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石神 ヒミツの恋敵編 3話


【学校 廊下】

(‥ん?)

(まだ誰か残ってるのかな?)

トレーニングを終え、資料室の前を通りかかると、資料室の電気が点いていた。

【資料室】

石神

‥‥‥

部屋を覗きと、石神さんが棚の前で資料に目を通している。

(石神さん‥!まだ残ってたんだ)

石神さんの姿を見て、浮足立っていた心が安らぐのを感じる。

石神

‥ん

サトコ

「石神さん、お疲れさまです」

石神

サトコか‥

石神さんはチラリと私を見ると、居心地悪そうに資料に視線を戻す。

石神

見られてると気に障る‥

サトコ

「す、すみません‥」

石神

‥そんなところにいないで、入ってきたらどうだ?

サトコ

「いいんですか?」

「それでは、お言葉に甘えて‥」

扉を閉めて、中に入る。

石神

‥‥‥

部屋は静まり返り、時折、石神さんがページを捲る音のみが響いた。

(少し前まで、こうして2人でいるのが当たり前だったんだよね)

(石神さんが私の自習に付き合ってくれて、それで‥)

石神さんの背中を見つめながら、取調室での出来事が脳裏を過る。

(もし、石神さんだったらどうするんだろう?)

(石神さんの取り調べも “鬼の取り調べ” って言われてるし‥)

石神

‥何かあったのか?

サトコ

「へ‥?」

突然声を掛けられ、マヌケな声が漏れてしまう。

石神さんは資料をしまうと、私に向き直った。

石神

様子がおかしい

サトコ

「そ、そんなことは‥」

石神

俺がお前の変化に気付かないとでも思ったか?

サトコ

「‥‥‥」

(やっぱり、石神さんの意見が聞きたい‥)

サトコ

「‥話を聞いてもらっても、いいですか?」

石神

ああ

サトコ

「‥‥‥」

私は一呼吸置き、話し始める。

サトコ

「先ほど、加賀教官と一緒にある男の取り調べを行いました」

「加賀教官は男性に向かって‥」

思い返しながら、なるべく正確に伝える。

石神さんは黙って耳を傾けていた。

サトコ

「加賀教官の方法じゃダメだって思ったのに‥私、答えられなかったんです」

「考えれば考えるほど、何が正しいのか分からなくて‥」

「結局、加賀教官の問いにも応えることが出来ませんでした」

震えそうになる手を、キュッと握りしめる。

サトコ

「石神さんだったら、どうしていましたか?」

石神

‥‥‥

(っ‥‥‥)

石神さんは厳しい表情で、正面から私を見据える。

石神

いつまでも自分が望むものを与えられると思うな

お前が補佐官を務めるのは、俺じゃない

サトコ

「石神、さん‥?」

石神

何のために補佐官が変わったと思っている

言葉のひとつひとつが冷たい刃となって、私の心をえぐる。

<選択してください>

A: そんな言い方しなくても‥

サトコ

「そんな言い方しなくても‥」

石神

優しく言ったところで同じだ

お前は1年間、何を学んできた?

教えてもらったことをただこなすだけでは、到底一人前の公安にはなれない

お前は刑事になるためにここに来たんだろう?

サトコ

「はい‥」

石神

なら、どうすればいいかは自分で考えろ

B: すみませんでした

サトコ

「すみませんでした‥」

石神

安易に謝罪の言葉を口にするな

そこで考えを止めてしまっては、この先成長できないぞ

サトコ

「で、でも‥」

石神

反省するのはいい

だが、その反省を生かすも殺すのもお前次第だ

C: どうすればいいか考える

謝罪の言葉が口をつきそうになるも、寸前のところで飲み込む。

(ここで謝るのは違う気がする)

弱い自分が出ないよう、ぐっとお腹に力を入れる。

(石神さんは、ただ厳しい言葉を投げただけじゃない)

(きっと、何か考えがあってのことなんだ‥)

石神

‥‥‥

厳しい眼差しにさらされながら、必死に思考を巡らせる。

(なんで補佐官が変わったのか)

(私はあの時、どう行動すればよかったのか‥)

