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石神 ヒミツの恋敵編 1話


【教官室】

(どうか、石神さんでありますように‥!)

渾身の願いを込めて、手をギュッと握りしめる。

石神

氷川には、加賀の補佐官を務めてもらう

サトコ

「えっ‥!」

(加賀、教官の‥?)

(今の、聞き間違いじゃないよね‥?)

石神

聞こえなかったか?‥氷川は加賀の補佐官だ

サトコ

「は、はい‥」

(やっぱり、聞き間違いじゃなかったんだ‥)

(また補佐官交代だなんて‥しかも、加賀教官の補佐官って‥)

加賀

チッ‥クソ眼鏡の奴隷か

こんなクズなら、いねぇ方がマシだ

サトコ

「うっ‥」

(どうしよう。早速心が折れそうです‥)

(どうか、間違いだと言ってください!石神さん!)

加賀

なんか文句でもあんのか

サトコ

「い、いえ、滅相もございません!」

「精一杯、補佐官を務め上げさせていただきます!」

加賀

フン。使えねぇと思ったら容赦なく切り捨てるまでだ

サトコ

「っ!」

ジロリと睨まれ、背筋がピンッと伸びる。

石神

以上、補佐官たちは各教官から今後のことについて指示を仰ぐように

訓練生たち

「はい!」

石神さんは自身の補佐官を連れて、個別教官室へと入っていく。

いつもと様子が変わらない石神さんを見て、少し寂しく感じてしまう。

(補佐官が変わっても、あまり気にしてないのかな‥)

(公私混同しちゃダメだって分かってるけど‥それはそれでショックかも)

加賀

おい、グズ。ボサっとしてんじゃねぇ

サトコ

「うっ!」

加賀教官は私の頭を鷲掴みにして、ズルズルと引きずっていく。

サトコ

「いたた‥っ!」

加賀

さっさと来やがれ

サトコ

「あ、頭が千切れます!引っ張らないでください~!」

【個別教官室】

サトコ

「うぅ‥」

(まだ頭がギシギシいってるような気がする‥)

涙目になりながら、頭をさする。

(加賀教官が嫌ってわけじゃないけど‥)

(いやでも、毎日こんな頭鷲掴みにされるのは嫌だなぁ‥)

出来ることなら、石神教官が良かったというのが本音なわけで。

加賀

しけた面してんじゃねぇ

‥そんなにクソ眼鏡がいいか?

ニヤリと口角を上げる加賀教官に、ドキッと心臓が鳴る。

<選択してください>

A: 石神教官が良かった

サトコ

「は、はい‥」

加賀

ほう‥俺だと不服だって言いてぇのか

サトコ

「そ、そういうわけじゃありません!」

「やっぱり、1年間石神教官の補佐官を務めていたので‥」

加賀

‥‥‥

(って、無視!?)

(加賀教官が聞いたのに‥!)

B: 加賀教官がいいです

サトコ

「い、いえ!加賀教官がいいです!」

加賀

ほぅ‥そんなに奴隷になりたいか

サトコ

「ど、奴隷っ!?」

加賀

馬車馬のごとくこき使ってやるから、覚悟しとけ

(私、余計なこと言っちゃったのかも‥!)

C: 加賀教官は私じゃ嫌ですか?

(こういうときは、誤魔化すのが吉だよね)

サトコ

「‥そういう加賀教官こそ、私は不服ですか?」

加賀

ぁあ?

真っ直ぐに目を見ながら言うと、加賀教官は眉をしかめた。

加賀

‥クズが、いっちょまえに言うようになったか

サトコ

「っ‥」

射殺されるような目つきで睨まれ、背中に嫌な汗が流れた。

サトコ

「す、すみません‥10年早かったです!」

加賀

10年じゃねぇ。1000年だ

(せ、1000年!?)

加賀

次にくだらねぇこと言ったら容赦しねぇ

サトコ

「はいっ!肝に銘じます!」

確かに今までの石神さんの他に、後藤教官の補佐官を務めたことはあった。

鬼教官と言われながらも、教官たちの優しさは垣間見ている。

(だけど‥あの加賀教官の補佐官なんて、どんなに恐ろしいんだろう)

(あの時はすぐ石神さんの補佐官に戻れたけど今回はどうなっちゃうの‥?)

