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石神 ヒミツの恋敵編 2話

【帰り道】

サトコ

「夜景が綺麗で‥素敵なレストランでしたね」

石神

ああ

お店から出ると夜の帳が降り、街灯が街を明るく照らしていた。

サトコ

「石神さん、この後は‥」

石神

‥‥‥

(‥石神さん?)

(どうしたんだろう‥)

デート中、石神さんはふとした瞬間に考え込むことがあった。

(疲れてるのかな?新年度になっていろいろと慌ただしいし‥)

(それとも‥)

石神

き、君は藤田の‥

藤田

『‥‥‥』

石神

っ‥

(あの時の石神さん、どこか様子がおかしかった)

(2人の間に、何があったんだろう‥?)

気になるけど、無理に聞き出したくはなかった。

そんな思いが現れたのか、繋いでいる手に力が込められる。

石神

‥サトコ?

名前を呼ばれて、ハッと我に返る。

サトコ

「あ、いえ‥なんでもないです」

ニッコリと笑みを見せると、不意に寂しさが過る。

(明日から学校だし、またしばらくの間2人きりになれないよね‥)

(もっと石神さんと一緒に過ごしたいな)

(それに‥)

今の石神さんを、ひとりにさせたくない‥そんな思いもあった。

(けど、あまり無理を言いたくないし‥)

サトコ

「明日も早いですし、今日はもう帰りますか?」

石神

‥‥‥

石神さんは何か考えるように私の目を見て、やがて口を開く。

石神

‥家に泊まっていかないか

サトコ

「え?」

石神

まあ、嫌と言うならこのまま解散でも構わないが‥

サトコ

「嫌じゃないです!泊まりたいです!ぜひ、泊まらせてください!」

石神

ああ

ふっと目を細めると、優しい声音が落ちてくる。

石神

しなくていい我慢はするな

‥俺だって、お前と同じ気持ちだからな

サトコ

「石神さん‥」

石神さんの優しさに触れ、頬が緩む。

私たちは寄り添いあうように、石神さんの家に足を運んだ。

【石神マンション】

サトコ

「あ、このCMですよ!」

ソファに座ってテレビを見ていると、昼間観た映画のCMが流れる。

サトコ

「もう一回、あのアクションが観たいな‥」

石神

そんなに気に入ったなら、また観に行くか?

(よかった‥)

いつものようにフッと笑みを浮かべる石神さんに、安堵のため息が漏れる。

サトコ

「う~ん、でもレンタルが出るまで待ちます!」

「次は石神さんが観たい映画にしましょう」

他愛のない話をしていると、喉の渇きを覚える。

サトコ

「喉渇きませんか?コーヒー淹れますね」

石神

ああ

あのマグカップなら、そこの棚に置いてある

棚を覗くと、お揃いのマグカップが並んでいた。

片方は普段から使われている形跡が見られる。

(ふふ、ちゃんと使ってくれてるんだ‥)

優しい気持ちになりながら、コーヒーを淹れる。

ソファに座ると、石神さんにマグカップを差し出した。

サトコ

「石神さん、どうぞ」

石神

ああ‥

短い返事をして受け取るも、マグカップは手に収められたままで‥

サトコ

「あの‥飲まないんですか?」

石神

そうだな‥

一向に飲む気配を見せない。

(まただ‥)

(さっきと同じ表情‥)

石神

‥彼は協力者だったんだ

サトコ

『あのっ‥』

石神

‥行くぞ

(あの時に見せた、切なげな表情‥)

協力者の名前は‥確か、『藤田』と言っていた。

(石神さん‥)

石神

‥‥‥

どこか辛そうにも見える石神さんに、掛ける言葉が見つからなかった。

(石神さんが話してくれるまで待とう)

そう心に決めて、少しぬるくなったコーヒーを啜った。

【学校 教場】

翌日。

鳴子

「あ~、やっと終わった~!」

千葉

「2年に上がってから、訓練がまた一段と厳しくなったな」

サトコ

「応用も多くなったしね。自習時間、増やそうかな‥」

千葉

「氷川は本当に真面目だな」

「ただでさえ補佐官の仕事が忙しそうなのに、それ以上自習を増やしたら倒れるぞ?」

鳴子

「そうだよ!たまには息抜きしなきゃ」

「ってことで、今日はみんなで買い物に行こうよ!」

千葉

「お、俺も?」

鳴子

「もちろん!女の子の買い物には、男子の意見が必要なんだから!」

サトコ

「ふふ、そうだね。それじゃ、一度寮に戻って‥」

東雲

警察庁ね

サトコ

「そうそう、警察庁に‥って、えっ!?」

(東雲教官!?)

