カテゴリー

石神 ヒミツの恋敵編 特典ストーリー

【学校 階段】

(‥ん?)

午後の講義が終わり資料室に向かっていると、サトコの後ろ姿が目に入った。

サトコ

「っ‥」

(足を庇っているのか‥?怪我でもしたか)

石神

氷川

サトコ

「!」

声を掛けると、サトコの肩がピクリと反応する。

サトコ

「石神教官、お疲れさまです!」

サトコは振り返ると、満面の笑みで返してくる。

サトコ

「どうしたんですか?」

石神

いや‥

さり気なく視線を下げると、やはりサトコは片足を庇うようにして立っていた。

(辛いなら辛いと言えばいいものを‥)

それをおくびにも出さずに笑顔を崩さないサトコに感心する。

しかしその反面、男としてはもっと頼って欲しいとも思う‥

(少しくらいは、弱さを見せてほしいものだな)

そんな寂しさを感じた。

石神

どこに行くんだ?

サトコ

「いやっ、あの‥」

サトコは一瞬、視線を漂わせてから口を開く。

サトコ

「お手洗いに‥」

石神

トイレなら反対方向だが

サトコ

「え、えっと‥そう!」

「あっちのトイレは清掃中だったので、別のところに行こうと思いまして‥」

しどろもどろになるサトコに、苦笑する。

(心配かけないように、と思っているんだろうな)

健気なサトコに、愛しさが募る。

(しかし‥こうやって我慢する癖は、心配になるな)

(たまには甘えて欲しいが‥)

サトコの性格上、素直に甘えてくることはそうそうないだろう。

サトコ

「後ほど、教官室に伺いますので‥」

石神

‥‥‥

(何かきっかけが必要、か‥)

サトコ

「失礼しま‥きゃっ!」

おもむろに抱きかかえると、サトコは目を白黒させる。

サトコ

「い、いいい石神さ‥‥じゃなくて、石神教官!?」

「な、なんでお姫様抱っこ‥」

石神

その足だと、歩くのも辛いだろう

サトコ

「へ‥?」

石神

すぐにバレるような嘘をつくな

サトコ

「すみません‥」

腕の中で、サトコがしゅんと小さくなる。

サトコ

「で、でも、こんなところ誰かに見られたら‥」

石神

今の時間なら、校内に残っている訓練生はほとんどいないだろう

それに、怪我をしているお前を運ぶだけだ

たとえ見られたとしても、何の問題もない

サトコ

「石神さん‥」

サトコは恥ずかしそうに頬を赤らめる。

サトコ

「ありがとうございます‥」

ふわりと微笑むサトコに、湧き上がる衝動をぐっと堪えた。

(‥たまにこういう顔を見せるから、困りものだ)

(キスをしたい、なんて言ったらサトコは驚くだろうか?)

サトコ

「あの‥?」

首を傾げながら見上げてくるサトコに、フッと笑みをこぼす。

石神

‥何でもない

【救護室】

サトコ

「だ、大丈夫です!これくらいの手当て、自分で出来ますから!」

サトコをベッドに座らせると、湿布と包帯を取り出す。

しゃがみ込むと、サトコが慌てたように声を上げた。

石神

いいから、大人しくしていろ

サトコ

「でも‥」

石神

サトコ

サトコ

「‥お願いします」

靴と靴下を脱がせ、患部を診る。

(少し腫れているな‥)

石神

どうして怪我をした?

サトコ

「‥剣道の訓練中に、張り切っちゃって‥挫いてしまいました」

「自分の不注意で‥すみません」

石神

‥‥‥

肩を落とすサトコに、手当てを施していく。

石神

確かに、自己管理が欠けているな‥

言いかけて、ふと昼間のことを思い返す。

【教官室】

颯馬

サトコさんの成績、格段に上がりましたね

颯馬はいつものように微笑みながら、ぽつりと漏らした。

颯馬

入学当初は散々でしたが‥彼女の頑張りには、目を見張るものがあります

後藤

テストで上位になることも多くなりましたよね

颯馬

ええ。この前の小テストも満点でしたよ

さすが石神さんの補佐官、ですね?

石神

‥‥‥

ニコニコと笑顔を向けてくる颯馬に、視線で返す。

(確かにここ最近、サトコの成長はめまぐるしい)

聞くところによると、颯馬や後藤だけじゃなく他の教官たちからの評価も上がっているようだ。

東雲

まあ、認めないわけじゃないですけど

この前の誘拐事件でも、活躍したみたいですし

ですよね?兵吾さん

加賀

‥なんで俺に振る

東雲

いえ、この前までは兵吾さんの補佐官だったので

どういう心境の変化だったのかなって思っただけです

東雲は全て見透かしているかのように、ニヤリと笑む。

加賀

チッ‥多少マシなクズになっただけだ

東雲

へぇ‥良かったですね。石神さん

加賀さんもサトコちゃんの成長を認めているみたいですよ

加賀

認めてるなんざひと言も言ってねぇだろうが

黒澤

もう、加賀さんは本当素直じゃないですねー

時にはちゃんと言葉しないと伝わらないこともあるんですよ?

