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石神 ヒミツの恋敵編 7話

【部屋】

部屋に突入し、銃を構える。

サトコ

「!」

(藤田が‥いない!?)

石川

「‥‥」

石神

石川前長官!

部屋の片隅に、ロープで手足を縛られている石川前長官がいた。

石神さんは前長官に駆け寄ると、ロープを解いて容体を確認する。

石神

‥大丈夫だ。意識を失っているだけだ

氷川は前長官を頼む

サトコ

「はい‥!」

前長官の無事に安堵しつつ、石神さんが警戒を続ける。

石神

藤田の姿が見当たらない

サトコ

「え‥?でも、確かに藤田はこのマンションの中に‥」

石神

‥‥‥!

石神さんは部屋に視線を走らせると、ベランダで目を留めた。

(もしかして‥)

慌てて窓から外の様子を確認すると、走り去る藤田の背中が見える。

2階から飛び降りたせいか、片足を引きずっていた。

サトコ

「藤田は駅の方へ逃走しています!」

石神

加賀に連絡を頼む

サトコ

「はい!」

石神さんは指示を出すと、即座に藤田を追いかける。

サトコ

「石川前長官はマンションの2階にいます」

加賀

もう何人か向かわせた。前長官はそいつらに任せろ

加賀教官の言葉と同時に、外で車のドアが開く音がした。

サトコ

「ありがとうございます!」

応援が来たことを確認すると、すぐに石神さんの後を追いかけた。

【マンション】

2人はマンションから数十メートル離れた建設中のマンション裏に入って行った。

藤田

「チッ‥」

石神

‥‥‥

藤田が石神さんに向けて、銃を構えている。

ヘタに刺激を与えたら、すぐにでも発砲されるだろう。

(銃を所持していたなんて‥)

(でも、なんで前長官を襲わなかったの?)

(なんだかそれって、私たちをおびき寄せてるみたい‥)

サトコ

「‥‥‥!」

(もしかして、藤田は最初から石神さんを狙ってたんじゃ‥!)

そう考えると、教官から聞いた石神さんの過去の話にも、石神さんの最近の行動にも説明がつく。

私はいつでも動けるように、全身の神経を張り巡らせた。

石神

‥やめろ。これ以上罪を重ねるな

藤田

「今さら止められるわけねぇだろ?」

「俺はずっと、復讐する機会を待ってたんだ‥!」

サトコ

「復讐‥?」

藤田

「ああ。アンタに利用されて死んだ親父のな!」

サトコ

「!」

藤田の指に僅かに力が込められ反応するも、石神さんに目で制される。

(そうだ。今は刺激を与えちゃいけない)

(チャンスを待つんだ‥!)

藤田

「親父は確かにヤクザだった。はたから見たら、底辺みたいな存在だろうよ」

「だけど俺にとっては、優しくて頼りがいがあって‥何よりも大切な家族だったんだ」

石神

‥‥‥

石神さんは表情を変えずに、藤田を見据える。

藤田

「親父が死んで、身寄りがなく施設に引き取られて‥」

「施設でも親父のことを悪くいうヤツばかりだった」

「俺がどんな思いで生きてきたか、お前らに分かるか?」

「何で俺がこんな思いをしなきゃいけない?俺も親父も、何も悪くないのに‥!」

(藤田はいろいろなものを背負って生きてきたんだ)

(許されないことだって分かってる。それでも‥)

藤田の話に、胸を痛めている自分がいた。

石神

‥君の父親が、なぜ我々に協力していたと思っている?

石神さんはいつもより低い声‥しかしハッキリと、言葉を放つ。

石神

家族との生活を‥君を守るために公安に協力したんだ

藤田

「綺麗ごとを言うな!」

「どうせ公安様は、協力者を捨て駒くらいにしか思っていないんだろう?」

石神

‥確かに俺は、君の父親のことを最初はただの協力者としか見ていなかった

だが、君と接している藤田を見て、気持ちが変わった

自分とあまり変わらない年齢の藤田が、危険だと分かっていながらも家族のために協力者になる‥

そんな藤田を、いつしか尊敬していたんだ

藤田

「‥‥」

石神

君には恨まれているだろうとは思っていたが‥

だが、彼の墓で君に会った時、嬉しかった

立派に大きく育ってくれたことが

それが、彼が最も望んでいたことだったから

(石神さん‥!)

