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やさしい嘘を零すとき 後藤2話

カレ目線

【寝室】

忘れ物を取りに家に戻ると、部屋が綺麗に片付いていた。

また掃除をしてくれていたのかと思ったが‥

寝室に入って目に入ってきたのは、俺の枕に顔を埋めているサトコの姿だった。

後藤

‥何やってるんだ?

声を掛けると、サトコの肩がピクリと震える。

サトコ

「‥‥‥」

サトコは恐る恐る顔をこちらに向けるとーー

サトコ

「っっっっ!?!?」

顔を真っ赤にして、枕をギュッと抱きしめた。

(これは‥どういう状況だ?)

俺は戸惑いながらも、

なんで?どうして居るの?という顔をしているサトコに、笑いが込み上げる。

しかし‥

サトコ

「あ、あの‥!これは、ですね‥」

それは表情に出ていないのか、サトコは見るからに動揺していた。

口ごもりながらも一生懸命説明をしようとするサトコが可愛くて、更に笑いが込み上げてくる。

後藤

‥コホン

サトコ

「!」

それを咳払いで誤魔化すと、サトコはみるみるうちに青ざめていった。

サトコ

「あ、あの!いつもこんなことをしているわけじゃなくて、ですね‥」

「魔が差したというか出来心というか‥!」

「‥ご、ごめんなさい‥煮るなり焼くなり‥‥」

(全然怒ってないが‥)

枕を抱きしめたまま、まるで絶望しているかのようなサトコ。

後藤

‥ははっ

サトコ

「!」

耐えきれなくなって笑い出すと、真っ青だったサトコの顔が一気に赤くなる。

サトコ

「どっ、どうして笑ってるんですか!?」

後藤

わ、笑わせるな‥

サトコ

「笑わせてないですよ!?」

恥ずかしさを通り越して何故か怒っているサトコも、言っちゃ悪いが可愛い。

安心させようとたしなめる間にも、どんどん愛しさが膨れ上がる。

後藤

サトコ

困ったように眉を八の字に下げるサトコを、そっと抱きしめた。

後藤

部屋、掃除してくれてありがとう

今夜の飯も、楽しみにしている

サトコ

「‥‥‥」

サトコは俺の肩に顔を埋め、おずおずと背中に腕を回してくる。

ポンポンッと背中を撫でてやると、こわばっていた力が緩まるのが分かった。

サトコ

「‥どういたしまして、です」

「お夕飯も気合入れて作ったので、期待しててください」

後藤

ああ。昼から何も食ってないから、余計に楽しみだ

サトコ

「そうなんですか?」

サトコは顔を上げて、いいことを思いついたと言わんばかりに顔を輝かせる。

サトコ

「じゃあ、明日からお弁当を作っていいですか?」

後藤

ああ。アンタがいいなら頼む

サトコ

「もちろんです!」

満面の笑みで喜びを見せるサトコ。

そんなサトコの額に、キスを落とした。

嬉しそうに胸元へすり寄ってくるサトコの頭を撫でる。

(本当、可愛い奴)

(‥それにしても、何で枕抱えてたんだ‥?)

【警察庁】

数日後。

あれから毎日サトコが弁当を作ってっくれるようになったが‥

(‥どんどん豪華になってる気がする)

鳥の甘辛煮を箸でつまみ、口元へ運ぶ。

(‥美味い)

弁当は材料費をかけているというより、かなり手が込んでいる出来栄えだった。

その上、サトコは朝昼晩と食事の用意をして、掃除や洗濯、アイロンがけまでしてくれている。

(きっと俺が気付かないところまで、他にもいろいろやってくれてるんだろう)

どんなに帰りが遅くなっても、朝帰りでさえなければ起きて待ってくれている。

(あいつ、研修もあるのに‥)

黒澤

うわー!愛妻弁当ですか?

いいですね~!

(こいつ‥)

気配なく現れた黒澤が、後ろから弁当を覗き込んでくる。

面倒な奴に絡まれたと、ため息が漏れた。

黒澤は許可もなく俺の隣に座ると、わざとらしくパンの袋を開ける。

黒澤

あーあ、後藤さんが羨ましいな~。オレなんかパンですよパン!

手作りの弁当なんて、最後に食べたのはいつの日のことやら‥

(誰がやるか)

暗に弁当を分けて欲しいとアピールしてくる黒澤を無視して、食べ進める。

黒澤

‥ケチな人は呆れられますよ

後藤

何か言ったか?

