し声‥

加賀

‥‥‥

そして、俺の手を握る誰か。

忘れるはずもないその温もりは、さっき夢の中で感じたものと同じだった。

サトコ

「加賀、さん‥」

目が合うと、サトコが大きな目を潤ませる。

その姿を見て、ようやくすべてを思い出した。

(そうか‥撃たれたのは、サトコじゃねぇ)

(‥俺だ)

まだ身体は興奮状態にあるのか、それほど痛みは感じない。

ただとにかく、目の前のサトコの温もりを感じたくて仕方なかった。

サトコ

「ま、まだ動いちゃダメです!」

加賀

うるせぇ

サトコ

「すみません‥!」

潤んだ目から、涙がこぼれて頬を伝った。

自由のきかない身体を無理やり起こして、サトコを抱きしめた。

サトコ

「加賀さん‥!」

加賀

‥無事か

サトコ

「はい‥加賀さんのおかげで、ピンピンしてます」

「でも、加賀さんがっ‥」

加賀

‥俺のことは、どうでもいい

撃たれたのが、お前じゃなくて‥よかった

口からこぼれたのは、普段なら決して言わないような安堵の言葉だった。

サトコが驚きながら身じろぎしたが、それを封じ込めるように腕の力を込める。

(こいつを、失わなくてよかった)

(あの夢みてぇに‥この世から、こいつがいなくなったら)

自然とさらに腕に力が入り、サトコが俺に無理をかけまいと困っているのが分かった。

加賀

‥あいつが、お前を狙った瞬間

お前がいなくなると思ったら、勝手に身体が動いてた

サトコ

「加賀さん‥」

加賀

くだらねぇ感情だ‥刑事としてあり得ねぇ

結局俺も、テメェの前じゃただの男ってことだ

サトコ

「え‥」

加賀

テメェを失うのは、自分が死ぬよりもごめんだ

力を緩めると、サトコが顔を上げる。

それからすぐ俺の胸に顔を埋めて、緩く抱きついてきた。

加賀

‥知らねぇ間に、お前に支えられてたんだな

サトコ

「支え‥?私が、加賀さんを‥?」

加賀

必要ねぇと思ってたが‥

(こんな状況にならねぇと、わからねぇとはな)

莉子

『まあ、変わったのはサトコちゃんだけじゃないけどね』

いつかの、莉子の言葉を思い出す。

確かに、以前の自分なら誰かをかばって自分が死ぬ目にあう選択をすることはなかった。

(いや‥それを選んだんじゃねぇ)

(身体が勝手に動いた‥こいつを失うことを拒否した)

そんな感情は、刑事には不要だと思っていた。邪魔になるとすら感じていた。

サトコ

「肩、痛みますか?」

加賀

‥少しな

(そんなもん、お前がいなくなることに比べたらなんでもねぇ)

(腕を失おうか脚を失おうが‥お前が生きて、無事なら)

再び、サトコを抱きしめる腕に力を込める。

もう二度と、危険に晒さないと誓いながらーーー

to  be  continued

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