もちろん、オレもサトコさんの頑張りには‥

加賀

テメェ‥どっから湧いて出た

黒澤

いたた‥っ!

か、加賀さん!そんなに力入れたら、頭割れちゃいますって‥!!」

(はぁ‥相変わらず騒がしいな)

くだらないやりとりに、ため息が出る。

しかし、サトコが褒められることに、嬉しさを覚えていた。

【救護室】

(サトコは学年が上がってから、講義も今まで以上に真面目に取り組んでいる)

それだけではない。

補佐官の仕事がない時は自主練に取り組み、毎日のように夜遅くまで勉強している。

(他の奴が努力を怠っているとは思わないが)

サトコが訓練生の誰よりも努力しているのも事実だ。

石神

‥‥‥

手当てを終えたばかりの足を、優しく撫でる。

サトコ

「石神さん‥?」

不思議そうに俺の名前を呼ぶサトコに、口元が緩む。

石神

これもお前が頑張った証だ

サトコ

「あ、ありがとうございます‥」

怒られると思ったのか、サトコは驚いたように言葉にした。

石神

サトコ

隣に腰を下ろすと、サトコの頭を自分の肩に引き寄せる。

石神

お前の努力は、ちゃんと実っている

先日の誘拐事件だってそう。

あの加賀が捜査協力を許可し、ひとりで藤田のアジトまで突き止めたのだ。

(まさかここまでとは‥俺自身、驚かされた)

だが‥

サトコの成長を間近で見てきたからこそ、懸念されることがあった。

(‥懐かしいな)

【実地訓練】

大規模な実地訓練が行われることになり、

サトコは潜入している捜査官からICチップを受け取る手はずになっていた。

しかし、状況は一変し‥

サトコ

『着岸していない時点で、SATには頼れないんですよね?』

『私しか動けないなら、やるべきことは1つです』

石神

狙いが巣瀬事務次官なら、ヤツらは本気だ

サトコはひとり船内に残り、捜査を続けていた。

無線から聞こえてくる氷川の声に、動揺を隠しながら冷静に返す。

石神

死ぬかもしれない‥退避しろ

サトコ

『もっとたくさん、石神教官から学びたかったです』

『でも‥』

『‥‥口先だけでも、刑事になりたいです』

『馬鹿でも何でも、自分だけ助かるなんてできません』

石神

‥死ぬかもしれなくてもか

サトコ

『‥私、悪運は強い方なんです』

【救護室】

無線が切れた時は、心臓が止まるような思いだった。

(あの時よりは格段に成長したが‥)

いい意味でも悪い意味でも、実直で無鉄砲な彼女から目が離せない。

石神

‥お前は、頑張りすぎるんだ

サトコ

「え‥?」

石神

ひとりで抱え込みすぎるとも言えるな

さっきもそうだ。俺が声を掛けた時、足のことを黙っていただろう?

サトコ

「それは‥」

石神

弱みを見せないのは公安刑事としてはいいことだ

時と場合によっては、相手に付け込まれる可能性があるからな

しかし‥お前はもっと、人を頼ることを覚えろ

少なくとも、俺はお前に頼って欲しいと思っている

サトコ

「石神さん‥」

サトコは大きく目を瞬かせる。

石神

彼女に頼られて‥甘えられて、嬉しくないわけないだろう?

少なくとも、俺の前では肩の力を抜いて欲しい

サトコ

「‥‥‥」

俺から視線を逸らし、サトコはキュッと手を握りしめた。

それから無言の時が流れ、俺はゆっくりと立ち上がる。

石神

‥そろそろ、戻るか

サトコ

「あ、あの!」

裾を掴まれて、動きを止める。

サトコ

「‥もう少しだけ、一緒にいてもいいですか?」

サトコは俯きながら、頬だけじゃなく耳まで真っ赤に染めている。

(そんなに恥ずかしいなら、無理をしなくていいものを‥)

精一杯の甘えを見せるサトコに、笑みが漏れた。

サトコ

「あっ‥!」

「い、いきなりヘンなこと言ってすみません!」

「今のは魔が差したと言いますか‥」

「で、でも石神さんと一緒にいたいのは事実でして‥!」

慌てるサトコに、愛しさが込み上げてくる。

石神

サトコ

サトコ

「!」

そっと抱きしめると、サトコが息を呑む音が聞こえた。

石神

言っただろう?甘えられて、嬉しくないわけがないと

サトコ

「石神さん‥」

サトコの腕が、恐る恐る俺の背中に回される。

サトコ

「‥ありがとうございます」

石神

‥‥‥

ポンポンッと頭を撫でると、サトコは安心したように息を吐いた。

サトコ

「すっ、すみません!!」

サトコは思い出したように声を上げると、俺から離れて立ち上がる。

サトコ

「石神さん、お仕事中でしたよね?忙しいのに、私ったら‥」

ベッドを離れて、ドアに手を掛けるサトコ。

石神

‥サトコ

そんなサトコの背中越しに手を伸ばすと、ガチャリと鍵を閉める。

石神

一緒にいたいと言ったのは、お前だろう?