(石神さんは、自分への恨みだという事に気付いていたんだ‥)

もちろん、一線は引いていただろう。

だけど‥

(普段なら公私混同しない石神さんが、ここまで思っていたなんて‥)

藤田

「ハッ!口では何とでも言える」

「そんな戯言で、俺を騙せると思うなよ」

「俺は施設にいる間、ずっとアンタらに復讐をする計画を練っていたんだ」

「この恨みを忘れないように、長い間、ずっと‥」

「施設を出るまでの辛抱だって‥施設を出たら、アンタらに復讐が出来るって‥」

「どれだけこの時を待ちわびていたと思ってる!」

石神

父親の死を、無駄にするな!

藤田

「っ‥」

石神さんの言葉に、藤田は一瞬怯む。

藤田

「うるさいっ!!」

藤田は銃を構え直すと、引き金に掛けた指に力を込めた。

サトコ

「っ、危ないっ!!」

引き金が引かれる直前、私は藤田に飛びかかり‥

パンッ!

石神

サトコっ!!

放たれた弾丸は空を切り、私は藤田と一緒にその場に倒れ込んだ。

藤田

「く、そ‥っ!」

藤田は再び引き金に指を掛け、今度は私に向ける。

石神

藤田ぁっ!

藤田

「ぐっ!」

石神さんはすかさず藤田の銃を蹴り、後ろ手に取り押さえた。

藤田

「くそっ!離せ‥!」

石神

‥時間はたっぷりある。反省するんだな

藤田

「くっ‥」

藤田が悔しそうに歯ぎしりをすると、パトカーのサイレンが近づいてきた。

パトカーが止まると、教官たちが突入してきて周囲を取り囲む。

後藤

石神さん、氷川!

石神

犯人は確保した。後は頼む

後藤

了解

藤田

「‥‥‥」

【外】

藤田は手錠を掛けられると、後藤教官に引き渡される。

藤田

「‥これで終わりだと思うなよ」

送致される最後の瞬間まで、藤田は石神さんを睨んでいた。

石神

‥‥‥

藤田が乗せられた車を、石神さんは切なげに見つめる。

<選択してください>

A: 声を掛ける

サトコ

「石神さん‥」

石神

‥藤田が死んだ後、アイツの行方を探したんだ

だが‥見つけることが出来なかったうえ、道を踏み外させてしまった

サトコ

「石神さんは悪くありません!」

「だから、そんな顔しないでください‥」

石神さんは困ったような笑みを浮かべると、私の頭をポンッと撫でる。

B: 黙って見守る

サトコ

「‥‥‥」

掛ける言葉が見つからず、石神さんの背中を見守る。

石神

‥今でもあの時のことを、夢に見ることがあるんだ

やり方が違えば、藤田が死ぬこともなくアイツが道を踏み外すこともなかったのかもしれない‥

そんな思いが、心のどこかにあるんだろう

サトコ

「石神さん‥」

石神さんの隣に立ち、彼を見上げる。

C: その場を離れる

(今はそっとしておいた方がいいのかもしれない)

私は音を立てずに、その場から離れようとする。

颯馬

サトコさん、どこに行かれるんですか?

サトコ

「颯馬教官‥」

颯馬

石神さんが何を考え思っているのか、私には分かりません

だけど、今の石神さんに何が必要なのか‥それだけは分かります

サトコ

「‥‥‥」

颯馬教官はニッコリと微笑むと、マンションへ足を向けた。

(石神さんに、何が必要か‥)

私は石神さんの隣に立つと、そっと彼を見上げる。

石神さんは無表情ながらも、どこか悲しんでいるように見えて‥

石神

心配するな。大丈夫だ

それよりも‥

石神さんは私に向き直ると、申し訳なさそうな表情をする。

石神

‥助けられなくて、すまなかった

サトコ

「私なら、大丈夫です!怪我もありませんでしたし‥」

石神

そうか。今回はお前の転機で助かったが‥

その時、石神さんの眼鏡がキラリと光った。

石神

犯人に向かって、無鉄砲に飛び込むなど言語道断だ

たまたま逸れたからいいものの、もし弾に当たっていたらどうする?