東雲

はい、これ。莉子さんのとこによろしく

サトコ

「私が、ですか?」

「ご自分の補佐官にお願いすればいいんじゃ‥」

東雲

兵吾さんから頼まれた仕事に決まってるでしょ

ああ、嫌なら断ってくれてもいいけど?

兵吾さんにはちゃーんと伝えておくから。サトコちゃんは遊びに行って‥

サトコ

「行きます!行かせてください!」

東雲

うん、そうだよね

東雲教官は、笑顔を向けて書類を渡してくる。

(危ない、危ない。もし断りでもしたら‥)

サトコ

「‥‥‥」

鳴子

「サトコ、大丈夫?震えてるけど‥」

サトコ

「う、うん。ちょっと嫌な想像しちゃって‥」

千葉

「俺たちには応援することしか出来ないけど‥頑張れよ」

サトコ

「ありがとう。その言葉だけでも、涙が出そうだよ‥」

鳴子

「もう、何言ってるのよ。幸せレベル下がってるんじゃない?」

「買い物はまた今度行こうね」

サトコ

「うん」

鳴子と千葉さんに送り出され、私は警察庁へ向かった。

【科捜研】

サトコ

「失礼します」

莉子

「あら、サトコちゃんじゃない!今日はどうしたの?」

サトコ

「加賀教官に頼まれて、書類をお持ちしました」

莉子

「兵吾ちゃん?」

「もう、自分の補佐官を使えばいいのに。サトコちゃんに頼むなんて‥」

サトコ

「あ、いえ‥実は今、加賀教官の補佐官なんです‥」

莉子

「兵吾ちゃんの?」

「そういえば、そんなようなこと聞いたような‥」

(もしかして‥黒澤さんかな?)

(恐るべき、情報網‥)

莉子

「サトコちゃん、良かったらお茶でも飲んでいって」

「ちょうど休憩しようって思ってたの。話し相手になってくれると嬉しいわ」

サトコ

「は、はい‥」

ニッコリと微笑む莉子さんに、何故か悪寒が走った。

莉子さんからお茶をもらい、カップに口を付けると‥

莉子

「それで、秀っちとは最近どう?」

サトコ

「うぐっ!」

(あ、危ない、吹くところだった‥)

莉子

「サトコちゃんが兵吾ちゃんの補佐官になって、秀っちに何か変化はあった?」

「嫉妬心を出してたり‥」

サトコ

「いや‥ないんです」

「補佐官が発表になった時も、いつも通りでしたし」

莉子

「あら、そうなの?」

「秀っちはサトコちゃんにベタ惚れだし、態度に出るかと思ったんだけど‥」

「そこはさすがに秀っちってところね」

莉子さんはお茶を飲みながら、優雅に微笑む。

莉子

「それじゃ、サトコちゃん的に兵吾ちゃんはどう?」

<選択してください>

A: 身体が持ちません

サトコ

「想像以上に厳しくて、身体が持ちません」

莉子

「兵吾ちゃんは相手が男でも女でも容赦ないものね」

「アレについて行ける人なんて、そうそういないわ」

サトコ

「ですよね‥」

(私も心が折れそうになることがあるもんなぁ)

莉子

「でも、ちゃんと人のことは見て相応の評価をしているわ。ああ見えて、優しいところもあるし」

「勘違いされやすいのよね、兵吾ちゃんは」

「まあ、自暴自得なんだけど、ね?」

(加賀教官が優しい‥莉子さんは付き合いが長いから、そういう面も知っているんだ)

B: 学べることが多いです

サトコ

「確かに厳しいですが‥学べることが多いです」

「でも今は、ついて行くだけで精一杯で‥」

莉子

「フフ、兵吾ちゃんは横暴で融通が利かないからね」

「目の前のことにいっぱいいっぱいになるのも仕方ないわ」

サトコ

「はい‥」

莉子

「秀っちの補佐官を務め上げたみたいに、ね?」

サトコ

「っ、はい!ありがとうございます!」

C: もう少し優しくしてほしいです

サトコ

「もう少しだけでいいので、優しくしてほしいです」

莉子

「兵吾ちゃんは昔から変わってないのよね」

「過去に付き合ってた子も、かなり泣かせてたみたいだし」

(彼女さんにも厳しいんだ‥)

(加賀教官の彼女になるには、かなりのガッツがないと無理なんだろうな)

莉子

「まあ、あれで優しいところもあるし‥」

「サトコちゃんなら、きっとやっていけるわ」

サトコ

「はい‥」

莉子

「‥秀っちも兵吾ちゃんも、相変わらずなんだから」

サトコ

「え‥?」

莉子

「なんでもないわ」

莉子さんはカップをデスクに置くと、目を輝かせる。

莉子

「それじゃあ、秀っちのことについて聞きましょうか!」

サトコ

「ええっ!?その話はもう終わったんじゃ‥」

莉子

「まだよ。全部聞くまで帰さないんだから♪」

「秀っちとは最近、デートしたのかしら?」

サトコ

「そ、それは‥はい‥」

莉子

「あら、忙しいって言ってる割にはちゃんとしているのね」

「ねぇ、デート中の秀っちだけど‥」

(だ、誰か莉子さんを止めて~!)

