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やさしい嘘を零すとき 後藤1話

【警視庁】

鳴子

「あー、疲れた~!」

千葉

「お疲れさま。コーヒーでも飲む?」

鳴子

「うん。ありがとう」

鳴子は千葉さんから缶コーヒーを受け取り、のどを潤す。

公安学校卒業後のある日、私は鳴子と千葉さんと一緒に、警視庁で研修を受けていた。

鳴子

「は~、生き返った」

サトコ

「ふふっ、鳴子ったらおじさんくさいよ?」

鳴子

「ハッ!気を付けなきゃ」

「なんたってここは、一柳教官がいるし‥」

「他にもイケメンが多いから、どんなラブロマンスが待ち受けてるか分からないもんね」

千葉

「一柳教官じゃなくて、一柳さんだろ?」

鳴子

「あはは、そうだった。学校にいた時の癖で、つい出ちゃうんだよね」

サトコ

「分かるよ、私も教官たちと会った時、つい『教官』って言いそうになるし」

「‥学校を卒業してから、1週間以上も経つんだね」

千葉

「今は研修中だけど本庁の雑用係みたいなものだし、早く配属先で働きたいよな」

鳴子

「ね。配属先が決まるまでは、ホテル暮らしだし‥」

「あ~、早くホテル暮らしから抜け出したい!」

サトコ

「ホテルって、何かと落ち着かないもんね」

鳴子

「そうそう!」

「‥って、サトコも今ホテル暮らしだっけ?」

サトコ

「えーっと、私は‥」

【後藤マンション】

(できれば安くて、誠二さんの家に近くて‥)

後藤

何してるんだ?

パソコンでウィークリーマンションのページを見ていると、

お風呂上がりの誠二さんが画面を覗き込んでくる。

サトコ

「配属先が決まるまでの仮住居を探しているんです。卒業したら、寮に住めなくなるので」

後藤

ああ、前にも言ってたな

黒澤に聞いてみたんだが‥悪い、時期的にもう埋まってしまってたようだ

サトコ

「えっ、わざわざ聞いてくださったんですか!?」

(確かに黒澤さんってそういうの詳しそうだけど‥)

忙しい中探してくれたことに、感謝しかない。

サトコ

「ありがとうございます」

(黒澤さんにも、今度会ったらお礼言わなきゃ)

後藤

ああ、まあ、見つからなくてもひとまずは問題ないだろ

サトコ

「えっ?」

後藤

うちにくればいいだけの話だからな

サトコ

「!」

誠二さんはフッと笑みを浮かべながら、私の隣に座った。

後藤

卒業したばかりだと不安なことも多いだろう

配属先が決まるまでは、うちにいてもらって構わない

まあ、リラックスしにくいかもしれないけどな

(誠二さんと同棲‥)

(いや、同棲っていうか居候だけど‥!)

配属先が決まるまでの期間限定二人暮らし。

それでも私の心を弾ませるには十分だった。

サトコ

「はい、よろしくお願いします!」

【警視庁】

(卒業したんだし、堂々と『恋人』だって言えるようになったけど‥)

(誠二さんの家にお世話になってるって、言っていいものなのかな?)

鳴子

「どうしたのよ。急に黙りこんじゃって」

「あ、もしかして‥‥」

ツッコまれるかと身構えるも、鳴子は突然ハッとして、背筋をピンッと伸ばす。

どこか熱っぽい鳴子の視線の先にいたのはーー

鳴子

「お疲れさまです!」

サトコ・千葉

「お疲れさまです!」

「よお」

桂木

「お疲れ」

片手を上げて気軽に挨拶をしてくれる一柳さんに、柔らかい笑みを浮かべる桂木さん。

鳴子

「挨拶までカッコいい‥!」

(もう、鳴子ったら)

ぼそりと呟く鳴子に、私と千葉さんは苦笑する。

桂木

「昴、先に行ってるな」

「はい」

鳴子

「桂木さんも、渋カッコいいなぁ‥」

鳴子は去っていく桂木さんの背中を、うっとりとした表情で見送る。

サトコ

「えっと‥一柳さんたちは、これからお昼ですか?」

「いや、会合だ。今日はもう戻ってこねーよ」

「ああ、そういやお前‥」

サトコ

「へ?」

一柳さんは私を見て、ニヤリと笑みを浮かべる。

(うっ、イヤな予感)

(まさか‥)

「今、後藤の家にいんだろ?どうだ?」

(絶対聞かれると思ったーー!!)