考えただけでも、ブルブルと震えてくる。

加賀

おい、クズ。今日中にこの資料をまとめとけ

サトコ

「この量を、ひとりでですか!?」

山積みされている資料に、目を丸くする。

加賀

テメェに拒否権は‥

サトコ

「よ、喜んでやらせていただきます!」

加賀教官の威圧感に負け、素早く作業に取り掛かる。

(始めからこんなんで‥これから先、加賀教官の元でやっていけるのかな)

そんな不安が過るも、お腹にぐっと力を込める。

(‥なんて、最初から弱気になってちゃダメだ!)

(とにかく今は、目の前のことをひとつひとつこなしていこう!)

悩んでもしょうがないし、前向きに考える私だったが‥‥

その翌日‥‥

サトコ

「ハァハァ‥加賀教官、グラウンド50周終わりました!」

加賀

ああ゛?誰が止めていいって言った?

いいって言うまでだ

サトコ

「ええっ‥!」

加賀

小テストでロクな点も取れねぇくせに口答えか‥?

いい度胸だな

サトコ

「も、もう一度グラウンドに行ってきますっ‥!」

加賀

おい、誰がこんなカスタードの塊を買って来いって言った?

サトコ

「あっ‥!」

(石神さんへのお土産と入れ違っちゃったんだ‥!)

加賀

嫌がらせか

俺が頼んだのは大福だ。テメェは大福も知らねぇのか

サトコ

「す、すみません!」

加賀

よっぽど仕置きされたいらしいな‥

加賀

おい、グズ!こんな簡単なことも出来ねぇのか?

今まで何を学んできた?テメェの脳みそはミジンコ以下か?

使えねぇ奴隷は切り捨てるまでだ


【教場】

サトコ

「つ、疲れたぁ‥」

午後の講義が終わり、ぐったりと机に突っ伏す。

鳴子

「ねぇ、サトコ」

サトコ

「す、すみません!すぐに終わらせますので‥」

「どうか、ご勘弁を‥!」

鳴子

「ちょっと‥大丈夫!?」

サトコ

「ハッ‥!」

顔を上げると、鳴子と千葉さんが心配そうに私を見ていた。

鳴子

「声掛けただけで、そんな反応するなんて‥」

「よっぽど大変なんだね、加賀教官の補佐官」

千葉

「氷川、加賀教官の補佐官になってから、講義中もたまにうなされてるし‥大丈夫か?」

鳴子

「まだ数日しか経ってないのに、疲れ切ってるみたいだし」

サトコ

「大丈夫、大丈夫!」

「ちょっと‥いや、かなり厳しいけど、全然大丈夫だよ!」

千葉

「それ、大丈夫って言わないと思うけど」

鳴子

「無理はしないでよね」

2人の憐れむような目に、ため息をつく。

(今までの加賀教官の補佐官、大変だったろうな‥)

鳴子

「自主練も毎日続けてるんでしょ?」

「たまにはちゃーんと休まなきゃダメだよ?」

サトコ

「ありがとう。加賀教官は今日、出張でいないって言ってたから‥」

東雲

あ、いたいた

東雲教官は教場へやってきたかと思うと、一直線にこちらに向かってきた。

東雲

はい、サトコちゃん

サトコ

「何ですか、これ?」

差し出された書類を受け取り、中身を確認する。

サトコ

「これは‥?」

東雲

書いてある通りだから

(捜査資料と講義で使う資料のまとめ、一年生に使う教材のリストアップまで‥)

サトコ

「これ、私が全部やるんですか!?」

東雲

当然。それ、兵吾さんからの指示だから

サトコ

「でもこれ、東雲教官への指示も入ってますけど‥」

東雲

へぇ、気付かなかった

サトコちゃん、兵吾さんがいないからって気抜いて居眠りしてたみたいだし

気を引き締め直さないとね

サトコ

「うっ‥」

東雲

ご愁傷様

鳴子

「サトコ‥」

千葉

「本当に大丈夫か?なんなら、俺たちも手伝うよ」

サトコ

「えっ、いいの‥!?」

東雲

兵吾さんに知られたら、きっとキツーイ罰が待ってるだろうね

サトコ

「!!!」

「だ、大丈夫!これくらい、楽勝だから!」

ニッコリと微笑む東雲教官に、心が折れそうになる。

(‥こんなことでめげてちゃダメだ)

(私だって、1年間石神さんの元で頑張ってきたんだから!)