サトコ

「っ‥」

抱き締めながら耳元で囁くと、サトコの身体がわずかに揺れた。

石神

それとも、もう満足したのか?

サトコ

「い、いえ!」

「だけど、お仕事が‥」

サトコが口を開こうとした時‥

石神

(誰か近づいて来ているな‥)

コツコツと、廊下から足音が聞こえてきた。

サトコ

「い、石神さ‥‥」

「っ‥」

サトコの口に手を当て、静かにするように促す。

サトコは頬を赤くしながら、小さく頷いた。

鳴子

『サトコ大丈夫かな?かなり痛そうだったけど‥』

『‥って、あれ?鍵が掛かってる‥』

千葉

『もう帰ったんじゃないか?』

(佐々木と千葉か‥?)

(サトコの様子を見に来たのか)

千葉

『俺たちも戻ろうか』

鳴子

『うん、そうだね』

サトコ

「‥‥‥」

遠のく足音に、サトコが申し訳なさそうに眉尻を下げる。

(佐々木たちには悪いが‥今はふたりの時間を過ごさせてもらう)

サトコ

「あっ‥」

足音が完全に聞こえなくなると、サトコを抱き上げてベッドに降ろした。

サトコ

「あ、あの‥!」

覆いかぶさり顔の横に手をつくと、サトコの顔がみるみる赤くなる。

サトコ

「ん‥」

ついばむようにキスをすると、サトコは甘い吐息を漏らした。

サトコ

「石神、さん‥」

唇が離れ、不安げに瞳を揺らすサトコの頬を優しく撫でる。

石神

誘ったお前が悪い‥

サトコ

「んっ‥」

唇が重なると、想いを確かめ合うように深く絡み合う。

息も出来ないほどのキスに、サトコの身体から力が抜けていった。

サトコ

「‥はぁ」

瞳を潤ませるサトコに、熱情が全身を駆け巡る。

石神

サトコ‥

愛しい彼女の名前を呼び、再び顔が近づくと‥

サトコ

「‥ん、‥さん」

石神

ん‥

サトコ

「石神さん!」

石神

‥‥?

【資料室】

重い瞼を開けると、視界がぼやけていた。

サトコ

「あ、起きましたね」

石神

サトコ‥

しばらくすると、視界がクリアになって‥

サトコ

「ふふ、おはようございます」

石神

っ‥

目の前にサトコの顔があり、面食らう。

(ここは‥資料室か?いつの間に寝てしまったんだ‥)

室内には俺たち以外、誰もいない。

手元には見覚えのある小説が置かれていた。

(そういえば‥)

【教官室】

黒澤

資料とばっかり睨めっこしてないで、たまにはこういう本を読んだらどうですか?

颯馬

おや、その小説は‥

黒澤

周介さんも、ご存知ですか?

颯馬

ええ、ベストセラーの恋愛小説ですよね?

女性だけでなく、男性にも人気だと聞いています

黒澤

そうなんですよ~。濃厚な心理描写がウリなんです!

石神さんと後藤さんに是非にと思いまして☆

石神

はぁ‥くだらない

後藤

そんなことより、お前は仕事をしろ

【資料室】

(黒澤に無理やり借りさせられたんだったな‥)

どうやらあの夢は、この小説が原因のようだった。

(アイツはロクな小説を読まんな‥)

サトコ

「どんな夢を見ていたんですか?」

「なんだか、幸せそうな顔をしていましたよ」

石神

っ‥

(あんな夢を見ていたなど、言えるわけない‥)

石神

‥夢は見ていない

サトコ

「そうなんですか?」

「まあ、起きた瞬間にどんな夢見てたのかって忘れちゃいますもんね」

勝手に納得したのか、サトコはひとりでうんうんと頷く。

サトコ

「それにしても、石神さんが居眠りなんて珍しいですね」

石神

俺だって、睡眠くらいとる‥

サトコ

「ふふっ」

「石神さんの寝顔、可愛かったな‥‥」

「!」

俺と目が合うと、恥ずかしそうに頬を染めて俯くサトコ。

思わずサトコの腕を引くと、黙らせるかのように唇を奪い、潤んだ瞳を見つめる。

サトコ

「い、石神さん‥」

触れるだけのキスなのに、サトコは顔を真っ赤にして‥

サトコ

「こ、ここ‥学校ですよ‥?」

いつもなら絶対しない俺の行動に、戸惑いを見せていた。

(相変わらず、可愛い反応をするな‥)

もっとサトコの色々な声を聞きたい、色々な表情を見たい‥そんな欲に駆られる。

石神

今日だけ‥な

サトコ

「あっ‥」

サトコを抱き寄せると、ふわりと彼女の香りが鼻を掠めた。

石神

もう少し‥ここにいよう

甘い声音で囁くと、もう一度唇が触れ合う。

鍵が掛かっていない資料室には、いつ人が訪れるか分からなかったが‥

俺たちは慈しむように、何度もキスを交わした。

Happy  End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする