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恋人は公安執事 第一夜

出版社で働く私は、その日もくたくたになりながら帰宅した。

(はあ‥ハードな一日だった‥)

(でも、やっと憧れの編集アシスタントになれたんだから、弱音を吐いてる場合じゃ)

ぐったりしながら玄関のドアに手を掛けると、中から勝手にドアが開いた。

サトコ

「えっ?」

執事たち

「おかえりなさいませ、お嬢様」

サトコ

「!!!???」

「えっ‥きょ、教官!?」

石神

教官?なんの話だ?

サトコ

「い、いえ‥私も、なんでそんな言葉が出たのか」

「ところでみなさんは一体‥なんで私の部屋にいるんですか!?」

加賀

部屋で出迎えるっつったら、執事に決まってんだろうが

サトコ

「執事!?」

(っていうか、あの人怖い‥!全然執事っぽくない!)

加賀

テメェ‥今、執事らしくねぇって言いやがったな

サトコ

「言ってません!思ったけど、口には出してないはずです!」

石神

おい、よせ。曲がりなりにも相手はお嬢様だ

サトコ

「曲がりなりにも‥」

颯馬

ここは、執事付きのマンションなんですよ。知りませんでしたか?

サトコ

「執事付きのマンション!?そんなのあるんですか!?」

後藤

今日から、俺たちがアンタの世話をする

東雲

せいぜいオレたちに迷惑かけないように頑張ってよね、お嬢サマ

(な、何がなんだか分からない‥なんでこんなことに!?執事って本当にいるんだ‥)

みんな少し怖そうだけど、イケメンぞろいには違いない。

(執事とひとつ屋根の下で暮らすって、どんな感じなんだろう?)

(朝起きたら食事が用意されてて、『おはようございます、お嬢様』とか言われて)

(そのうちの一人と、主従を超えたただならぬ関係に‥!)

サトコ

「‥いやいや!恋アプじゃあるまいし、まさかそんな」

慌てて首を振ると、執事たちがじっと私を見ていることに気付いた。

サトコ

「な、なんでしょう‥?」

加賀

発情してんじゃねぇ

サトコ

「は、発情!?」

東雲

変な妄想しないでくれる?エッチなお嬢サマ

サトコ

「なっ‥!」

東雲

何も気にしなくていいよ

キミは極力、オレたちの手を煩わせないようにしてくれればいいから

颯馬

歩、曲がりなりにもお嬢様に失礼ですよ

(また『曲がりなりにも』って言われた‥)

(よく分からないけど‥今日から執事付きの生活が始まるんだ!)

憧れの展開に、うきうきした私だったものの‥

【リビング】

東雲

お食事とお風呂、どちらを先になさいますか?お嬢様

サトコ

「えっとー‥」

お嬢様、と呼ばれることにもなかなか慣れず、くすぐったい気持ちになる。

サトコ

「今日は、取材で走り回って‥汗をかいたので、先にお風呂にします」

石神

かしこまりました

後藤

では、お供いたします

サトコ

「へ?」

【脱衣所】

なぜか、脱衣所まで執事たちがゾロゾロとついてくる。

サトコ

「あの、な、なんですか?」

颯馬

もちろん、お嬢様のお着替えやら色々と、手伝わせていただくためです

サトコ

「って、いやいや!さすがにそこまでしてもらわなくても!」

加賀

ぁあ゛?

サトコ

「ひぃっ」

加賀さんに凄まれて、ブルブルと震えてしまう。

加賀

クズが‥執事のことに口出しするつもりか

サトコ

「な、なんか立場がおかしくないですか‥!?」

加賀

ぐだぐだ言ってねぇで、さっさと脱げ

サトコ

「ぎゃーっ!」

無理やり服を脱がされそうになって、慌ててみんなを脱衣所から追い出した。

サトコ

「ひ、一人で大丈夫ですから!」

颯馬

そうですか‥残念です

では私たちは、食事の準備をしておきますので

(助かった‥!まさか、執事に追いはぎみたいなことされるとは‥)

【風呂】

私は、今日の疲れをお風呂で癒そうと、湯船にのんびりと浸かる。

(はあ、幸せ‥帰ってきたらお風呂もご飯も用意されてるのは、本当に助かるな)

ふと窓の外を見ると、うごめく人影を見つけた。

サトコ

「きゃーーーっ!痴漢!?」

石神

どうした!?