鳴子・千葉

「「ええええっ!?」」

2人は驚きの声を上げながら、私を見る。

(うっ‥)

反射的に2人から顔を逸らした先では、一柳さんがしまったと言わんばかりの顔をしていた。

(一柳さん‥!!)

視線でそう訴えると、『こいつらにまだ言ってねーの?』と視線で返される。

(タイミングってものがあるんです!)

鳴子

「ちょっ、ちょっとサトコ!どういうことなの!?」

「さっきなんか怪しいと思ったら‥!」

サトコ

「どうって‥」

鳴子

「洗いざらい吐いちゃいなさい!」

「この鳴子様からは絶対に逃げられないって知ってるでしょ?」

サトコ

「こ、これには深い事情が‥」

千葉

「氷川が後藤さんと同棲‥‥」

(って、千葉さんは何故かショックを受けてるし!)

この場をどう切り抜けようか必死に考えあぐねていると、一柳さんが私の背中をポンッと叩く。

「じゃ、頑張れよ」

サトコ

「あの!?ちょっと‥」

一柳さんはニッコリと微笑んで、去っていった。

(場をかき回すだけかき回して、帰っちゃうんですかーーー!?)

【後藤マンション キッチン】

(誠二さん、遅くなるって言ってたし‥きっと、お腹を空かせて帰って来るよね)

晩ごはんの用意をしながら、ふと昼間のことを思い返す。

【警視庁】

鳴子

「後藤さんの厚意で間借りしている、ねぇ‥」

サトコ

「う、うん。部屋が見つからなくて困ってたら、提案してくれたの」

「ほら、私補佐官だったし心配してくれたんじゃないかな?」

鳴子

「へぇ~」

(この目、絶対に納得していない‥!)

千葉

「さ、佐々木、そんなに疑ったらかわいそうだろ?」

そう言う千葉さんも、どこか戸惑っているように見えた。

鳴子

「はぁ‥甘いわね千葉くん」

「気になることは、とことん追求すべし!」

「ほらほら、サトコ?さっさと吐いて楽になっちゃいなさいよ」

サトコ

「わ、私は本当のことしか言ってないから」

鳴子

「ふ~ん?シラを切るつもりね」

「まっ、いいわ。今はそういうことにしておいてあげる♪」

千葉

「そ、そろそろ休憩が終わるし、戻ろっか!」

【後藤マンション キッチン】

(あの時の鳴子、顔がニヤニヤしてた‥)

(今度会ったら、絶対質問攻めにされるよね)

ため息をつきながらも手を動かしていると、あっという間に料理が出来上がる。

サトコ

「さて、これからどうしようかな」

(課題もあるけど‥先に掃除しちゃおうかな)

サトコ

「お部屋を借りてる身だし、役に立たなきゃね!」

私は気合を入れると、掃除に取り掛かった。

【寝室】

(お昼なら布団も干せるんだけどなぁ)

リビングにお風呂、そしてトイレの掃除を終えた私は、最後に寝室にやってきた。

(‥布団を干すのはお休みの日にしよう)

鼻歌を歌いながら、掃除を始める。

こうして誠二さんの為にやる家事は、全然面倒じゃなくて‥

(むしろ、楽しいかも)

顔がほころぶのを感じながら手を動かしていると、誠二さんの枕が視界に入った。

サトコ

「‥‥‥」

(いやいやいや、ダメでしょう!)

ふとあることが思い浮かぶも、必死に否定する。

(さすがにそれをやったらドン引きされるって!)

そう言い聞かせながらも、視線は枕に釘付けになる。

サトコ

「‥‥‥」

私はベッドに近づくと‥

サトコ

「ちょっとだけ‥失礼します!」

誠二さんの枕に顔を埋めてみた。

(‥‥‥)

(‥‥‥む、)

(無臭‥!!)

(らしいと言えばらしい‥かな?)

のんきに頬が緩みかけた、その瞬間。

ガチャッ

後藤

‥何やってるんだ?

サトコ

「!?!?」

突如聞こえた誠二さんの声に‥私は枕に包まれたまま固まってしまった。

to  be  continued

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