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石神 ヒミツの恋敵編 6話

【廊下】

(石川さんが誘拐されて、2日か‥)

未だに捜査の進展はなく、学校も休校のままだった。

犯人の目的も未だ不明のままで、捜査室は常に張りつめられた空気に覆われている。

(訓練生も待機を命じられているけど‥)

先の見えない事態に、不安が募っていった。

石神

‥‥‥

サトコ

「あ‥」

(石神さん、戻って来てたんだ)

石神

‥‥‥

声を掛けようか逡巡するが、息が詰まるようなピリピリとした雰囲気に思いとどまる。

石神さんはそのまま私に気付かず、去っていった。

(捜査が上手くいってないのかな?)

(でも、それだけじゃない気がする‥)

石神さんの様子に、一抹の不安が過った。

難波

なんだってこんなもんが落ちてたんだろうな

石神

‥‥‥

昨日、教官室で室長が手に取って見ていた書類は証拠品の写真が載っているモノだ。

あの書類を見て、石神さんは複雑そうな表情をしていた。

(あれからだよね?石神さんの様子がおかしいのって‥)

(石神さん、大丈夫かな‥?)

【教官室】

翌日。

サトコ

「わぁ‥」

(これは時間がかかりそうだ‥)

教官室の留守を任される間、デスク周りの整理を命じられていた。

(忙しくて、整理する時間もないんだろうな)

(特に後藤教官のデスク周りが酷いけど‥これはいつものような気がする)

サトコ

「‥よし!」

早速整理に取り掛かるなり、作業に没頭した。

(そういえば‥)

与えられた仕事が一段落し、ひと息つく。

(犯行現場に落ちていたモノってなんだったんだろう‥)

(何かのメッセージとか?‥なんて、考えすぎかな)

石神

サトコ

サトコ

「あ、石神さん。お疲れさまです」

石神

‥少しいいか?

石神さんは厳しい表情のまま、私を個別教官室に促す。

(何があったんだろう‥)

【個別教官室】

石神

お前に聞きたいことがある

以前、藤田のことで、俺に連絡してきたことがあったな

サトコ

「え?‥はい」

石神

コンビニで会ったと言っていたか?

サトコ

「はい。藤田さんとは二度ほどお会いしましたが、話をしたのは最初に会った時だけです」

「その時はお寺で会った時とは違い、普通に話をしてくれました」

石神

最後に会ったのは、メールを寄越した時か?

サトコ

「はい。あの時は見かけただけでしたけど、コンビニで働いている様子でした」

ふと、鳴子と出かけた時のことを思い出す。

サトコ

「あの‥実はもう一度、藤田さんにお会いしました」

石神

なんだと?

サトコ

「正確には見かけたというのが正しいのですが‥」

石神

‥‥‥

当時のことを話すと、石神さんは頭の中で情報を整理しているようだった。

(なんで急に藤田さんのことを聞いてきたんだろう?)

サトコ

「石神さん、藤田さんが何か関係しているんですか?」

石神

‥‥‥

石神さんは厳しい表情を崩さないまま、話し始める。

石神

まだ詳しいことは言えないが‥藤田が関係しているかもしれない

これからそのコンビニに行って、確かめてくる

サトコ

「私もご一緒していいですか?」

石神

お前は留守を任されているんだろう?

サトコ

「頼まれていた仕事は終わりました」

「それに石神さんよりも私の方が、藤田さんは話しやすいと思います‥」

お寺で会った時とコンビニで会った時の様子を、引き合いに出す。

サトコ

「まずは私が様子を見に行って、そのあと石神さんと合流するのはどうでしょうか?」

石神

‥言うようになったな

石神さんは表情を緩め、短く息を吐く。

石神

行くぞ

サトコ

「はい!」

【コンビニ】

店長

「藤田なら、辞めましたよ」

サトコ

「えっ!?辞めたって‥」

店長

「シフトに入っていたのに、突然来なくなったんです」

「電話にも出ないんですよね。ったく、急に辞められたら困るってのに‥」

「‥君、藤田の友だち?」

サトコ

「いえ、知り合いと言いますか‥私も連絡が取れなくて困っているんです」

「藤田さんはいつ辞められたんですか?」

それから店長にいくつか質問をして、コンビニを後にした。

【個別教官室】

サトコ

「藤田さんは石川さんが誘拐された日に、アルバイトを辞めています」

「あのコンビニでは、長い間働いていたそうです」

石神

そうか‥

(せっかく捜査の進展が見えたのに‥)

サトコ

「‥石神さん。なぜ、藤田さんが怪しいと踏んだのか、聞いてもいいですか?」

石神

‥‥‥

石神さんは思案するように瞳を閉じる。

(捜査上、話せないことなのか‥)

(それとも‥)

私を巻き込みたくないと思ってくれているのか。

サトコ

「‥颯馬教官と後藤教官に聞きました。石神さんと藤田さんの父親のことを」

石神

あいつら‥

サトコ

「石神さんは藤田さんと関わりが深いんですよね?」

「もし、その息子さんが今回の事件に関与していたとなると‥」

やるせない思いが押し寄せ、手を強く握る。

石神

‥‥‥

石神さんは思い惑う様子を見せ、沈黙を破った。

石神

‥藤田の息子は過去の経緯から、公安に強い恨みを持っている

彼の父親が亡くなったのは、石川さんが長官に就任しているときだ

復讐のために当時の責任者に怒りの矛先を向けたと考えられなくはない

それに、警察庁近くのコンビニで働いていたということもある

サトコ

「ですが、それだけで犯人と結びつけるには弱いですよね?」

石神

ああ

藤田の息子がどんぐりが好きだったと、話したのは覚えているか?

石神

知人の子どもが、どんぐりが好きだったんだ

サトコ

「‥はい」

石神

そのどんぐりが、現場に落ちていた

サトコ

「えっ‥?」

(室長が行っていたのは、どんぐりのことだったんだ‥!)

石神

待ち合わせに使っていた公園に行くと

藤田の息子とどんぐりを拾っていたのをよく見かけていた

奴には、何か深い思い入れがあるのかもしれない

サトコ

「他の人が犯行に及んだ可能性は?」

石神

ないとは言い切れない。しかし、藤田が一番事件と関連性が強いのも確かだ

サトコ

「だから藤田を追っているんですね」

石神

‥‥‥

石神さんは何も言わずに立ち上がると、個別教官室から出て行こうとする。

サトコ

「待ってください!私も捜査に協力させてください」

石神

この前も言ったが、お前は今加賀の補佐官だ

<選択してください>

A: 私だって、公安です!

サトコ

「確かに、加賀教官の補佐官です。‥でも、私だって、公安刑事です!」

「藤田を知っている以上、何か協力できることがあるはずです」

「もちろん、石神さんの指示には従います」

「だから‥お願いします!」

石神

サトコ‥

石神さんは驚いたように、小さく声を上げる。

B: ここまで知った以上、協力したい

サトコ

「ここまで知った以上、協力したいんです」

石神

知っているかどうかなど、関係ない

サトコ

「石神さん!」

石神

‥‥‥

(悔しい‥このまま何も出来ないって言うの?)

サトコ

「‥私は藤田に会っています。協力できることもあるはずです」

「絶対足手まといにはなりません」

「私は公安刑事として、職務を全うしたいんです」

石神

そうか‥

石神さんは、わずかに表情を緩める。

C: 石神さんの言う通りだ‥

(私は加賀教官の補佐官だから、石神さんを手伝うことが出来ない)

(たとえ私にしか出来ないことがあっても、それをする資格すらないだなんて‥)

悔しさのあまり、下唇を噛む。

(だけど‥)

私は顔を上げ、石神さんを真っ直ぐ見る。

サトコ

「‥‥‥」

石神

サトコ‥

どこか呆れたように‥だけど、大切なものを呼ぶように私の名前を口にする。

石神

‥これ以上、話すことはない

サトコ

「あっ‥」

背を向けられ、とっさに手を伸ばす。

しかし石神さんに触れることなく、空を切った。

サトコ

「石神さん‥」

寂しさが過るも、ぐっと堪える。

(石神さんの補佐官じゃないから、動くことが出来ない)

(だったら‥)

サトコ

「お願いします!」

加賀

しつけぇ‥

ダメなもんはダメだ。何度も言わせんな

深々と頭を下げるも、加賀教官は意に介さない。

サトコ

「加賀教官に迷惑は絶対に掛けません!」

「だから、捜査に協力を‥」

加賀

させるわけねぇだろ

サトコ

「っ!」

加賀教官は私を壁際に追いやると、顔の横に手をついた。

加賀

俺が行かせると思うか?捜査を舐めんじゃねぇ

サトコ

「私にも出来ることがあるはずです!」

加賀

自惚れるな。クズに出来ることなんざ、たかが知れている

アゴを持ち上げられ、至近距離で睨まれる。

加賀

テメェは誰の補佐官だ

威圧感に尻込みしそうになるも、視線は決して逸らさなかった。

サトコ

「加賀教官です。だからこうして、お願いに来ました」

加賀

あいにく、他の捜査で手がいっぱいだ

受け持ってる捜査をないがしろにするつもりか?

サトコ

「そ、そんなつもりは‥」

加賀

‥これ以上話すことはねぇ

失せろ

サトコ

「っ‥」

離れていく加賀教官に、悔しさが込み上げた。

【教官室】

サトコ

「やっと終わった‥」

加賀教官に言われた仕事が終わり、部屋から出ると夜も更けていた。

石神さんの個別教官室からは、明かりが漏れている。

(本当に私に出来ることはないの‥?)

どうしても諦めきれず、必死に思考を巡らせる。

後藤

石神さんは自分のことを恩人だと思っている藤田に接近し、協力者として利用した

結果、麻薬の情報を引き出すことに成功

しかしある日、石神さんの元に藤田の訃報が入った』

石神

待ち合わせに使っていた公園に行くと

藤田が息子とどんぐりを拾っていたのをよく見かけていた

奴には、何か深い思い入れがあるのかもしれない

(‥ダメだ。考えがまとまらない)

(手を伸ばせば、もう少しで糸口が掴めそうなのに‥)

後藤

‥氷川?まだ残っていたのか

サトコ

「後藤教官‥」

(‥そうだ!)

私はチラリと石神さんの個別教官室を見て、後藤教官に向き直る。

サトコ

「あの、後藤教官‥」

後藤

‥首を突っ込むなと言われたんじゃないか?

サトコ

「!」

「はい‥。私はもう石神教官の補佐官ではないと言われました」

「でも‥だからって、諦める理由にはなりません!」

後藤

‥氷川

後藤教官はふっと口元に笑みを浮かべる。

サトコ

「亡くなった藤田さんの事件に関するデータの場所を教えてください」

後藤

資料室だ。あそこには過去のデータが揃っている

サトコ

「っ、ありがとうございます!」

後藤

‥頑張れよ

後藤教官の言葉を背中に受け、足早に資料室へ向かった。

【資料室】

(藤田さんのお父さんが協力者だったのは、10年前だから‥)

資料室に行くと、膨大なデータをひとつひとつ漁っていく。

サトコ

「‥あった!」

見つけたのは、石神さんと藤田さんが会っていた日の記録が全て記されたものだった。

(これがあれば、藤田さんの行方が掴めるかも‥)

【個別教官室】

翌日。

サトコ

「捜査をさせてください!」

加賀

‥‥‥

加賀教官は眉間に深いシワを刻んだまま、何も言わない。

サトコ

「藤田さんの居場所が掴めたかもしれないんです」

「他のことも、必ずやり遂げてみせます」

「だから‥お願いします!」

加賀

あのクソ眼鏡のためか

サトコ

「え‥?」

加賀

テメェがそこまでしてやろうとするのは

サトコ

「っ‥」

加賀

今頃、あのクソ眼鏡も動いてんだろ

テメェがいてもいなくても、変わらねぇはずだ

サトコ

「それは、そうかもしれませんが‥」

私は思いの丈をぶつけるように、加賀教官の目を真っ直ぐ見る。

サトコ

「それでも!私は自分に出来ることをしたいんです」

「中途半端に関わって、投げ出すことなんてできません」

「加賀教官には、逐一報告を入れます」

「だから、お願いします!!」

再び頭を下げると、しばらくして舌打ちが聞こえた。

加賀

‥勝手にしやがれ

サトコ

「加賀教官‥!」

顔を上げると、さっさと行けと言わんばかりに視線で促される。

サトコ

「ありがとうございます!」

加賀

‥‥‥

加賀教官の無言を背に受けながら、教官室を後にした。

【マンション】

(藤田がいそうな場所‥)