サトコ

「鳴子、千葉さん。私、行ってくるね!」

(まずは優先度の高いものから手を付けよう)

私は捜査資料を作るため、資料室へ急いだ。

【寮 自室】

サトコ

「やっと終わった~」

シャワーを浴びて寮に戻り、ご飯を済ませる頃には夜も深くなっていた。

ベッドにダイブすると、枕に顔を埋める。

(明日の予習、しなきゃいけないけど‥)

あまりにも疲れすぎて、自然と瞼が落ちてくる。

サトコ

「‥ん?」

枕元に置いてあった携帯が振動し、着信を告げた。

サトコ

「誰だろ‥」

重い動きで携帯を操作して、メールフォルダーを開く。

石神

来週末、予定が空いていたら出掛けないか?

サトコ

「っ!?」

(石神さんからデートのお誘いだ‥!)

思いがけないメールに、勢いよく起き上ると、すぐに返信する。

それから待ち合わせ場所と時間を決めると『‥おやすみ』と締めくくられた。

サトコ

「ふふっ、久しぶりのデート楽しみだなぁ」

先ほどまで重く感じていた身体が、今では軽く感じる。

(我ながら、単純だけど‥)

サトコ

「目も冴えたし‥予習、しよう!」

大きく伸びをすると、机に向かった。

【個別教官室】

翌日。

(早く週末にならないかなぁ)

鼻歌を歌いそうになるのを堪えながら、加賀教官のデスクに向かう。

サトコ

「加賀教官、レポートこちらに置いておきますね♪」

加賀

‥ああ

サトコ

「他にやることはありますか?」

加賀

‥‥‥

加賀教官はめんどくさそうに顔を上げると、顔をしかめて舌打ちをする。

加賀

‥うぜぇ

サトコ

「まだ何もしてませんよ!?」

加賀

まだってことは、これからやる予定か?

サトコ

「そういうわけじゃないですけど‥」

加賀

だらしねぇツラで仕事してんじゃねぇ。気が散る

サトコ

「す、すみません‥」

加賀

そこにあるやつを資料室に戻して来い

サトコ

「はい」

(そんなに顔に出ちゃってたのかな?)

それから何度も加賀教官から注意を受けたけど‥

週末のことを考えるだけで、どんな仕事も頑張ることが出来た。


【映画館】

やっと週末になり、石神さんと映画館にやってきた。

石神

何か観たいものはあるか?

<選択してください>

A: 恋愛もの

(女の子ならやっぱり、恋愛ものを選ぶべきかな?)

(でも、あのアクションもの、気になってたんだよね‥)

石神

どうかしたのか?

サトコ

「い、いや‥『君と出会って』が観たいです」

「恋愛映画なんですが、女性やカップルの中で評判がいいみたいなんですよ」

石神

そうか‥

石神さんは何か考える風に、口を閉ざす。

B: アクションもの

(あっ、あのアクション映画!CMで見て気になってたんだよね)

サトコ

「石神さん、あのアクション映画が‥」

(‥ちょっと待って。女の子なら、こういう時恋愛ものの映画を選ぶべきだよね)

(でも、前から気になってたし‥)

石神

アクション映画でいいのか?

サトコ

「い、いえ!やっぱり、恋愛ものの映画を‥」

石神

‥‥‥

石神さんは私の反応を見て、フッと笑みを浮かべる。

C: 石神さんは何が観たいですか?

サトコ

「石神さんは何が観たいですか?」

石神

俺のことは気にしなくていい。お前が観たいものを選べ

柔らかい瞳で見つめられ、ドキッと胸が高鳴る。

(石神さんって、こういう時さり気なく優先してくれるよね)

“彼女” として扱ってもらえることが、素直に嬉しかった。

(アクション映画が気になってたけど、デートの時くらい恋愛映画を選んだ方がいいかな‥)

考えあぐねていると、石神さんが上映スケジュールに目を向ける。

石神

‥やっぱり、アクションものにしないか?

