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刺激的大人デート 加賀

【学校 廊下】

その日は、私にとって奇跡にも近いくらいの嬉しいことが起きた。

(実技の試験で、パーソナルレコードを更新した‥!)

(体力がついてきた思ってたけど、成績はずっと停滞気味だったから嬉しい!)

成績を記した紙を持って、意気揚々と教官室のドアをノックする。

サトコ

「失礼します」

【教官室】

石神

氷川か。何か用か

サトコ

「加賀教官はいらっしゃいますか?」

加賀

いねぇ

個別教官室のドアが開いて、加賀さんが出てくる。

サトコ

「いるじゃないですか‥」

加賀

テメェのくだらねぇ話を聞く暇を持て余してる俺はいねぇ

サトコ

「それが、くだらない話じゃないんです!」

「加賀教官に、ご報告が!」

加賀

くだらねぇ話だったら、グラウンド200周だ

サトコ

「2、200周って‥!?死んじゃいますよ‥」

加賀さんに促され、個別教官室にお邪魔した。

【個別教官室】

サトコ

「これ、この間の実技試験の結果です!」

中に入ると早速、持っていた紙を手渡す。

私から紙を受け取り、加賀さんが眉をひそめてそれを見つめた。

(実技でいい成績を残すのなんて、私にしては珍しいし)

(こういう時くらいは、報告してもいいよね‥?)

加賀

こんな点で喜んでんのか

サトコ

「えっ?」

加賀

何位だ

サトコ

「はい?」

加賀

全訓練生の中で、トップの成績か?

サトコ

「と、トップ‥!?そんな、まさか」

加賀

この程度の成績で喜ぶように躾けたつもりはねぇ

学校でトップの成績を取ったら、報告しに来い

(それじゃ、一生報告しに来れない‥)

肩を落として落ち込みながらも、少しだけ、加賀さんの言葉に納得できない。

サトコ

「今回は、私にとっては本当にいい結果だったんですよ」

「私なりに、すごく頑張ったんです。ちょっとだけでも、ご褒美とか‥」

加賀

褒美だぁ?

(うぅ、怖い‥加賀さんには、この程度の成績じゃ満足してもらえないのか‥)

(それじゃ、ご褒美なんて夢のまた夢だよね)

サトコ

「すみません‥出直してきます」

すごすごと退散しようとすると、後ろから後頭部をつかまれた。

サトコ

「痛い!」

加賀

誰が勝手に出ていっていいっつった

サトコ

「す、すみません‥!だからぎゅっと握らないでください!」

「頭が潰れます!!」

加賀

次の週末、空けとけ

サトコ

「え?」

加賀

褒美が欲しいんだろ

ちょうど、最近行ってなかったしな

せいぜい、動きやすい服装で来い

ニヤリと笑う加賀さんに、嫌な予感しかしない。

(いや‥前向きに考えよう!せっかく加賀さんが誘ってくれたんだから!)

(最近行ってなかった‥ってことは、もしかして前によく行ってたお店とかかな?)

無理やり不安を打ち消して、週末のデートを心待ちにする私だった。

【飛行場】

週末、加賀さんの車に乗ってやってきたのは、山奥のこぢんまりとした飛行場だった。

サトコ

「ここはいったい‥」

加賀

あれだ

加賀さんの視線を追いかけると、そこにはなぜかヘリが用意されている。

サトコ

「あれって、ヘリのことですか‥?」

「ま、まさか‥あれに乗るんじゃ」

加賀

当然だ

テメェは、どうせやったこともねぇだろうからな

サトコ

「やるって、何を‥」

加賀

説明するより、見た方が早ぇ

サトコ

「見るって‥どういうことですか!?」

訳がわからないまま強引に加賀さんに手を引かれ、ヘリに押し込められた。

【ヘリ】

(なんで私はここにいるんだろう‥)

(ついさっきまでは、加賀さんの車の中にいたはず‥)

加賀

高所恐怖症か?