だけど、答えが出ることはなかった。

石神

いつまでもみんなが、お前を見守ってくれていると思うな

サトコ

「!」

その言葉に、入校してからのことがフラッシュバックする。

【船内】

石神

目が覚めたか

サトコ

『!?』

まだ船上にいるはずなのに、石神教官に横抱きにされている。

石神

悪運が強いのは本当らしいな

サトコ

『あ、あの‥』

石神

もうすぐデッキに出る。SPたちも全員無事だ

サトコ

『いえ、あの‥と、とにかく下してください!」

『自分で歩けます!』

石神

起こしても起きなかったのはお前だろう

サトコ

『げ、限界だったんですよ』

石神

だろうな。間に合ってよかった

【病院】

サトコ

『私、補佐官失格です。こんな‥重傷を負わせるなんて‥』

後藤

‥アンタは、石神さんの何を見てきたんだ

あの人がどれほど氷川を信用していたか、分からないのか

今回もそうだ

室長がアンタの起用を言い出してから、頑なに反対の姿勢を貫いていた

もう充分に役割は果たしたはずだと言って、相当もめたんだ

最終的に石神さんが折れたのはどうしてだと思う‥?

アンタの悔しさを一番理解していたからだ

【潜入先】

石神

室長、捜査は順調に進んでいます。氷川はターゲットとかなり距離を縮めました

動けないことで捜査から外すより、このままやらせた方が早期解決につながると思います

私が責任を持ちます。氷川にやらせてやってください

【資料室】

(あの時も‥あの時もそうだ)

石神さんがいなかったら、今私がこの場にいたかどうかすらわからない。

室長と揉めたのだって、私のことを考えてくれているからだ。

(いつも石神さんが傍にいて‥見守って助けてくれたから、あんなに自由に動けてたんだ)

(だけど、加賀教官は石神さんとは違う)

(そんなの、最初から分かりきってたことなのに‥)

サトコ

「‥自分が浅はかでした」

(いつまでも、今までと同じように行くはずがないんだ)

恵まれた環境に甘えていた自分と決別し、石神さんの目を見る。

サトコ

「ありがとうございます!」

石神

ああ

サトコ

「っ‥」

優しく微笑む石神さんを見て、厳しい言葉の裏に、私を応援してくれていることに気付く。

石神さんに頭を下げると、資料室を後にした。

(言葉にしなくても、石神さんは分かってくれている‥)

(誰かに頼ってばかりじゃダメだ‥!)


【寮 廊下】

迷いが晴れ、軽い足取りで寮へ戻る。

(明日は朝イチで加賀教官のところに行って‥)

加賀

‥‥‥

サトコ

「あ、加賀教官!」

通り過ぎようとする加賀教官に気付き、声を掛ける。

加賀

チッ‥

加賀教官は、私を見るなり舌打ちをした。

サトコ

「あ、あの‥」

加賀

ああ゛?

サトコ

「っ‥!」

(うっ‥でも、ちゃんと向き合うって決めたんだから!)

鋭い視線に尻込みしそうになるも、大きく深呼吸して頭を下げる。

サトコ

「取調室では考えなしに口出ししてしまい、すみませんでした」

加賀

‥‥‥

頭を上げなくても、冷たい視線が刺さるのが分かった。

(ここで怯んでちゃダメ‥)

加賀

‥顔を上げろ

サトコ

「は、はい‥」

(やっぱりビンタかな‥?)

サトコ

「むぐっ」

恐る恐る顔を上げると、口に何か押し込まれ、咳き込みそうになる。

(これは‥大福!?)

加賀

いいかクズ‥

次、生意気なこと言ったらただじゃおかねぇ

奴隷から昇格してぇなら、根性みせろ

サトコ

「っ‥」

加賀

返事がねぇ

サトコ

「ふ、ふわい‥!」

押し込まれた大福を咀嚼しながら、歩いて行く加賀教官の背中を見つめる。

サトコ

「く、苦しかった~‥」

(大福って‥加賀教官の好物だよね?)

(そもそも、今日は加賀教官が寮監担当じゃなかったはず‥)

取調室にいた時よりもいくらか柔らかい雰囲気に、ハッとひらめく。

(もしかして‥!実は心配してくれてたとか‥?)

