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聖夜 加賀3話

【バルコニー】

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(はあ‥仕事中なのに、他の人にヤキモチ妬くなんて)

(だから加賀さんに、半人前って言われるんだ)

サトコ

「こんなんじゃダメだ‥ちょっと頭冷やしてから戻ろう」

男性

「こんばんは」

振り返ると、見知らぬ男性がバルコニーに出てきたところだった。

男性

「素敵な靴ですね。あなたによく似合っていますよ」

サトコ

「あ、どうも‥」

男性

「もうすぐダンスタイムがあるんです。よかったら一緒に踊っていただけませんか?」

サトコ

「えーと‥」

(これって、ナンパ‥?いや、こういうちゃんとしたパーティーだから、普通のお誘いなのかな)

(こういうことは想定してなかった‥どうやって断ろう?)

男性

「もしかして、すでにお相手が?」

サトコ

「あ、はい。実は‥」

加賀

おい

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ドスの効いた声が聞こえてきて、慌てて振り返る。

そこには、明らかに不機嫌な加賀さんが立っていた。

(しまった‥!仕事を放り出して休んでたと思われる!?)

サトコ

「こ、これは違うんです!ちょっと、外の風に当たろうと!」

加賀

どうでもいい

加賀さんが、男性を押しのけて私の方へ歩いてくる。

男性は加賀さんの迫力に気圧されたらしく、逃げるようにバルコニーから出ていった。

加賀

何やってやがる

サトコ

「よ、夜風に当たって頭を冷やそうと‥」

加賀

テメェの頭は、冷やしたところでどうにもなんねぇだろ

サトコ

「それは重々承知です‥」

加賀

勝手にふらふらしてんじゃねぇ

サトコ

「‥だって加賀さん、女の人たちに囲まれてたじゃないです‥」

か、と言い終わる前に、大きな手で顔面をつかまれた。

サトコ

「こんなところでアイアンクロー!?」

(ちょっとした出来心で心の声を漏らし過ぎた‥!?)

サトコ

「かっ、加賀さん!髪が!セットが崩れます!」

加賀

知ったことか

俺のパートナーは誰だ

<選択してください>

A: 私ですよね?

サトコ

「わ、私です!私‥ですよね!?」

加賀

‥‥‥

ギリギリギリ、と加賀さんの指がこめかみに食い込む!

サトコ

「私です!まぎれもなく私です!」

加賀

わかりゃいい

B: 自信ないです

サトコ

「‥自信ないです。加賀さんの周りには、いつも綺麗な人がたくさんいて」

加賀

誰の話だ

サトコ

「さっき、加賀さんを囲んでた人たちとか‥莉子さんとか」

加賀

‥俺があいつを女として見てると思ってんなら、テメェの目はたいした節穴だな

テメェには、俺のパートナーとして同伴しろと言ったはずだ

サトコ

「ぎゃー!手に力加えないでください!」

加賀

‥チッ

C: 私のパートナーは?

サトコ

「わ、私のパートナーは誰でしょう‥?」

加賀

‥‥‥

無言で、加賀さんが手に力を込める。

サトコ

「痛い!潰れる!」

加賀

お望み通り、砕いてやろうか

サトコ

「望んでません!怖いこと言わないでください!」

加賀

‥テメェ以外に、誰がいる

(それって、加賀さんのパートナーのこと‥?)

ようやく手の力が緩み、ホッと胸を撫で下ろす。

チラリと目線だけで加賀さんを見上げると、ぐいっと顎を持ち上げられた。

加賀

もうすぐダンスタイムだ

ヘマするんじゃねぇぞ

サトコ

「はい‥!」

(パートナーは私‥加賀さんが、本当にそう思ってくれるなら)

(なんか‥さっきまでのもやもやが、いっぺんに消えちゃったかも)

【会場】

ダンスタイムが始まり、緊張しながら加賀さんの手を取る。

周りに聞こえないよう、加賀さんが身体を密着させて私だけに聞こえるように囁いた。

加賀

しっかりやれよ

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サトコ

「が、頑張ります‥」

(ふたりで練習してたときも、家で特訓した時とも違う)

(周りに人がいて音楽がかかってると、雰囲気あるな)

加賀さんに腰を抱き寄せられて、ゆっくりと身体を揺らす。

さっき選んでもらった靴が足に馴染んで、失敗する気はしなかった。

加賀

踏むんじゃねぇぞ

サトコ

「きょ、今日は大丈夫です!任せてください!」

加賀さんに寄り添うようにしながら、音楽に合わせてステップを踏む。

私の腰を抱き寄せる加賀さんの手は、練習の時よりもずっと優しい。

(練習の結果、出てるかも‥今日はちゃんと、加賀さんについていけてる)

(それに、ダンスを楽しめてる気がする‥!)

無事に一曲踊り終わると、加賀さんが口の端を持ち上げて笑ってくれた。

加賀

まあまあだな

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サトコ

「本当ですか?」

加賀

ステップ間違えなかっただけでも上出来だ

満足げに微笑むと、加賀さんが私の腕をつかんで歩き出す。

サトコ

「どこに行くんですか?まだパーティーが‥」

加賀

喚くな

これだけ顔出しゃ、充分だろ

面倒そうに言うと、加賀さんはパーティー会場をあとにした。

【ホテル】

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有無を言わさず連れて来られたのは、会場が入っているホテルの部屋だった。

サトコ

「ほ、本当に大丈夫ですか?まだ残ってなきゃいけなかったんじゃ」

加賀

最低限のことはやった

難波さんにも、顔売って来いって言われただけだしな

スーツの上着を脱いでソファに放り投げると、加賀さんがネクタイを緩める。

戸惑う私の腕を引っ張って、少し強引に口づけてきた。

サトコ

「っ‥‥か、加賀、さっ‥」

加賀

こんな日に仕事なんざ、冗談じゃねぇ

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サトコ

「え‥」

(もしかして‥加賀さんも、ふたりきりになりたいと思ってくれてた?)

(私と同じ気持ちで、いてくれたのかも‥)

そう思うと嬉しくて、乱暴だけど甘いキスを受け止める。

視界の片隅に夜景が見えたけど、次第に激しくなるキスに、楽しんでいる余裕などなかった。

(加賀さん、こんなに求めてくれるなんて)

(もしかして、私以上に‥)

唇を深く合せながら、背中に回された加賀さんの手がファスナーを下ろそうとする。

首筋に唇が這い、押し寄せる快感に身を任せかけたとき、あることに気付いた。

サトコ

「ま、待って‥待ってください‥」

加賀

生意気に、主人を焦らすつもりか

サトコ

「そうじゃ、な‥」

「プ、プレゼントを渡したいんです‥!」

必死にお願いすると、ようやく加賀さんの手が止まった。

加賀

‥あとでいいだろ

サトコ

「今渡したいんです‥溶けないうちに!」

加賀

溶ける‥?

訝しげな加賀さんからそっと身体を離して乱れた服と髪を整えると、

バッグからプレゼントを取り出す。

ネクタイと一緒に差し出したラッピングを見て、何も言わずに開けた。

加賀

‥なんだこりゃ

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サトコ

「えっ?何って、マシュマロチョコレート‥」

一緒に中を覗くと、なんとサンタとトナカイをかたどったチョコのデコレーションが崩れ‥

おどろおどろしい、奇妙な “何か” がそこに入っていた。

サトコ

「うわ、怖っ」

加賀

‥‥‥

サトコ

「すみません‥出来上がった時は、確かにサンタとトナカイだったんですけど‥」

(もしかして、デモ隊にぶつかって転んだとき‥!?)

(ダメだ、こんなのを加賀さんに食べてもらうわけにはいかない‥)