サトコ

「あ、あれは身体が勝手に動いたといいますか‥」

「それに、そのおかげで誰も怪我をしないで藤田も確保できたんですよ?」

石神

結果だけでものを言うな

サトコ

「うっ‥」

石神

俺の指示に従えと言っただろう?

サトコ

「はい‥」

石神

反省文だ

(うぅ、反省文なんて久しぶりかも‥)

がくりと肩を落としながらも、いつもの調子を取り戻す石神さんにホッと息をついた。

【教官室】

翌日。

サトコ

「失礼します。加賀教官はいらっしゃいますか?」

東雲

あ、命令違反常習の氷川サトコちゃんだ

黒澤

ダメですよ、歩さん!そこは『愛の為に』と前置詞を入れないと

サトコ

「東雲教官に黒澤さん‥」

黒澤さんの姿を見て‥なんだか懐かしい気持ちになる。

(2人が揃うと、ロクなことが起きないからな‥)

サトコ

「そもそも、今回は命令違反をしていません」

(最後の最後で、指示を無視しちゃったけど‥)

からかわれることは目に見えていたので、敢えて口を閉ざす。

サトコ

「ちゃんと加賀教官から捜査の許可をもらいました」

黒澤

えっ、許可が出たんですか?

サトコ

「はい」

黒澤

信じられません!いつもの加賀さんだったら、絶対に許可なんて出しませんよ!?

もし裏技があるなら、オレにも伝授してください!

東雲

裏技ねぇ‥どんな手を使ったわけ?

色気で攻めようにも、そもそも色気のカケラもないんだし

黒澤

確かに、加賀さんが相手にしそうもないですしね

サトコ

「なっ‥」

(相変わらず、ヒドイ言われよう‥)

サトコ

「裏技なんて使ってません!普通にお願いをしたんです」

(と言っても、かなりゴリ押ししちゃった感はあるけど‥)

東雲

普通にお願い、ね‥

東雲教官は、楽しいものを見つけたと言わんばかりに微笑む。

東雲

兵吾さんは補佐官の意見なんて聞くような人じゃないってわかってるよね?

まして、あんな大きな事件に単独行動を許すはずがない

黒澤

と、言うことは‥

思い当たる節があるのか、黒澤さんもニヤリと笑みを浮かべる。

黒澤

サトコさんも隅に置けないですね!

東雲

オレには理解できないけど

(教官たちは何を言ってるんだろう‥?)

サトコ

「と、とにかく!加賀教官がいないなら失礼します!」

私は疑問を残したまま、加賀教官を探す旅に出かけた。

【屋上】

(いたっ!ようやく見つけた‥)

散々校内を探し回り最後に屋上に行くと、加賀教官の姿を見つける。

サトコ

「加賀教官!」

加賀

‥なんだ

私は加賀教官の前に立つと、勢いよく頭を下げた。

サトコ

「指示を聞かずに、申し訳ありませんでした!」

加賀

過程はどうであれ、結果的に逮捕に繋がった‥

サトコ

「えっ‥」

加賀

‥なんて言うとでも思ったか?

サトコ

「っ‥」

加賀教官は私のネクタイを掴み、顔を近づける。

加賀

クズの分際で、よくも俺の指示を無視しやがったな

<選択してください>

A: すみませんでした‥

サトコ

「す、すみませんでした‥!」

加賀

謝って済むと思ってんのか?

