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極上のピロートーク 颯馬

【颯馬マンション 寝室】

サトコ

「ん‥」

喉の渇きを覚え、ふと目が覚めた。

(そっか、昨日は颯馬さんの部屋に泊まったんだっけ)

隣には静かに寝息を立てている颯馬さんの姿がある。

(起こさないように、水を取りに行こう)

(‥確か冷蔵庫にミネラルウォーターを入れてもらったはず)

【キッチン】

(私、いつの間にか寝ちゃってたんだ‥)

台所で水を飲みながら、私はさっきまでのことを思い出していた‥

【寝室】

颯馬

フフ‥

私を翻弄している途中で、颯馬さんが意味深に微笑んだ。

サトコ

「‥颯馬、さん?」

颯馬

あぁ、すみません。貴女に見惚れていただけですよ

可愛い貴女はたくさん見てますけど、今は‥綺麗ですから

サトコ

「そ、そんなことは‥っ」

颯馬

私の言葉が信じられませんか?

今の貴女は、他の人には見せたくないぐらいです

サトコ

「‥恥ずかしいです」

颯馬

そうやって照れる顔も‥もっと見せてください

【キッチン】

サトコ

「‥っ」

私の頬を撫でながら、掠れた声で囁かれたことを思い出し頬が熱くなる。

(うわぁ、思い出しちゃった‥!)

(颯馬さんに顔を合わせるの、恥ずかしいな‥)

込み上げてくる恥ずかしさとは別に、私はひとつの不安も感じていた。

(‥そういえば、また先に寝ちゃった)

(颯馬さん嫌じゃなかったかな‥?)

思い返してみれば、私の方が先に寝てしまう確率は高い気がする。

(それで、朝になれば颯馬さんが優しい表情で私を見つめていて‥)

(颯馬さんは優しいから、きっと怒っていないはず‥)

颯馬さんは笑って許してくれるだろうけど、やっぱり少し気になってしまう。

(次こそは、先に寝ないようにしないと‥!)

そんな決意を胸に、颯馬さんが眠る寝室へと戻ることにした。

【寝室】

颯馬

‥‥‥

寝室に戻り、颯馬さんの寝顔を覗き込んでみる。

(寝顔はいつもより、もっと綺麗だな‥)

颯馬

‥‥‥

颯馬さんの腕は、私が離れた時と同じく伸ばされたまま。

(‥もう一回、腕枕してもらっちゃおうかな?)

悪戯を思いついた子どものように、私はこっそり颯馬さんの腕に寝転ぶ。

(颯馬さんの腕枕、ふふっ‥)

そんなことを考えながらベッドに入ると‥

颯馬

自分から入ってくるなんて、迂闊な人ですね

驚く暇もなく、私は颯馬さんの腕に抱きしめられていた。

サトコ

「そ、颯馬さん‥!?」

「いつから起きてたんですか!?」

颯馬

フフ、貴女が起きる前からですよ

サトコ

「‥っ!?」

颯馬

貴女の寝顔を見ているのは好きですからね

サトコ

「‥恥ずかしいので、あんまり見ないでください」

颯馬

それは‥困りましたね

颯馬さんが、わざとらしくため息を零す。

それがちょうど私の首元にかかり、心臓がドキッと跳ねる。

颯馬

いくら貴女でも、私の楽しみを奪うのは許しませんよ

サトコ

「た、楽しみって‥」

颯馬さんは、私の反応を楽しむかのようにクスクスと笑う。

その笑顔に、私は先ほどのことを思い出した。

サトコ

「‥颯馬さん、いつも先に寝てしまってすみません」

颯馬

‥サトコさん?

サトコ

「水を取りに行ったとき、思ったんです」

「‥いつも私の方が先に寝ちゃって、颯馬さんいい気はしないんじゃないかって」

しょんぼりする私とは逆で、颯馬さんはおかしそうに笑い始めた。

颯馬

フフ、そんなことを気にしていたんですか

貴女が謝る必要なんてないのですよ

こうやって、貴女の頭を撫でていたら‥‥‥

颯馬さんは実演するように、優しく私の頭を撫でてくる。

颯馬

いつも貴女は眠そうな顔をするので、面白いんです

案の定、今日もすぐに寝ちゃいましたけど

フフ、と笑う颯馬さんの言葉を聞き、私は思い出した。

サトコ

「そういえば、思い出しました‥」

「颯馬さんが撫でてくれるのが気持ちよくて‥」

襲ってくる睡魔に勝てず、いつも寝てしまうということを。

颯馬

私のせいで寝たんですから、サトコさんが気にする必要はないんですよ

ああ、私にも水を貰えますか?

サトコ

「あっ、はい‥!」

サイドテーブルに手を伸ばし、先ほど持ってきたペットボトルを颯馬さんに渡す。

颯馬

‥けど、ひとつだけ面白くないことがあったんですよね

サトコ

「え?」

水を飲んだ後、颯馬さんが意地悪な笑みを浮かべながら呟いた。

サトコ

「あの、面白くないことって‥」

颯馬

貴女を寝かしつけるところまでは面白かったんですけど‥

いざ寝られてしまうと、いいところで玩具を取り上げられた気分になるんです

親から玩具を取り上げられる子どもの気持ちって、あんな感じなんでしょうか

サトコ

「‥あの、それって褒められていない‥ですよね?」

颯馬

フフ、どうでしょう?

それだけ普段の貴女が私を楽しませてくれているということですよ

ですが、貴女が起きてくれて良かった

サトコ

「それって、どういう‥」

私の頬を撫でながら、颯馬さんがゆっくりと顔を近づけてくる。

颯馬

顔が赤いですよ

サトコ

「‥颯馬さんの、せいです」

颯馬

そういうサトコさんの顔、好きです

‥あまり、他の男には見せないようにお願いしますね

サトコ

「‥見せることなんて、ないですよ」

颯馬

そうですか、それなら安心ですね

にっこりと微笑んだ後、再びキスを落とされる。

今度はさっきみたいな優しいキスじゃなく、熱く激しいキスだった。

颯馬

そろそろ起きましたか?

サトコ

「えっ‥?あ、はい」

颯馬

‥さっき出来なかった分を頂きますね

そう言いながら、颯馬さんは私を押し倒してくる。

サトコ

「で、出来なかったって‥」

「さっき、最後まで‥」

言いかけた私の唇に、颯馬さんが細長い指を当ててくる。

颯馬

『最後』は、私が満足するところですよ

(ま、満足!?)

颯馬

‥それとも、貴女は嫌ですか?

サトコ

「‥そういう聞き方、ズルいと思います」

否定できない雰囲気に、私はジッと颯馬さんを見つめる。

颯馬

ズルくても構いませんよ

‥いえ、貴女の前だからこそズルくなってしまうのかもしれません

私の額にキスを落としながら、颯馬さんは微笑む。

颯馬

‥さっき、水を飲んだはずなのに渇いているんです

サトコ

「あの、それなら水を‥」

颯馬

いえ、水ではこの渇きは収まりませんから

言葉の意味が分からず、私は目を瞬かせる。

颯馬

この渇きは、サトコにしか潤せないってことですよ

私のこと、癒してくれますよね‥?

サトコ

「‥っ」

滅多に聞けない颯馬さんの、強引な言葉に胸が高鳴る。

颯馬

無言は肯定と取りますよ

颯馬さんは口角をあげながら、遊ぶように私の肌の上に指を滑らせた。

颯馬

いい子ですね

私に任せてくれればいいですよ。貴女の怖がることなんて絶対にしませんから

言葉と同じくらい優しいキスに、私は次第に甘い吐息を零し始めたのだった‥

Happy  End

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