それから莉子さんが満足するまで、根掘り葉掘り聞かれることになった。

【コンビニ】

(うぅ、本当に帰してくれないとは‥)

警察庁を出る頃には、外がすっかり暗くなっていた。

(そうだ‥)

コンビニが視界に入り、ふと最近発売されたプリンのことを思い出す。

(石神さんに差し入れでもしようかな?)

コンビニに寄ろうと、足を向けると‥

サトコ

「あっ‥!」

藤田

「‥?」

(確か藤田さん‥だったよね?)

藤田さんはコンビニの袋を片手に、店から出てくるところだった。

サトコ

「あ、あの‥こんばんは」

お寺で会ったときのことを思い出し、緊張が走る。

藤田さんは不思議そうな顔をしていたかと思うと、柔らかく微笑んだ。

藤田

「‥こんばんは。こんなところで会うなんて、奇遇ですね」

(あれ‥?)

サトコ

「そ、そうですね」

藤田

「先日は失礼な態度を取ってしまってすみませんでした‥」

「石神さんにも、よろしくお伝えください」

「それでは」

にこやかに去っていく藤田さんに、ほっと息をつく。

(冷たい印象があったけど‥いい人だったんだ)

(あの時は虫の居場所が悪かったのかな?)

【学校 廊下】

翌日。

(さて、今日はどんな雑用が待っているんだろう‥)

この後のことを考えるだけで、自然と足取りが重くなる。

サトコ

「‥ん?」

(あれって、加賀教官だよね‥?)

ちょうど、教官室から出てきた加賀教官の後ろ姿を見つける。

少しだけ迷ってから、加賀教官に声を掛けた。

サトコ

「お疲れさまです。これからお出かけですか?」

加賀

‥‥‥

サトコ

「‥?」

加賀

チッ‥しょうがねぇ

サトコ

「‥へっ?」

加賀教官は私の顔をじっと見ると、ガシッと頭を掴む。

サトコ

「いたた‥っ!急に何ですか!?」

加賀

うるせぇ。黙ってついて来い

サトコ

「ちょっ、加賀教官!?」

加賀教官に引きずられるように、その場を後にした。

【警察庁】

サトコ

「取り調べ、ですか?」

加賀

ああ。今抱えてる案件のな

歩に急な捜査が入った‥グズでもいねぇよりかはマシだ

‥いいか?今から何見ても口出しするんじゃねぇぞ

サトコ

「は、はい!」

鋭い視線を受け、声が裏返りそうになる。

(口出すなって‥ただのとりしらべだよね‥?)

言葉の意味が分からず、緊張に逸る鼓動を抑えながら加賀教官の後を追った。

【取調室】

加賀

いい加減吐きやがれ

男性

「‥‥‥」

加賀

だんまりを決め込むつもりか?

‥いい度胸だ

バンッ!

男性

「っ!」

加賀教官が机を拳で叩き、男性の身体がビクッと震える。

男性

「お、俺は何も知らない‥」

加賀

知らねぇわけないだろ?俺を舐めてんのか

男性

「ひぃっ!」

今度は机の脚を蹴り、男性に鋭い視線を向ける。

加賀

時間を稼ごうって魂胆か‥バレてんだよ

男性

「うぐっ!」

背筋が凍るような笑みを浮かべ、加賀教官は男性の胸倉をつかんだ。

加賀

ネタは上がってんだ

男性

「ぐっ‥」

加賀

テメェだって、ここから早く出てぇはずだ

男性

「や、やめ‥」

加賀

ああ゛?聞こえねぇな

男性

「っ、ゴホッ!ゴホッ‥」

加賀

とっとと吐きやがれ、このカス

男性

「うっ‥ゴホッ、ゴホッ‥!」

サトコ

「か、加賀教官!離してあげてください!」

加賀

クズは引っ込んでろ

サトコ

「でもっ‥!」

加賀教官の視線が、突き刺さる。

怯みそうになるも、苦しそうに咳き込む男性にこれ以上黙っていることなどできなかった。

男性は喉からヒューヒューと音を出している。

(これって‥過呼吸じゃ!?)

サトコ

「こ、これ以上は止めてください!苦しそうです!」

加賀

こいつが吐いたら、止めてやる

苦しいなら、どうすべきかわかるよな‥?