恋愛よりも、こっちの方が好みだ

石神さんはそう言って、チケットを購入する。

(もしかしなくても‥私の気持ちを察してくれたのかな?)

石神さんの優しさが、じんわりと胸に広がっていく。

石神

行くぞ

サトコ

「はい!」

私たちは手を繋ぎ、劇場へ足を向けた。

【並木道】

サトコ

「主人公のアクション、すごい迫力でしたね!」

石神

ああ。あの動きはなかなか出来るものじゃない

映画館を出た私たちは、並木道を歩いていた。

サトコ

「あの映画、スタントマンをほとんど使わないで撮影したそうですよ」

「私もあれくらい動けるように‥」

歩みを進めていると、コツンと何かがつま先に当たった。

サトコ

「あっ、どんぐりだ」

(たくさん落ちてる‥)

サトコ

「この季節にどんぐりって、珍しいですよね」

「どんぐりを見ると、秋って感じがしちゃいます」

石神

‥‥‥

サトコ

「石神さん‥?」

(どうかしたのかな‥?)

一瞬だけ見せたその寂しそうな表情に、キュッと胸が詰まった。

サトコ

「あの‥」

石神

ああ、すまない‥

知人の子どもが、どんぐりが好きだったのを思い出してな

切なげに微笑むと、小さな声で言葉を続ける。

石神

その知人はもう‥亡くなっているんだが

(知り合いって言ってるけど‥)

(こんなに切ない表情をするなんて、石神さんにとって大切な人だったのかな?)

そうなれば、やることはひとつだ。

サトコ

「石神さん、せっかくですし、どんぐりを渡しに行きませんか?」

石神

気持ちだけ受け取っておく。今はデート中だろう?

サトコ

「私なら大丈夫です!」

「それに、私もその知人の方にお会いしたいですし‥」

「たくさん拾ってプレゼントしましょう」

石神

サトコ‥

石神さんは驚いたように私の名前を呼ぶと、フッと微笑む。

石神

そうだな

【墓地】

どんぐりをお供えし、お線香をあげて手を合わせる。

石神

‥‥‥

石神さんは長い間、手を合わせていた。

(この人は、石神さんとどんな関係だったんだろう)

石神さんの背中からは、何も読み取ることは出来ない。

石神

‥彼は協力者だったんだ

サトコ

「え‥?」

石神

‥‥‥

石神さんはゆっくりと目を開け、遠くを見つめる。

そしてそれ以上、語ろうとしなかった。

(ここに眠っている人が、石神さんの協力者‥)

協力者とは、公安にとって大切な人材だ。

彼らは公安のスパイとして、捜査に有益な情報をもたらしてくれる。

協力者の獲得方法は様々だが、相手の状況に応じて金品を渡すこともある。

彼らの一番弱い部分に入り込んで、忠実なスパイに仕立て上げるのだ。

(だから、協力者に情をかけてはいけない。そう教わってきたけど‥)

石神

‥‥‥

揺れる石神さんの瞳に、ひどく胸が痛んだ。

石神

付き合わせてしまって、すまない

サトコ

「気にしないでください。これからどうしますか?」

石神

そうだな‥

???

「石神‥さん、ですか?」

すれ違った男性に呼ばれて、私たちは足を止める。

石神

君は‥

石神さんは男性の顔を見て、言葉を失くした。

???

「お久しぶり、ですね」

「‥ここには何しに?」

青年は忌々しげに石神さんを見て、私たちに背を向ける。

石神

き、君は藤田の‥

???

「‥‥‥」

石神

っ‥

青年の背中を追うと、先ほど私たちがいたお墓の前で止まった。

(年齢からして、もしかして‥協力者の息子さん?)

サトコ

「あのっ‥」

石神

‥行くぞ

石神さんは私の手を引き、お寺を後にする。

サトコ

「あ、石神さん‥?」

石神

‥‥‥

(息子さんって、さっき話してくれた人だよね‥?)

(石神さんは、会ったことあるの?)

私の手を引く力がどこか弱々しくて‥何も聞くことが出来なかった。

to  be  continued


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