どんどん上昇していくヘリから窓から外を呆然と眺めていると、加賀さんが訝しげな表情になる。

サトコ

「いえ、そういうわけじゃないんですけど‥」

「どっちかっていうと、まだ状況がよく飲み込めてないというか」

加賀

見りゃわかんだろうが

加賀さんの視線を追いかけると、そこにはオレンジ色の袋のようなものがふたつ、置いてある。

サトコ

「‥これは?」

加賀

‥チッ

スカイダイビングも知らねぇのか

サトコ

「あ、スカイダイビングですか!どうりでヘリがどんどん高いところへ‥」

「‥え!?スカイダイビング!?」

驚く私に構わず、加賀さん袋のようなものを準備し始める。

サトコ

「それってもしかして、ヘリから空中に飛び降りるアレですか‥?」

加賀

他に何がある

サトコ

「そ、その袋の中に入ってるのは」

加賀

パラシュートだ

サトコ

「!!!」

逃げようにもここはヘリの中で、文字通り逃げ場がない。

サトコ

「ちょ、ちょっと待ってください!私にはまだ早‥」

加賀

やってもみねぇうちから泣き言なんざ言うんじゃねぇ

実技には自信あんだろ?

(それは‥もしかしてこの前、実技試験の結果を報告した時のこと!?)

サトコ

「じ、自身があるとは言ってませんよ‥いい結果が出たというだけでして」

「それに、いくらなんでもスカイダイビングっていうのは」

加賀

なら、今回もいい結果出してみろ

口の端を持ち上げて笑いながら、加賀さんが私の身体に手を這わせた。

サトコ

「な‥!?」

加賀

この程度で発情するとは、よっぽど欲求不満か

サトコ

「ち、ちが‥」

加賀

じっとしてろ

慌てる私に構わず、加賀さんが私の背中にパラシュートを装着する。

サトコ

「いやいやいや!パラシュートが開かなかったらどうするんですか!?」

加賀

お陀仏だな

サトコ

「怖いこと言わないでください!」

加賀

喚くな

同じようにパラシュートを装着した加賀さんが、後ろから私を抱きかかえる。

加賀

ビビってんじゃねぇ

サトコ

「無理です‥!ビビります!!」

加賀

俺も一緒に飛んでやる

サトコ

「え?」

振り返る間もなく、加賀さんが私を羽交い絞めにしてヘリのドアを開けた。

サトコ

「ぎゃー!」

加賀

うるせぇ

サトコ

「無理無理!なんの心の準備もないのに、無理です!」

加賀

黙れ

サトコ

「ああっ‥これが私の最後の言葉になるかも‥」

言い終わらないうちに、加賀さんが私を抱えて大空へと飛び出した!

サトコ

「っ‥‥‥‥」

(すごい風っ‥息ができない!)

(怖くて、目も開けられない‥!今、どうなってるの‥!?)

加賀

クズが。目開けろ

サトコ

「っ‥‥‥‥!」

加賀

開けねぇと放り投げるぞ

サトコ

「!!!」

加賀さんの言葉に、慌てて目を開けると‥

サトコ

「!」

「わぁっ‥」

加賀

どうだ

サトコ

「すごい‥すごいです!」

加賀

一度聞きゃわかる

目の前にはどこまでも広がる空、そして眼下には小さな街が広がっている。

サトコ

「これが、スカイダイビング‥」

私の身体を抱きしめたまま、加賀さんが耳元でフッと笑う。

(風の音がすごいから、こうしないと声が聞こえないのは分かるけど)

(み、耳がくすぐったい‥!)

加賀

感じてるなんざ、ずいぶんと余裕だな

サトコ

「か、感じてるんじゃないです!」

「でも、本当にすごい‥鳥になった気分です」

加賀

これが褒美だ。黙って受け取れ

(そういえば、頑張ったからご褒美欲しい、って言ったんだっけ)

(こんなすごいご褒美、初めて‥)

サトコ

「ありがとうございます‥嬉しいです」

「ヘリから飛び出した時は、一瞬、加賀さんを恨みましたけど」

加賀

バカが

だが‥褒美のあとは、きっちり仕置きしてやんねぇとな

サトコ

「‥仕置き?」

加賀

俺に従わなかったことを、忘れたとは言わせねぇ

騒いで喚いて、手間かけさせやがって

どうやら、スカイダイビングを拒んだことを言っているらしい。

サトコ

「で、でも‥あの状況なら誰だって」

加賀

下についたら、じっくり教育し直してやる

スカイダイビングの快感なんざ、綺麗さっぱり忘れるくらい、な

(そ、それって‥)

私の耳元で、加賀さんが小さく笑う。

私の恐怖とほんの少しの期待を乗せて、加賀さんの背中でパラシュートが開いた‥

Happy  End

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