男性

「ゴホッ、ゴホッ‥!うぅ‥」

サトコ

「それじゃあ、自供しようにも何も話せません!」

加賀

‥チッ

男性

「ぐっ‥」

加賀教官は乱暴に手を離すと、男性は机に倒れ込んだ。

サトコ

「大丈夫ですかっ!?」

「落ち着いて、ゆっくり呼吸してください‥」

加賀

フッ、自分で自分の首を絞めやがって‥

さっさと吐きゃ、苦しまずに済んだものを

男性を見下ろしながら、加賀教官は机の脚を蹴る。

男性

「っ!」

加賀教官は冷めた視線を私たちに向け、背を向ける。

加賀

‥後処理しとけ

サトコ

「あっ、加賀教官!」

振り返ることなく、加賀教官は取調室から出て行ってしまった。

【廊下】

(長時間拘束の上に、あんな挑発的な発言を繰り返すなんて‥)

後から来捜査官によると、男性は興奮すると過呼吸が出てしまう体質らしい。

加賀教官はそれを知った上で、あの取り調べをしていたのだ。

(こんなことが許されていいの?)

サトコ

「あっ‥」

加賀

‥‥‥

サトコ

「あの‥!加賀教官」

モヤモヤしていた矢先、加賀教官が通りかかる。

取り調べのやり方に納得がいかない私は、勇気を出して呼び止めた。

サトコ

「先ほどの取り調べですが‥」

加賀

テメェは自分で何をしたか分かってんのか?

サトコ

「え‥?」

加賀

あの男は、テロリストの下っ端と繋がっている

サトコ

「!?」

(知らなかった‥)

加賀

もし取り逃がしていたら、どうするつもりだ

知りませんでした‥じゃ、済まされねぇ

犯人を気遣って、悠長に取調べしてる暇なんかねぇんだよ

サトコ

「でも、だからって、あんな方法は‥!」

<選択してください>

A: もう一度、よく考える

(ダメ、だと思う)

(けど‥)

加賀教官が言うように、悠長に取調べしている時間がないのも事実だ。

(どうすればよかったの‥?)

思考を巡らせるも、いい方法が思いつかない。

サトコ

「‥‥‥」

加賀

結局、何の考えもねぇのか

サトコ

「で、ですが‥きっと、他にいい方法があるはずです!」

加賀

クズが。でかい口叩いてんじゃねぇ

B: とにかく話し合う

サトコ

「とにかく、話し合いましょう!」

「あんな方法より、ずっと‥」

加賀

テメェは何の話を聞いてた?

サトコ

「!」

加賀教官は私を壁際に追いやると、すぐ後ろにある壁を乱暴に蹴る。

加賀

もしホシに逃げられたら‥テメェは責任取れんのか?

サトコ

「それ、は‥」

加賀

取れねぇなら、偉そうに口出すな

サトコ

「っ‥」

何も言い返せず、悔しさのあまり下唇を噛む。

C: 加賀教官の方法が一番いいのかも‥

サトコ

「‥‥‥」

もう一度、頭から状況を整理する。

(あの男はテロリストの下っ端と繋がっていて、一刻を争う状況)

(それなら、どんな手を使ってでも吐かせるのは、ある意味正しいのかもしれない‥)

加賀教官の方法は、一見筋が通っているように思える。

(だけど‥)

サトコ

「‥他にも方法があるはずです」

加賀

ああ゛?

サトコ

「すぐには思い浮かびませんが‥あんな方法より、いい方法がきっと‥!」

加賀

希望的観測でモノを言ってんじゃねぇ

加賀

クソ眼鏡の下にいただけあって、生ぬるい考え方だな

臨機応変って言葉をしらねぇのか?頭が固いにもほどがある

胸倉を掴まれ、加賀教官の顔がぐっと近づく。

加賀

いいか、これが俺のやり方だ

理解出来ねぇヤツは必要ねぇ

サトコ

「っ‥」

(‥今の私じゃ、何を言っても無駄だ)

サトコ

「‥申し訳、ありませんでした」

私は頭を下げると、警察庁を後にした。

【帰り道】

サトコ

「はぁ‥」

警察庁を出てから、何度目になるか分からないため息をつく。

(1年間、何を学んできたんだろう‥)

あれからどんなに考えても、答えが見つからなかった。

(加賀教官が全て正しいとは思わないけど‥)

(あのやり方で、解決出来るものがあるっていうのも事実なんだよね)

サトコ

「‥石神さん、今何してるんだろう」

ひょっこりと弱い自分が顔を出し、石神さんへの想いが募る。

だけど、こんな情けないところを見られたくないという想いもあった。

(このまま寮に帰る気にもなれないし‥身体、動かしていこうかな)

サトコ

「‥よし!」

私はパンッと両頬を叩いて気合を入れ直すと、学校へ急いだ。

to  be  continued

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