(いやいや、いくらなんでも加賀教官に限ってそれはないか‥)

しかし、加賀教官の新たな一面に触れた気がして、心が和らいだ。

認める‥とまではいかなくても、少しは使えるヤツだと思われたい。

(取調室の時のことを考えるだけで、胃が縮むような思いがするけど‥)

(加賀教官に認めてもらえるように、頑張ろう!)

【寮 談話室】

翌日。

サトコ

「さーて、今日も一日張り切って‥」

訓練生たち

「‥‥‥」

サトコ

「‥ん?」

大きく伸びをしながら談話室に入ると、訓練生たちが食い入るようにテレビを見ていた。

(何か大きな事件でもあったのかな‥)

アナウンサー

『国民を守るためとはいえ、このようなことが許されていいのでしょうか?』

評論家

『公安が綿密な捜査を行うには、協力者の力が必要不可欠です』

『しかし、人権を侵すようなことを当たり前に行うのは‥‥‥』

サトコ

「えっ!?」

(公安や協力者のことが取り上げられてる‥?)

宮山

「ああ、先輩」

サトコ

「宮山くん‥」

以前、電車で会った新入生の宮山くんに声を掛けられる。

サトコ

「この空気‥何かあったの?」

宮山

「知らないんですか?」

「これですよ」

差し出された雑誌に、視線を走らせる。

(公安は協力者を利用して、平然と人権を無視するような行いを‥‥)

サトコ

「何、これ‥」

宮山

「誰かが週刊誌にリークしたみたいです」

「ご覧の通り、世間からバッシングの嵐ですよ」

テレビからは、公安に対する厳しい意見が流れ続けていた。

(こんな書き方‥公安の評価がガタ落ちだよ)

(公安は国家や国民を守るために、命を懸けているのに‥)

(誰がこんなことを‥!)

やるせない思いと怒りが交差する。

サトコ

「‥教えてくれて、ありがとう」

雑誌を宮山くんに返すと、勢いのまま教官室へ向かった。

【教官室】

サトコ

「失礼します!」

颯馬

ええ、ですからその件は‥

後藤

石神さん、時間が出来次第、警察庁に顔を出して欲しいそうです

石神

ああ、報告が上がったら‥

教官たちは、慌ただしそうに対応が追われていた。

(あの件があったからだよね‥)

サトコ

「‥加賀教官!」

加賀

でけぇ声出すんじゃねぇ

ジロリと睨まれ、思わずたじろぐ。

(いつもよりもピリピリしてる‥)

サトコ

「あ、あの‥何か私に出来ることはありませんか?」

「私、何でもやります!」

加賀

チッ‥暇ならこれを届けて来い

投げるように渡された書類には、『難波さん』と書かれた付箋が貼られていた。

加賀

この時間なら、本庁にいるだろう

とっとと行け

サトコ

「はい!」


【コンビニ】

(室長はいつものように飄々としてたけど‥)

警察庁には、張りつめた空気が流れていた。

(今回の件で、捜査に支障が出ることもあるかもしれない)

私が考えているよりずっと、事は深刻なのだろう。

サトコ

「あっ‥」

コンビニの前を通りかかると、コンビニの制服を着た藤田さんが、

ゴミ袋を手に持ってお店から出てきた。

サトコ

「藤田さん!」

藤田

「ああ‥どうも。よくお会いしますね」

サトコ

「ふふ、そうですね。ここで働いてるんですか?」

藤田

「ええ、まあ‥」

「コンビニのアルバイトくらいしか出来なくて」

(そっか、だからここでよく会うのか)

サトコ

「アルバイトは毎日ですか?」

藤田

「いや、毎日ではないですけど‥ほとんど出てますね」

「そういえば、石神さんの彼女さん‥なんですか?」

サトコ

「えっ‥?」

藤田

「初めてお会いしたときに、そんな感じがしたので‥」

(私が公安学校に通ってることは知らないだろうし、大丈夫だよね‥?)