黒澤

今日もパンが美味しいなって言ったんです☆

黒澤はニッコリと笑みを浮かべ、ふと思い出したように口を開く。

黒澤

サトコさんって、今、後藤さんの家にいるんですか?

後藤

‥‥‥

黒澤の問いに、思わず無言で返す。

(一柳には何かの弾みで言った覚えはあるが、どうしてこいつが知っているんだ?)

黒澤

無視しないでくださいよ~

前に後藤さんが近くにいい部屋ないかって、相談してきたじゃないですか

あれって、サトコさんの為なんですよね?

後藤

‥‥‥

黒澤

ははっ!反応を見る限り当たりですね!さっすがオレです!

あの時は残念ながら力になれませんでしたけど、どうしたのかなって気になってたんですよ

いや~、無事に解決したみたいでよかったです

後藤

‥‥‥

黒澤を無視して、弁当を食べようと箸を伸ばす。

黒澤

ま、そんなことがなかったとしても気付いたと思いますけどね

後藤

‥何?

その発言に、箸がピタリと止まった。

黒澤

だって、後藤さんの靴めちゃくちゃ綺麗ですし~、手作り弁当が続いてますし~?

気付かない方がおかしいですって

(‥観察眼が鋭すぎるのも問題だな)

呆れつつも、サトコがしてくれたことをまたひとつ見つける。

しかし、嬉しいと思う反面、別の感情が顔を覗かせる。

(アイツ、無理してないか‥?)

【後藤マンション】

帰宅すると、時刻は午前2時を回ったところだった。

後藤

ただいま

寝室で寝ているだろうと思いながらも、一応挨拶してみる。

空腹を感じながらリビングに入ると、サトコが机に突っ伏して眠っていた。

(この状況は‥)

(遅くなると伝えていたが‥待っててくれたのか?)

眠るサトコの横には、大量の課題が積まれている。

そのうちの一冊を手にし、パラパラとページを捲る。

(課題があるとは聞いていたが、こんなにあるのか‥)

後藤

サトコ

サトコ

「んー‥?」

トントンッと肩を叩くと、薄く目を開く。

サトコは目を擦りながら、ゆっくりと身体を起こした。

サトコ

「す、すみません、寝ちゃってました‥」

「おかえりなさい」

後藤

ただいま。それはいいが‥眠いならベッド行くか?

サトコ

「だいじょうぶです‥ふわぁ」

あくびをかみ殺しながら、サトコは俺へと目を向ける。

サトコ

「お夕飯はどうしますか‥?」

「時間も時間なので重いものは無理ですけど、軽いものなら作りますよ‥」

そう言いながらサトコが立ち上がろうと、その時。

サトコ

「あっ‥」

後藤

おい!

ふらついたサトコの身体を、すぐに支える。

(ん‥?)

サトコ

「あはは、すみません‥寝ぼけてたみたいで」

後藤

いや、そんなことより‥

サトコの身体は熱く、寝起きとはいえ、いつもよりぼんやりしているように見えた。

後藤

‥熱があるんじゃないか?

サトコ

「え?寝てたからですかね‥?」

後藤

‥‥‥

こつん、と額を合わせてみる。

サトコ

「あ、あのっ‥!?」

‥風邪を引いているわけではなさそうだ。

ただ、サトコにかなりの疲労がたまっているのは明らかだった。

(大丈夫だとは言っても、無理をするのは分かっていたのに‥)

大量の課題をこうして目の前にすると、

家のことを任せっきりにしてしまっているのが申し訳なくなる。

何事にも一生懸命なサトコは、

“居候させてもらうなら役に立たなければ” と俺に気を遣っていたのかもしれない。

(‥家に帰るとサトコがいることが嬉しくて、つい甘え過ぎていた)

そんなことを考えながらも、意に反して胃袋は空腹を訴えてくる。

サトコ

「あの‥お夕飯、どうしますか?」

後藤

‥‥‥

お願いしたい、というのが正直な気持ちだったが‥

後藤

黒澤と食べてきたから、大丈夫だ

サトコ

「そうなんですか?」

後藤

ああ

それよりも、お前は休め

サトコ

「あっ‥」

サトコを抱えながら、寝室へと向かう。

(こいつはまだ研修中だ。慣れないことも多いだろう)

(‥サトコの不安を減らすために部屋に呼んだのに、疲れさせてどうする)

これ以上はサトコに負担をかけないようにしよう‥俺はそう心に誓った。

to  be  continued

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