射抜かれるような視線に、息が止まる。

加賀

テメェは考えが甘ぇんだ。さすが、クソ眼鏡の犬だな

サトコ

「い、今は加賀教官の犬‥じゃない、補佐官です!」

加賀

テメェみてぇなデキの悪い犬を持った覚えなんざねぇ

俺に認めて欲しいなら、もっと使える犬になってから言え

サトコ

「っ‥」

言い返せない悔しさに、歯を軋ませる。

サトコ

「‥罰は受けます」

加賀

ああ゛?

サトコ

「今回の件です。きちんと罰を受けて、必ず次へ繋げます」

「今は認めてもらえなくても‥いつか絶対に認めてもらえるように、努力します!」

B: 加賀教官ならどうしていましたか?

サトコ

「加賀教官ならどうしていましたか?」

加賀

ああ゛?

サトコ

「指示を無視した件については、本当に申し訳ないと思っています」

「すみませんでした‥」

もう一度、頭を下げる。

サトコ

「だけど‥」

加賀教官の補佐官になってからの出来事を思い返す。

サトコ

「もし私と同じ立場なら‥加賀教官も動いていたんじゃないですか?」

加賀

チッ‥

サトコ

「本当にどうでもいいと思っているなら、そもそも捜査の許可を出さないと思います」

加賀

クズが。生意気なこと言ってんじゃねぇ

サトコ

「っ‥」

迫力のある物言いに、怯みそうになる。

サトコ

「短い時間ですが、加賀教官の補佐官になって分かったことがあります」

「厳しいことを言っても、加賀教官はちゃんと見てくれているんだって‥」

加賀

自惚れるな

サトコ

「‥自惚れでもいいです」

「いつかきっと、加賀教官に認めてもらえるように頑張ります!」

「だから今回のことも、きちんと罰を受けます」

C: 反省文‥ですか?

サトコ

「反省文‥ですか?」

加賀

そんな生ぬるいもんで済むと思ってんのか?

サトコ

「ひぃっ!」

至近距離で凄まれ、肝が縮み上がる。

加賀

テメェが指示を無視して何かあったら、誰の責任になると思ってる

責任問題で済めばいいが、取り返しのつかねぇ事になっていたかもしれねぇ

そんなことが分かんねぇほど、脳ミソが腐ってんのか?

サトコ

「!」

(今回は無事に済んだからいいけど、もし一歩間違えたら‥)

サトコ

「すみません‥私が浅はかでした‥」

加賀

ここまで来て、謝って済むとは思ってねぇよな?

サトコ

「はい‥」

私は腹を決め、加賀教官を見据える。

サトコ

「きちんと罰を受けます」

「もちろん、それですべて清算出来ると思っていません」

「だけど‥前に進むためにも、今自分に出来ることをしたいんです」

加賀

‥‥‥

サトコ

「‥‥‥」

逃げ出したい気持ちを必死に抑え込み、加賀教官と対峙する。

加賀

チッ‥

加賀教官は掴んでいたネクタイを離すと、呆れたように舌打ちする。

加賀

‥そんなにクソ眼鏡がいいか?

サトコ

「え‥?」

加賀

‥‥‥

真剣な表情を向けられ、気持ちを固める。

サトコ

「石神教官は、私の目標です。教官として尊敬しています」

「今まで補佐官として多くのことを学び、いつかは隣に立ちたい‥そう思っています」

加賀

‥‥‥

サトコ

「‥でもそれは、加賀教官も同じです」

「石神教官だけじゃありません。私にとって教官たちは、憧れなんです」

加賀

クソガキが‥

サトコ

「いたっ!」

強烈なデコピンを受け、悶絶する。

(頭が割れる‥!)

サトコ

「な、何するんですか!?」

加賀

黙れ

罰なんて生ぬるいもんじゃねぇ

仕置きに、テメェがどこまで耐えれるか見ものだな‥

サトコ

「お、お仕置きっ‥!?」

「あの、加賀教官‥お仕置きっていったい‥」

加賀

フッ、そんなの決まってんだろ

あのサイボーグがどんな反応するか、愉しみだな

(加賀教官‥?)

加賀教官は私を睨みながらも、どこか切なそうに見えて‥何も言葉に出来なかった。

to  be  continued

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