サトコ

「はい‥」

藤田

「やっぱり!お似合いですね」

「そっかぁ‥石神さんは、幸せなんだ」

サトコ

「‥え?」

藤田

「そろそろ戻らないと店長に怒られるんで行きますね」

サトコ

「あ、お仕事の邪魔しちゃってすみません!」

藤田

「いえ、またお話させてください」

藤田さんは優しい笑顔を見せ、コンビニへと戻って行った。

サトコ

「そういえば、石神さんはこのこと知ってるのかな?」

なんとなく疑問に思い、携帯を取り出すと石神さんにメールを打つ。

すると、すぐに返信が来た。

石神

『そうか‥お前は自分のことに集中するように』

(思わずメールしちゃったけど、石神さんも忙しいんだよね)

(少しでも教官たちを支えられるように、私もしっかりしなきゃ!)

【警視庁】

あの報道があってから、私は忙しく駆け回っていた。

(莉子さんから書類を受け取って、学校に戻ったら報告書とレポートの準備を‥)

加賀教官の仕事を手伝い、予習や復習、トレーニングの毎日。

そのせいか、石神さんと過ごす時間は明らかに減っていた。

(‥やり通すって決めたんだから、泣き言なんて言ってられない)

黒澤

おや‥?サトコさんじゃないですか!

振り返ると、黒澤さんがいた。

サトコ

「こんにちは。お久しぶりですね」

黒澤

ですです!最近は特に忙しくって、なかなか顔を出しに行けないんですよね

オレがいなくて、みなさんが寂しがっていると思うと‥

特に、後藤さんとか‥

サトコ

「ふふっ」

いつもと変わらない黒澤さんに表情が緩む。

黒澤

サトコさんは今、加賀さんの補佐官なんですよね?

加賀さんの補佐官になって、少しばかり心配していましたが‥

頑張っているみたいですね!話は聞いていますよ

<選択してください>

A: まだまだです

サトコ

「そんな‥まだまだですよ」

「毎日怒鳴られっぱなしですし、一人前になるには程遠いです‥」

黒澤

ハハ、サトコさんは真面目ですね

ですが、たまには息抜きも大事ですよ?

そうじゃないと、息が詰まっちゃいますからね

(鳴子にも同じこと言われたっけ)

(無理しているつもりはないけど‥もう少し肩の力を抜いた方がいいのかも)

B: 誰から聞いたんですか?

サトコ

「誰から聞いたんですか?」

黒澤

ふっふっふっ‥さて、誰でしょう?

ニコニコと、楽しそうに微笑む黒澤さん。

サトコ

「う~ん‥」

黒澤

ヒントはサトコさんのことをよく見ている人ですよ

ハッキリと言葉にしませんが、顔を見れば一目瞭然です!

口では “まだまだだ” なんて言っておきながらも、本当は‥

‥っと、バレたら恐ろしいので、この辺りで止めておきますね

(誰だろう‥?)

C: はい、頑張っています!

サトコ

「はい、頑張っています!」

黒澤

さすがサトコさん、前向きですね!

そういう前向きさが、加賀さんと付き合っていくのに重要なことです

加賀さんは恐ろしく厳しい方ですが、それも優しさの裏返しです

サトコさんの頑張りも、ちゃんと見てくれてると思いますよ

黒澤

少しお疲れ気味みたいですから、あまり無理はしないように‥

サトコさんも色々と大変だと思いますが、オレも陰ながら応援してます☆

サトコ

「ふふっ、ありがとうございます」

黒澤

では、オレはこれで失礼しますね!

(加賀教官とは、最初の頃より打ち解けたと思うけど‥)

私たちの間には、まだまだ壁があることは確かだ。

(いつかは頼ってもらえるようになりたいな)

【寮 廊下】

夜のトレーニングを終え、頼まれた書類を届けるために寮監室に向かう。

ドアをノックすると、返事が聞こえてきた。

サトコ

「氷川です。書類を届けに来ました」

加賀

‥入れ

【寮監室】

サトコ

「失礼します」

寮監室に入ると、加賀教官は机に向かっていた。

加賀

その辺に置いておけ

サトコ

「はい‥」

机の上に置くため、一歩踏み出した時‥

(あ、れ‥)

視界が回り、スーッと身体から力が抜ける。

サトコ

「っ‥‥‥」

目の前が真っ白になり、身体が地面に倒れる音がした。

(駄目だ、力が‥入らない‥)

(どうし、て‥‥)

加賀

‥い、しろ‥‥

耳に届く微かな声も認識できないまま、私は意識を手放した。

to  be  continued


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