颯馬

お嬢様、無事ですか?

サトコ

「は、はい!‥って、ええ!?」

バタバタとみんなが駆け込んできて、慌てて湯船に肩までつかって身体を隠す。

(っていうか‥みんな、銃持ってる!?なんで!?)

後藤

窓の外に人影が見えた

颯馬

では、私が見てきます

東雲

こんな貧相な身体を覗く、モノ好きもいるんだね

サトコ

「貧相って‥!」

「いや、それよりも、何で銃を‥」

恐る恐る尋ねた時、颯馬さんが戻ってきた。

颯馬

外を見てきましたが、人影ではなく木の枝だったようです

サトコ

「へ?」

加賀

チッ‥人騒がせな

東雲

自意識過剰過ぎ

サトコ

「す、すみません‥」

石神

まあいい。お嬢様が無事で何よりだ

着替えは、脱衣所に置いてあるからな

サトコ

「わかりました。ありがとうございます」

みんなが出て行って、改めてゆっくりとお湯に浸かる。

(‥ん!?着替えって、まさか‥)

慌ててお風呂から出ると、脱衣所にはネグリジェと一緒に下着も用意されていた。

(えええ!?な、なんで‥しかも新品!?)

(石神さん‥私のサイズ、どうして知ってるの‥!?)

恥ずかしさに、顔から火が出そうになりながら、準備された下着を身につけた‥

【リビング】

ネグリジェ姿でリビングへ行くと、晩御飯のいい香りがしてきた。

後藤さんが、クッションを用意してくれる。

後藤

お嬢様、どうぞ

サトコ

「ありがとうございます‥!オムライスなんですね!」

「卵がふわふわ‥!美味しそう!」

東雲

執事たるもの、この程度はできて当たり前だから

サトコ

「東雲さんが作ってくれたんですね!ありがとうございます」

早速食べようとした時‥

後藤さんがスプーンにオムライスをすくって差し出してくれる。

後藤

‥どうぞ。お嬢様

サトコ

「え‥え!?」

後藤

その‥あ、あーん‥を

サトコ

「!」

(後藤さんが『あーん』‥『あーん』!?)

(しかも、自分で言って照れてる‥!)

サトコ

「じ、自分で食べれますから‥!」

後藤

そうか‥

照れながらも少し残念そうに、後藤さんがスプーンを手渡してくれる。

執事に見守られ、ドキドキしながらオムライスを食べた。

食事を終えひと息ついていると、今度はデザートを持ってきてくれる。

(今日のデザートはプリンと大福かあ‥)

コンコン!

どっちにしようか迷っていると、誰かが部屋をノックした。

颯馬さんがドアを開けると、見知らぬ人たちが立っている。

【玄関】

黒澤

はーい、アナタの黒澤です!

サトコ

「へ‥え?」

難波

あれ?アイツらはどうした

サトコ

「えっと‥今、食事の後片付けをしてくれてると思います」

黒澤

なるほど、みなさん働き者ですね!

みなさーん、0時になりましたよ!

難波

みんな、お疲れさん

東雲

怠‥やっと終わった‥

颯馬

執事も、なかなか大変ですね

石神

他人の面倒を見るのは疲れるな

後藤

はい‥

加賀

二度と御免だ

黒澤

そんなこと言っても、まだまだこの仕事は続きますからね!

めんどくさそうに部屋を出て行こうとする執事たちを、呆然と見送る。

サトコ

「ちょ、どういうことですか‥!?」

黒澤

うちの執事たちは、午前0時までの契約なんですよ

サトコ

「0時‥!?そうなんですか!?」

難波

どうだ、お嬢様気分は?癒されただろう

サトコ

「ま、まあ‥」

(本当は、脅されたりバカにされたりで、全然癒されてないけど‥)

加賀

おいクズ、もういっぺん言ってみろ

サトコ

「ななな、なんでもないです!」

結局、癒されたのかそうでないのか分からないまま、執事さんたちは帰って行った‥

(明日からは、もうちょっと癒してもらえるといいな‥)

End

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