藤田の過去や石神さんの言動から、推測する。

住所を確認しながら、目的地へ足を向けた。

サトコ

「‥‥‥」

石神さんが過去に藤田の父親と待ち合わせ場所に使っていた場所。

以前は公園だったそこには、すでにマンションが建てられていた。

(もしかしたら‥)

サトコ

「‥!」

少し離れた場所で、石神さんがマンションを見上げていた。

サトコ

「石神さん‥?」

石神

‥‥‥

石神さんは、ゆっくりと振り返る。

石神

あれだけ突き放したというのに‥

サトコ

「すみません。でも‥」

石神

加賀にはちゃんと許可を取ったのか?

頷くと、石神さんは仕方なさそうに苦笑する。

石神

ここまで行き着いたのは、さすがだな

藤田はこのマンションに潜伏している可能性が高い

私たちはマンションの陰に身を隠し、入り口を張り込む。

石神

藤田はここの二階に出入りしている姿が見られている

最近になってからは、頻繁に出入りを繰り返しているそうだ

サトコ

「もしかして、石川さんもここに‥」

石神

可能性は高い

サトコ

「‥あっ」

藤田

「‥‥‥」

藤田は辺りの様子を窺うように、マンションへ入って行く。

石神

加賀に報告を頼む

サトコ

「はい!」

すぐに携帯をつなぐと、加賀教官へ報告を入れる。

加賀

チッ‥クソ眼鏡に貸しが出来たな

テメェは俺が行くまで、勝手に動くんじゃねぇぞ

報告が終わり携帯を切ると、石神さんが動き出していた。

石神

お前は加賀たちが車で待機していろ

加賀教官の『待機命令』が頭をチラつく。

だけど‥‥

???

「う、うわぁぁ」

「た、助けてくれ!!!」

その時、マンションから男性の大きな叫び声が聞こえてきた。

サトコ

「い、石神さん‥!今のは石川前長官の声じゃ!」

石神

くっ‥

サトコ

「私も一緒に行かせてください!」

石神

ダメだ。中で何が起きているか分からない

<選択してください>

A: 大人しく従う

危険な可能性があるからこそ、待機命令を出しているのだろう。

(無理について行って、石神さんを危険に晒してしまうかもしれない)

大人しく従おうと思うものの、心の片隅で納得していない自分がいた。

サトコ

「‥お願いします。一緒に行かせてください」

石神

ダメだ。こればかりは譲れない

サトコ

「っ‥」

私はきつく睨みつけるように、石神さんを見つめる。

サトコ

「ここまで来て、引くことなんて出来ません」

「最後まで、関わらせてください!」

B: 私が先に行く

サトコ

「だったら、私が先に行って様子を見てきます」

石神

そんなこと、許可するはずないだろう

サトコ

「なら、一緒に行かせてください!」

「石川前長官が捉えられている可能性もあるんですよね?」

「1人より2人の方が、対応の幅が広がります!」

C: 尚更一緒に行った方がいい

サトコ

「それなら、尚更一緒に行った方がいいはずです」

「1人より2人の方が、対応の幅が広がります」

石神

しかし‥

サトコ

「石神さんが危険だと判断したら、すぐに離脱します」

「だから、連れてってください!」

石神

‥分かった

サトコ

「ありがとうございますっ!」

石神

だが、俺の指示には絶対に従え。いいな?

サトコ

「はい!」

【部屋前】

私たちは藤田が出入りをしている部屋の前に行き、様子をうかがう。

(人がいる気配はするけど‥)

一瞬たりとも気が抜けない状況に、辺りの空気が張りつめた。

ガタッ!

サトコ

「!」

部屋の中から大きな物音がし、緊張が走る。

石神

行くぞ!

私は石神さんに続いて、部屋に突入した。

to  be  continued

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