<選択してください>

A: また作ってきます

サトコ

「すみません、また今度、ちゃんとしたの作ってきます」

「こっちは、ネクタイなんです。これは大丈夫ですから」

加賀

勝手に持っていくんじゃねぇ

引っ込めようとしたマシュマロチョコレートを持った私の手を、加賀さんが勢いよくつかむ。

B: ネクタイだけ渡す

サトコ

「す、すみません‥今回は、こっちのネクタイだけってことで」

「これもさっきデモ隊にぶつかった時に吹っ飛びましたけど、たぶん大丈夫ですから」

加賀

テメェが決めることじゃねぇ

サトコ

「え?」

C: 誤魔化して隠す

サトコ

「あーっと‥実はこれ、ちょっと失敗作で!」

「舌触りがあまり良くないと思うので、また今度、完璧なのを作ってきます!」

加賀

テメェが完璧なもん作れんのか

サトコ

「そ、それは‥乞うご期待!」

慌てて背中に隠そうとしたマシュマロチョコレートの袋を、加賀さんがつかんだ。

加賀

俺んだろ

サトコ

「いや、でも‥」

加賀

ぐだぐだ言ってねぇで、さっさとよこせ

袋をひったくるように持っていくと、加賀さんが見るも無残なマシュマロチョコレートを食べる。

サトコ

「‥どうですか?」

加賀

‥悪くねぇ

サトコ

「か、硬すぎないですか?」

加賀

‥外のチョコが硬ぇな

サトコ

「ですよね‥すみません。作り的に仕方なくて」

ふた粒ほど食べると、加賀さんが満足そうに頷く。

加賀

見た目は最悪だがな

サトコ

「ですよね‥まさか、こんなホラーなものが出来上がろうとは」

「あの‥やっぱり、今度ちゃんとしたの作ってきます」

加賀

何度も言わせるな。これでいい

ひとつ手に取ると、加賀さんが私の前にマシュマロを差し出す。

恐る恐る口に入れると、口の中でチョコレートとマシュマロが程よく溶けた。

サトコ

「‥見た目はアレですけど、味は大丈夫ですね」

加賀

ああ

顔が近づき、軽く口づけられる。

チョコレートのついた唇を舐められながら、今度はゆっくり、背中のファスナーを下ろされた。

(‥色っぽい)

さっきまでの少し乱暴な手つきは消えて、じっくりと攻めるような視線に射抜かれる。

(こんな顔されたら、誰だって見惚れちゃう‥)

(だから、パーティーでも女性が放っておかないんだ‥)

そのままドレスを脱がされて、ベッドに押し倒された。

なんだかいつもとは違う雰囲気に、緊張で思わず目を閉じる。

加賀

‥‥‥

加賀さんの手が、私の肌を愛しそうになぞっていく。

指が太ももへと下りていき、ぴくりと身体が震えたとき‥左の足首に、冷たい感触を覚えた。

(‥え?)

シャラ‥と、微かな金属音。

咄嗟に身を起こそうとしたけど、加賀さんに無理やり肩を押さえつけられて止められてしまう。

サトコ

「加賀さん‥今のって」

加賀

知りたきゃ、朝にでも確認しろ

サトコ

「あ、朝‥?」

(‥つまり、それまで離してもらえないってこと!?)

必死に足元を見ようとしても、加賀さんに覆いかぶさられてそれもままならない。

加賀

俺以外のもんを気にするとは、余裕だな

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サトコ

「だって、気が気じゃないんです‥!もしかして、鎖でつないだりしてませんよね!?」

加賀

‥‥‥

クッと笑うと、加賀さんが私の手をつかんでベッドに押し付ける。

身体中にキスを落とされて、胸が甘く締め付けられた。

サトコ

「ぁ‥ーーー」

加賀

‥意味は、あとで考えろ

サトコ

「意味‥?」

加賀

二度と、他の男に尻尾振るんじゃねぇ

もう手は解放されているのに、その唇が優しくて力が入らない。

ぼんやりと見上げる私を笑い、加賀さんがキスで口を塞ぐ。

(毎年、ふたりきりで静かに‥とはいかないけど)

(でもどんなクリスマスだって、加賀さんと一緒にいられるなら‥)

加賀さんと深く繋がるたびに、嬉しさに身体が震える。

意識を手放すほど何度も何度も、加賀さんに求められる夜が続いた‥

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翌朝、目が覚めるとベッドに加賀さんの姿はなかった。

攻め立てられてけだるい身体を起こすと、バスルームの方からシャワーの音が聞こえる。

(そういえば、昨日の‥)

足首に慣れない感触を覚えて、視線をずらす。

そこには、シンプルで繊細なアンクレットがついていた。

(昨日つけてくれたのって、もしかして、これ‥?)

(‥あれ?)

枕元に置いてある封筒を見つけて、手に取ってみる。

中に入っている便箋には、加賀さんの綺麗な字が並んでいた。

(『試験お疲れ。補習を免れたからって気抜いてんじゃねぇぞ』)

(‥『マシュマロ、悪くなかった。また作れ』)

サトコ

「加賀さんからの、手紙‥?私が、欲しいって言ったから?」

バスルームの水音はまだ続いており、加賀さんが出てくる気配はない。

頬が緩み、手紙を抱きしめながらそっとアンクレットをなぞった。

(甘い言葉はないけど‥加賀さんらしい)

(こうして、気持ちを文字にしてくれただけでも充分だよ)

サトコ

「‥ん?最後に何か書いてある‥」

「『今日はこのあと、花んとこに行く。お前も来い』‥」

「ふふ‥加賀さん、今年は花ちゃんに何あげるのかな」

(加賀さんを知るたびに、もっともっと好きになっていく)

(きっと来年も、再来年も‥)

加賀さんがシャワーから出てくるのを待つ間に高まったその “予感” は、

シャワーから出て来た加賀さんに愛を注がれるうちに、“確信” へと変わってゆくのだった。

Happy  End

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